【GROUND ANGELについて】
石井竜也スペシャルトークのオープニングは『天使の羽音』のプロモーションビデオで始まった。万華鏡のように変化してゆく映像を見ながら次第にステージに集中してゆく。
ビデオが終了し、FM YOKOHAMAのDJ・池田のりこさんによって石井竜也氏が紹介される。ステージには『考える方向(椅子2脚)』と『思い出の表面(渦巻きテーブル)』のセットが用意され、テーブルの上には小さな盛り花がセットされている。ステージに登場した石井氏に椅子を勧める池田さんだが、椅子ではなくテーブルに腰掛ける素振りをする石井氏に場内に笑いが巻き起こる。
以下、インタビュア(池田さん)の質問に石井氏が答える問答形式でレポします。
問(池田):今日はこのあと広河隆一さんとのトークもありますが。
答(石井):広河さんという方は、これを言ったらみんなわかってもらえると思うんですが、僕が作った『河童』という映画の最初の方で戦場写真が出てくるシーンがあるんですよ。その写真を提供していただいたのが広河隆一さんです。
(広河さんとの話が)すっごく楽しみなんですよ。戦場ってなんだろう?と思っても、わからないじゃないですか。僕たちは「平和っていいよね」なんて言いますけど、戦争の本当の姿は見聞きできない。ニュースなんかは編集して編集して百分の一、千分の一になっちゃってると思うんですよ。でも広河さんは相当危険な地域に何ヶ月も滞在して命をかけて写真を撮ってこられた方なので、戦争とはどんなものなのか、戦争の本当の姿の話を聞けると思います。みんなふだん生活している家庭と戦場が今日このトークで1本の線で結び合わされる、そんな瞬間になると思います。そしてそれを聞いて絶対やっちゃいけないと思いなおし、平和の輪を広げられる、そんな瞬間になると思う。今日僕はみなさんに代わってお聞きしますから。
問:戦争とはなんだろうと考える機会だと。
答:みんなふだんの生活の中で考える余地はほとんどないと思う。テレビで戦争のシーンが流れると「こわい」ってバラエティ番組に変えてしまったりとかする、そういう日常をすごしていると思います。でもそんななまやさしい情勢じゃもうないと思うんですよ。ここにいる人みんな、全員が「今の日本は平和だ」なんて思ってないと思うんですよ。みんな「どっかでへんなこと起こりそうだよ」って不安を抱いていると思うんですよ。
だからほかの不幸な国の人たちの話を聞くことによって、「そうなんなふうにしちゃいけない」と肝に銘ずるためのトークだし、今日この話を聞いた人が10人に話して、それを聞いた人がまた別の人に話して、というふうに広がって、そうして少しずつ変わっていく、それが今日のトークの趣旨ですね。
問:GROUND ANGELの名前の由来は?
答:NYの同時多発テロが起こって世界が一転しましたよね。あのとき日本人はみんな「え?なにこれ映画?CGなんじゃないの?」って思ったと思う。それが本当なんだとわかってぶるぶる震え出す、そういうふうだったんだろうと思うんです。それほど僕らが映像に対する感覚はねじまがっちゃってる。あのショックからあの日から日本人は「なんかとんでもないことが起こってるんじゃないの?」と気がつき始めたと思うんです。
今日ここにも戦争体験者の方々や戦後すぐの時代を経験された方々もいらっしゃると思うんですけど、そういう方々は今の状況を手放しでは見ていないと思う。うちの親父なんか「竜也、おれはなんだか怖ぇんだよ」つって言ったりするんですね。ふだんそんなこと言わない親父なんですけど。だから戦争体験者というのはきっとDNAにまでその恐怖が染みついていて、それがいつか来た道を思い起こさせるというか、怖い感じそういうふうになってきているんだと思うんです。
それでGROUND ANGELとはNYのGROUND ZEROに対して、ここ横浜赤れんが倉庫を『平和な場所』『天使が舞い降りる場所』にしようということで名付けました。
問:GROUND ZEROにも行かれたそうですが。
答:行ってきました。雨が降っていて薄ら寒い感じが自分の中のGROUND ZEROのイメージと重なるところがありました(スライドが出る)。朝早く行ったんですけど、その横を通勤で通る人たちが伏し目がちに、そっちを見ないようにして歩いていくのが痛々しくてね。ここも被害者なんだなと思いました。アメリカのやっていることはすごく問題があると思うけど、あそこにいた人たちにはなんの罪もなくて、ここもまた被災地なんだなと思いましたね。
あそこに鉄骨で十字を組んであるんですが、その鉄骨にジュラルミンが紙のように張り付いてました。飛行機の、どの部分なのかはもうわからないですけど、吹雪が吹き付けたように張り付いてましたね。どれだけの熱があそこにあったのか…。
僕がいちばん印象に残ったのは、あそこでたくさんのビルが破壊されたんですけど、そのなかでちっちゃな教会だけが無傷で残ったんですね。その教会はあの事件の直後、レスキュー隊の仮眠所になったり、遺体、といっても一部しかないんですけど、その遺体の安置所になったりしていたんですね。(スライドが出る)この教会ですね。ここで寝てたんですよね、あの直後。
その教会に、毎日のように少年から手紙が届くんです。「パパ早く帰ってきて」という。7歳、の子供なんですけど。きっとお母さんがお父さんが亡くなったって子供に言えなくて、その子は今でも父親を待っているんですね。なんともね、その子にはなんの罪もないもんね。
問:先日あったGROUND ANGELの記者発表の時に「それではこのあとロマンティックな時間をお過ごしください」とおっしゃっていて、『ロマンティック』という言葉に「ん?」と思うことがあったんですが。
答:たとえばみんなでシュプレヒコールして「戦争反対!」って皇居のまわりを歩くのも反戦だとは思うけど、僕は音楽家なんで、みんなが挙げそうになっている手をゆっくりと下ろすようなものを作りたかったんだよね。怒りで怒りを制しちゃいけないっていうか、それだと政府の意のままという気がするんで。
聴いているうちに「なんで私こんなにおびえてたんだろう」とか「なんで俺こんなに腹が立っていたんだろう」とか思えるような、鏡のような音楽を作りたかったんですよね。それで『ロマンティック』という言葉を使ったんですけど。誤解されちゃうとまずいと思うんだけど、間違ったロマンティシズムというわけではなくて、ロマンティックという雰囲気を使って反戦というものを表したかったということなんですよね。
問:ロマンティックな雰囲気に浸って、でも見ているうちにせつなくなってきたりとか。大切な人のことを思ったり、いろんなことを考えたりしますよね。
答:誰しもたいせつなもの、たいせつな人、たいせつな関係というのはあると思うんですね。あれを見てなにも感じない人はいないと思うんですよ。
問:今回のGROUND ANGELそしてマキシシングル、からアルバムにかけての思いを。
答:うーん、なんっつか…(間)…おなかいっぱいになるまで天使の絵を見せられた後で子供たちの顔が映りますよね。それで「なんだ、天使は地上に、ここにいるじゃないか」と思ってもらいたかった。ここに俺たちをじっと見てる、天使がいるじゃないか、って。
ご存知のように僕のファンの方は女性が多いんで、女性というのは次の世代を生み出す人たちで、その女性たちに訴えかけることで次の世代に伝えられるんですよね。男たちというのは本当にそういう状況になってしまったらこぶしを挙げざるを得なくなってしまう、そういう状況に追いやられてしまうんですよね。女の人たちの方が平和的な考えを持つ強さを持っていると思うんですよね。だから女性たちだけの持っているロマンティシズムに訴えれば、響いてくれるんじゃないかなと思ったんですね。
問:女性と言えば、GROUND ANGELと時期同じくして始まったコンサートツアーでGRAND
MUSE ORCHESTRAが演奏されていますが
答:羽音というコンサートをやっていますが、これはパイプオルガンを使いたかったということと、先ほどの生み出す、ということで言えば、人間の一番尊い行為だと思うので、その生み出すというということから女性に奏でてもらうのがいいんじゃないか、ということで、ギターとシンセサイザー以外は全員女性という編成でやっています。やっぱり男性の奏でる音とは違う優しさがありましたね。
問:パイプオルガンって羽の形をしているんですね。
答:そうですね。教会音楽が生み出した楽器なので天使の羽をモチーフにしているんですね。羽を模していると言えばハープもそうなんですよ。
問:羽といえば、石井竜也さんというふうにすぐ結びつくんですけども。
答:飛翔願望というか、空を飛びたいというのがちっちゃいころからあって、お袋が2階に布団を干したりしているとなんか飛べそうな気になって来ちゃって、ずーっと見ていると「竜也ー!」って後ろから(客:笑い)。おまえは二度と来るんじゃない、なんて言われて。柵を作りましたからね、親父は(客:笑い)。
問:それは賢明な措置でしたね。
答:そうですね。学校をさぼって日がな一日、屋根の上で雲を見ているような、どちらかというと今で言うひきこもりに近い少年でした…(鼻をずずっとすする音を思いっきりマイクが拾う)(客:大笑い)
問:こちらにおしぼりもありますんでお使いいただいて。
答:とはいえ、おしぼりで鼻のなかを拭くわけにもいかず。
問:今日(の録音)は映像の方はないので。私は言いませんから。(客:笑い)
問:今回の『羽音』ではGROUND ANGELは?
答:歌ってます、1曲目なんですけど。ただ今回のコンサートはアンビエントなんで歌の部分が少なくて、いつも歌っている浪漫飛行とかそういうメロディラインと歌詞が一緒になったようなものではないんですけども。歌っていて気持ちの入る曲ですね。
問:歌っていて涙してしまうようなことはないのですか?
答:『天使の羽音』とかは、女性的に聞こえるかもしれないけど、実は男の気持ちを歌った歌なんですね。
人間は歴史とか時代とかに翻弄されてる訳ですよ。僕らも実は翻弄されてるんですね。テレビを見れば恐怖を与えられ、物を買わなきゃ行けない気にさせられ。恐怖と消費でぐるぐる周りして何がなんだかわからないようにさせられてる。僕らは自分が選択しているとおもってますけど、選んでないんですよ。選ばされているんですよ。
たとえばボルヴィックとエビアンどっちがいいか、っていっても、そのどっちを選んでも利益がいく人がいるんですよ。そういうことだと思う。そういうふうにさせられてると、そのうち自分が何者であるのかとか、何人であるとか、どういう人生を歩みたいとか、どんな夢を持っているのかとか、そういうのがどんどん希薄になってくる。ものすごく危険なことですね。
問:そう言われて私もメディアに踊らされてる一人だと思ったんですけど。どうやって自分の真実の目をコントロールしてらっしゃるんですか?
答:自然物を見るといいかもしれないですね。花とか空とか海とかを見るとずっと変わらないじゃないですか。自然物の中に美しさがあるんです。俺たちはいつもショップに並んでいる洋服の「ピンクのワンピースがすき」とか言っているけど、そのなかにほんとの美しさはないんじゃないかと思う。ほんとに美しいものは自然の中にしかなくて、それさえ見据えていればいいんじゃないかと思う。
問:そういう真実の目、TRUE EYESですけど、今回のGROUND ANGELでも使われていますが。
答:去年はWHEN YOU'RE ALONEという曲を使ったんですけど、この曲はどちらかというと救いが感じられない曲なんですね。あぶないよあぶないよあぶないよ、って歌っている曲で。もうちょっと救いのある歌がいいかなと思って。真実の目で、愛情の目で世の中を見よう、そうしたら絶対この国は良くなるんだから。という希望的観測のもてる曲がいいと思ってTRUE
EYESに替えたんですね。
問:天使の映像だけでもぐっとくるんですが、それに音楽がつくことでより突き上げるものが感じられます。
答:子供イコール未来、なんですね。子供が未来を作っていくんですよ、そのとき悪いものを作らないように大人が線路をつくってあげなければいけない。その責任が大人にはあると思うんですよ。その責任を果たすために俺たちは生きなきゃいけないと思うんです。
問:GROUND ANGELでは天使の写真と共に子供たちの写真も使われていまして、なかには複雑な表情の写真もあるんですけれど。それが広河隆一さんの写真であるということですね。広河さんとの出会いというのは?
答:先ほども言いましたが『河童』という映画で、藤竜也さん演じるところの戦場カメラマンの(撮った)写真がいるということで、広河さんにお願いしました。戦場の子供たちの写真を多く撮っていらっしゃるということでお願いしましたら、快く貸していただきまして。それからのおつきあいですね。
ときどき彼の出す本を買ったりテレビに彼が出ているのを見たりして、彼の人生観というかそういうものにぐっときている一人なんですけど。
問:それではその広河隆一さんにここで登場していただきましょう。
(ここで、広河隆一氏の略歴が述べられました。すべてを聞き書きすることはできませんでしたので、興味のある方は彼のホームページHIROPRESS.netまで行ってみてください)
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