風の音、オベリスクの塔のそそり立つ空に雲が流れる。ソプラノサックスの不安定な調べと、バスドラムとパーカッションの作り出すシンコペーションが聞く者を不安にさせる。
(上手よりフランチェスコ登場)
ゼロシティは恐れおののいき、予言者サウス・ハルヲは追われる身となった。ゼロシティは今やパニックに陥っていた。サウスはゼロ警察に捕まりその後脱獄した。
ここはゼロシティの南東40キロに広がる砂漠地帯、ゼロの人々はここをデスデザート、『死の砂漠』と呼ぶ。(退場)
(ナレーション中、下手より2人の男登場。2人とも黒皮のコートを着、水色の涙滴型に白い羽根のついたオブジェを背負っている。その側面には”ROMANCE -WONDERFUL
HUMAN LIFE-”と記されている。つば広の帽子をかぶっているのがサウス・ハルヲ、トルコ帽姿が弟子のノースアイランド・サブローである)
(足取りも重くやってきた2人、サブローが階段に腰掛ける。この間ずっと歩くパントマイムをやっているハルヲ)
サブロー:(気の抜けたぼそぼそ声、以下同様)せんせ。ここまでくればもう誰も追っては来ないでしょう。そろそろ休みましょうか。
ハルヲ:休みましょうか(サブロー同様、気の抜けた声。さらに独特のぺちゃぺちゃ感がある、以下同様)。
サブロー:先生、いつまでそんな顔をしてるんですか。
ハルヲ:私は「助けてくれ」とは言わなかった。
サブロー:先生はなくてはならない人なんですから。捕まって殺されるところだったんですよ。
ハルヲ:私は死ぬ覚悟はできていた。
サブロー:今さらそんなこと言ったってしかたないでしょう、脱獄したんだから。
ハルヲ:今やゼロの全ての人々が私を嫌っている。
サブロー:先生があんな予言なんかするから。
ハルヲ:私は予言者だ。神の啓示を皆に伝える義務がある。
サブロー:だったらもっとこう、どうでもいいこと予言してればよかったのに。例えば天気予報とか、誰かが転ぶとか。
ハルヲ:何を言ってるんだ。私はゼロシティきっての予言者だぞ。
サブロー:そういう自信過剰がこういう事態を招いたんですよ。だいたい神なんていうものは黙っていてくれればいいものを、でしゃばって言いふらすからこういうことになるんです。
ハルヲ:予言は絶対だ(失念)
サブロー:予言、予言ったって、先生が勝手に言いふらしているだけじゃないですか。
ハルヲ:私は…(反論しようとするが、言えずたじろぐ)
サブロー:(ずい、と詰め寄る)
ハルヲ:(退く。もじもじ。逃げ場を失い、下手脇によって立ち○ョンを始める)♪ジョー(←水音)
(ハルヲの前に位置していたハルミ嬢、脇に逃げる(笑))
ハルヲ:(ぷるぷるっとして終了。片方ずつ脚を上げてズボンの裾をぬぐう)
サブロー:(階段3段目に立ってこちらも立ち○ョン)♪ジャー(←かなり激しい水音、さらに長い)
(後ろのメンバーたち、一斉に順々にそれを浴びるフリ、ウェーブのように上下する5人)
サブロー:(階段を、ガニマタで後ろ降りしながらも、さらに続く水音。ようやく終わり両手をコートになすりつけながらハルヲの方を向く)
ハルヲ:(間)おまえ殴ったろ?
サブロー:先生、いつの話をしているんですか。
ハルヲ:殴ったろ?あんとき。 横から手が見えたもん。
サブロー:手が見えたからって殴ったとは限らないじゃないですか。
ハルヲ:だって握ってたもん、こうやって(とグーをかざす)。
サブロー:そんなことありませんって。それにあのパニックの中です。もしかしたら僕の手が先生に当たったかもしれない。でもわざと先生の頭を殴ったりしませんよ。
ハルヲ:あ、証拠みっけ! 僕、頭なんて言ってないもんね。だってさ、君さ、頭ってさ(ぴょんぴょんしながら言い立てる)、君さ、今さ、あたまってさ……
サブロー:(うんざりした表情で視線をはずす)
ハルヲ:(突然うずくまる)い、いて、すげぇいて。
サブロー:(振り向いて)大丈夫ですか?
ハルヲ:(顔を上げて両頬に人差し指を当て)うそだもんね。ひっかかったひっかかった(喜ぶ)。
サブロー:うそはつくわ、○○(失念)だわ。このドアホじじい!
ハルヲ:(ぴっとサブローを見て)きみ、これはテストだったんだよ。
サブロー:あ、きったねーなぁ。
ハルヲ:(サブローとは逆の方を向いて)へっへ、ひっかかりましたねぇ。
サブロー:誰に言ってるんですか。
ハルヲ:(振り向いて指さしながら)ノースアイランド・サブローくん、君は私の弟子と言っているが、うそなんだろ?
サブロー:何を言っているんですか先生。先生は捨て子だった僕を拾って育ててくれた、いわば僕にとって親同然の方じゃないですか。
ハルヲ:あれ? そう? じゃ、おれ、だれ?
サブロー:先生? あまりの出来事に弟子である僕を忘れてもいいですけど、ご自分のことまで忘れないでくださいよ。
ハルヲ:そうかわかったぞ。君は僕をテストしてるんだ。
サブロー:してません!
ハルヲ:してます!
サブロー:してません
ハルヲ:してません
サブロー:してます!
ハルヲ:言った言った(小躍りして喜ぶ)
サブロー:はぁぁ(大きなため息)。先生、いい加減に戻ってきてくださいよ。こんな姿を見たら誰もこの人の予言なんて信じないよなぁ。
ハルヲ:私は(両手を前に)ゼロの街を救おうとしたのではないぞ。(片手を胸に当て)ゼロの心を救おうとしたのだ。
サブロー:イエス。
ハルヲ:サブローくん、(彼方を指さし)神の道は遠いな。
サブロー:オーイエス
ハルヲ:しかし(胸の前で手を組み合わせる)神は常に私と共にある。
サブロー:ハレルヤ! 調子づいてきたぞぉ。
ハルヲ:それで?
サブロー:なんですか?
ハルヲ:おまえやっぱり殴ったろ?
サブロー:またそれですか。
(フランチェスコ、上手より登場)
人生とは、重い荷物を背負って歩くようなもの。そしてその荷物は、いつ爆発するとも限らない爆弾のようなものなのかもしれない。
それから1年、まだ彼の予言は的中していない。いや、彼の予言そのものがゼロシティに与えられた厳しい戒めだったのかもしれない。
(二人の男、ナレーションをバックにゆっくりと階段上へと退場)