ノイローゼ完治の実践技術、5.「心のクセ」からの方法の実践体験など 18.目次 4.社会へ出てからの神経症体験など 6.人によってなぜ性格は違うのか等              

ノイローゼの転移

 アメリカから帰って一年位でその会社をやめ、ある電機会社へ就職した。
 仕事はきつかったが、この会社では激しいノイローゼ状態に陥ることはなかった。しかし、今になっ て考えてみると、この会社をやめる少し前から、別の形でノイローゼは少しずつ出てくる前兆があった ように思う。
 この会社も一年と九力月くらいでやめて、スーパーマーケットの会社へ就職した。入社してから四力 月くらいすると、ノイローゼは新しい形で襲ってきた。今度のノイローゼというのは、最初は取越し苦 労であった。
 その頃は夏だったので蚊とり線香を使っていたが、朝出勤すると、どうしても蚊とり線香の火を消し 忘れたような気がしてならない。(だいたいは間違いなく消してくるか、消えているのを確認してくる にもかかわらず)
 朝、タバコを吸って来た時は、灰皿に火が残っていたのではないか、昼頃出かけて来る時で(交代勤 務で午後零時から九時の勤務があった)自宅に誰もいない時ガスを使えば、確かに消したか元センは閉 めたか等が気になった。
 対向車とすれ違った時なども、もう少しで事故になったのではないかと不安になり、はからい苦しん だ。(しかし今度のノイローゼの場合、不安に対して心の中で言いきかすという、積極的エネルギーの 関係したものはなかった。それは言いきかすことが、はっきりまずいこととわかっていたのでその頃は しなかった)
 このままではいけないと思い、今度はアメリカへ行った時に読んだ「心のクセ」という本を求めて、 多くの書店を探し歩き、やっと見つけてその本に書いてある方法を実践し始めた。
        

「心のクセ」の本の方法の最初の実践

 私が最初の心の切り替えの実践をしたのは通勤途中の車の中である。
 見通しのきかない右にカーブしているところへ来た時、左側に乗用車が止まっていた。そのためそこを通るのに道路の右側を通過しようとした。そして通過し終りそうになったころ、前方から小型トラックが勢いよく走ってきてすれ違った。
 その時、もし自分が道路の右側を走っている最中にトラックが来た場合どうなるんだろうという考え が頭に浮かんだ。そして、心のクセが出始めたのがわかった。私は心のクセの本に書いてあるとおり、 青い空等を見て何度も心の切り替えを行った。(もちろん車の運転にさしつかえない程度にだが)
 そうするとまさに奇跡が起った。自分の心の中が非常に明るくなり、不安が小さくなった。(心のエ ネルギーが創造的に働いた為であろう)
 私は喜ばしい気持になった。私は今でもこの時の心の明るさと空の青さを鮮明に覚えている。
           

取越し苦労を対象に実践

 初めの頃の実践の対象は取越し苦労であった。取越し苦労はだいたい通勤途中の自分の車の中で始ま った。前にも書いたように、蚊とり線香のこと、灰皿のこと、車の事故になりそうになったことなどが 、心配事として襲ってきた。
 私はその度に心の切り替えの実践を行った。初めは失敗することも多かったが(切り替えの時期がお そかったりして、クセがなかなか止まらないような場合など)何回もくり返し実践を続けていくうちに 、うまくいくことも多くなった。
 私は次々と自分の症状に合わせて心の切り替えの実践を行った。それと同時に座禅も行い、それによ ってはっきりノイローゼが、心のエネルギーから出る悪癖であることがわかってきた。
 私の心の切り替えの実践法は、取越し苦労が出てくるたびに、通勤途中の車の中では、心を切り替え て電柱についている広告や店の看板、囲んぼの中の看板の文字を読むことだった。(これは、車の運転 にはさしつかえない程度に、進行方向沿えの看板や広告を読んだ。)
 会社の中では、取越し苦労が出てくるのは、会社に着いたばかりや仕事にとりかかった頃が多かった が、これも会社の中の文字や数字の書いてあるところを利用して、心のクセとして出てくるたびにその 文字や数字を読んだ。
 この方法をしばらく実践し、ある程度の効果はあった。しかし、私のノイローゼ状態は、この方法だ けでは不充分なくらい重かった。私は心の切り替えの実践をしながらも、スランブの状態におちいって いた。そしてもっと早急で効果的な方法を求めていた。
           

心の切り替えから、切り替え精神集中へ

 ある日、スランプに陥りながらも、いつものように心の切り替えの実践を続けていた。そうした時、 取越し苦労が出たときに、最初の看板を読むと次の看板と続けて、連続的に読んでいる自分に気がつい た。これは自分で考えたというよりも、実践を続けているうちに、ひとりでにこういう方法ができてし まったのである。
 このことに気がついてから、私は意識して心のクセが出るたびに、この方法を用いた。会社の中にい ても、会社の文字や数字の書いてあるところを利用して実践した。そうすれば、だえぶ前より早く、心 のエネルギーが開放されることがわかった。
そうして、心のクセの強弱によって、心の切り替えや切り替え精神集中を行った。
      

昼休みの工夫

 心のクセや心のエネルギーに関心を持ち、心の切り替えや切り替え精神集中の実践を続けていると、 自分の持っている心のエネルギーの動きがわかってくる。
 会社の昼休みなど食事の後何もしないでいると、自分の持っている各種のエネルギーが溜っているの が感じられた。私はそんな時、新聞の最もむずかしいところを読んだ。そうすると、その文章を理解す るのに精神の集中を必要とする為、心のエネルギーが開放された。
この場合、その新聞に自分の関心があることが書いてあるかどうかは間題ではない。心のエネルギーを開放することを目標にしているのだ。
             

念仏や祈りの意味を知る

 今まで書いたように実践を続けていたが、再び新しい問題も出てきた。それは文字や数字のないとこ ろではどうするかということであった。
 心のクセの本に書いてあるように、青い空をみて心の切り替えをするのも良いが、それではどうして も集中力に欠けるような気がした。そうして考えているうちに仏教の念仏に気がついた。
この時、念仏やキリスト教の祈りの意義が改めてわかったような気がした。そうして、文字や数字のないところでは口に出さないで、心で念仏を唱えたり祈ったりした。
              

祈りの効用

 祈りの効用については、カーネギーの道は開けるからの引用で述べるが、私の経験も一つ述べてみよ う。
 大型自動車の連転免許をとった時のことである。私は合格する自信はなかったし、実地試験の前の精 神的重圧は、実地試験を受けたことのある人ならわかると思うが、そこから逃げ出したいような気持だ った。
 そこで私は、試験を受ける一時間くらい前から祈り始め、熱心に祈り続けた。すると自分の順番が来 た頃にはまさに不安は消え、体のコンディションまでが絶好調のようになり、やる気充分の気持になっ た。おそらく精神安定剤を飲んでもこの心境にはなれないだろう。
 試験は少し失敗もしたが合格した。私は今でも自分のピンチの時、精神的重圧を受ける時などは祈る ようにしている。この頃から禅より易行門に興味を持ち法然や親鸞についての書物を読み始めた。
           

不断のエネルギー開放の努カ

 こうして、心の切り替えや切り替え精神集中をたえず実践し、ノイローゼ症状は全くといってよいほ どなくなり、弱気のエネルギーもだいぶ和らいだような気がした。
 しかし、将来の再発や転移を防ぎ、さらにこのエネルギーを和らげる為には、創造的な生活というよ うなものが必要であるように思われた。
 それで、暇な時間があった時、できるだけ有効に使うことを心がけた。本を読む時は、文学書だった ら古典を読み、時には、昔の数学の問題集をひっぱり出してとりくんだりした。この本もできるだけ暇 な時間を利用してまとめたものである。
 創造的な生活といってもそれは難しいことではない。心がけたことは心のエネルギーの流れを留めな いということであった。
 暇で心のエネルギーの流れが留まってしまいそうな時、精神集中の必要なことをして、心のエネルギーを開放し続けるわけである。
 スポーツを楽しんだり、自分でしてみたいと思う楽しい作業をしたりするのも良い方法であり、よい趣味を持つことは、心を豊かにし精神衛生にも非常によいと思う。
 とにかく、こうして私は、ほぼ完全にノイローゼを克服することができた。