Menu生命科学(生物情報科学)免疫システムの考察セリアック病

    セリアック病          wpe89.jpg (15483 バイト)

    自己免疫疾患/グルテン小麦に含まれるタンパク質

                     

                   外山 陽一郎                                 白石 夏美         石清水 千春

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プロローグ         ...マチコとは、高校以来の親友... 2009.10 .22
No.1 〔1〕 セリアック病の全体像見えてきたのは最近20年のこと! 2009.10 .22
No.2

     <3つの要因がそろうと発病・・・

         環境要因遺伝的素因消化管粘膜の構造異常

2009.10 .22
No.3 〔2〕 セリアック病の歴史的経緯 2009.11. 7
No.4      小腸の粘膜絨毛の炎症・・・ 2009.11. 7
No.5 〔3〕 血液検査による予備診断が可能に! 2009.11.21
No.      <これまで、99%のセリアック病患者が見逃されていた!> 2009.11.21
No.7      トランスグルタミナーゼ酵素・・・に抗体!> 2009.11.21
No.8 〔4〕 変わってきたセリアック病の定説/日本全体風景は? 2009.12.27
No.9      《ポン輔のワンポイント解説》/<日本国内での状況は・・・> 2009.12.27
No.10      <日本の先進的状況は・・・> 2009.12.27   
No.1      《ミミちゃんガイド》/<セリアック病の症状/患者数の状況> 2010. 1.30
No.1 〔5〕 グルテンによる病気から・・・自己免疫疾患 2010. 1.30
No.13      HLA ・・・ヒト白血球型抗原とは 2010. 1.30
No.1 〔6〕 発病“3つの要因”の考察! 2010. 2.21
No.1      “組織トランスグルタミナーゼ”に対する・・・

                        
“抗体”のメカニズムは?>
2010. 2.21
No.1      《ポン助のワンポイント解説》 2010. 2.21
No.1 〔7〕 小腸粘膜の・・・間隙/透過性 2010. 3.17
No.1      <小腸粘膜物質透過性が高まる・・・疾患の数々! 2010. 3.17
No.1 〔8〕 発病の3要因を・・・倒すには 2010. 4. 6
No.20                《ミミちゃんガイド》/<小麦の代替え食品は・・・困難> 2010. 4. 6
No.21      新しい治療法・・・の開発> 2010. 4. 6
No.22      満1歳まで・・・グルテンを与えない/・・・試みとは?> 2010. 4. 6
No.23      <開発途上の・・・新薬・治療法・・・>    2010. 4. 6

 

     参考文献   日経サイエンス /2009 - 11   

                    セリアック病 /知られざる自己免疫疾患   A.ファサーノ  (メリーランド大学)  


 

プロローグ       

              

「ずいぶん御無沙汰しています。《Menu》・担当白石夏美です!

  ええ...いつも、お目にかかってはいるのですが、ページの仕事は久しぶりになります。私は、

《資源・エネルギー》担当堀内秀雄さんと組んでいますので...【堀内・炭素制御ラボ】

《炭素という元素とは(2008.3.25以来...ということになるでしょうか。

  およそ1年半ぶりになるわけですね。本当は、色々と忙しいのですが、出番がないということ

で、《企画室さんの方から、《生命科学》の仕事の依頼があり、受けることにしました。

さんも色々と、ホームページの運営で、心を砕いているわけですね。

  ええ...同じように、暇そうに見える基地局/ Lobbyの、石清水千春さんと一緒の仕事に

なりました...そういうわけで、外山さん、よろしくお願いします」

「ああ、はい...」外山が、眼鏡の縁に手をかけた。「こちらこそ、よろしくお願いします」

千春さんも、よろしく、」

「あ、はい...」千春が、頭を下げた。「よろしくお願いします、夏美・先輩...

  いつもは、マチコ・先輩と仕事をしているのですが、今度は、夏美・先輩にお世話になります。

あ、それから、暇そうに見えるということですが、外山さんとは、2度目になりますよ。前にも、《病

気の予測・自己抗体》を担当しましたから...セリアック病2度目になります」

「あら、そうなんですか...」夏美が、驚いた顔をした。

「はは...」外山が、胸ポケットに手をやった。「そうです...

  あれは...2007年でしたかな...確かに、セリアック病に関しても、簡単に説明しています。

そういえば、ポン助君も、ミミちゃんも一緒でしたねえ...」

                                                         <・・・・・ 詳しくは、こちらへどうぞ>

「ああ...」夏美が、納得した。「響子さんの依頼は、そういうことだったんですね。千春さんも、

数少ない仕事なので、よく覚えていたわけね、」

「もう、夏美・先輩ったらあ...」千春が、夏美の背中を、トン、と叩いた。「夏美・先輩は、マチコ

・先輩とは、ずっと一緒だったんですか?」

「ええ、そう...《ホームページ》では、マチコが先輩だけど、高校時代からの親友よ...」

「ああ、そうなんだあ...だから...」

千春さんは...」夏美が、口に手を当てて笑った。「高校時代は、スケバン(女子のツッパリ)だった

んですってね?」

「はい...でも、なんとなく、そんなグループを作っていただけなんです。勉強はしなかったし、ア

ルバイトなんかをしたりして、」

「ふーん...そうなんだあ...

  あ、あと...ポンちゃんと、ミミちゃんにも、今回はページに参加してもらいます。他のみんな

は、“量子情報科学”〔人間の巣〕のテーマで大変なのですが、こちらは“息抜き”というのが、

響子さんからの依頼です」

「でも、さあ...」千春が言った。「セリアック病は、深刻な病気なのよね。特に、幼児子供の場

合は、」

「はい、分かっていますわ。だから、ここで取り上げるわけです...

  息抜きのような設定”という依頼は...難しい考察をするのではなく、スラスラと話が進んで

行くようにして欲しいということです。そうした意味で、ポンちゃんと、ミミちゃんにも参加してもら

います。ポンちゃんミミちゃん、よろしくお願いします」

「おう!」ポン助が、両手を握った。

「うん!」ミミちゃんが、長い耳をゆらし、うなづいた。

「さあ...それでは...始めましょうか!」

=== セリアック病の全体像 === 

     見えてきたのは ・・・最近20年・・・ のこと!

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「そもそも、外山さん...」夏美が言った。「セリアック病というのは...

  “遺伝子的な素因を持つ人が・・・小麦タンパク質/グルテンを食べると・・・それが引き金とな

って起こる”、ということですね...そしてこの疾患は、実は“自己免疫疾患”だと分かってきたと

いうことですね?」

「そうです...」外山が言った。「これは、人類狩猟生活から農耕生活へ移ったことによる、

の1つと言われているものです。ちなみに、小麦/グルテン(/毒性部分はグリアジン)の他にも、

イ麦/セカリンや、大麦/ホルデインという、類似タンパク質でも発病することがあります」

は...」千春が言った。「大丈夫だって、本当かしら?」

「本当です...

  米にはグルテン、その類似タンパク質も含まれていません。したがって、主食とする

アジアには、セリアック病患者はいないと言われて来ました。しかし、この定説は、どうも最近の研

究から、再検証が必要だと言われています」

「はい...」夏美が言った。「ええと...

  確認しますけど、小麦グルテンというのは、小麦のタンパク質ということですね。私たちの知っ

ているものとしては、(ふ)ですね。お味噌汁なんかに入れるは、グルテンの塊ですよね?」

「そうです。の主材料になっているのが、グルテンです」

「うーん...」千春が、頭をかしげた。「あんなものが、グルテンなのかあ、」

 

「ええ...」外山が言った。「いいですか、まず、セリアック病ガイドラインを説明しましょう...

  症状としては...くり返し襲ってくる腹痛と、しつこい下痢症状です。そのために身体は痩(や)

せ細り飢餓状態のために、腹部に水が溜まってしまいます。そうしたことのために、慢性的な栄

養不良と、様々な合併症が併発します。早く死に至る幼児子供も少なくなかったようです。

  このセリアック病の原因が、グルテンに起因していることは、近代(/日本史では、明治維新から太平洋

戦争の終結まで)までは、知られていなかったようです。そして、この病気に関する断片的な知識がつ

なぎ合わされ、病気の全体構造が浮かび上がってきたのは、たかだか最近20年のこと、と言わ

れています」

「そうなんだあ...」夏美が言った。

「現在は...

  セリアック病“自己免疫疾患”の1種と考えられ...新たな治療法も開発されてきています。

このページでは、急速に増えてきた周辺情報や、治療法の開発についても、これから詳しく考察

して行きます。

  また...セリアック病は、“グルテンを摂取”することだけが原因ではありません。他に、“遺伝

的な素因”があります。それから、“参考文献”の著者は、最近もう1つ、“小腸の構造異常”を上

げています...これについては、後で詳しく考察して行きます」

「はい...」夏美が口を結び、うなづいた。

セリアック病が...

  現在、非常にクローズアップされて来ているのは...この病気が、他の“自己免疫疾患”を理

解する上で、1つのモデル・ケースになっているという点があります。セリアック病治療法として

研究中のアプローチが、他の“自己免疫疾患”にも、応用できる可能性があるわけです」

「はい、」

「くり返しますが、セリアック病の発病には...

  “環境因子/遺伝的素因/消化管の粘膜(ねんまく)の構造異常”という、3つの要因がそろうこ

とが条件となるようです。そしてこれは、他の多くの“自己免疫疾患”でも、共通するものらしいの

です。つまり...セリアック病の研究は、新しい治療法の開発につながって行くということです。

  1型糖尿病多発性硬化症関節リュウマチなどの、様々な“自己免疫疾患”の、新しい治療法

の開発にも、つながって行くと期待されています」

「あ、関連情報として...」千春が言った。「病気の予測・自己抗体》...の方も、是非、御覧く

ださいね。私が担当しています...」

「はい...」夏美が、目を細めた。「千春さんの、自慢のページですね」

「ふふ...そうです。よろしくお願いします!」

3つの要因がそろうと発病・・・  

     環境要因/遺伝的素因/・・・消化管粘膜の構造異常・・・

             

「外山さん...」夏美が言った。「セリアック病は、3つの要因がそろうと発病すると言われますが、

もう少し詳しくお願いします」

「はい...まず、<@として・・・環境要因>があります...

  そもそも、セリアック病というのは...小麦を原料とするパンなどを食べると、激しい下痢を起

こし、幼い子供“命を落とすこともある・・・病気”です。これは、先ほども言ったように、小麦

含まれるグルテンというタンパク質“引き金”となって起こります。これは、非常に明確です...

  この病気は...異物から身体を守るはずの免疫系が、自分自身の身体を攻撃してしまう、“自

己免疫疾患”なのです。そしてセリアック病の場合は...その環境要因グルテン...明確に

特定できている“自己免疫疾患”なのです」

「まず...」夏美が言った。「パンは大敵なのですね?」

「そうです...

  一般的に、患者は...小麦、あるいはライ麦大麦などを含む、お菓子食事などを摂取す

ると...免疫細胞小腸粘膜(ねんまく)を攻撃すという、“自己免疫反応”が起こります。このた

めに、栄養を吸収する器官である小腸が、キチンと機能しなくなってしまいます。

  したがって...患者が、グルテンなどを含む食材を長期間摂取し続けると...慢性的な栄養

不良となり、様々が合併症が併発してしまいます。また、悪性腫瘍などのリスクも高まると言いま

す。栄養不良というのは、あらゆる意味で、身体を脆弱化(ぜいじゃくか)させるわけです」

「はい...」夏美が、ゆっくりとうなづいた。

「つぎに...<Aとして・・・遺伝的素因>ですが...

  セリアック病を発症する患者には、遺伝的素因があるということです。したがって、その素因

持った人が、グルテンを摂取すると...小腸粘膜間隙(かんげき/すきま)が生じて、大きな分子

通るようになってしまいます。それで、“自己免疫反応”引き金が、引かれてしまうわけです」

「でも、遺伝的な要因は...持って生まれたものですから、どうしようもありませんね...」

「まあ...

  遺伝子治療という方向へ行くのでしょうかねえ...1型糖尿病セリアック病は、共に染色体・

6p21にある“HLAクラス2遺伝子”と、関連があるといいます...ま、あまり詳しい話は、ここで

は避けましょう。ともかく...

  <Bとして・・・消化管粘膜の構造異常>というのは...小腸粘膜間隙が生じてしまう、

いうことにあるあるようです。そのために、大きな分子も通過してしまうようになり...免疫細胞

が、小腸粘膜を攻撃するという、“自己免疫反応”が起こってしまうようです」

「はい、」

「したがって...

  “グルテンを・・・食事から排除”してしまえば、症状は改善されるわけです。この作業は、いとも

簡単なように見えるわけですが、実際はなかなか難しいようです。インスタント食材でも、レシピ

見る必要があるし、表記してないような少量でも、入っていれば反応することもあるようです」

「うーん...

  こうした幼児患者を持つ母親の苦労は、大変なものなのですね。自分のちょっとしたミスも、全

て、我が子の苦痛に直結するわけですから...」

「そうですねえ、大変だと思います...ま、それを軽減していくために、みんな頑張っているわけ

です...それに、最近は、色々なことが分かって来ました...」

「はい、」

「ええ...だいたいこんな所ですが...

  これから“参考文献”をもとに...詳しく考察て行きましょう...開発中の治療法なども紹介

して行きます。かなりのデータがありますから、急がずに、周辺状況なども見て行きましょう」

「はい...」夏美がうなづき、それから千春とポン助とミミちゃんの方にも、微笑した。

「この...」外山が言った。“発病の3つの要因”は...この疾患中心なテーマですので、再度

詳しく考察します。ここでは、ガイドラインだけを述べておきました」

「はい、」今度は、千春がうなづいた。

  〔2〕 セリアック病の歴史的経緯    

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「さて...」外山が、そっと眼鏡に手を当てた。「ええ...

   “ちゃんと食べているのに・・・栄養不良になる ...という子供の病気が、最初に文献

に登場するのは...人類/ホモサピエンスが、農耕を始めてから...数千年もたってから、だ

ということです。

  つまり、このセリアック病というのは...人類狩猟生活から、農耕生活へ移ったことによる、

代償として発現したようだ、ということです。現在の私たちが、飢餓がなくなって飽食になり、肥満

などの生活習慣病が多発しているのと、似ているかも知れません」

「ふーん...」千春が言った。「そうなんですか、」

「ええ...」外山が、眼鏡を押し上げ、モニターを眺めた。「ご存じのように...

  世界4大文明の発祥は...紀元前6000年〜5000年と言われます。そして、この最古の文

というのは...実は、紀元前1世紀/・・・トルコ/カッパドキア/古代ギリシアの医師=アレタ

エウスによるものだということです。

  コトの次第は...近代医学の時代になり、イギリスの医師/サミュエル・ジー(Samuel Gee)

アレタエウス文献を発見したことによります。そのために、サミュエル・ジー“セリアック病の

父”と呼ばれるようになったようです。

  セリアックという病気の語源も...ええ、ギリシア語“腹部”を、英訳した所から来ているよう

です。つまり、名づけたのは、紀元前1世紀/古代ギリシアの医師=アレタエウスですね...」

「うーん...」千春が、口をとがらせた。「でも、“セリアック病の父”サミュエル・ジーよね」

「そうです...

  サミュエル・ジーは、19世紀/1887年の講義で、セリアック病をこう説明しています。“この消

化不良の疾患は・・・あらゆる年齢に生じうるが・・・特に、1歳〜5歳の子供に起こりやすい”...

さらに、“食生活に・・・何らかの原因があるのだろう”...と、当時としては、ズバリと言い当てて

います。

  また、サミュエル・ジー食事療法も説いているのですが...その内容の方は、現在からみれ

ば、かなりトンチンカンなことを言っています。“パンは薄切りにして・・・両面を焼く”...などと言

っているようですねえ...そんなことで、効果があったのでしょうか...」

“自己免疫疾患”などは...」夏美が言った。「19世紀の医学では、想像がつきませんものね」

「そうですね...

  セリアック病の原因が、パンに含まれている小麦グルテンとが分かったのは、第2次世界大

の後のことです。戦争中に、オランダ深刻な穀物不足に陥りました。ところが、セリアック病

子供の死亡率は、平時の35%から、戦時の0%へと...激減したのです。

  それから、戦争が終わって食糧事情が良くなり、小麦粉が流通し始めると...小児患者の死

亡率は 戦争前のレベルに戻りました。この事実に気づいた、オランダ人医師/ディッケ(Willem

Karel  Dicke)は、パンセリアック病原因だであると...正確に突き止めました。

  さあ...そこで、小麦に含まれる様々なタンパク質が調べられ、ついに元凶グルテンにたど

り着いたそうです。そして、発病原因物質が分かると、次にグルテン身体に与える影響につ

いて、研究が開始されました...」

「でも...」夏美が言った。「それから、半世紀もたっているわけですね...」

「そうです...

  それには、総合的な医学の進歩が必要だったわけでしょう。断片的なデータが統合され、病気

の全体像が浮かび上がってきたのは、ここ20年ほどだと言います...」

「はい...」夏美が、うなづいた。 

小腸の粘膜絨毛(じゅうもう)に炎症・・・      

 

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小腸の粘膜には、と...」外山が、マウスでモニターをスクロールした。「ああ、これですね...

  この図に示すように...小腸内側粘膜には、絨毛(じゅうもう)という構造があります。これは字

の通り、絨毯(じゅうたん)の毛のような構造ということです...小腸内側上皮細胞の上は、それ

がびっしりと並んで生え、絨毯の表面のようになっているわけですね...

  ここで、様々な栄養分を吸収するわけです。千春さんも、この構造を覚えておいてください」

「はい、」千春が、うなづいた。

「いいですか...

  消化されて...小さくなった食物成分小腸に達すると...今度は、栄養分小腸・粘

膜壁を通じて、血流に取り込まれます。この粘膜壁を構成しているのが、いわゆる絨毛というわ

けです。絨毯の表面のような構造になっていて、実際の表面積は、非常に広いものになります」

「うーん...」千春が、コクコクとうなづいた。

セリアック病患者が...グルテンを食べ続けると...絨毛炎症が生じ、組織構造が破壊

れてしまいます。すると、栄養消化吸収するという...小腸本来の機能破損・破綻してしま

うわけですね」

グルテンを...」夏美が言った。「食事から排除すれば...それは、機能は回復するわけです

ね?」

「まあ...そうですねえ...

  具体的な症状のことは、ここでは深くは追求していません。症状個体差があり、病院のカル

の方がよほど詳しいでしょう。ここで言えることは、それほど深刻になる前に、病院で診断され、

食事からグルテンを排除することですね。

  そうすれば、小腸粘膜ほぼ元どうりにまで回復するようです。また、下痢消化不良といっ

消化器系症状も無くなるようですね...症状については、“参考文献”にも、詳しいことは書

かれていません。したがって、ここでも、学術的病理(病気の原理)についての考察になります」

「はい、」夏美が、コクリとうなづいた。

 

「少し...」外山が言った。「免疫系のことも、話しておきましょう...

  この小腸粘膜には...この場所での免疫を担う、様々な免疫細胞が存在します。これらの

疫細胞は、感染症を引き起こすような侵入者を、排除する役割を担っているわけです。

  ところが...セリアック病になりやすいという“遺伝的素因”があると...粘膜グルテンの刺

によって、炎症を引き起こします。そうなると、正常な組織にまでダメージを与え、最終的には、

小腸粘膜そのものを破壊してしまうわけです」

「うーん...恐ろしいですね」夏美が、口に手を当てた。

「あの...」千春が言った。「普通の...

  正常な消化のメカニズムは、どのようになっているのかしら。私は、そっちの方も、よく分からな

いから、」

「ああ、はい...」外山が、大きくうなづいた。「重要なことですね...

  いいですか...健康な人の場合...から入った食物は、歯で咀嚼(そしゃく)された後、

一部が消化されます。それから、小腸へ送られることになるわけですね。

  小腸にやってきた食物は...膵臓(すいぞう)から分泌される消化酵素(/膵液・・・三大栄養素の全てを

消化できるにより...絨毛を構成される上皮細胞(腸粘膜細胞)の表面で...グルコースアミノ酸

どの、より小さな分子分解されます。

  そして、上皮細胞から吸収されて行くわけですね。吸収された栄養分は、血流に乗って全身

運ばれます。ところが、セリアック病患者の場合...上皮細胞が傷ついていて...絨毛の構

も平らになっています。そのために、表面積も著しく減っているわけです。

  したがって...消化酵素によって分解されても...小腸本来の機能である栄養分の吸収を、

十分には行えなくなってしまうわけです。その結果、 “ちゃんと食べているのに・・・栄養不良に

なる ...ということが起こるわけです

「はい...」千春が言った。「小腸から吸収された栄養分が...全身に回っているわけですね」

「そうです...

  全身の細胞では、それをエネルギーの共通通貨/ATPアデノシン三リン酸)変換して使います。

これは、ガソリン自動車ガソリンのようなものですね。あるいは電気製品電気のようなもの

すか...ATPは、つまり...DNA型・生命体で、共通のエネルギーの通貨なのです。

  この地球生命圏においては、まだDNA型・生命体しか確認されていないわけですから...

生命体共通の、生態駆動のエネルギー通貨ということになります。そのエネルギーや、様々な

物質を、体内に吸収しているのが、小腸なのです...」

「はい、」千春が、うなづいた。「ATPかあ...」

  〔3〕 血液検査による、予備診断が可能に!   

                

「ええ...」外山が、モニターに表示されている、食品の画像を眺めた。「そうですねえ...

  セリアック病全体像が分かってきたと言っても...病気の全てが、解明されたわけではあり

ません。そもそも、グルテン免疫機構に及ぼす、影響メカニズムについても、まだ不明な点

多いようです...こうした面でも、現在、様々な研究進行中のようです」

「はい...」千春が、神妙にうなづき、ボールペンをクルクル回した。「病気の全体像が見えてき

ただけで...それで、オーケイというわけではないんですね?」

「そうです。むしろ、これからでしょう...様々な研究が進められています

グルテン...」夏美が、片手を立てた。「原因と分かっていても...

  それを、全ての食品から排除するというのは、至難の業のようですね。お醤油の原料に入って

いたり、インスタント食品に入っていたりして...それに、食品以外でも、錠剤表面コーティン

に使われている場合もあるそうですね。

  そうしたものを全て確認するとなると、外食も難しくなりますわ。確認できているグルテンフリー

(無グルテン食)しか、子供に与えられない場合もあるわけです」

「そうですねえ...」

「そんな微量でも...」千春が、夏美の方を見た。「反応するんですか?」

「うーん...個人差があるようですけど...」

「はい...」

トランスグルタミナーゼ酵素・・・に抗体    

        
   

「いいですか...」外山が言った。「セリアック病は、“自己免疫疾患”ですが...

  グルテン免疫機構に及ぼす影響に関して...これまでの注目すべき発見は、“組織トラン

スグルタミナーゼ”に対し、“抗体”が生じるということです。“組織トランスグルタミナーゼ”という

のは、組織炎症が生じた個所に存在する、トランスグルタミナーゼ・酵素です。

  このトランスグルタミナーゼという酵素は...ダメージを受けた細胞から漏れ出し、周囲の組

織の修復を担う働きがあることで知られています。多機能酵素ですが、おもに、タンパク質とタン

パク質をつなぎ合わせる活性を持ちます。セリアック病患者では、この酵素に対する“抗体

濃度が、“異常に高い値”を示すことが分かってきました。

  したがって、この発見から...“抗体濃度の高さ”を測り、診断に役立てることができるように

なったわけです。また、この血液検査による診断が...罹患率(りかんりつ)の調査にも使われるよ

うになりました」

「はい...」夏美が、マウスにそっと指を当てた。「血液検査で...セリアック病予備診断と、

患率の調査も、できるようになったわけですね?」

「そうです...

  この検査法/・・・“血清学的診断”が導入される以前は...“セリアック病に的を絞った検査

法”というのは、実は、存在しなかったようです。問診セリアック病が疑われた場合には、内視

小腸粘膜を採取し、評価するしかなかったようです。

  それから、グルテンフリー食(無グルテン食)を試し...症状が改善するかどうかで、確定診断をし

ていたようです。まあ、非常にめんどうで、時間がかかりますが、これが最も間違いのない診断

すがね...」

「はい、」

「ええと...資料があるので、もう少し詳しく説明しましょうか、」

「はい、」

「ええと...

  “胃カメラによる・・・上部消化管・内視鏡検査”...が、“診断のゴールドスタンダード”と言わ

れているようです。まあ、現在でもそうなのでしょう。ともかく、セリアック病確定診断をするには、

患者のグルテン摂取履歴や、家族背景についての問診、そして内視鏡検査を含めて、総合的に

判断する必要があるようです。

  そして、いいですか...“血清学的診断”が確立されたと言っても、それは今のところ、既存

の検査法にとって代わるものではないようです。比較的簡単に行えるので、大規模なスクリーニ

ング検査には便利なようですね。

  ええ...このセリアック病の、“血清学的診断”が確立されたのは...1990年代のようです

ね。もちろん、グルテンそのものに対する“抗体検査”もあるわけですが...セリアック病以外

人でも陽性になるために、決定的な診断にはならなかったようです...」

「うーん...はい...」夏美が、頬に手を当てた。

「それから...ええと...

  “血清学的診断”には...現在、複数の方法があるようですねえ。しかし、いずれも、100%

の精度は出ないようです。もっとも、“診断のゴールドスタンダード”と言われる“内視鏡検査”にし

ても、完璧を保証するものではありませんがね

「はい...」夏美が、うなづいた。「でも、素晴らしい進歩ですわ。“組織トランスグルタミナーゼ”

に対する、“抗体”の発見というのは、」

「まあ、こうやって...多くの人たちが救われることになるわけです。病気というのは、治療よりも

予防が第一ですからねえ」

「はい!」夏美が、強くうなづいた。

  <これまで、99%のセリアック病患者が・・・見逃されていた 

           wpe89.jpg (15483 バイト) 

「あの、外山さん...」夏美が言った。「この“血清学的診断”の確立で...

  セリアック病新たな分布が分かってきたのでしょうか。最近、日本でも再調査をしているよ

うなことを聞きますが、」

「うーむ...

  それは次に考察しましょう。その前にここで、何故、今まで、99%ものセリアック病患者が、見

逃されてきたのかを考察してみましょう。“診断のゴールドスタンダード”評価するとして、99%

も見逃していたのでは、別の意味で、著しく評価を下げることになります」

「はい...その両方が補完しあって、“病気の診断として精度が上がる”ということですね、」

「そうです」外山が、うなづいた。

 

「ええ...」外山が、モニターをスクロールした。「これまで...

  セリアック病は、ヨーロッパ以外の地域では、きわめて稀(まれ)であるとされてきました...例え

北米ですが、典型的なセリアック病の症状を示す患者は、1万人に1人未満とされていました」

「はい、」

「ところが...

  1万3000人以上“血清(血液が凝固する時に、血餅から分離する黄白色透明の液体)...“血清学的診

断”スクリーニング(/集団の中から該当者を選び出す、医学的なふるい分け)調査したところ...なんと、133

人に1人の頻度で、セリアック病患者が見つかったのです...これは、驚きですねえ」

「いつの調査なのでしょうか?」

「ええと...」外山が、モニターをのぞいた。「これは...

  “参考文献”の著者のグループが...2003年に公表したデータです...セリアック病では過

去に類を見ない、大規模なスクリーニング調査だったようです。つまり、セリアック病患者は、この

調査で、これまで考えられていたよりも、100倍近い高頻度で存在することが発見されたわけで

す」

「今まで...見逃されてきていたわけですね...?」

「そうです...

  以後、多くの国で調査が行われました...その結果、どの大陸でも例外なく同様の割合で、

セリアック病患者がいることが確認されたようです...しかし、どうしてこれまで、99%もの患者

が、見逃されてきたのかということです...“診断のゴールドスタンダード”で、」

「それは...症状軽かったということかしら?」

「そうですねえ...」外山が、モニターをのぞきこんだ。「それもあります...

  “消化不良”“慢性の下痢”といった、昔から知られている“セリアック病の典型的な症状”は、

小腸粘膜広範囲強いダメージを受けないと、現れにくいということがあります。つまり、小腸

機能異常炎症範囲が小さい場合、軽い症状だったり、別の症状が現れたりするわけですね」

「すると...」夏美が言った。「“セリアック病に的を絞った検査法”というのは...大多数/99%

の潜在患者を...新たに発掘したということになるわけでしょうか...?」

「そういうことになりますね...まあ、既存の病気と交差し、重なっていたという側面が見えて来ま

す...

  “血清学的診断”の導入後...これまで無関係と思われていた症状/病気が...実は、セリ

アック病に伴って生じる場合があることが、次々に分かって来ました。つまり、セリアック病による、

栄養吸収不良から来ていると考えればいいのでしょう...」

「うーん...例えば、どういう症状/病気があるのでしょうか...?」

ええと...」外山が、モニターに肩を寄せた。「そうですねえ...

  まず、“自己免疫疾患”で知られる、1型糖尿病がありますね...そして、小腸での鉄分吸収不

による、鉄欠乏性貧血があります...それから、ビタミンB12欠乏葉酸ビタミンM、ビタミンB9、プ

テロイルグルタミン酸とも呼ばれる。/ビタミンB12とともに、造血に関係)欠乏による、神経疾患がありますね...

  あと、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)関節痛慢性疲労症候群成長遅延皮膚病変てんかん

知症統合失調症痙攣(けいれん)性疾患など...多岐にわたっています...」

「そんなに沢山ですか...」

「そうです」

「はい...」夏美が、肩を上げ、大きく息を吐いた。

「つまり...

  セリアック病でありながら...“セリアック病の典型的な症状”ではないために...多くの患者

非常に見逃されやすかった、と考えられます。それから、1型糖尿病などは、そもそもが別の

病気ですね。同じような、“自己免疫疾患”ということになりますが、」

「はい、」

「したがって、これからは...

  “血清学的診断”の進歩で...典型的ではない患者も、早期診断できるようになりました。そ

して、早くから“グルテンフリー食”に変えることにより、深刻な合併症予防することも、可能にな

ったわけです。病気が克服されたわけではありませんが、早期の対処が可能になってきたわけ

です」

「はい!」夏美が、強くうなづいた。「多くの人たちが、救われるようになったわけですね、」

  外山がうなづき、宙を見上げて、体を椅子の背にあずけた。

  〔4〕 変わってきたセリアック病の定説   

                  日本の全体風景は?

     wpe89.jpg (15483 バイト)  

「ええと...ポンちゃん...」夏美が、ポン助に目をやった。

「おう!」ポン助が、モニターの横で胸を張った。

“日本には、セリアック病の患者はいない”...とされてきましたが、“最近は、その結論は時期

尚早・・・”と言われていますね?」

「そうだよな...」

「そのあたりを、“ポン助のワンポイント解説”で、願いします」

「おう...」ポン助が、やや緊張した声で言った。「久しぶりだよな、」

  ミミちゃんが、横でうなづき、長い耳を揺らした。

 

**************************************************************

 《ポン助のワンポイント解説》   

        <日本国内での状況は・・・>

「ここは...<信州大学/医学部/第2内科・・・日経サイエンス/囲み記事>を参

考にするぞ...

 

  セリアック病というのはよう...“東アジアには存在しない”というのが...欧米の

教材などに記載されてきた、定説だぞ。理由はよう...欧米などにおけるセリアック

遺伝的素因にはよう、特定白血球/HLA型が、深くかかわっているからだぞ。

 

  これはよう...HLA型“HLA−DQ2”と...“HLA−DQ8”が、深くかかわっ

ていると言うよな。だけどよう、この2つHLA型とも、日本人には少ないことが、

つの根拠になっていると言うぞ。

 

  とにかく...これまで日本国内で、大規模なスクリーニング調査が実施されたこ

とはないと言うぞ。だから、罹患率(りかんりつ)も、実際には分かっていないそうだぞ。

それから...セリアック病概念は、変わりつつあると言うぞ。

 

  “日本にセリアック病は存在しない”と言われてきたけどよう...学会報告では、

セリアック病ごく少数だけど、存在していると言うぞ。それから、セリアック病

膚症状と言われる...疱疹状皮膚炎についても、まとまったレポートがあるようだ

ぞ。

 

  それに、海外で、日本人セリアック病診断されることもあるそうだよな。つま

り、こうした実態は、“氷山の一角”とも考えられると言うぞ。しかしよう...米が主

日本では...やっぱり、発症が少ないのかも知れないよな...

 

  最近は、小麦粉で作る...パンや、お菓子や、ラーメンや、ウドンも、よく食べる

から、環境因子も変わってきているぞ...ま、こんな状況だよな...」

                     

**************************************************************

 

「はい...」夏美が、大きくうなづいた。「ポンちゃん、ご苦労様です!」

「おう...」ポン助が、マウスを離した。「久しぶりだったから、うまくまとまらなかったよな...」

「でも、」夏美が、ポン助を見てうなづいた。「簡潔で、分かりやすくまとめてありましたよ...

  ええと、外山さん...日本国内では、大規模なスクリーニング調査は行われていないと、ポン

ちゃんも言っていましたが...状況はどうなのでしょうか。主食日本では、調査が必要の

ないほど、症例は少ないのでしょうか?」

「そんなことはないでしょう...」外山が、首を振った。「アメリカでも...これまで、99%の患者

が見逃されてきたわけです。そうした経緯からも、しっかりと調査するべきでしょうねえ」

「では...何故、やらないのでしょうか?」

日本先進国と言っても...医療行政などで、先進国というわけではないのです...

  むしろ、立ち遅れている面もあります。例えば、薬害事件なども多くあったわけです。また、

クチン製造でも、その実力がありながら、実際は立ち遅れていたりします。新薬の国内承認でも、

時間がかかり過ぎることも、良く知られています。

  いわゆる厚生労働・行政というやつで、ともかく、評判がよくないですねえ...どうしてこんなこ

とになっているのか、私は行政問題の専門家ではないので、良く分かりませんねえ...」

「うーん...

  ともかく...日本国内では、どんな状況なのでしょうか?概略については、いま、ポンちゃんか

ら聞いたわけですが、」

「そうですねえ...」外山が、モニターをスクロールさせた。「日本人としては、関心のある所なの

で...もう少し考察してみましょうか...」

「はい、」夏美が、うなづいた。

<日本の先進的状況は・・・  wpe89.jpg (15483 バイト)    wpe7.jpg (10890 バイト)   

          

“参考文献”には...」外山が言った。「信州大学/医学部/第2内科の状況が、掲載されてい

ます...ポン助君と同じ資料です。

  これによると...学内の倫理委員会の承認を得て...附属病院/第2内科に、通院・入院中

の患者を対象に...“血清学的診断”/スクリーニング調査を実施したようですね...」

「はい、」

710人のうち、20人が陽性になったようです...

  さらに、陽性の人の消化管粘膜を調べたところ...7人にセリアック病に似た病変が認められ

たとあります。これは、0.9%(710人中の7人/・・・数値がズレていますが、詳細については分かりません)に、セリ

アック病様病変が確認されたことになります...」

「やはり...」夏美が言った。「相当に存在する...ということでしょうか?」

「そうですねえ...

  この調査は、第2内科/患者協力を得たものです。ここには、胃腸・肝臓・膵臓・血液・腎臓

の各班があると言います...つまり、逆に、第2内科以外外科や...心臓脳神経など

の患者と...その他の一般の健康な人は、参加していないということになります...」

「はい...そうした特定集団の中で...710人中の7人ということですね」

「そうです...

  これは...欧米スクリーニング調査とはデザインが異なるわけです。しかし、あえて比較

てみると、0.9%という数値は、欧米の罹患率0.75%(133人に1人)に匹敵すると言います」

「うーん...」夏美が、首をかしげた。「でも、近いわけですよね...」

[そうです...

  それと、もう1つ...この第2内科での陽性/7人は...“本当にセリアック病なのか?”...

という疑問は残るようです」

「はい...それは、どういうことかしら?」

第2内科では...

  現時点では、“欧米の診断基準”を用いて、セリアック病診断をしていると言います。しかし、

可能性として...民族間での、病態臨床像違いというものが、あるかも知れないということ

です。病理所見の違いというものが、あるかも知れないということですねえ...」

「はい...」

「こうなって来ると...

  診断基準も...今後、微妙な調整が必要になるかも知れないということです。それには、今回

補足した0.9%の患者の...臨床経過遺伝的素因グルテンフリー食の反応性などを検討し、

その全体像の実態確認して行くことになるようです」

「うーん...日本では、研究は遅れているのかしら?」

「まあ、そうですね。“日本には患者はいない”、と思われていたわけですから、」

「はい、」夏美が、うなづいた。

「今後は...

  日本人“遺伝的素因”だけでなく...米食という食文化や、離乳食といった“環境因子”が、

発病にどう影響しているのかも、考慮が必要だということです。日本での研究は、これから本格

化して行くのでしょう」

「うーん...この研究あたりが、日本の先進的な状況ということなのでしょうか?」

“参考文献/日経サイエンス”に掲載されているということは...そういうことなのでしょうねえ」

「はい、」

「ともかく...

  診断基準微調整と同時に、広範囲の地域調査や、全国的なスクリーニング調査が急がれる

のかも知れません...

  ええ...“参考文献”では、最後にこう記してあります。“日本のセリアック病については、まだ

まだ不明な点が多い”...と...」

「はい、」

 

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    wpe89.jpg (15483 バイト)  《ミミちゃんガイド・・・・・・・・  》    house5.114.2.jpg (1340 バイト)

       <セリアック病の症状/患者数の状況は・・・

 

「ミミちゃんです!久しぶりの登場よ!

  今回は、セリアック病の症状患者数の状況を、簡単にまとめるように、マチコに

言われたの...では、さっそく始めるわね。

 

  乳児小児セリアック病では...症状としては、腹痛腹部膨満感便秘

体重減少嘔吐...というのが一般的だそうよ。

 

  成人患者では...消化器系の症状だけでなく、貧血関節炎骨粗鬆症(こつそしょ

うしょう)(うつ)疲れやすさ不妊症関節痛けいれん手足の感覚低下、などが

あるそうよ。それから、成人患者半数では、“診断時に・・・下痢の症状がない”

というわね。

 

  アメリカでは約200万人...世界では約1%が...セリアック病にかかっている

ようだけど...これは、ほとんど知られていないというわね。

  それから、日本を含めて、“東アジア地域には・・・セリアック病の患者は居ない”

とされてきたけど...これは、見直しが必要になって来たそうよ、」


                     house5.114.2.jpg (1340 バイト)

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「はい...」夏美が、片手を上げた。「ミミちゃん、ご苦労様です...

  ずいぶんと緊張していたようだけど...おなかは空いていないかしら?」

「うん!」ミミちゃんが、長い耳を揺らしてうなづいた。「大丈夫だもん!」

「そう...それじゃ、ポンちゃんに手伝ってもらって、コーヒーを入れてくれないかしら、」

「うん!」


  〔5〕 グルテンによる病気から・・・自己免疫疾患  


  
        

「ええ...」外山が言った。「セリアック病は、“自己免疫疾患”なのですが...

  食事から、“グルテン・・・環境因子”を...単に取り除けば...発病が抑えられます。そして、

再びグルテン摂取すれば、発病が促されます...」

「はい...」夏美が言った。「これは、非常に明確な関係なのですね?」

「まさに、そうなのです...

  “自己免疫疾患”発病に...“環境因子/環境要因”深く関与しているという...1つの

解釈モデルを提供したという点で...セリアック病は、研究者から大きな注目を集めています。

当然、その方面の研究も、大きく進んでいるようです」

「はい...」夏美が、ポン助とミミちゃんがコーヒーを入れているのを眺めた。

セリアック病ほど...発病“環境要因”明確に特定できた“自己免疫疾患”というのは、他

に例がないわけです」

「はい...」夏美が、うなづいた。

「ええ、千春さんも、いいですか...具体的に話しましょう」

「あ、はい...」千春が、メモ帳の上で両手を揃えた。

 

「まず...」外山が言った。「セリアック病ではない人の場合は...

  グルテンを食べても、消化管(食物の通路で、消化吸収を行う管の総称)異常反応は全く起きないわけ

ですね...ともかく、“正常な免疫系”が反応するのは、体内相当量外来タンパク質が入り

込んだ時だけです。まず、その過程を説明しましょう」

「はい...」夏美が言った。「外来タンパク質というと...食事もそうなのでしょうか?」

「そうです...

  私たちは...や、大豆タンパク小麦グルテンなどを...大量に摂取します。免疫系

は、そうした外来タンパク質を、細菌ウイルスなどの病原体の侵入と同様に認識します。まあ、

ヒトの身体が、外来タンパク質に接触するのは...主に毎日の食物の摂取です。

  さて...その外来タンパク質が、粗く消化・分解され...小腸に下って来て消化・吸収

れるわけですね。その時...小腸の内壁を覆う、上皮細胞(腸粘膜細胞)のかたわらに控えている

免疫細胞が...“必要な援軍を動員しつつ・・・異物を排除するように働く”...というわけです」

「私たちは...」夏美が、髪を撫で上げた。「食物摂取するたびに...免疫細胞は、そんな作

業をしているのでしょうか?」

「まあ、それが仕事ですからねえ...

  いいですか...健康な人の場合1日3回の食事をとっても異常反応が起こらないのは、それ

腸管に届くまでに...タンパク質粗く分解され...その構成要素であるアミノ酸・レベル

まで、細かく寸断されているからです」

「はい...」千春が、うなづいた。「つまり、で、それなりに粗く消化されているわけですね?」

「その通りです...」外山が、千春にうなづいた。「さて...小麦グルテンを構成する、アミノ酸

多くは...プロリンと、グルタミンです」

「はい...」夏美が言った。「プロリンと、グルタミンですね...」

「そうです...

  ところが、グルテン消化を受けると...1部は、アミノ酸・レベルにまでは分解されずに...

ペプチドという小さなタンパク質・レベルのまま、小腸に達するわけです...

  このプロリンと、グルタミンを豊富に含んだペプチド...“グルテンペプチド”が...セリアック

引き金になることが知られているようです」

「ふーん...」千春が言った。「それが、悪者なのね、」

「まあ...悪者というか...

  健康な人の場合は...この“グルテンペプチド”は...小腸素通りするのです。そして、

疫細胞に認識されないまま、便となって排泄されるのです。仮に...“腸粘膜細胞を超えて・・・

小腸の壁の中に潜入”...したとしても、それは少量です。大規模な免疫反応は起きません」

「ええと...」夏美が言った。「つまり...

  食事で...大量の外来タンパク質を摂取しても...免疫細胞のいる小腸に来るまでに...

アミノ酸ペプチドに分解されているわけね...そして健康な人の場合は、“グルテンペプチド”

は、そのまま便となって排泄されてしまうわけですね、」

「その通りです...

  ただし...セリアック病の患者の場合は...遺伝的な体質として...“グルテンペプチド”

対して、過敏に反応してしまうようです」

  千春が、深くうなづいた。

HLA ・・・ ヒト白血球型抗原とは>       wpe89.jpg (15483 バイト)

             

 

「さて...」外山が、コーヒーを一口飲んで言った。「ポン助君が、先ほど...

  《ポン助のワンポイント解説》で取り上げてくれたわけですが...HLA/ヒト白血球型抗原

について、もう少し詳しく考察しておきましょう」

「はい...」夏美が、コーヒーカップを口から離した。

「まず...

  HLA/ヒト白血球型抗原は...白血球の血液型のようなものです。たくさんのがあります。

ポン助君が言っていたように、セリアック病患者95%は...DQ2DQ8という...特定の

HLA遺伝子を持っています。この型HLAが、発病重要なカギを握っているわけです」

「はい...」夏美が言い、コーヒーカップを両手で包んだ。

「ただ...

  健康な人の場合であっても、30〜40%は、これと同型の遺伝子を持っています...したがっ

て、これらのHLA型が...単独セリアック病を引き起こしているわけではありません。ここは、

重要です。

  ちなみに、日本人の場合は...ええと...DQ2DQ8を持っている人は、わずか1%未満

と言われています。こうしたことが、これまで、日本人にはセリアック病患者はいないという、

拠の1つになっていたわけです」

「はい...でも、見直しが必要になって来ているわけですね?」

「そうですねえ...

  まあ、それは...これからの、“血清学的診断”スクリーニング調査などで、実体がはっきり

して来るのだと思います。ともかく、HLA型が、セリアック病発病にどう関わっているかを知る

ためには、まずHLA型役割を理解しなければなりません」

「はい」

「ええと...」外山が、肩をかしげ、モニターをのぞいた。「うーむ...

  ええと、ですねえ...DQ2DQ8...HLA−DQ2分子と、HLA−DQ8分子というのは...

“抗原提示細胞”によって作られます。詳しい機能分類はともかく、この細胞は具体的には、“自

然免疫系”で、常時/巡回パトロール隊を構成している、マクロファージ樹状細胞などです。

  体内に侵入した病原体や、グルテンなどの外来タンパク質は...この“抗原提示細胞”

(どんしょく)され、細胞内消化・分断されます。その後...タンパク質の破片が、HLA分子に載

せられて、細胞表面に出てくるわけです」

「つまり...」夏美が言った。「看板のように...タンパク質の1部“抗原提示”されて...周囲

警告を出すわけですね?」

「そういうことですね...

  “抗原提示細胞”表面には...HLA分子とともに、体内に侵入したタンパク質断片/ペプチ

が掲げられ...それが“ヘルパーT細胞/免疫細胞の司令官”に...侵入者情報として伝え

られるわけです」

「外山さん...」夏美が言った。「“抗原提示細胞”貪食されるとい言いますが...それは、

クロファージなんですね?」

「そうです...

  詳しいデータはありませんが...マクロファージ樹状細胞などが、“抗原提示細胞”として機

能します。“ヘルパーT細胞”は、“抗原提示細胞”HLA分子結合することで...タンパク質

断片形態を認識し...免疫細胞動員をかけ...炎症を引き起こさせるわけです...」

「うーん...」夏美が、頭をかしげた。

 

「はは...いいですか...もう少し専門的なことも話してしまいましょう...

  セリアック病患者の場合...小腸粘膜上皮細胞から分泌された...“組織トランスグルタミ

ナーゼ”が、“グルテンペプチド”構造を変え...HLA分子載りやすい形にしてしまうようで

す...

  つまり、“組織トランスグルタミナーゼ”があると...グルテン“抗原提示細胞”に掲げられや

すくなり...結果として、“T細胞が・・・より強く活性化される”、というコトのようですね。こうしたこ

とで、“自己免疫疾患”に陥るということです...」

「はい...」夏美が、顎に手をかけた。

活性化したT細胞は...

  サイトカインケモカインといった化学物質を分泌し...免疫反応がさらに進みます...これ

らの化学物質は、病原体などの侵入に対して働く“防御物質”ですが...セリアック病の場合は、

“自分の小腸粘膜を破壊”してしまいます。そして、そのために...栄養の吸収がうまくいかなく

なってしまうわけです」

サイトカインというのは、しばしば聞くのですが...ケモカインというのも、T細胞から分泌され

るのでしょうか?」

「そうですね...他の免疫細胞からも分泌されるようですね。まあ、今回、名前だけ覚えておい

てください」

「はい、」

「ええ...

  HLA/ヒト白血球型抗原の...HLA型/DQ2、DQ8 以外にも...様々な遺伝的特質が、

セリアック病には関与しているようです。

  それと、炎症を引き起こすサイトカインである...インターロイキン15(IL15)の過剰分泌もあ

るようです。

  また、消化管に入り込んだグルテン攻撃するように...“免疫系を仕向ける・・・異常に活

発な免疫細胞の存在”というのも、指摘されているようですね...ええと...“参考文献”には、

これ以上の詳しいデータは載っていませんねえ...」

「はい...」夏美が言った。「ともかく、HLA型だけではないということですね、」

「そうです。様々な遺伝的特質が関与しているようですね」

「はい、」夏美が、うなづいた。

  〔6〕 発病“3つの要因”の考察!  

          

 

「ええ...」外山が言った。「くり返しになりますが...

  セリアック病発病には、これまで“環境因子”と、“遺伝的素因”の、2つの要因重要視され

てきました。しかし、“参考文献”の著者 ・・・アメリカ/メリーランド大学/A.ファサーノ教授等

研究から、“小腸粘膜で・・・物質が通りやすくなる/透過性”という、第3の要因が明らかになっ

て来ました。

  さらに、ファサーノ教授は、セリアック病以外“自己免疫疾患”においても、“この3つの要素

が・・・発病のカギになると考えられる”、と言っています。もちろん、“自己免疫疾患”ごとに、“環

境因子”“遺伝的素因”というものは、異なってくるわけですね」

「うーん...」夏美が、肘を立て、手を組んだ。

「ええと...」外山が、モニターに視線を移した。「これらの、3つの要因について、もう少し詳しく

説明して行きましょう」

「はい、」

「まず、“第1の・・・環境因子”ですが...

  小麦の種子内胚乳には、グルテンというタンパク質が豊富に含まれています。この小麦

タンパク質分子が、セリアック病患者異常な免疫反応を引き起こすわけです。

  大麦ライ麦にも...小麦・グルテンと同様のタンパク質が含まれています。大麦は、ホルデ

インライ麦セカリンと呼ばれていています。これらは、グルテンと同様に、セリアック病“環

境因子”になります。

  そして、場合によっては...オーツ麦(カラス麦)グルテン・タンパク質も、同様の“環境因子”

になるようです」

「はい...」夏美が言った。「大麦ライ麦に...それと、オーツ麦ですか。オーツ麦は、カラス

とも呼ばれているのですね?」

「そうです...カラス麦は、オートミールの原料として、重宝されていますねえ」

「ああ、」夏美が、うなづいた。「はい...」

  千春も、コクリとうなづき、

オートミールかあ、」と言った。

 

「次に...“第2の・・・遺伝的素因”ですが...

  セリアック病患者のほとんどは、HLA(ヒト白血球型抗原)で、HLA−DQ2あるいは、HLA−DQ8

という遺伝子を持っています。両方を持っている人もいるようですね。

  これらの遺伝子から作られる、同名のタンパク質はですねえ...免疫細胞/“抗原提示細胞”

の表面で...“グルテン断片と・・・結合した形”になって...“抗原提示”されるわけです」

「はい...」夏美が言った。「HLA−DQ2HLA−DQ8と、グルテン断片結合し...“抗原提

示”されて...“指名手配”となってしまうわけですね?」

「そうです...

  この免疫反応/“抗原提示”スタートとなり...他の免疫細胞が...小腸粘膜攻撃する

ことを、促すことになります。HLA−DQ2HLA−DQ8が、グルテン断片結合することで、“ボ

タンの・・・掛け違い”、が始ってしまうようです」

「うーん...

  そして、小腸粘膜への攻撃エスカレートして行き...“自己免疫疾患”になるわけですね?」

「そのようですねえ...

  この他にも、“遺伝的素因”が関与しているようですが、患者によって個人差があるようです。

そのあたりは、今後、さらに研究が進められて行くものと思います」

「はい、」

 

「さて...次に...

  “第3の・・・小腸粘膜での物質の通りやすさ/透過性”ですが...これについては、ファサ

ーノ教授たち研究があり、詳しく紹介されています。したがって、後で詳しく考察します。ここで

は、その概略だけを説明しておきましょう」

「はい、」

「ええ...」外山が、首を伸ばした。「千春さんも、モニターを見てください」

「はい、」千春が、元気にうなづいた。

  夏美が、千春のモニターをのぞき、うなづいた。

「この画像は...小腸粘膜/上皮細胞概念図です。いいですか?」

「はい、」夏美が言った。

「これは、まるで...

  海にいるイソギンチャクが並んでいるようですが...小腸粘膜/上皮細胞縦断面で見た、

概念図です。イソギンチャク触手様のものが...小腸粘膜絨毛(じゅうもう)です。絨毯(じゅうた

ん)表面の毛並ように密生し、腸管の内面を形成するものです...つまり、小腸の内面は、こ

のように絨毯(じゅうたん)表面のようになっているわけですね。

  この概念図では...小腸粘膜/上皮細胞の、縦断面の構造を協調して描いてあります。この

上皮細胞からは、“組織トランスグルタミナーゼ”という酵素や、“インターロイキン15(IL15)とい

サイトカインが分泌されるわけですが...これは後で話します。

  ともかく、この概念図は、小腸粘膜上皮細胞を、マンガ風に分かりやすく描いてあります。分

るでしょうか?」

「はい、」千春が、微笑してうなづいた。「この図は、夏美さんと検討しているので、分かります」

「うむ...」外山が、顎をなでた。「さて...

  この絨毛の生えたイソギンチャクの様な上皮細胞は...“タイトジャンクション”と呼ばれる

着剤のような構造で...まわりの細胞どうしがピッタリと接着しています。つまり、イソギンチャク

上皮細胞を、横に接着している構造が、“タイトジャンクション”と呼ばれるものです。

  絨毯(じゅうたん)に例えれば...絨毛(じゅうもう)表面の毛並の部分で、小腸内面粘膜を形成

します。そして、下にイソギンチャク様の本体があり...絨毯の横糸に相当するのが、“タイトジ

ャンクション”ということになるのでしょう 」

「はい...」夏美が、自分のモニターを見ながら、うなづいた。

「これは...」外山が言った。「ファサーノたち研究成果なのですが...

  セリアック病患者の場合、この“タイトジャンクション”接合ゆるくなってしまい、上皮細胞

間に、間隙ができてしまうようなのです。そして、この間隙を通って、消化しきれなかったグルテン

断片大量粘膜の内側に入り込み、それが、免疫細胞活性化すると考えられています」

大量グルテン断片ということは...」夏美が言った。「つまり...

  消化しきれなかった、“グルテンペプチド(プロリンとグルタミンを豊富に含んだペプチド)が...便

なって、排泄されるコースには向かわずに...小腸粘膜/上皮細胞間隙を通り抜けて、粘膜

に入り...蓄積してしまうわけかしら?」

「その通りです...

  先ほども言いましたが...普通は、少量小腸粘膜を通り抜けるだけなので、大規模な免疫

反応は起こりません。セリアック病患者の場合は...それに加えて遺伝的体質として、“グルテ

ンペプチド”に対しては、過敏に反応してしまうわけですねえ...」

「悪い意味での...相乗効果のようになるのですね?」

「そうです...」外山が、モニターを眺めた。「もし、この...

  “小腸粘膜の透過性を・・・正常に戻すことができれば”...“タイトジャンクション”の歪み

1因となっている、“他の・・・自己免疫疾患の・・・治療法にもつながって行く”、とファサーノ教

は言っています」

「はい、」

“組織トランスグルタミナーゼ”に対する・・・   wpe89.jpg (15483 バイト)

                      “抗体”メカニズムは?

              

「ええと、外山さん...」夏美が言った。「“組織トランスグルタミナーゼ”に対する...“抗体”

メカニズムということですが...これは、どういう意味なのでしょうか...?」

“抗体”は...」外山が言った。「セリアック病発症メカニズムの中で、どのような役割を担って

いるかということです」

「ええと...」千春が、手を上げた。「あの、すみません...“組織トランスグルタミナーゼ”という

のは、何でしたかしら?」

「あ、はい...」外山が、嬉しそうにうなづいた。「“組織トランスグルタミナーゼ”というのですね、

小腸粘膜上皮細胞から分泌される酵素です。

  この酵素が...から下りてきた、“グルテンペプチド”構造を変え...“抗原提示細胞”

HLA分子に、載りやすい形に変えてしまうと言うことですねえ。これ以上の詳しい説明は、“参考

文献”には載っていません」

「はい...」千春が、うなずいた。「...」

「この...」夏美が言った。「上皮細胞から分泌される酵素にたいして...どうして、“抗体反応”

が起こるのでしょうか?」

「鋭い質問ですね...」外山が、嬉しそうに顔を崩した。「酵素は、自分自身のタンパク質ですか

ら、そう考えるのは、当然です...

  そもそも、“トランスグルタミナーゼ”という酵素は、タンパク質どうしを共有結合で接着(/架橋)

する、ユニークな反応を触媒する酵素です。これが、どうして“抗原”になるのかは、“参考文献”

には、詳しい説明はありません。まあ、こういうものは、“楽しみ”として取っておくといいでしょう。

後で、それが分かってくるのも、楽しいものです...

  まあ、難しい話ですから、ただ聞き流しているだけでも、良しとしましょう。それだけでも、十分

に勉強になります」

「はい!」千春が、強くうなづいた。

「さて...」外山が、眼鏡の縁に手を当てた。「ええと、詳しくはありませんが...“参考文献”

も、簡単な説明はあります...実は、まだ、十分には解明されていないわけですね...」

「はい...」夏美が、長い髪を揺らし、顔を斜めにした。

「ええ...

  “抗体”というのは、“抗原”に対して作られるわけですね。“組織トランスグルタミナーゼ”に対

する、“抗体”メカニズムといのは...今も言ったように、十分には分かっていない部分もある

ようですが...様々な仮説も出されているようです」

仮説...ですか?」

「そうです...

  セリアック病患者で、高レベルに見られる...“抗・組織トランスグルタミナーゼ抗体”を作って

いるのは、B細胞です...小腸粘膜/上皮細胞から分泌された“組織トランスグルタミナーゼ”

は、そのまま、あるいはグルテン分子複合体の形で...まずB細胞に取り込まれるわけです。

  するとB細胞は、“抗体”を作り始めるわけです。この、“抗・組織トランスグルタミナーゼ抗体”

が...直接・間接に...小腸粘膜ダメージを与えている...と考えられています。しかし、ま

だ、“証明はされていない”と言います...

  確認は、されていないわけですね...研究の最前線では、そんな状況のようです...」

「うーん...」夏美が、頭をかしげた。「なんだか、大変な話ですね...」

「まあ、しかし...」外山が、手を組んだ。「研究は続いているわけですねえ...

  いいですか、ともかく...セリアック病をはじめとする、“自己免疫疾患”発病のカギとなるの

は、“@・・・環境因子”と、“A・・・遺伝的素因”、そして、“B・・・小腸粘膜での物質の通りやすさ

/透過性”です。

  ファサーノ教授たちが...9年間の研究から得た結論が...この第3のカギである、“小腸粘

膜での物質の通りやすさ/透過性”...だと言うことです...」

「はい...」千春が、頭の後ろに手を回した。

「いいですか...くり返しますが...

  “発病の引き金になる・・・環境物質/グルテン”...“環境物質/グルテンに対して・・・

過剰反応する遺伝的素因”...そして、“小腸粘膜/上皮細胞の・・・物質の通りやすさ/

透過性”...

  この“3つの視点”から見つめ直すと...“自己免疫疾患の全体像”が...かなり明らかにな

ってくると、ファサーノは言っています」

「はい...」夏美が、口を引き結んだ。


**************************************************************

 《ポン助のワンポイント解説》 

腸内細菌叢/腸内フローラが・・・

                  遺伝的素因発動に影響・・・?>

 

腸内にはよう...」ポン助が言った。「色々な細菌が棲(す)んででいるよな...

  ヒトの消化管の中には、大腸を中心によう、約100兆個もの細菌が生息している

と言うぞ。善玉菌悪玉菌日和見(ひよりみ)が混在しいてよう、その様子は(そう、

くさむら)のようなので、腸内細菌叢、あるいは、腸内フローラと呼ばれているよな。

  ビフィズス菌大腸菌などが代表的細菌だけどよ、構成・細菌種1000種類

にものぼると言うぞ。善玉菌乳酸菌ビフィズス菌が多ければ...“免疫力が高

まっている状態”で...病原菌は、“悪さを発揮できない状態”だと言うよな...

  腸内細菌叢細菌の状況はよう...民族個人で、違いがあることが知られ

ているぞ。そして、個人でもよう、年齢食事内容によっても、変わってくるとも言う

ぞ。要するによう、色々な傾向はあるけどよう...“みんな違う”ということだよな。

  そして、肝心なことはよう...腸内細菌叢細菌が...その人の、“どの遺伝

子が活性化するかの・・・タイミングに・・・影響を及ぼしている可能性がある”、とい

うことだよな。つまりよう、“セリアック病の・・・発病年齢にも・・・影響を及ぼしている

可能性がある”、と言うことだぞ...」

 

「ええ...」外山が、胸ポケットのハンカチを押し込んだ。「補足しましょう...

  セリアック病患者は...そもそも生まれながらにして...“遺伝的素因”を持って

いるはずです。それなのに、“壮年期になるまで・・・発病しないのは何故か?”、と

いう疑問があるわけです。

  ファサーノ教授は...これまでは...症状が現れるのは壮年期でも、“発病の

プロセスは・・・すでに乳幼児期から始まっている”、と解釈していたと言います。し

かし、最近になって、むしろ...

 

   “腸内細菌が・・・発病を抑えるのに・・・関係しているのではないか?”

 

  ...という考えを深めているようです。つまり、“これまで・・・グルテンを食べて

いても平気だった人”でも、それまで働いていなかった免疫関連・遺伝子が、腸内

細菌叢変化にともなって、活性化するのではないかということです。

  そのようにして、“ある時期から・・・グルテンに過敏反応を示す”、ようになるの

ではないか、と考えるようになったようですねえ。

  そして、もしこの仮説が正しければ...特定の腸内細菌を送り込む、“予防的・

細菌投与”によって、“セリアック病を・・・予防・治療できる可能性がある”...と

“希望的・予測”も述べています...」

 

                      

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  〔7〕 小腸粘膜の・・・ 間隙/透過性    wpe89.jpg (15483 バイト)

              

 

「さて...」外山が言った。「“小腸粘膜の・・・間隙/透過性”という問題ですが...

  セリアック病などの“自己免疫疾患”において...“小腸粘膜の・・・間隙/透過性が・・・発病

の1因・・・というファサーノたちの説”...は、当初は誰も信じなかったと言いますねえ。そのあ

たりの苦労話と、研究開発の経緯について、“参考文献”から、少し追ってみましょう」

「はい...」夏美が、頬に笑窪(えくぼ)を作った。「息抜きですね、」

「そうですね...」外山が言った。「そのつもりで聞いてください。重要な点は、指摘します」

「はい、」

 

「ええ...

  当初は、誰も信じなかったと言いましたが...その理由としては、当時の小腸粘膜のイメージ

というものがあります。1970年代ではまだ、小腸という臓器は...“食べ物が通過する・・・単な

るパイプ”と見られていたようです」

「でも、消化吸収は?」

「いや、1970年代と言っても、それほど昔のことではありません...

  ちなみに...小腸粘膜/上皮細胞は、細胞どうしが“タイトジャンクション”という構造で、互い

に密着していたことは、分かっていたようです。しかし、それは、“漆喰の塗られた壁”のようなも

ので、“物質を通す・・・隙間のない・・・単なるパイプ”のように、考えられていたようです」

「はい...」

ファサーノたちが...

  そうした、“タイトジャンクション”研究するようになったのは、研究生活での大きな失敗がきっ

かけだったと言っています」

大きな失敗ですか...」

「そうです...

  1980年代後半のことになりますが...ファサーノは、コレラ菌に対するワクチンの研究をして

いたそうです。この当時、コレラによる下痢の原因は、“コレラ毒素”だけだと考えられていました。

そしてファサーノの研究室では、コレラ菌から毒素を作る遺伝子を、取り除く研究をしていました。

  “毒素を作らない・・・コレラ菌”があれば、ワクチンとして使えます。これで、“本物のコレラ菌に

対する・・・免疫反応を誘導”することができ...下痢を防げると考えたわけです」

「はい、」夏美が言った。

「しかし...

  ファサーノたちが作った“無毒化・・・コレラ菌”を、ボランティアに試してもらった段階で、激しい

下痢を起こしてしまいました。これで、研究は中止になったと言います。何年もかけた研究が、ま

さに無駄になり、水に流れてしまったわけです。

  ファサーノたちは、そこで決断を迫られました。研究の進路変更するか、あるいは失敗の原

を突き止め、続行するかの選択です。そして彼等は、続行決断したと言います。そして、つい

に、“未知の毒素/・・・細胞接合部・障害性毒素”Zot/zonula occludens toxin/タイトジャンクションの毒素)

を発見しました」

  夏美が笑みを浮かべ、千春にうなづいた。

「ちょうど、その頃...

  “タイトジャンクション”を構成する、色々なタンパク質が分かり始めていたようです。しかし、こ

のような複雑な構造が、どのようにコントロールされているかは、解明が進んでいなかったと言

います。

  そこで、ファサーノたちは、自分たちが発見した、“細胞接合部・障害性毒素(Zot)を使って、

“下痢が生じるメカニズム”を解明しようと、次の目標を定めたわけです」

「ふーん...」夏美が、髪を耳の後ろへかけた。「ファサーノたちの...研究の経緯というものが、

良く分かりますね、」

「そうですね...それじゃあ、もう少し続けましょうか...」

「はい、」夏美が、うなづいた。

ファサーノたちは、すでに...

  “Zot細胞接合部・障害性毒素という...たった1種類の分子で、“タイトジャンクション”がゆるむ

ことを突き止めていました。さらに...“タイトジャンクション”にゆるみを生じさせるメカニズムが、

きわめて精緻な制御を受けていることも...明らかにしたわけです」

「はい...」

「肝心なことは...

  “小腸粘膜/上皮細胞の・・・細胞間のゆるみ”が...“当該の個体に・・・害しかもたらさない”

とすると...そのゆるみを防ぐために、これほど精緻なメカニズムを、あえて進化させる必要は

なかったはずなのです...それなら、“食べ物が通過する・・・単なるパイプ”でもいいわけです」

「...」

「つまり...いいですか...

  ヒトは...“タイトジャンクション”制御を...あえて複雑に進化させることで...“普段は閉

じた状態にある”、ということを獲得したと考えられます」

「ふーん...」夏美が、頭をかしげた。

「そこで、ファサーノたちは...

  “コレラ菌は・・・その開閉メカニズムをうまく利用して・・・下痢を生じさせているのではないの

か?”...と言う、仮説を立てたと言います...」

「はい...」夏美が、まばたきした。

「さて...

  それから、5年後のことになりますが...ファサーノたちは、“ゾヌリン”というタンパク質を発見

しました。これは、ヒトなどの高等動物に存在し、コレラ菌“Zot細胞接合部・障害性毒素と同じメカ

ニズムで、“タイトジャンクション”ゆるめる物質です。

  何故、ヒトに...“ゾヌリン”のような物質が備わっているのかは、だと言います。しかし、こ

れは、小腸粘膜だけではなく、身体の他の部分(/“タイトジャンクション”は、全身の組織で必要とされる)からも

分泌されていると言います。

  したがって...おそらく、“体液の分布をコントロール”したり、“大型分子や、免疫細胞な

どの移動に関与しているもの”と、推測されています。今後、研究が進んで行くと思います」

コレラ菌の...」夏美が言った。「“Zot細胞接合部・障害性毒素・・・タンパク質”は...ヒトにも、

同じようなものが発見された...ということですね?」

「そうです、」外山が、うなづいた。「それが、“ゾヌリン”です...」

コレラと...」千春が、口を開いた。「同じタンパク質が、ヒトでも発見されたわけですね?」

「いや...」外山が、優しく首を振った。「少し違いますねえ...

  コレラのDNAと、マウスのDNAと、ヒトのDNAは違います...それから、エイズ・ウイルス

どのウイルス・DNAも、それぞれ違うわけです...

  したがって...そうした違うDNAから作られるタンパク質で...同じような機能のものであっ

ても...やはり、“全く同じもの”と言うわけにはいかないでしょう。ウイルスゲノムと、ヒトゲノ

では、まず、その規模が違います...」

「はい...」千春が言った。「それじゃ、タンパク質が違っても...同じような機能を持つタンパク

があるということかしら?」

「そうですね...

  しかし、“構造的にも・・・非常に似ている”のでしょう。私はその方面の専門家ではないので、

詳しいことは分かりませんが...」

「だから...」夏美が言った。「マウスで実験して...もう一度、ヒトの細胞で...確かめてみる

必要があるわけですね?」

「そうです...」外山が、うなづいた。「最後には、厳しい臨床試験が必要になります」

「はい、」


小腸粘膜物質透過性高まる・・・疾患の数々!>   

            wpe89.jpg (15483 バイト) 

 

「さて...

  この“ゾヌリン”の発見を踏まえて、ファサーノたちは...小腸粘膜物質透過性が高まるよう

疾患が、どのぐらいあるのか、文献を調べてみたそうです。すると驚くべきことに、実に多く

“自己免疫疾患”が該当したといいます」

「そうか、」夏美が、うなづいた。「“自己免疫疾患”が、該当したわけですね、」

「そうです...

  まず、セリアック病...そして、1型糖尿病...多発性硬化症...関節リウマチ...炎症

性腸疾患などですが...これらは、いずれも、“小腸粘膜の物質透過性が・・・異常に高い”、と

いう共通点がありました。

  そして、多くは...“ゾヌリン・濃度”異常な高さが原因で...物質透過性が高まっていたよ

うです。そして、さらに、セリアック病の場合は、グルテンそのものが、“ゾヌリン・分泌”を促してい

ることも分かりました...これは、患者の“遺伝的素因”によるものと、推測されるそうです」

「うーん...」夏美が、大きくうなづいた。「大変なことが、分かって来たわけですね...」

「まあ...

  大変な発見でしょう。この発見が、“セリアック病の構造解明の・・・キッカケになった”という

ことです。これが、“自己免疫疾患”構造解明へ、つながって行くのかも知れません。

  ともかく、セリアック病は...“小腸粘膜の物質透過性”が高まり...“環境因子”である

ルテンが、粘膜内部に入り込み...それから、“遺伝的素因”でもともと活性化されやすい免疫

細胞が、過剰に働き始めるわけです...これで、発病に至るわけです」

「ふーん...それで、3つの要因がそろうわけですね、」

「そうです...

  しかし、いいですか...この疾患を克服する上で、重要な点は...“環境因子/・・・グルテ

ン”、 “遺伝的素因/・・・免疫の過剰反応”“小腸粘膜の・・・透過性”という3つの要因を、

“1つでも取り除けば・・・発病を防ぐことができる”、ということです...」

「うーん...」夏美が、両手を組んだ。「“3つの要因の・・・1つでも取り除けば・・・発病は阻止で

きる”...ということですね?」

「そうです!」外山が、強くうなづいた。「あ、いや...正確には、それが“ファサーノたちの仮説”

だということです...

  まだ、全てが証明されたわけではありません。しかし、“環境因子/グルテン”を取り除けば、

発病が抑えられるというのは、周知の事実でしょう...まあ、いずれにしろ、実際には、もう少し

複雑なのかもしれません...“それらが連動して・・・疾病を起こす”わけですから...」

「それは...」千春が言った。「火を消す時もそうですよね...

  何だったかしら...水をかけて、温度を下げたり...燃えるものを、取り除いたり...酸素を

遮断したり...」

「そうですね...」外山が、笑みを浮かべ、うなづいた。「そういうことです...」

 

  〔8〕 発病の3要因を・・・倒すには  

       wpe89.jpg (15483 バイト)  

 

「さあ、ともかく...」外山が言った。「“発病の3要因”1つを除去すれば...恐らく原理的に、

発病を抑えられる、ということですねえ...

  そこで、一番簡単なのは、“環境因子/グルテン”でしょう...農耕文明・発祥以来の、不思

議な疾患原因が、小麦・グルテンと判明した時から...この“環境因子”除去は試みられて

きたわけです。

  これは、むろん、非常に効果的なわけです。しかし、生涯にわたりグルテン・フリー食を食べ続

けるのは、至難の業です。また、非常な苦痛でしょう。ところが、小麦は世界中の食文化の中に、

広く深く、浸透してしまっています。

  ファーストフード(注文と同時に出てくる調理済み食品)レトルト食品(調理済み/常温で1年以上保存できるもの)

に含まれていたり、非常時の備蓄食料に含まれていたりします。また、大豆製品と思われてい

醤油(しょうゆ)に、小麦が混ぜられていたり...食品以外でも、錠剤のコーティングに使われて

いることもありますねえ...」

「はい...」夏美が、頭をかしげた。

グルテン・フリー食で...」外山が言った。「意識的に排除していても...

  醤油錠剤まで成分チェックをするとなると、個人では困難になります。そうかと言って、コマ

ーシャル・ベース(商業ベース)グルテン・フリー食は、流通に問題があります。また、普通の食品

に比べ、値段も高くなってしまいます。

  したがって...グルテン・フリー食を、長期にわたって強いられること自体が、非常な苦痛にな

るわけです。つまり、“環境因子”食事療法だけでセリアック病克服するのは、現実問題とし

て、不可能と言えるわけです」

「はい...」夏美が言った。「グルテンが、原因と分かったことは大きな発見ですが...

  これが、“自己免疫疾患”“環境因子”となるには、もともと、私たち自身の農耕文明/科学

技術文明が、構造的深く関与していたということですね...」

「まあ、そう考えられているようです...

  ホモサピエンス文明が成立し...農耕が定着/小麦の比重が増大し...そうした中でグル

テンが、繁栄反発因子/構造的・リスクとして浮上して来たのかも知れませんねえ。なにもの

にも、リスクはともないますから...」

「文明社会のリスクですか、」

「そうですね...

  生態系ホメオスタシス/恒常性が...全体性のバランスをとる中で、こうした反発因子

発現してきたのかも知れません。ま、これは、高杉・塾長が言われ、 《危機管理センター》

響子さんが、強く主張しているようです」

「はい、」夏美が、うなづいた。

「現在...

  インフルエンザをはじめとする、パンデミック・ウイルスが、続々と登場してきています。生態系

ホメオスタシス/恒常性が...その深い深淵で...新たな段階に突入しているのかも知れま

せん...響子さんも、そのことを心配していますね」

  夏美が、沈んだ顔でうなづいた。

「まあ...

  人類が...グルテン・タンパク質のレベルで対処していた段階から...すでに、強毒性/【H

5N1型】鳥インフルエンザ・ウイルスが、深い深淵で起動していたのかも知れません。あるいは、

HIV(エイズウイルス)や、エボラ・ウイルスなどに、選択肢を広げていたのかも知れません」

「はい、」

「といっても、せわしい緊急事態となったのは、せいぜい、100年以内のことでしょう。原因は、も

う少し以前の産業革命になるでしょうが...」

「はい、」

「私は...」外山が、顔に微笑を浮かべて言った。「認識論哲学的なことを言うつもりはありま

せんが...

  高杉・塾長の言うように、こうした...“過不足のない・・・リアリティーの器の中の・・・スト

ーリイのダイナミックな流れ”...というものは、つくづく不思議だと思いますねえ...ま、

の、影響を受けていますね...」

「はい...」夏美が、明るくほほ笑んだ。「ええと...外山さん...

  1部の人にとって、グルテン毒素となったように...パンデミック・ウイルスも、本当に、生態

ホメオスタシスから波及して来ているのでしょうか...ホメオスタシスと言うのは、本当にあ

るのでしょうか...?」

「無いと考えるのは、むしろ不自然でしょう...

 “恒常性のホメオスタシス(維持)/自然治癒力”は...本来は、生物体体内諸器官が、外部

環境の変化や主体的条件の変化に応じて、“体内環境を・・・一定範囲に保つ状態/機能”のこ

とです...その自然治癒力が、最近、生態系レベルでもあることが分かってきています...」

「うーん...高杉・塾長は、“36億年の彼”まで、構造化していますものね、」

「私は...」外山が、顎に手をかけた。「普通は、こういう考え方はしませんが...

  全体性から俯瞰(ふかん/高い所から、見下ろすこと)してみると...あるいは、そういう一面も見えてく

るのではないかということです...はは...これは、 《危機管理センター》 響子さんから依

頼された、“コメントの挿入”でもあるわけです」

 

「ああ...」夏美が、うなづいた。「はい...

  響子さんは、精力的に動いていますよね...非常な危機感を持っていますわ...」

「いや、響子さんの言う通りなのでしょう」

「はい...」

政治のことは専門外ですが...

  1人の国民として言えば...やはり、津田・編集長が、《2010/新春のあいさつ》で言って

いたように、 政治全般が著しく、“幼稚化/玩具化/無力化”、しています。世界的に、そのよ

うですね。大政治家がいなくなりました。

  私も...COP16(2010年11月・・・メキシコで開催予定)では、“持続可能な・・・経済成長”には、見

切りをつけるべきだと考えています。そして、“文明の折り返し/反グローバル化”・・・〔人間

の巣のパラダイム〕へ、“レールのポイントを・・・切り替える”ことを...強く提唱します!」

「はい、」夏美がうなづき、千春の方を見た。「私たちも、重ねて、強く提唱したいと思います!」

「はい!」千春が、両手を握って、強くうなづいた。

 

 

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 wpe89.jpg (15483 バイト)       《ミミちゃんガイド ・・・・・・・・  》  

<小麦の代替え食品は・・・困難

 

「また、ミミちゃんよ!

  現在、小麦文化世界中に広がっているわね。グルテン・フリー食には、小麦

の代替えになる穀物があればいいんだけど...それが難しいの。

  パンは、食感軽くてフワフワしているでしょ。これこそが、グルテンのおかげ

なの。焼き上げる途中で、イースト菌などの発酵で生じたCO(二酸化炭素)が、

と共にグルテン分子に捕捉されて、体積を増やすのだそうよ...だから、それ

が抜けて、パンのようにフワフワに焼き上がるの...」

 

グルテン・フリー食を作ろうとすると...

  小麦以外の粉に、デンプン添加物を加えて、焼き上げることになるんだけ

ど、小麦と同じような食感を作り出すのは難しいの。似たような食感を作り出そ

うとすると、コストがかさむらしいわ。

  最近、日本では...お米の消費量を高めるために、お米の粉小麦粉の代

にしようと開発が進んでいるけど、食感は悪くないそうよ...でも、グルテン・

フリーかどうかは、別の問題よ...食べるのなら、よく確認して欲しいわね、」

 

                         

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新しい治療法・・・の開発      wpe89.jpg (15483 バイト)      

                

 

「ミミちゃん、ありがとうございます...」夏美が言った。

「うん!」

「ええ...」夏美が、モニターの進行メモをのぞいた。「外山さん...

  “発病の3要因”を倒すための、新薬や、治療法の開発は、どのような状況なのでしょうか?」

「はい...

  そうですねえ、“ 環境因子/グルテン”の関連では...“口から飲むタイプの・・・タン

パク質消化酵素”を開発しています。“グルテンを・・・完全にアミノ酸にまで・・・消化分解す

る薬”です。“グルテンペプチド”が、免疫反応を引き起こすわけですから...」

「はい、そうですよね...」

「ええ...この“タンパク質消化酵素”は...

  アメリカ/カリフォルニア州/サンカルロス(本社)/アルバイン・ファーマシューティカルズ社

開発しているものです。“参考文献”によると、臨床試験計画されている段階のようです。現在

は、もう少し進んでいるかもしれませんね...」

「はい...」夏美が言った。「“参考文献”は...

  “日経サイエンス/2009.11”ですから...状況としては、半年ほど前、ということですね?」

「ま、そうですね...順調に進んでいればの話ですが...

  この他に、“環境因子”の関連では...“組織トランスグルタミナーゼ・阻害薬”が、考えられ

ているようです。“組織トランスグルタミナーゼ”によって、“グルテンペプチド”が、HLA(ヒト白血球

型抗原)分子と、結合しやすくなるのを防ぐのが狙いです...」

「うーん...」夏美が言った。「そうすることで...“抗原提示”され...“獲得免疫系”の、B細

T細胞への...リレー遮断するわけかしら?」

「そうですね、」外山が、口に手を当てた。

「ええと...

  それでは、“遺伝的素因/免疫の過剰反応”の方では...何かあるのでしょうか?」

「そうですねえ...

  セリアック病の、“遺伝的素因・・・遺伝子そのものに手を加える・・・遺伝子治療”は、安全

や、倫理面での壁が、相当に高いようです。したがって、今のところ、実現は困難のようです」

安全性や、倫理面の壁ですか...?」

「そうです...

  ただし、“遺伝的素因による・・・免疫過敏反応をやわらげる薬”は、各社が開発にしのぎを

削っています」

「はい...

  “遺伝子操作による・・・遺伝子治療”ではなくて、“免疫過敏反応を・・・緩和する薬”、です

ね?」

「そうです...

   例えば、“抗原性を高めたグルテンを・・・少しづつ投与”し、グルテンに対して、“免疫系

が過敏反応しないように・・・慣れさせる”、という治療法開発しています。これは、ええと、

オーストラリア/ネクスペップ社が、進めているものですね...

  日本でも、ニュースやバラエティー番組で、こうした治療法のことは耳にしているのではないで

しょうか」

「はい...」夏美が、うなづいた。「そうしたことは、聞いていると思います...

  牛乳アレルギーなどでも、医師の管理のもとで、少しづつ慣れさせるとか...」

「うん...」千春が、うなづいた。「そんな話を、テレビで見たわよね...」

「それは...」外山が言った。「グルテンではないですがね、」

「あ、はい...」

 

「さて...」外山が言った。「“小腸粘膜の透過性”の方面ですが...

  ここでは...“ララゾタイド/・・・ゾヌリン拮抗薬”、というものが開発されています。これは、

アルバ・セラピューティック社が進めているもので...“参考文献”の著者/ファサーノも、会社

創業者の1人として加わっているようです。(/・・・現在は、経営陣からは外れているそうです)

  この“ララゾタイド”は...“安全性/副作用の程度/セリアック病に対する効果”について、

臨床試験が行われているようです。

  臨床試験では、参加者をランダムに2つに分けて...“新薬・候補/ララゾタイドを試すグ

ループ”と、“プラセボ(偽薬や、既存薬)を飲むグループ”を作り...安全性効果比較・検討して

いるとのことです」

「うーん...」千春が、頭を揺らした。「偽薬と、新薬で比較するわけね?」

「そうですが...まだ、新薬ではありません...」外山が言った。「新薬・候補です...として、

承認されていませんから」

「はい、」

「ちなみに...

  どの参加者どちらの薬を投与されているかは...本人医療関係者も、臨床試験が終わ

るまで、分からない仕組みになっているそうです。これを、“二重目隠し試験”というそうですね」

「はい...」千春が、コクリとうなづいた。

「ええ...一連の、臨床試験で...

  “副作用の生じ方”に...“新薬・候補/ララゾタイドのグループ”と、“プラセボのグルー

プ”とで、明確な差はなかったと言います。

  さらに、“新薬・候補/ララゾタイド”安全性を確かめる...最初の小規模臨床試験

は、“新薬・候補/ララゾタイドのグループ”の患者の方が...グルテンを食べても、明らかに

症状が軽くすみ...小腸粘膜組織炎症も、軽度だった...ということです」

「はい...」夏美が、モニターを眺めた。

次の臨床試験では、より多くの患者を対象に、治療効果を評価したそうです...

  “プラセボのグループ”では...患者の身体が、“組織トランスグルタミナーゼ”に対する、“抗

体”を作り始めたといいます。しかし、“新薬・候補/ララゾタイドのグループ”では...“抗体”

は生じなかったと言います」

「それは...」夏美が言った。「“組織トランスグルタミナーゼ”の...異常な増加は、なかったと

いうことでしょうか?」

「そうですが...詳しいことは、“参考文献”からは分かりませんね...

  もともと、“トランスグルタミナーゼ”(/主にタンパク質とタンパク質を・・・つなぎ合わせる/架橋する・・・活性を持つ)

は、ヒトの身体には多くの種類が存在しています。だから、それが存在しなくなり、“抗体”が生じ

なかったというのとは、少し様相が異なるのかも知れません。つまり、そうしたことは、詳しくは載

っていません」

「でも...」夏美が言った。「ともかく...

  “新薬・候補のグループ”では...“抗体”を生じるような“抗原”は...存在していなかった

ということかしら?」

「まあ...“治療効果が有り”...という評価だということですね、」

「そうかあ...」千春が、ポカンと口を開けた。

 

「この...」外山が言った。「“ララゾタイド”の登場は、画期的だと、ファサーノは言っています。

  “特定の分子に対する、免疫反応を・・・特異的に抑制する”ことで...“自己免疫疾患

の発病を回避できたのは・・・私の知る限り、初めてだ”...と、“参考文献”にはあります」

「はい...」

“免疫を・・・全般的に抑制する薬”は、他にもあるわけですが...“特定の免疫だけを・・・選択

的に抑制する薬”は...“ララゾタイド”以外には、まだ無いようだとうことですね」

「はい、」夏美が言った。

「ええ...いいですか...

  ファサーノが関与する、アルバ・セラピューティック社は...1型糖尿病や、クローン病(難病指定

/消化全域に、非連続性の炎症、および潰瘍を起こす原因不明の疾患)といった、他の“自己免疫疾患”を対象に、

“ララゾタイド”臨床試験計画していると言います。

  アメリカ/食品医薬品局(FDA)からの...“GO!サイン”も、すでに得ているということです」

「はい...」夏美が言った。「そういう方面へも、治療の可能性が拡大しているわけですね?」

「そういうことです!」

満1歳まで・・・グルテンを与えない/・・・ 試みとは?>  wpe89.jpg (15483 バイト)

                   

 

「外山さん...」夏美が言った。「新薬治療法の開発が進んでいますが...近い将来、セリア

ック病は、克服できるのでしょうか?」

「そこが、肝心な所ですが...」外山が、眼鏡の縁を押した。「まだ、時間はかかるようです...

  現時点で確実なのは、依然として、“環境因子/グルテン”除去です。その食事療法ですが、

“これまでの・・・グルテン・フリー食とは違う方法”、が試みられています。最後に、それを紹介し

ておきましょう」

「はい、」

ファサーノのいる...

  アメリカ/メリーランド大学/カタッシ(Carlo Catassi)の研究チームが、乳幼児を中心に、ある

床試験を進めていると言います。

  それは...“遺伝的に・・・発病リスクが高い乳幼児”(連関遺伝子を持つか...近親者にセリアック病

患者がいる乳幼児)を対象に、“満1歳まで・・・グルテンを含んだ離乳食を与えずにおく”...とい

う試みです。

  これによって...“セリアック病の・・・発病時期を遅らせるか・・・または、発病を完全に

回避できるかも知れない”...ということです」

「それは...」夏美が、目を見張った。「画期的なこと、ではないかしら...?」

「そうですねえ...

  とりあえず、乳幼児に限っては、大いに期待できる治療法です。免疫能力は、生後12ケ月間

に、劇的に発達することが分かっています」

「はい、」

過去の研究からも、高リスク乳幼児を対象にして...

  “満1歳まで・・・グルテンを控えれば”...発達中の免疫系を、健康な人と同様に、“過剰

反応を起こさずに・・・グルテンを許容できるように誘導できる”という可能性が示されてい

る、と言います」

「それは、乳幼児に限らず...子供になってからも、ということですね?」

「まあ、そういうことですね...可能性ということですが、」

「はい...」

「現在までに...

  これはアメリカのことでしょうが...700人以上高リスク乳幼児が、対象として登録されて

いるということです。その中間報告では...“グルテン摂取を1年間遅らせることで・・・セリ

アック病の発病が・・・1/4に減っている”...ということです。

  ただし、この方法で...セリアック病完全に予防できるかどうか明確になるのは...数十

年も先になるだろうということです」

「うーん...」夏美が、頭をかしげた。「研究は、続いて行くということですね...

  ともかく、“1/4に減っている”という成果は、素晴らしいものですわ...でも、それでクリア

きない乳幼児も、いるということですね」

「そうです...そして、現時点で確実なのは、“環境因子/グルテン”除去だということです」

「はい、」

「さて...

  次に、“現在開発中の・・・新薬・治療法”の主なものを紹介し、このページを終わりたいと思い

ます」

「はい、」夏美が、うなづいた。

開発途上の・・・新薬・治療法・・・> wpe89.jpg (15483 バイト)  

          

 

「ええ...」外山が言った。「色々紹介してきましたが...

  セリアック病が、克服されたわけではありません...現時点での、確実な治療手段は、“環境

因子/グルテン”排除...しかないのも、また事実なのです。大きな希望はありますが、現実

はまだ、厳しいということです。

  そして、グルテン・フリー食を続けるのは...つらく難しくコストもかかります。そこで、様々

新薬・治療法が、開発を急いでいるわけですが、いずれも、“開発の・・・初期段階”だと言うこ

とです。新薬市場に出回るまでには、“まだ・・・しばらく時間がかかる”、とのことです...」

 

                               

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 “生後1年間は・・・グルテンを含む食事は与えない”

  薬の使用はナシ

   アメリカ/メリーランド大学、イタリア/マルシェ技術大学  【臨床試験中】

 “グルテン断片を少しづつ投与して・・・ヘルパーT細胞を慣れさせ・・・

                 過敏反応が生じないように、免疫寛容を誘導する”

 Nexvax 2

   オーストラリア/ネクスペップ社                 【臨床試験中】

 “免疫反応を誘発しない・・・小サイズにまで・・・グルテン分子を分解する”

 ALV003

   アルバイン社、 オランダ/VU大学医療センターANPEPが...

                               別々に...【臨床試験中】

 “ゾヌリンを阻害して・・・腸管に間隙が生じるのを防ぐ”

 ララゾタイド

    アルバ社                              【臨床試験中】   

 “キラーT細胞が・・・消化管粘膜に移動することを防ぐ”

 CCX282−B

   ケモセントリスク社                        【臨床試験中】

 “寄生虫の鉤虫(こうちゅう)に感染させ・・・免疫反応を押さえる”

 寄生虫の鉤虫

   オーストラリア/プリンセス・アレキサンドラ病院など    【臨床試験中】

 

     *********************************************

 

 “組織トランスグルタミナーゼが・・・グルテン分子の形を変えることを、

                                          阻害する”

 薬の名称ナシ

   アメリカ/スタンフォード大学ほか...       <実験室で開発中>  

 “HLA−DQ2が・・・グルテンペプチドと結合して・・・ヘルパーT細胞に、

                              抗原提示されることを防ぐ”

 グルテン疑似タンパク質

   オランダ/ライデン大学、 アメリカ/スタンフォード大学が...

                           別々に...<実験室で開発中>

 

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             wpe89.jpg (15483 バイト)     

「ええ、夏美です...

  ご静聴ありがとうございました。もう、桜の季節になってしまいましたね。

このページは、これで終わります。時代も、国内の社会状況も、益々混沌

としてきました。どうぞ、お体に気を付けてください...」

 

「あ、次は...

  “ATP/アデノシン3リン酸・・・細胞の共通エネルギー通貨”の、“情報

系としての・・・別の側面”について、考察を予定しています。どうぞ、次の

展開に、御期待下さい!」

                                    wpe7.jpg (10890 バイト) 

 

 

  

 

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