ノイローゼ完治の実践技術、13.創造的な生活 18.目次 12.段階的に治してゆく過程 14.神経症的素質を持った人の生きる道等            

毎日の生活が性格をつくる

   宗教はもとより、芸術も感傷からの脱出である。

 この言葉は三木清のものであるが、創造的に力強く生きることの大切さを言っているように思える。
           

プラスの状態とマイナスの状態

   マイナスの状態
 心のエネルギーが噴出しやすくなっている。また、わずかに噴出している。心のクセ(症状)が出やす い
   心がプラスの状態
 心のエネルギーが開放されている時(全部の感情が同時に動いている)
           

その人の生活が性格をつくる

 その人の生活がその人の性格をつくるというが、それはある意味では正しい。その人の毎日の行動が 、感情の流れをつくり、性格を形成してゆく。より活動的で創造的な生活をしている人は、心のエネル ギーが開放され心も健全で幸福な気持ちになりやすく。
 継続的に単調で不活発な精神生活をしている人は、心のエネルギーも閉ざされ不平不満も出やすく、 持っている心のエネルギーの悪い面がでる。この時神経質のエネルギーを多量に持っている人が、エネ ルギー開放の度合の不充分な生活をしていると、神経症として症状が出てくる場合が多い。
 したがってその人が毎日どういう仕事に携わっているか、どういう生活をしているかは、ノイローゼ になるかならないかに、大きな影響を与える重要な事柄なのである。
         

一日の心のエネルギーの開放状態

・朝はその人のたくさん持っている心のエネルギーが溜っているので、心のクセが出やすい。一日の仕 事が終って帰るころにはエネルギーが開放され健康な伏態になっている。

・登校拒否する子が、朝、学校へ行けずに、夜になって心のエネルギーが開放され、学校へ行けそうな 気がしてくる。そうして明日は必ず学校へ行くと決心するが、朝になるとやはり行けない。朝はエネル ギーが溜っているので強くプレッシャーがかかるのである。
             

正常な状態とは

 正常な状態とは症状が出ていない時ではない。心のエネルギーがより開放されている時、つまりすべ ての感情が調和をもって動いている時であり、最高に正常な状態とは、心のエネルギーの完全開放の状 態で、ピタリとその環境に合致した状態である。
          

心を常にプラスの状態に保つには

 心のエネルギーがたえず開放される(すべての感情が同時に動く)ような生活にする為には、どうい う行為をどんなふうにすればよいであろうか。
 より活動的な生活をすればよいということだが、その人のする行為によって、心のエネルギーの開放の度合が違うのであるから、どういう行為、行動をするのか考えなくてはいけない。
            

知的な行為が効果的

 「夫人の息子は真珠湾攻撃のあった次の日に入隊したという。夫人は、一人息子のことが心配で半病 人になったという。どこにいるのだろう? 元気かしら、戦争しているのだろうか、負傷してないか、戦 死したようなことはないかしらなどで、それに対して、どのように悩みを克服したか。
 彼女は、まず最初は『身体を忙しくしました』と答えた。彼女はまず女中に暇をやって、家事を自分 で見て、身体にひまのないようにしようとした。が、それは大して役に立たなかった。
 『それというのが、家の中の用事は機械的にやれるので、頭を使う必要がなかったからです。だから ベッドを作ったり、皿洗いをしている間も、心配しつづけました。私は一日中、精神的にも肉体的にも 忙しくなる何か、新しい用事が必要なことに気がつきました。
 そこで、ある百貨店の売子になりました。私の思ってたとおり、たちまち多忙な毎日が続きました。 私は活動の渦巻の中心にいる自分自身を見いだしました。値段や寸法や色を質問する多数のお客に取り 巻かれてしまったわけです。私は、眼前の仕事以外のことを考えたりするひまは、一秒もありませんで した。
 そして夜になると、早く痛い足をらくにしてやろうとする以外、何一つ考えませんでした。そして晩 のごはんをすますとすぐベッドにもぐり込み、すぐ前後不覚に寝てしまったのです。私は、悩むだけの ひまもこんもなかったのです』
 これもカーネギーの「道は開ける」からの引用であるが、この例からも、前に引用した子供にせがま れてのおもちやづくりで、企画や思考の必要な何事かに忙殺されている間は、悩んだりしていられない ことに気がついたとあるように、頭を使う行為が、心を正常にするのに一役かっているのに気がつく。
 頭を使うということ、つまり考えるという知的な行為をしている時は、意識と行為が一体の為、また 精神集中している為、悩むこともはからうことも症状を出すこともできないので、心の健康に非常に良 いのではないかということになる。
           

知的な行為はなぜ心の健康に良いか?

@ものを書きながらはからいをすることはできない
A本を読みながらはからいをすることはできない

 体だけを使う行為では悩みながら行動できるが、知的な行為では常に意識と行為が一体である為、悩 んだりはからったりできない。(人間は一度に一つのことしか考えることはできないから)
 また精神集中して全部の感情が動いている為、一部の感情だけが動くことができない。

 また釈迦は苦行を六年間したが問題は解決せず、最終的に(前頭葉を直接使う)四十日間の禅定によって 悟りを開いたといわれている。知的な行為は心を成長させるのである。
           

創造的行為は心を平安にする

 数学教育の目的は決して計算や論理にあるのではない。かたく閉じた心の窓を力強く押し開いて清涼 の気がよく入るようにすることにあるのだ。(岡潔)

 この言葉をよく考えてほしい。創造的行為が、心の流れをより正常な状態にすることを言っているの である。数学者や物理学者、科学者などが深い境地に達しているのは、たえず創造的行為をしているか らである。
 研究室の平和という言葉を聞いたことがあるが、研究に没頭している時、つまり創造的行為をしてい る時、心は平和である。継続的な精神集中を必要とする学問は、神経質者の性格の改善に最高の方法で ある。
           

意識と行動が一体になることが大切

 肉体労働であっても、意識と行動が一体になれる行為は、心の健康によい。体を動かす行為でも、楽 しんでやるスポーツや、適度にプレッシャーのかかる(プレッシャーがかかると精神集中できる)ゲー ム、自分が興味を持ってやる肉体労働等は、意識と行動が一体になれるので良い。

 役者が舞台に立って演技をする時、最初はあがってしまい、観客の顔が見えない(一部の感情が動いて いる)、慣れてくると、観客の顔が見えてくる(すべての感情が動き始めた)、演技に熱中しだし、舞台 になりきって、再び観客の顔が見えなくなる(すべての感情が全開する)。
         

精神集中の度合を段階的に分けてみると

 精神集中の度合と心のエネルギーの開放の度合は比例すると考えて、仕事をしている時の状態を、五 段階に分けてみると、次のようになる。

1全く何もしていない   2単調な作業をしている
3少々頭を使う必要のある仕事をしている   4知的な仕事をしている
5前頭葉を駆使して無我の境で仕事に熱中している

 さてこの五つのうち最もノイローゼになりやすいのは当然1であり、なりにくいのは5である。森田 療法に「今すべきことをせよ」という教えがあるが、もしその人が2の単調な仕事をしている場合は治 りにくいであろう。つまり、はからいながら仕事ができるわけだから、しかし、4の知的な仕事や5の前頭葉を駆使しての仕事であったならばなおりやすいということになる。

    *人は熱心さによって清澄になり、自制心を保つことができる。
                            ユダヤの格言
             

素質を生かそう

 自分の持っている心のエネルギーの素質を生かして、楽しく心のエネルギーを開放しよう。
 心のエネルギーを開放するのに、噴火山式エネルギーの強い人はスポーツなどをすればよく、人にさ からうエネルギーを強くもつ人は論理的な学問や工学関係の趣味や仕事などがよい。焦点のしぼれない エネルギーを強くもつ人は、小説を書いたり、絵を描いたりすれば、心のエネルギーは楽しみながらよ りよく開放されるのではないだろうか。
             

山下清と松尾芭蕉

 放浪の画家として有名な、山下清は、あまり知能は高くなかったと言われている。
 しかし彼はすぐれた作品を創った。その源は彼の生き方のせいである。旅から旅への生活が彼の心の エネルギー(特に焦点のしぼれないエネルギーが生かされている)を開放し続けすばらしい作品を生む ことになった。
 この生活は、三千人もの弟子をもった、高潔な俳人である松尾芭蕉の生き方と共通するところがある 。人間はその生き方によって能力を生かしもし、殺しもする。
          

どういう生活をすればよいか

@知的な行為行動も生活にとり入れる
Aたえず活動的にする
 知的な趣味や少しは精神集中の必要な趣味を持とう。その人にとって楽しいものであればあるほど熱 中できるのでよい。
 そしてマイナス状態におちいりやすい時間を有効に使って精神集中を行い、感情の流れを、たえずプ ラスの方向へ持っていくようにしよう。
 毎日の生活の中で時間の空白をうめるようなプログラムをつくり、心を活動的にするような生活をし よう。そして心のエネルギーの流れを留めないようにしよう。
             

バランスをとろう

 症状が出そうなとき、心がマイナス状態のときは、プラスの状態にする努カ、工夫をする。(そうい う生活状態をつくる)
 又、絶えず心がプラスの状態を維持するようにバランスをとり、工夫する。
 単調な仕事等をしている人は、仕事の終った後や休日などに知的な事をするなどして、創造的な生き 方になるように努力しなければならない。
           

より心のエネルギーを開放するには、

 創造的な生活をするということは、たえず心のエネルギーを流すということである。(切り替え精神 集中は、エネルギーの流れの修正と、その修正したエネルギーを勢いよく流すことを同時に行っている のである)
 心のエネルギーは、その行為が精神集中を必要とすればするほど、よく開放される。マンガの本を読 むより古典といわれるような書物を読む方が、テレビのホームドラマを見るより能動的に作文を書いた り、数学のむずかしい問題を考える方が心のエネルギーは開放される。
 つまりより頭を使う必要があることをする方が、心のエネルギーはよく開放されるわけである。
         

創造的な生活は座禅をすることと同じ

 一事に精神を集中し、ひたすら考えるに徹する境地を何年間も続ける座禅は、最も創造的な行為であ るといわれている。その時、心は活動的であり、心のエネルギーは最高に開放される。
 知的な行為をとりいれた創造的な生活をするということは、その時の心の働きも座禅をしている時と 同じように活動的であり、心のエネルギーも充分に開放される。
 しかし創造的生活を学間とか芸術とかの行為だけに、求める必要はない。要は継続した心のエネルギ ーの開放ができればよいのであるから、前に述べた克服体験の不断のエネルギー開放の努力に書いてあ るような考えでよいのである。
        

症状の出る場面をさけてノイローゼを治せるか

 (対人恐怖の人が、対人関係の場面をさけて対人恐怖の克服をする)

 こういう方法は可能であろうか。可能である。しかしこれはかなり努力が必要である。対人恐怖の人 が、人に会う苦しみをさけて対人恐怖を治すには、非常に継続した創造的行為が必要である。
 座禅を何年間もする、学者になるくらい学問に励むなど、そうすることによって何年間も心のエネル ギーを開放し続け、神経質のエネルギーを和らげねばならない。要は強い精神集中行為の継続によって 、神経症性格を変革してしまうのである。