2003年11月3日

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サッカー

2003Jリーグヤマザキナビスコカップ 決勝
鹿島アントラーズ×浦和レッドダイヤモンズ
(東京・国立霞ヶ丘競技場)
キックオフ:14時09分、観衆:51,758人
天候:曇りのち雨、気温:20.3度、湿度:83%、
風:弱、芝:全面良/水含み

鹿島 浦和
0 前半 0 前半 1 4
後半 0 後半 3
 
山瀬功治:13分
エメルソン:48分
田中達也:56分
エメルソン:86分

 くしくも昨年と同じカードとなったヤマザキナビスコカップ決勝。降りしきる雨の中、国立競技場を5万1,758人の大観衆が埋め尽くした。試合は浦和が前半から積極的に攻め、MVPに選ばれた田中達也、エメルソンの2トップが鋭いドリブルとスピードで鹿島の3バックを完璧に翻弄。前半13分には、山瀬功治が、田中達也からのクロスにヘディングで合わせ先制点を奪う。前半終了前には、DFの坪井慶介、エメルソンが空中戦で激突、ともに現場で縫合手術をする負傷を負ったものの、後半立ち上がりの48分、7針縫ったエメルソンが2点目を奪って、鹿島を突き放した。さらには五輪代表でも勢いに乗る田中が56分、自ら切り込んで3点目決めてこの日1アシスト1ゴールの大活躍。浦和はその後も攻撃の手を緩めず、終了4分前には、エメルソンがダメを押して4−0と、98年磐田が市原を下して以来の大差で、昨年敗れた鹿島に雪辱を果たした。浦和は、Jリーグ創立時から(リーグ戦は93年スタート)この10年、一度は2部に転落するなど激しい浮き沈みの中で、ようやく悲願の初タイトルを掴むことになった。なおMVPに選ばれた田中は史上初のニューヒーロー賞とのダブル受賞となった。
 鹿島は、ひざじん帯を損傷しているMF中田浩二をはじめ、主力にケガ人が続出し苦しい中での戦いとなった。3バックが、浦和の2トップに再三置き去りにされるなど、持ち味の守備で苦戦し、また後半2点差を追おうと、相馬直樹、野沢拓也を投入した1分後、日本代表でもあり、チームの柱となるべき小笠原満男が、ナンセンスなファールでこの日2枚目のイエローカードを受けて退場。最後まで粘る「鹿島らしさ」を雨の中集まった5万人を越えるサポーターに見せることなく、10冠目のタイトルを逃がしてしまった。
 試合後、オフト監督は記者会見で自ら辞任することを明言。「タイミングは非常に悪いが今言うしかない。たった今、ロッカーで選手にも伝えたばかりだ。社長から、来年は違う方向でクラブを運営していきたい、と人づてに聞いた。こうした(失礼な)扱いは普通ではない」との内容で辞任理由を説明し、人事への不満も明らかにした。監督は優勝の可能性も残るJリーグ残り4試合をもって辞任するとした。
 オフト監督はJリ−グ以前のマツダ(広島)から日本でのキャリアをスタートし、94年W杯アジア予選では日本代表監督を務めドーハではあと1歩で出場権を逃がす。その後は、磐田、京都と監督を歴任したもののタイトルはなく、この日の優勝は、監督にとって1992年8月のアジア杯以来の優勝だったが、クラブ初タイトルと、自身11年ぶりの優勝の美酒に酔うことなく進退を明確にした。

浦和/オフト監督「本日のこの優勝をもって私が契約延長すると(一部報道には)書いてありましたが、今シーズンでこのチームを去るということを、今、ロッカーで選手に伝えてきたところです。今シーズンの中頃、人づてに、ほかの方向性でクラブを運営したいとの社長の話が耳に入った。こういう扱いは、普通ではない。タイミングとしては非常に悪いが、今、選手に言うしかないと思った。選手は残り4試合を乗り切ってくれると信じたい。(坪井、エメルソンの怪我について)あの場面では、選手の状況をみなくてはいけなかったので、ドクターの診断を聞いたら、2人とも意識はあり、ケガを縫うのに5分程度かかるということだった。私も2人ともプレーは続行できると判断し、坪井を下げたまま交代をせずに前半を乗り切った。エメルソンはすぐに試合に戻って大丈夫だとわかったが、1人少ないまま乗り切ることができた。この優勝は、クラブにとっても、選手にとっても、信じられないほどの情熱で応援をしてくれたサポーターにとっても素晴らしいものだと思う。ただ、私は、(クラブの普通ではないやり方によって、みなにとって最高のはずの)非常に悪いタイミングでこうしてやめることを言うしかない。選手は残り4試合を戦い、乗り切ってくれると信じている」

試合データ
鹿島   浦和
14 シュート 17
11 GK 8
8 CK 3
17 FK 26
0 PK 0
日本サッカー協会/ 川淵三郎キャプテン
「浦和はサポーターのみなさんも含めて喜びもひとしおだろう。始めからしっかり守ってカウンターなんて戦いをしたら、(攻撃的ではないから)オフト許さんぞと思っていたんだが(笑)、最初から積極的に点を取りにいっていいゲームをした。鹿島は怪我人が多く、本当に不本意な試合になったと思う。(田中達也について)本当に見ていて気持ちがいいねえ、切れているしね。また切り返しをしないで、とにかく自分で前に行こうとする。エメルソンもそうだが、日本人らしからぬ積極的な姿勢がいいし、ジーコもどうかな、多分(代表に)入れるんだろうか。とにかく代表にも楽しみが増えたと思う。(小笠原について)彼にはずーっと期待をしてきた。しかし、ああいうところで目に見えたファールをして警告を2枚受けるなんて、のびしろがないのはそういう精神的なところに問題があるのかもしれない。あのくらいのレベルの選手ならば、もっと冷静にやって欲しかったし、本当に残念でならない。
 オフトも、92年以来の優勝で本当によかった。今日ダメなら、(勝ち運がないので)もう監督は辞めたほうがいいと言うつもりだった(笑)。心から祝福したい。浦和のファンがどんな風に喜んでくれるか楽しみだ。(この日御堂筋で35万人の前で優勝パレードをした)阪神ではないが、浦和に御堂筋がないのが残念だね。パレードすれば、3万5,000人は来てくれると思うんだが、どうかな」

日本代表/ジーコ監督「レッズは優勝に値する素晴らしい戦いをした。何試合も同じメンバーで戦うことによって、本当の強さも生まれてくるもので、そうした強さと反対に、鹿島はケガで中軸の選手を欠き、いい形での試合ができなかった。試合前から、浦和に有利な展開だったと思う。(田中の活躍について)驚くにはあたらない。彼ならこれくらいできて当たり前であるし、今後五輪代表のレギュラーとしてももっと頑張って欲しい。代表に呼ぶ可能性は、もちろんあるが、それは田中に限ったことではない」

浦和/田中達也「僕のような選手がこうして賞をいただけたことは、本当に光栄です。ただ、これも僕の力ではなく、チームメイト、スタッフ、応援してくれるサポーターみなさんのお陰ですので、決して満足することなく、気持ちを引き締めてJリーグ残り4試合を戦いたい。今日は、とにかく気持ちで負けないように、積極的にやってダメなら仕方ないと思っていました。激しい雨も気になりませんでした。(オフト辞任について)さっき聞いたばかりですが、僕としてはとても残念に思っています」


「自業自得と自暴自棄」

 鹿島も、なめられたものである。前半38分、坪井とエメルソンが激突、お互い額と眉に裂傷を負ったため急きょ、縫合手術が行われることになった。エメルソン(後で7針縫う)は、まずバンデージを撒いて止血したが、坪井は意識があるものの、エメルソンよりも傷が深かったために一度救急手当てを受けなくてはならず担架で運ばれる。4分近く手当てで試合は中断。リスタート時は、浦和は2人足らず9人で守備をしており、これが約2分、エメルソンが再びピッチに戻るまで4分、前半終了までのじつに多くの時間を、浦和はオフト監督自らが「交代はしない」と、数的不利を選んで守るという、大きなギャンブルに出た。
「らしい」鹿島なら、ここで間違いなく得点する。鹿島のらしさとは、絶対にチャンスを逃さないことであり、勝負のツボはどんなことがあっても外さない老獪さにある。ここまで9冠は、それで獲得してきたのだ。まして、得点できないまでも、後半での逆襲に向けて相手を締め上げておく「ボディーブロー」くらいは放ってコーナーに帰ってくるはずが、この数分間の絶好機で何もできなかった。

 結果的に、不慮のバッティングで生じたこんなアクシデントが、プレーそのものよりも両者の置かれた立場、精神的な駆け引きの優劣を明確にすることになってしまった。

「あの衝突は自業自得でした。血はすぐに見えました。監督には痛くなったらすぐに言うように言われていましたが、痛みよりも時間が経つにつれてかすんでいましたが、自分のミスで失点するわけにはいかないのでゼロに抑えたいと集中しました」

 坪井は試合後、腫れ上がった左目上をバンソコウで抑えてそう話した。味方同士での衝突は、本人も反省を繰り返していたが、いわば声を掛け合うタイミングを逸した初歩的なミスでもある。激しい雨もあり、視界が悪くなる中で、視野がぼんやりしていた坪井が守りに集中したのは、ひとえに「自業自得」と思い、取り返そうとする気持ちからだろう。ミスはピッチのあらゆるところで数え切れないほど起きるし、目に見えるものもあれば見えないものもある。
 坪井は試合に戻って視野はぼやけても、自分のミスが試合にもたらす影響と、何をしなくてはならないか、だけはピンボケにしなかった。

 対照的なピンボケで試合を放棄したのは、小笠原であり、その流れを全員で止められなかった鹿島だった。
 チームの主軸であり、ゲームの主軸であり、もしかすると日本代表の命運さえ握ることがあるかもしれない逸材は、前半警告を受けながら、この日縦横無尽に走る田中に抜かれた瞬間、彼を止めようと後ろからつかみかかり2枚目の警告を受けた。
 セレーゾ監督はその瞬間、地面を蹴り飛ばした。2点差を追うために、その1分前に相馬と野沢を投入したばかりだったからだ。チームにも、自身にとっても、さあ今からだ、という瞬間に出た小笠原の「自暴自棄」は、坪井が自らのミスを「自業自得」と省みて何としても取り返そうとした心とは正反対のものだった。もちろん、こんな極端な差を勝利の女神は見逃すはずもなく、どちらを見て微笑むかは、歴然としている。

 エメルソンは「昨年は負けて泣いた。7針縫ったけれど、また泣くことを思えば、試合を続けるに決まっていた」と笑った。
 プログラムで「昨年度の天皇杯や99年のナビスコ決勝で負けたあの悔しさをもう2度と味わいたくない」と言っていた小笠原は、なぜその通リ、悔しさを取り返しにかからなかったのか、残念で仕方ない。
 自業自得と自暴自棄、どしゃぶりの90分で、国語辞典以上の解釈を教えられたと思う。

 名良橋 晃は前半、自らもジャンプした、エメルソンと坪井の衝突の際に、2人の額に血が飛び散っているのを見つけ、すぐに立ち上がると、ポジション上、気がつかなかった上川主審よりも先に、浦和ベンチと救急隊に「切れてるから、早く!」と絶叫して手当てを呼んだ。「血が出ていたので危ないと思い、早く手当てをして欲しかった。自分も少し打っていますが」試合後はそう話したが、劣勢の時にも失うことのない、実に名良橋らしい「プレー」だった。「うちの3バックでは、向こうの2トップを止めることができなかったというのがはっきり出た試合になった。こんなにコテンパンにやられただけに、気持ちを切り替えていきたい。浦和は非常にいいチームで気持ちが上回っていた」と試合を振り返り、キャリアならではコメントもしていた。「磐田とうちの2強と言われた時代はもうとっくに終わっている。フロントの戦力補強も後手後手に回っているし、これからはフロント、選手ともに本当に建て直しをしなくてはいけない。勝たなければ、ファンだって入らなくなってしまう」ケガ人の続出で負けたのではない、とする分析は、大敗の中での収穫かもしれない。



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