2003年11月6日

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陸上

女子マラソン日本記録保持者、高橋尚子帰国
(千葉・成田空港)

 16日、自身初出場となる東京国際女子マラソンで、アテネ五輪出場権を狙う高橋尚子(スカイネットアジア航空)が、6月23日、高地トレーニングのためにボルダー(米国コロラド州)に出発して以来、約4か月ぶりに帰国し、国内での調整に入った。
 高橋は昨年の東京にも出場を予定していたが、肋骨にひびが入る疲労骨折で出場を断念。以来、骨折箇所がつながり走り出すまでに時間がかかり、レースも昨年9月のベルリン以来1年2か月ぶりとなるが、今回は故障、体調不良も一切なく順調に練習を積み重ねたことを、空港で笑顔で報告した。小出義雄監督によれば、「これまでよりもさらに(体を)絞った状態にある。風邪と腹をこわすなどのコンディションに注意すれば、結果は心配していない」と、仕上がりと、アテネ切符獲得に自信をのぞかせた。
 女子マラソンはすでに、パリ世界陸上で野口みずき(グローバリー)が銀メダルを獲得して代表に決定しており、高橋が走る東京から、来年1月の大阪、3月の名古屋と、国内3レースが始まる。
 この日、空港では150人を超える報道陣が並び、観光客も高橋を見ようと足を止めたために大混乱、人気と注目ぶりは改めて関係者を驚かせていた。

高橋尚子(抜粋)「今回の合宿では昨年の失敗も教訓として、慎重に、慎重に毎日の練習をしてきました。スタートしてからゴールまで油断するつもりはありませんが、ここまでの出来には(去年があるだけに)安心しています。42.195キロを走りきる体力はついたと思うし、どんなレース展開であってもついていけるだけの練習を積んだ、やれることはすべてやった、と思える充実感があります。テーピングをしたり、温度の差に注意をしたり、小さなことに注意を払うようにしていました。このところのレースは怪我や体調がよくなかったりいろいろありましたが、今年は元気にやってこられた、と今は(久々のレースという不安よりも)わくわくする期待のほうが大きいですね」

小出義雄監督「99年のセビリア世界陸上も(ちょうけいじん帯損傷で)キャンセルしたが、去年の骨折やあのセビリアでの経験が本当に彼女の教訓になっている。準備体操を含めて、気温や天候との相談を自分でやって、臨機応変に走ることができるようになっている。東京の後半の坂(37キロから)に耐えられるための足を作ったので、過去と比べてもかなりいい状態で絞れている。練習が増えると、どうしても疲労が出て、筋肉の張りなどがなくなってくるんだが、今回は、二十歳くらいのぴちぴちした女の子みたいな、いい筋肉で帰ってきた。あと10日、風邪だけが一番怖い。それと食事。腹を壊すなどの体調不良につながるから。大切なのは記録ではなくて、(選考のために)勝てるレースをするということ」


「監督は、震えてました」

 昨年、気温がマイナスと下がったボルダーで見舞われた肋骨の疲労骨折の悔しさを、高橋は走ることだけではなく、体調管理すべてに注ぎ込んだようだ。

 標高1,600メートルのボルダー(練習はさらに高い地点で行う)はマイナス10度近くになるが、室内は暖房をきかせてあるので半そでで過ごせる20度以上。気温差30度は、喉、そこから風邪、発熱、体調不良とつながるだけに、高橋はある作戦に出る。室内の温度を下げて、気温差の少ない中で練習をすることにした。

「監督には悪いんですけど、暖房禁止令というのを出して、できるだけ温度差のないように。夜も、密かにチェックに行って、私が切ってしまうんです。そうすると、監督はいつの間にかまた入れてる。2人で、切ったり入れたりを、ずっとお互いに内緒で繰り返していたんです」
 どこの家でもあるような笑い話だが、監督は横目で高橋を見やりながら、「監督の僕は、毎日震えてましたよ、おい、キュウちゃん、寒いよお、って」

 ほかにもテーピングの習慣づけ、準備運動の量、と、走って何とかしようと思いがちな練習に、高橋は細かなルールを加えて自制をしていたようだ。残り10日で、アクシデントがないとは誰も言えないし、本番にもそれは起きうる。しかし、本人も「今年は元気に練習ができた」と振り返るだけに、記録も結果も狙って東京に挑むことになりそうだ。
 高橋のマラソンはこれで8レース目で、初マラソンで敗れたあと6連勝中、その間、シドニー五輪で金メダルを獲得し、2001年ベルリンマラソンでは女子初の20分台を突破する世界最高をマーク、現在は3人に抜かれたが、依然、世界歴代4位の記録を持っており、アテネでも金メダル候補でえあり世界最高保持者のラドクリフとの対戦にも注目が集まる。



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