現代の科学技術の粋を集めて、電子回路と機械でできた、
人工生命体を人間が作り出した と想像してみましょう。
太陽電池で動き、人工知能は学習し、自分で部品を作り出し組み立てて
自分のコピーを作り増殖し、少しづつ改良を加えて進化する能力も
備えている、としてみます。
ちょっと難しそうなところはありますが、もう100年もすれば
まぁその程度のものはできるようになるだろうという気がします。
やがて人間の手を借りずとも、人工生命体はそれ自身で生き続け、
増殖し、進化するようになるでしょう。知能もどんどん発達してゆきます。
逆に人類は、そのうちなにかの原因で絶滅してしまう。悪性病原体とか、
気候大変動とか、隕石の落下とか。なんでもいいけど、とにかく絶滅すると
想像してみます。
その後も人工生命体は生き続ける。人間なんかより、ずっと環境への 適応力には優れているのだ。 人類のいなくなった世界で独自に進化しつづける。
何万年、何億年かかるのかわからないが、
やがて人工生命体が自己の意識を獲得し、高等な知力を発達させ、
自分たちの歴史をさかのぼって考えることができるほどに進化した
とします。
彼らは、自分達の起源について考えるだろう。自分たちはいつ頃、
どうやって生まれてきたのか、知りたいと思うだろう。
その時、おそらく人工生命体はこう考えるのではないか。
我々の祖先は、たった1個の個体から始まった。人工生命体の最初の1個体を作ったのが、人間という有機生命体で、 人間は長い時間をかけてそこまで進化し、科学技術を高めた歴史があるのだ、 ということにはまったく思い至らないのではないだろうか?
電子回路と機械でできた単純な構造だった。
それは何かの偶然でできたもので、
それ以前には何の生物もいなかった。
さてここで、人工生命体の位置に現在の私達・人間を置いてみます。
私達は現在「最初の生物は40億年前に現れた。
それ以前は、生命体は存在しなかった。自然現象のなにかの偶然で、
たまたま生命のタネ(RNA?)ができてしまい、
そこから生命は始まったのだ」と考えています。
しかし、上記の例から想像できるように、現在の有機生命体が登場する
以前にも、なにか、全く異質な存在としての生命体
がいたかもしれません。
そいつが、有機生命体の最初の部品を作ったのかもしれません。
遺伝的にはつながっていないが、因果関係はあるという存在。
それはあまりにも異質なので、私達は存在していたことを想像することも
できない。そういうこともありうるのではないか、と思います。
しょせん人間が知覚できたり想像できることは、 この宇宙で起こっているあらゆる事象 に比べれば、質的にも量的にもたかが知れているし、 地球上のことだって、想像を超えたことはいくらでもあると思うのです。
上の例の、電子回路と機械の体、という生命体はまだ人間に似ている、
という印象を持つかもしれませんが、たとえば電子回路の中でのみ
存在する「ソフトウェア生命体」
というものがあるとしたら(すでに作られたものもある)、
それらは物理世界のことには関心がないし、生みの親である人間のことを
知ることもできない、とは思いませんか。
T.Minewaki / minew@post.email.ne.jp