Menu生命科学(生物情報科学)ATPの情報伝達ATPの情報伝達とは

       ATP 情報伝達系 とは!     

             【ATP/アデノシン3リン酸/共通エネルギー通貨・・・ もう1つの顔! 

                    wpe74.jpg (13742 バイト)     

 トップページHot SpotMenu最新のアップロード                 担当 : 外山 陽一郎 

   INDEX                 wpe1D.jpg (34276 バイト)  

プロローグ      堀内秀雄・・・微細/情報エネルギー系に参加 2010. 4.25
   プロローグ.1      巨大危機・・・が輻輳して接近!> 2010. 4.25
   プロローグ.2

    大自然の征服 から・・・ 大自然との融合  ・・・

               機械科学の文明 から・・・ 生体科学の文明 へ >

2010. 4.25
No.1 〔1〕 ATPアデノシン3リン酸 ・・・2つの顔! 2010. 5. 8    
No.2      ATP ・・・発見の歴史的経緯!> 2010. 5. 8
No. 〔2〕 プリン作動性神経/・・・その概念は? 2010. 5.21
No. 〔3〕 ATP情報系・・・新時代に突入! 2010. 6. 3
No.      ATP・・・の作用/影響!> 2010. 6. 3
No. 〔4〕 ATP・・・多彩な仕事/多彩な役割! 2010. 6.17
No. 〔5〕 ATP・・・人体の中での働き! 2010. 7.18
No.      血管に対する・・・ATPの作用 2010. 7.18
No.      ヒトの身体で働く・・・ATPの風景> 2010. 7.18
No.10 〔6〕 標的ATP・受容体・・・新薬開発! 2010. 8. 7
No.11      疼痛・血栓症の・・・新薬開発!> 2010. 8. 7
No.12      消化器系・疾患・・・の新薬開発!> 2010. 8. 7
No.13           == ATP・受容体 を標的とした・・・医薬品開発 ==   2010. 8. 7
No.14 〔7〕 まとめ・・・ 究極のシグナル分子! 2010. 8. 7
No.15           == “ATP・受容体” /日本人研究者の・・・成果!== 2010. 8. 7

 

     参考文献   日経サイエンス /2010 - 03   

                     ATPの意外なはたらき

                                              B.S.カーク  (カリフォルニア大学ロサンゼルス校)

                                                  G.バーンストック (ロンドン大学ユニバーシティカレッジ) 


  プロローグ                        

         堀内秀雄・・・微細/情報エネルギー系に参加
                

             外山陽一郎       wpe74.jpg (13742 バイト)堀内秀雄      

 

「ええ、外山陽一郎です...」外山が、インターネット正面カメラに向かって、頭を下げた。

「お久しぶりです...」続いて、堀内が頭を下げた。「《資源・エネルギー》担当の、堀内秀雄

す」

「今年は...」外山が、どんよりと曇っている窓を眺めた。「寒い春ですねえ、」

「はい...」堀内も、窓を眺めてうなづいた。「異常気象が続いています...

  北極振動(大気振動の1種/・・・北極域と中緯度地域との間の気圧の振動を表す変動パターン)と、エルニーニョ(南米

ペルー沖から太平洋中央部の赤道域で、海水温が高い状態が続く現象)の影響が、日本列島の周辺で押し合って

います。

  それに加えて、寒流親潮(おやしお/千島海流・・・千島列島に沿って南下し、日本の東にまで達する海流)も、

力が強く...しかも、日本沿岸に寄っているようです。東北/太平洋岸から、茨城沖にかけての

海水温は、平年よりも4度ほど低いそうです」

「そうですか...

  どうりで、いつまでたっても寒いわけです。今後は、こうした異常気象になって行くのでしょう

か?」

「まあ...」堀内が、顎にコブシを当てた。「“地球温暖化”と、無関係ではないはずです...

  シベリアでは...“地球温暖化”による気温上昇によって、永久凍土がどんどん解けているそ

うです。あちこちに、永久凍土が解けた湖/サーモカルスト湖が、無数に出現してきていると聞きま

す。そしてその湖底からは、メタンの泡が湧き出していると言います」

「うーむ...

  そういう話は、しばしば耳にしますね。シベリア永久凍土の中から、冷凍保存されたマンモ

も出てくるとか...日本にも運ばれているそうですね、」

「そうらしいですねえ...

  しかし、問題は...シベリア永久凍土の解ける速度です。大自然のサイクルに、収まるも

のかどうかということです。おそらく、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が警告しているように...

“地球温暖化”は、北極圏/シベリアにおいても...着実に進行していると思われます。

  御存じのように...メタン/CHは、1分子あたりの温室効果は、二酸化炭素/CO“25

倍”にもなります。湧き上がってくるメタン・ガスは、わずかづつの泡ですが、シベリア全体となる

と、総量は膨大です。これが、“地球温暖化”をますます加速する、悪循環になるわけです...」

「まさに...」

「ええと...」堀内が、自分のモニターを眺めた。「最新の予測...ではですねえ...

  “北極圏の永久凍土の融解に対し・・・何の措置も講じなければ”...ということですが...

“2100年における・・・世界のメタン総排出量は・・・現在の20%〜40%増”...になるそうで

す...これが、どういう状態か、分かるでしょうか?」

「さあ...ともかく...大変な状態、ということですね...?」

「そうです...現在の段階で、“地球温暖化”を止めておかなければ...まさに、大変な状態

なります」               ・・・・・・・・・・・・・・<参考文献: 日経サイエンス/2010.03/ツンドラの湖に潜むメタン>

「うーむ...」外山が、眼鏡を外した。「聞いてはいましたが...事態は深刻ですか、」

「はい...」堀内が、頭に手をやった。「世界がそうですし、日本としてもそうです...また、“私

たち/・・・生活者”としても...深刻な事態に突入しつつあります...

  日本では、現在...政界再編成/新党ラッシュ/事業仕分け...と目先の些少な問題

ラ騒ぎをしています。しかし、国民の足元では、“巨大な危機が・・・輻輳して接近”しています」

“構造的な・・・大タワケ”を...やっている時ではないと...?」

  堀内が、厳しい顔でうなづいた。

「あの人たちは...」外山が、口元を崩し、頭をかしげた。「どうしてそういうことが、分からない

のでしょうか...?」

「さあ...」堀内が、生真面目な顔で、首をかしげた。「私は、政治向きのことを言う立場にはあ

りませんが...《危機管理センター》響子さん依頼でもありますので、もうひとこと、言って

おきましょう」

「はい...」外山が、微笑を輝かせ、うなづいた。「私の方も同様ですので、ひとつ、堀内さんの

方から、お願いします」

「はい...」堀内が、今度は微笑してうなづいた。

 

巨大危機・・・が輻輳して接近

            wpe74.jpg (13742 バイト)   wpe4D.jpg (7943 バイト)    

「今...」堀内が、ゆっくりと言った。「私たち/国民に必要なものは...

  政界再編成や...行政の浄化ではないでしょう...それが、必要ないのかと言われれば、

むろん必要でしょう...しかし、もっと切実な大課題があります...

  それは...“眼前に迫って来る大艱難(だいかんなん)の時代を・・・どうやって乗り切っていく

か!”...ということです。そうした、“文明的・・・巨大ミッション”を、必要としている時代だと

いうことです。国民も、そうした“漠然とした巨大な不安”があるから、政治不信になるのでしょう」

“長期的/国家ビジョン”の...欠如ということですね、」

「そうです!」

日本人は、こうした戦略的思考苦手と言いますが...あえて、今...それをしないというの

は、どういうことなのでしょうか...不思議な民族とも言えます...」

「そうですねえ...」堀内が、口に掌を当てた。「ともかく...

  〔人類/世界市民〕としても...“巨大地震/・・・気候変動/・・・食糧危機”などの環境圧

対処し...“時代・・・/国家/社会/家族という・・・存在の器”維持し...それを“安

定した未来社会”へつなげて行くという、“戦略眼”が、非常に重要になります」

「そうですねえ...それこそ、本来、政治の仕事でしょう」

「そうだと思います...

  この、“文明的・・・巨大ミッション”に対しては...《当/ホームページ》では、かねてから、

〔人間の巣のパラダイム〕を、提唱して来ています...また、日本国内においては、それを

国展開する大公共事業として、【日本版/ニューディール政策】提唱して来ているわけです」

「はい、」外山が、うなづいた。

日本は、世界に先駆けて...〔人間の巣/未来型都市/千年都市〕全国展開し...自給

自足型・農業社会を整備して行くことが...“最良の策/極楽浄土へのロードマップ”と、考え

ています。

  また...“海洋の酸性化”“地球温暖化”“永久凍土の融解”に対しても...〔人間の巣の

パラダイム〕が...“最良の策/・・・地球温暖化対策の・・・王道”、と考えます。そして、これ

は、子孫に残して行く...〔安定した・・・次世代社会の器〕、になるわけですね」

「その通りですねえ...」外山が言った。「しかし、堀内さん...

  こうした大公共事業が、政治課題になってこないということは...こうした、“文明的・・・巨大

ミッション”や、【日本版/ニューディール政策】否定する論拠というものが、あるのでしょう

か...政治家に、この事を聞いてみたいですねえ、」

「うーむ...」堀内が、下を向いてうなった。「そうですねえ...

  参議院選挙を前にして...既存・政党や、新党が口をそろえて叫んでいる、“景気回復”の方

が、ほとんど意味がないように思いますねえ。それは目先の問題であって、“現下の・・・最重

要課題・・・国家的/長期的ビジョン”ではないということです」

「はい、」

「現在...

  〔世界市民/・・・日本人〕が...真に必要としているのは...〔人類の・・・存在の器の安

定化〕であり...〔安定した未来社会への・・・ロードマップ〕でしょう。

  そして、そのためには、〔生態系の安定化〕不可欠です。つまり、“文明の折り返し”が、

至の状況になってきたということです。“大量生産/大量消費・・・資本主義/市場経済”は現在、

“最後の輝き”を放っている状況です。それも、急速に、終息に向かっています」

「うーむ...」外山が、うなづいた。

地球生態系の限界が見えてきています...私たちは、閉塞状況の中で、新しいパラダイム

求めているわけです」

「そうですね...」外山が、眼鏡の真ん中を押した。「私も...

  重ねて...《危機管理センター》響子さんから依頼されているわけですが...さすがに、

堀内さんは、資源・環境・未来工学エキスパートですねえ。いや、本当に、助かりました。

まあ、堀内さんが参加するというので、期待していたわけですが、」

「ともかく...

  この異常気象も、キャベツの不足ぐらいで、収まればいいのですが...この夏も、はたしてど

うなりますかねえ...」

「そうですね...今年が、“大崩壊の序曲”でなければいいのですが...」

「まさに、今、それを心配しています...

  まあ...いずれ、それはやってくるのでしょうが、1刻も早く...〔人間の巣/未来型都市/

千年都市〕を、獲得しておきたいものです。〔人間の巣〕の展開には、リスクというものがなく、

きな安心につながります。それから、これは...“非常に安価な構造物/システム”なのです」

「ほう...“安価なシステム”なのですか?」

“安価で頑丈な・・・人間サイズのコンパクトなシステム”です...

  私たちは、細かな計算はしていませんが...自給自足型/コンパクト社会になりますから、

通も最小限になります。維持費用最小限で済みます。〔人間の巣〕と、その周辺以外は、大自

然に還元して行くわけですから...この方面もコストはかかりません...」

「はい、」

“万能型/防護力”全国展開し、社会インフラを再構築することは、早いほどいいわけです。

世界中巨大地震の被害も続出しています。〔人間の巣〕は、気候変動による自然災害にも、

パンデミック・ウイルスにも...“最強の防御手段”です

  私たちは...すでに、その自給自足型社会の方向への胎動を始めていますが...やはり、

一番効率的なのは、政治決断です。大型・公共事業/【日本版/ニューディール政策】が、

も効率的です。

   政治は、まさに混乱状況にありますが、私たちは...“やるべき事・・・行動の方向性”...

は、すでに、はっきりしていると思います」

「はい...」外山が、唇を結び、うなづいた。

 

 大自然の征服 から・・・ 大自然との融合 へ ・・・

          機械科学の文明 から・・・ 生体科学の文明  

                          

 

「では...」夏美が言った。「ATP/情報伝達系とは! 》の、プロローグをお願いします」

「そうですね...」外山が言った。「ええと...

  今回は...“細胞の・・・共通エネルギー通貨”として知られる、“ATP/アデノシン3リン酸”

の...“情報系/・・・共通言語”としての...もう1つの側面を考察します。

  それから...今回は、資源・環境・未来工学堀内秀雄さんが参加しますが...“微細

/情報エネルギー系”として、関心を寄せられてのことです。エネルギーは、堀内さん担当・

分野というわけです。

  ええ、堀内さん...あらためて、よろしくお願いします」

「はい...」堀内も、頭を下げた。「どうぞ、よろしくお願いします...

  私の方からは...まず、基本的なことですが、《当/ホームページ》は...“脱・化石燃料

/脱・原発”を...【基本指針の1つ】として掲げ...そのライン上/延長線上で、活動/考察

を展開しています。

  また...“文明の第2ステージ/エネルギー・産業革命”から、“文明の第3ステージ/意識・

情報革命”への...人類文明パラダイム・シフト/ステージ・アップが、あると考えています。

  こうした、【一連の考察/ホームページ内・・・合意】から...主軸となるエネルギー形態も、

大きく変貌して行くと予測しています。こうした大局的・未来推計から...“機械科学の文明”

ら、“生体科学の文明”...パラダイム・シフトして行く、過渡期の時代が予想されます...」

「うーむ...」外山が、ゆっくりと頭を振った。「なるほど...」

私の今回の参加も...そのための、準備の一環だと思っていただけますか、」

「はい、」

時代予想以上に、急速に、流れ出しています...

  アッという間に、周囲の社会状況/環境の風景が、一変して行くことが予想されます。だから

こそ、〔人間の巣〕を、大車輪で展開したいと考えているわけです。

  異常気象は、予想以上の急展開ですし、“次の大震災は・・・日本かも知れません!”...

もちろん、大震災などは来て欲しくはありませんが...いずれやって来ます。今から、その覚悟

をし、“万能型/防護力”/〔人間の巣〕を展開しておきたいということです」

「うーむ...アッという間の状況変化...ですか?」

「そうです...

  現在のままでは大混乱でしょう。このまま、“大崩壊の序曲”から、“世界的な天候不順/世

界的な農作物の不足”へ突入して行くことだって...無いとは断言できない...わけですねえ。

“万能型/防護力”/〔人間の巣〕を...日本国民拠り所として、展開しておきたいわけです

「まあ...そうでしょうねえ...」

「くり返しますが...

  今のうちに、できるだけ、〔人間の巣〕自給自足・農業社会を展開しておきたいですねえ。

そらく、いわゆる気候変動が始まれば、甚大な犠牲が出ます。“前の世界大戦/第1次・第2次”

の比ではないでしょう...そして、いつの時代も...シワ寄せ弱者に向かいます...」

  外山が、うなづいた。

「そうした環境圧力/自然淘汰の流れは...

  ホモサピエンスが、地球生態系の中で、適量でバランスがとれるまで、減少して行くことになり

ます...おそらく、数十年〜数百年間、継続するのかも知れません...

  あるいは、人類が激減した“文明的・・・空きニッチ(空っぽになった・・・生態系的地位)に...新人類

が、変わって入り込むのかも知れませんね。地球生態系が、大きくバランスを崩し始めている時

に...まだ、“経済競争に・・・狂奔している状態”は...異常と言わざるを得ません。

  核戦略異常でしたが...今度は、タイムリミット(時間制限)があります。また、あらゆる意味で、

“文明の第2ステージ/エネルギー・産業革命”の、限界を示しています...私たちは、“文明の

折り返し”を断行し、“文明の第3ステージ/意識・情報革命”へ、進んで行かざるを得ませんね」

「うーむ...

  そうした大艱難の時代を...もし、我々が生き残ることができたら...“機械科学の文明”

ら、“生体科学の文明”へ、シフトして行くわけですか...壮大な流れですねえ...こうした流

れは、必然なのでしょうか...?」

「私は...」堀内が言った。「ごく自然に...必然的な流れだと思っています...

  私たちが、大自然を学び...それをお手本としている以上は...必然の流れと言えます。

命体生態系は、人類文明のレベルよりは、“はるかに気高く・・・精緻”です。私たちが、それを

学んで行くということは...人類文明必然的に、その方向へ向かうということです。

  つまり...大きな流れとして...私たちは、“生体科学の文明”へ流れているということです」

「ふーむ...生物情報科学 (バイオインフォマティクス)も...まさに、その方向にあるわけですねえ、」

「そうですね...

  そして...“文明の第3ステージ/意識・情報革命”の、“文明の器”として、私たちは、〔人間

の巣のパラダイム〕を...用意してみたわけです...

  これは、御存じのように...本来、私たちは、“地球温暖化・対策”として考察を開始したもの

です。しかし、考察して行くと、この〔人間の巣の概念〕は、人間サイズで、コンパクトで、マルチ

(多面的)なものでした。生態系とも協調し、“文明の第3ステージ/意識・情報革命”とも、うまくマッ

しているようです。

  この多面的な一致は...つまり...“時代的な方向性が・・・正しい”...ということの証拠

でしょう...しかも、周辺に展開する自給自足農業と合体して...“細胞/生命の最小単位”

ように...〔人間の巣の単位〕で、“独立して存続が可能”です...これは、非常に大きな意味

を持ちます」

「そのようですねえ...」外山が、うなづいた。

 

「さて...」堀内が、どんよりと曇った窓を眺めて言った。「そこで...

  それに伴い...エネルギー形態も、“文明の第2ステージ/エネルギー・産業革命”の、“熱

運搬型/巨大エネルギー系の操作”から...“文明の第3ステージ/意識・情報革命”の、

“情報運搬型/微細エネルギー系の操作”シフトして行く...と考えているわけです...」

「はい...

  私たちは、生物情報科学 (バイオインフォマティクス)からのアプローチですが、堀内さんは、“情報運

搬/微細エネルギー系の操作”として...関心を寄せられているわけですね?」

「まあ、そういうことになりますが...行きつく所は、同じだと思います」

  外山が、うなづいた。

「ともかく...

  “文明の第2ステージ/エネルギー・産業革命”パラダイムは、終息が見えて来ました。《My

Weekly Journal》でも言っているように...資本主義/市場経済が、“最後の輝き”を放ってい

ます。しかし、それも、急速に終息に向かうでしょう。

  問題は、その過程で...“人類救済史的な・・・大艱難に際し・・・何が準備できるか”という

ことです...中国にも、“2010/上海万博”の後は、〔人間の巣のパラダイム〕へ向かって欲

しいですね」

「うーむ...ともかくそれは、政治の話になるのでしょうが...」

「そうです...

  そこで、とりあえず...私たちに何ができるか、ということですが...私は、“化石燃料・・・核

エネルギー”を離れ...“ATP/細胞の共通エネルギー通貨”の方へ、関心を寄せてみました。

その方面から、“文明の折り返しへ・・・舵を切ることが可能か?”...ということです。

  ともかく...ここは、外山さん厨川(くりやがわ)さんの領域になりますが...ひとつ、新参者

ですが...よろしくお願いします」

「こちらこそ...」外山が、頭を下げた。「よろしくお願いします...

  人手は、いくらあっても足りない状況になって来ました。“情報運搬型/微細エネルギー”は、

地球生命圏/・・・全生態系瀰漫(びまん/一面にみなぎること)しています。

  最近、高杉・塾長も、 “量子/開かずの扉” 【U/検証実験】で...こう言っておられ

ます...

 

“文明の第2ステージ/エネルギー・産業革命”の時代は...

            “大自然の征服”でしたが...

“文明の第3ステージ/意識・情報革命”の時代は...

            “大自然との融合”になりそうだと...

 

  ...そうなると、現在の“機械科学の文明”とは...ガラリと変わった風景になって来ること

が予想されます。生態系は、人類文明よりもはるかに高い...“生体科学”の領域に、展開して

いますから、」

「うーむ...」堀内が、顎に手を当てた。「そうですねえ...

  確かに私たちは今、その...“大転換時代の・・・入り口”...に立っているのでしょう。それ

が、ちょうど、人類文明史上でも、未曾有の大艱難の時代”と重なってきたわけです。“文明

の舵取りが・・・きわめて重要な時代” になって来たようです」

 

「ええと...」外山が、夏美の方を見た。「白石夏美さんは...

  この間まで、《セリアック病》で御一緒させていただきました。今回も、よろしくお願いします」

「はい...」夏美が、うなづいた。そして、エクボを作り、親しげに堀内を見た。「堀内さん、また、

よろしくお願いします。私の方が、一足先に、こちらに来ていたことになるのかしら...」

「いや、いや...」堀内が、笑って手を振って見せた。「資源・環境・未来工学の方にも、まだ

まだ仕事は大量に残っています。軸足は、あくまでも、資源・環境・未来工学の方です。夏美

さんも、よろしくお願いします」

「はい!」夏美が、強くうなづいた。

 

  〔1〕 ATPアデノシン3リン酸・・・ 2つの顔!

                 wpe74.jpg (13742 バイト)      

 

「ええと...」外山が、ニッコリと笑った。「ようやく、いい季節になって来ましたね...

  まず、ATP/アデノシン3リン酸というのは...“全ての細胞のエネルギー源/共通エネル

ギー通貨”として、広く知られています。この小さな分子が、あらゆる生命活動/生命現象を動か

しているエネルギー源です。ガソリン自動車ならガソリン...電気製品なら電気に相当します。

  上に、小さな分子模型の絵を用意しましたが、これはATPの模型ではありません。イメージ

して拾ってきたものです。ATPの分子模型は、この2倍ぐらいの大きさになるでしょうか。ともかく、

言葉どうりに...“アデノシンに・・・3個のリン酸が結合した構造”...になっています」

「はい...」夏美が言った。「ええと...ATPの分子模型は...

  “参考文献/日経サイエンス/2010.03/ATPの意外なはたらき”...トップに、大きく

描かれていますわ。それも参考にして下さい。

  この“ATPの分子構造”は...1935年/満州国(・・・当時)/大連病院/牧野堅(まきの・たかし/

後に熊本大学、東京慈恵会医科大学の教授)提唱し...10年後・・・イギリス/ケンブリッジ大学/科学

研究室/リスゴー、トッド、によって確認されています。

  ええと、外山さん...これは、後でもう少し詳しく説明されますね?」

「はい...」外山が、モニターを眺めた。「そうですね...

  それから、基本的なことですから、まず最初に、ATP“共通エネルギー通貨”としての面を、

簡単に説明しておきましょう」

「はい...」夏美が、髪を揺らした。

ATPというのは...

  分解して眺めると...“A”/アデノシンに...“T(tri)/3個の...“P”/リン酸が結合

した、ヌクレオチドです...“アデノシン3リン酸”という、読んで字の通りの構造です。

  そして、アデノシンというのは...アデニンリボースが結合した化合物です。ええ...この、

アデノシンというのは、針状結晶で、水に溶けやすいものですね...」

アデニンというのは...」夏美が、頭をかしげた。「何処かで...聞いたことがありますけど?」

「うーむ...」外山が、モニターをのぞいた。「そうでしょう...

  アデニンというのは、私たちのよく知っている核酸/DNAを構成する...塩基(/アデニン、グア

ニン、シトシン、チミン)うちの1つですね。

  リボース/C10の方は、...分子式を見ても分かるように、ペントース炭素原子5個をもつ、

単糖類の総称1つです...

  “参考文献”ATPの分子模型がここに表示してありますが...5個の炭素原子を探してく

ださい...左側の青い、5つしか存在していない原子というのは、すぐに分かりますね。そのあ

たりが、リボースです。アデニンと結合していますね。その合わさった領域が、アデノシンです。

  それから...右下の方に、尻尾のように、赤いのが3つつながっていますが、それがリン酸

なります」

「はい...」夏美が言った。「つまり、ATPというのは...

  アデニン(塩基)と、リボース(糖)とが結合した化合物/アデノシンに...3個のリン酸結合

ている....ということですね?」

「そういうことです...

  それから、先ほど...ATPヌクレオチドと言いましたが...このヌクレオチドというのは、

ヌクレオ糖の部分に...リン酸基が結合した、化合物の総称になります。これは、生体の

重要な構成物質1つで、生体科学では、しばしば耳にする言葉です。覚えておいてください。

  ちなみに、核酸/DNAというのは...ヌクレオチド巨大な重合体/ポリ・ヌクレオチド

す。詳しいことは別にして、まず、この言葉ぐらいは覚えておいてください

「はい...」

 

                                 wpe18.jpg (12931 バイト) 

 

「さて...」外山が、モニターを眺めた。「この、小さな化合物/ATPが...

  “全細胞のエネルギー源”となり...生命活動を駆動しています。細胞活動新陳代謝...

生存/存続に必要な臓器等...膨大な精密分子装置群駆動する、燃料となっているわけで

す。これは、地球上全生命体に共通する、“共通のエネルギー通貨”なのです...」

生態系食物連鎖も...」夏美が言った。「この、“共通のエネルギー通貨”と関連しているの

でしょうか?」

「そうです...

  食物連鎖という意味では...エネルギーばかりではなく、生体の構造物となるタンパク質や、

栄養分となる微量要素などもそうですね。つまり、これは、DNA型生命体食物連鎖であり...

膨大な生態系を形成しているとも言えるわけです。

  もし、仮に...DNA型生命体とは違う生命体が、この地球生命圏にまぎれて存在していると

したら...それは、おそらく、毒物として作用するのかも知れません。あるいは、異質の生態系

を形成していて、DNA型生命体食物連鎖の中には入ってこないでしょう...

  ただ、しかし...もう少し深く考察すれば...この世界というのは、驚きの連続のようなもの

です。我々が考えた様には、まずコトは進まないのです。したがって、そのさらに深い領域では、

DNA型生命体異質生命体とは、共生していることが、発見されるのかも知れません...」

「はい...

  ともかく、DNA型生命体だから、エネルギーにもなり...生体の構造材にもなるということで

すね?」

「そういうことです...」外山が、うなづいた。「ええ、話を戻しますが...

  ATPは...生命が生きていく上で不可欠なものであり...生命誕生初期段階からあった、

と考えられるわけです。35億年前シアノバクテリア光合成を始める前から...生命体

ネルギーを必要としていたわけです」

「あの...」夏美が言った。「外山さん...

  この小さなATP分子の何処に...そんな、細胞を駆動するエネルギーを蓄えているのでし

ょうか?」

「はい...」外山が、うなづいた。「もっともな質問です...

  ATPは...3個のリン酸をつなぐ“結合”に...そのエネルギーを蓄えているのです。いわゆ

る、“高エネルギー・リン酸結合”と呼ばれるものです。ATPの場合は...リボース5'ヒドロ

キシル基に...リン酸基“3分子・・・連続結合した構造”を取ります。

  まあ、しかし、今回のテーマは、“共通エネルギー通貨”の話ではありません。ATPもう1

つの顔/ATP情報系”の方です。そっちの方へ、話をうつしましょう...」

「はい...」夏美が、うなづいた。

 

                                        


ATPは...」外山が言った。「“共通のエネルギー通貨”である同時に、一方では...“共通言

語”...という側面を持つわけです。

  “ATPの・・・情報伝達の役割”に...最初に気付いたのは、ほぼ50年前のことだと言われて

います。しかし当時、この発見は、疑いの目で見られていたようです。ATPは、すでに生体“エ

ネルギー通貨の分子”として脚光を浴び、あまりにも広く受け入れられていたからです」

「はい...」夏美が、頭を反対側に傾げた。「そういうものかしら...」

「まあ...そういう、先入観というものはあるようです。《セリアック病》でも言いましたね...

  小腸というものも、1970年代頃までは、単なるパイプのように考えられていたと。消化吸収の

研究でも、第一線で、それほど重要な器官とは考えていなかったわけですね。“ATPの・・・情報

伝達の役割”でも、それと似たような...“大いなる・・・勘違い”...があったわけですねえ」

「はい...」

「こうしたことは...」外山が言った。「これからも...

  色々な形で出て来るでしょう。様々に経験は積んで行くわけですが、生命体という謎のステー

は、さらに高度な領域に踏み込んで行きます。さらに深い、複雑な迷路が待っています...」

「まだまだ、重要な発見があるということですね?」

「と、言うよりも...」外山が、両手を組んだ。「まだまだ...

  生物体人体というものは...分子生物学生物情報科学(バイオインフォマティクス)から見れば、

巨大な謎の塊でしょう。“ナノ・レベルの・・・巨大化学プラント群”や、“謎に満ちた・・・神経系”

“意識・・・無意識レベル”まで含めると...“解明には・・・ほど遠い状況”ということでしょう...」

  夏美が、うなづいた。

「まあ、しかし...

  ここ、最近15年間ほどの研究で...“細胞の外にある・・・ATP”が...細胞にどのように

するのか...また、器官組織発達機能どのように関わっているのか...続々と分

かって来ている様子です」

「うーん...」夏美が、頭のてっぺんの逆毛を、パラリと撫でた。

「ともかく...ATP身体の何処にでも存在するわけです。万遍なく、行きわたっていますね」

“細胞のエネルギー源”ですから...そういうことになりますよね」

「そういうことですねえ...

  いいですか、そのために...“ATP・情報伝達系が影響する・・・生理作用”は、他に類をみ

ないほど、幅広いことが分かって来たのです。そのことは、様々な形で、健康増進に役立つ可能

も、秘めているということです。

  現在、世界中の研究者が、様々な疾患治療に役立てようと...例によって...研究成果

競い始めています。経済原理・主導とも言える、ダイナミックな開発競争ですが、“文明の第3ス

テージ”本格化して行けば...新しい価値観が発動して行くでしょう...」

「はい...」夏美が、明るく顔を崩した。

ATP ・・・発見の歴史的経緯!          
 
 

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「先ほど...」外山が言った。「“ATP/・・・エネルギー通貨の概略”を紹介しましたが...

  “ATP/・・・情報伝達系”を語るにも...まず、“ATP発見の・・・歴史的経緯”からアプロー

するのがいいかも知れません...まず、そのあたりから入りましょうか、」

「はい...」夏美が言った。「お願いします...」

「まず...

  そもそも...“細胞はどんな分子を・・・エネルギーとして使っているのだろうか?”...と、か

つて世界中の研究者が...細胞の周辺消化器系血流などで...そのエネルギー分子

探索していました。

  ガソリン・エンジンなら石油系/炭化水素ですし、電気器具なら電気を見つけようとしていたわ

けです。そこで...細胞“新陳代謝”させ、生命活動駆動している未知のエネルギーは何か

ということで、“総力を挙げて・・・探索していた時代”あったわけです。それほど、大昔のこと

でもないわけですね...」

 

「ふーむ...」堀内が、顔を上げた。「そうですねえ...

  私たちは...非常にダイナミック文明の流れの中にいるのを感じます。その最先端を、ま

さに今、切り開いているわけですねえ...その、“時代を切り開いている・・・実感”というもの

が、非常に大事ですね」

「その通りです...」外山が、眼鏡を押し、大きくうなづいた。「時代文明の流れを...

  退屈だと見ている人達もいますが...“・・・今の流れ・・・”...は、非常にダイナミックです

ねえ。私たちは、その最先端を、切り裂いているわけです。まさに...“・・・刃の位置にいる

・・・”...と言うことができますね」

「その...」堀内が、科学者らしい顔をなごませて言った。「“存在の覚醒”が、最も大事ですね

え...

  私たちは、こうした“存在の覚醒”が、これからやって来る“新しい時代の・・・価値観”、にな

り得るのではないかと見ています...まあ、“有力な候補の1つ”ということですが」

「うーむ...」外山が、嬉しそうに、白い歯を見た。「まさに、そうですね...

  “野生の喧騒から離脱してこそ・・・ホモサピエンスは、真の文明種族となり得る...

うことでしょう。そこは...“大自然の・・・征服のステージ”ではなく...“大自然との・・・融合

のステージ”だということでしょう...

なるほど...」堀内が、腕組みをした。「その通りですねえ...

  野生の喧騒/・・・弱肉強食/・・・食物連鎖”...そして、“環境圧力/・・・自然淘汰”

こうした中に、文明基盤を置いていたのでは、〔極楽浄土/パラダイス〕とは、程遠い距離です。

私たちは、すでに、〔極楽浄土のインフラ建設〕、に着手すべき時だということですね...?

「もちろんそうですが...」外山が、真剣な顔でうなづいた。「私としては...

  皆さんの...その“考察している方向”に、賛成だということです。“存在の覚醒”という、“新

しい時代の・・・価値観”にも、“同意”だということです」

  堀内が、満足そうにうなづいた。

「さて...」外山が言った。「では...ATP発見の歴史について話しましょうか...」

「はい...」夏美が言った。「あ...ポンちゃんが、柏餅を用意して下さったので、どうぞ、召し上

がってください」

「ああ...」外山が肩を回し、お茶を注いでいるポン助を見た。「ありがとう、ポン助君、」

「久しぶりだね...」堀内が、ポン助に笑顔を向けた。

「おう...」ポン助が言った。「この柏餅はよう...

  鹿村の鳴沢温泉の柏餅だよな...ユキちゃんの、おばあちゃんが送って来てくれたぞ、」

「うん...」夏美が、柏餅の皿を作業テーブルに移した。「よもぎ餅ね。毎年送って下さるわね」

「そうだよな、」ポン助が、茶を注ぎながら言った。

 

                    wpe56.jpg (9977 バイト)         

 

「さて...」外山が、飲み干した茶碗を脇へ押し、モニターに目を移した。「ええ...

  “細胞のエネルギー源”として...ATPが発見されたのは、1929年のことです。量子力学

確立したのが、1925年ということになっていますから、まさに、その量子力学黎明期のこと

だったのでしょう。その時代に、医学/生物学方面では、ATPが発見されていたわけですねえ」

「うーむ...」堀内が、口に手を当てた。「そうですねえ...

  まさに伸び盛りの...“全てが希望に満ちていた時代”もあったわけですねえ...あの時代

が、最も良き時代だったのかも知れません...ただし、2つの世界大戦がなければという、条件

が付きますが...」

「はは...そうですねえ...

  ええ、ともかく... 1929年に、ATP発見されました。これは2つのグループで、ほぼ同

だったと言われます。

  1つは...ドイツ/ハイデルベルク/カイザー・ウィルヘルム医学研究所/ローマン(Karl

Lohmann )と、マイヤーホフ(Otto Meyerhof/1922年ノーベル賞受賞)のグループです。

  もう1つは...アメリカ/ハーバード大学医学部/フィスケ(Cyrus H.Fiske)、サバロウ(Yellapragda

 SubbaRow/大学院生)のグループです。

  彼等は...プリン化合物“アデニン塩基と・・・糖(リボース)からなる・・・ アデノシン に...

3個のリン酸がついた分子が...“筋肉の収縮に必要である”、ということを発見したようです。

これが、1929年ということですね。

  ついでに言えば...この1929年10月24日に...大恐慌/世界恐慌が始まったわけで

す。20世紀最大の財政危機が、アメリカ/ニューヨーク/ウォール街株価の大暴落で、幕が

切って落されたわけです...ここから、第2次世界大戦/原爆投下まで、突き進んだわけです。

  それから、 1935年...当時の満州国/大連病院/牧野堅(まきの・たかし/後に熊本大学、東京慈

恵会医科大学・教授)が...“ATPの分子構造”提唱しています。

  そして、10年後と言いますから、 1945年/第2次世界大戦/終結の年になりますかね。

イギリス/ケンブリッジ大学/科学研究室/リスゴー(Basil Lythgoe)トッド(Alexander R.Todd)が、

その“ATPの分子構造を・・・確認”しています...」

「うーむ...」堀内が、顎にコブシを当てた。「これは、第2次世界大戦/前...の話ですね、」

「そうです...

  それから、敗戦/終戦になるわけですが...そうした間も...“ATPが・・・細胞の外でも働い

ている”...という考えはなかったと言います...それから、さらに時代が進んで...

  1962年...“参考文献”著者の1人・・・/オーストラリア/メルボルン大学(/当時)/神

経生理学者:バーンストックが、“神経から平滑筋へ・・・ATPを使った情報伝達が存在する”

ということを証明しています。

  ええと...このバーンストックについて、少し述べておきますと...当時、彼は若い神経生理

学者で...平滑筋収縮を調整する神経について、研究していたようですね...

  具体的には...腸管膀胱収縮など、平滑筋が関わる生理機能...自律神経が調節

する時に...どのような分子が、シグナルとして使われているかを...調べていたようです」

「ふーむ...」堀内が、うなづいた。

「そうした、一連の研究を通じて...

  彼は...“アセチルコリン”“ノルアドレナリン”などの...“一般的・神経伝達物質を使わ

ない・・・情報伝達が存在する”...ということに、気づいたと言います。

  この前に... 1959年に...イギリス/ケンブリッジ大学/生理学教室/ホルトン(Pamela

Holton)が...“感覚神経から・・・ATPが放出されている”...ということを報告しています。

バーンストックは、“この研究に着目した”、と言っています。

  ええと...彼は...“自律神経の抹消と・・・平滑筋の間の情報伝達を・・・ATPが担って

いるのではないか”...と考えたようですね。

  そこで...薬物をうまく利用して、一般的な神経伝達物質の作用を抑え...“自律神経から

平滑筋に・・・ATPが情報を伝達していることを・・・証明することに成功した”...ということ

です...」

「ふーむ...」堀内が、腕組みをした。「まさに...この分野開拓者なのですね、バーンストッ

は、」

「そうですね...

  バーンストックは、それから 1972年に...“神経伝達物質として・・・ATPを放出する

・・・  プリン作動性神経  が存在する”...と提案しています」

...“プリン作動性神経”の...提案ですか?」

「そうです,...」外山が言った。「ええと...いいですか...順を追って話しましょう」

「はい、」堀内が言った。

「まず...

  神経細胞/ニューロンが、電気パルスを発生すると...そのパルスは...長く伸びた神経

の軸索上を伝わって行きます...

  しかし、電気パルスは...“シナプス間隙(かんげき)や...“神経細胞と筋肉の間にある隙間

(すきま)を、飛び超えることができません。これは...20nm(ナノ・メートル)ほどの隙間ですね、」

  堀内が、無言でうなづいた。

神経細胞から...神経細胞情報を伝達するには...

  “アセチルコリン”や、“グルタミン酸”や、“ドーパミン”などの、神経伝達物質が...電気パル

を発生した神経細胞から...その間隙に向けて放出されます...そして、間隙の向こう側

は、それぞれの、“受容体”と呼ばれるタンパク質があるわけですね...」

「それらの神経伝達物質は...」堀内が言った。「“受容体”結合し...神経細胞との間隙

リレーしているわけですね?」

「そうです...

  そこから、様々な反応が始まって、細胞の活動変化して行くわけです...例えば、神経細

間隙を渡って来る神経伝達物質を受け取ると、同じように電気パルスを発生します。しか

し、その神経伝達物質筋肉が受け取った場合には、筋肉収縮弛緩が起こるわけですね」

「なるほど...神経伝達物質は、筋肉との間隙にも放出されるわけですか...

「そうです...

  こうやって...電気的・信号化学的・信号交代しながら...神経細胞から神経細胞へ...

あるいは筋肉へと...情報が伝わって行くわけです...」

「ふーむ、なるほど...」

「こうした...

  神経細胞/ニューロンの間の...情報伝達風景が見えてきたのは、20世紀前半のことです。

そして、その頃から長い間...“個々のニューロンは・・・1種類の神経伝達物質しか、放出しな

い”...と考えられてきました。

  “アセチルコリンを放出するニューロンは・・・コリン作動性”...“ドーパミンを放出するニュー

ロンは・・・ドーパミン作動性”...というように呼ばれてきました。“1つのニューロンに・・・1つの

神経伝達物質が対応する”...と考えられていたわけです...」

「うーむ...」堀内が、顔に手を当てた。「そう言えば...

  確かに、“コリン作動性”とか...“ドーパミン作動性”とかいう言葉は...聞いたことがありま

したねえ、」

「そうですね...」外山が、明るく笑った。「ここで言うバーンストックの、“プリン作動性神経”

概念も、そうした時代の流れの中にあったわけです...

  まあ...ネーミング(命名)はともかくとして...もう少し、その歴史的経緯を追ってみましょう」

「はい...」夏美が言った。

 

  〔2〕  プリン作動性神経 ・・・その概念は?

   wpe74.jpg (13742 バイト)        

 

「ええ..」外山が言った。「説明をする前に、一応、断って置きます...

  このバーンストックの、“プリン作動性神経の概念”ですが...これは、彼/1人の、研究成

ではありません。メルボルン大学ロンドン大学の、大学院生共同研究者たちとの、合せ

た研究成果だということですね...」

「はい...」夏美が言った。「“参考文献”にある、主な人の名前を紹介しておきましょう...

  ええと...ベネット(Max Bennett)キャンベル(Graeme Campbell)サッチェル(David Satchell)ホル

マン(Mollie Holman)ランド(Mike Rand)たちですね...これ以上のことは、“参考文献”にも記載さ

れていません」

「そうですね...さて、このバーンストックの研究ですが...

  当時...平滑筋腸管膀胱(ぼうこう)で...“神経細胞から・・・ATPが放出されていることを

示す・・・多くのデータが存在”...していたにもかかわらず、多くの神経生理学者たちは...“そ

のような神経の存在自体を・・・疑っていた”...と言います。

  そもそも...“身体の何処にでも大量に存在する・・・ATPのような物質”が...特定の作用

するとは、考えにくかったわけです。それと、神経細胞からATPが放出されるのなら、受ける側

“受容体(レセプター)があるはずです。しかし、それがまだ、見つかっていなかったわけですね」

「はい...」夏美が言った。「それでは...しかたがなかったのかしら?」

「そうとも言えますが...」外山が、眼鏡の縁を抑えた。「洞察力は、欲しかったわけです...

  ちなみに、 1970年に...初めて...“神経伝達物質の・・・受容体”が発見されました。

これは、京都大学/医学部/沼正作・教授が、“ニコチン型アセチルコリン・受容体”を発見し

たものです。それから、こうした作用を引き起こす、“ATP・受容体”の探索が始まったわけです」

「はい、」

「ええ...一方では...

  “ATP・受容体”が発見されるまでの間に...薬理学的な研究も進んでいたようです。この間

にも...“神経細胞から放出された・・・ATP”が...筋肉他の細胞に、どのような形で作

するのかが、しだいに明らかになって来ていたようです...

  こうした中で 1978年...バーンストックは、“ATP・受容体”には“2つのグループが存在

する”、という考えを示しました」

「はい...」

「これは...

  “ATPの代謝分解物/アデノシンによって・・・活性化される受容体 である...“第1型プ

リン受容体=  P1・受容体  ”と...

  ATPそのものによって・・・活性化される受容体 である...“第2型プリン受容体 = P2

・受容体  ” 、の2つです...」

「あの、外山さん...」夏美が言った。「どうして...“プリン受容体”と言うのでしょうか?」

「はい...

  それは、つまり...ATPアデノシンは、いずれも“プリン化合物”だからです。 “プリン作動

性神経” というネーミング(命名)でも、プリンという言葉が出て来ていますね。

  プリンというのは...もちろん、プディング/カスタード・プディングのような...洋菓子のこと

ではありません。これは、“複素環式化合物”1つなのです。化学式は、...無色の、

針状結晶ですね...残念ながら、洋菓子のイメージとはだいぶ異なりますね、」

「はい...」夏美が、微笑をこぼした。「プリンというのは...

  そういう種類の、化合物ということなのですね...アデノシン“プリン化合物”なら...それ

リン酸3個が結合したATPも...当然、“プリン化合物”というわけですね?」

「そういうことです...

  アデノシンは...前にも言ったように、アデニン(塩基)リボース(糖)が結合したものですが...

アデニンは、“プリン塩基”と呼ばれます。“プリン塩基”2つあって、もう1つグアニンです。ち

なみに、残りのシトシンチミンは、“ピリミジン塩基”と呼ばれます。

  これらの4つの塩基が、DNAを形成するわけですね。ついでですから、“プリン塩基”“ピリミ

ジン塩基”という言葉も、小耳にはさんでおいてください。そのうちに、聞くことがあるかもしれま

せん」

「はい...」夏美が、明るくうなづいた。「ええと...

  DNAでは...アデニン(A)チミン(T)との間に、塩基対が作られるわけですね...それか

ら、グアニン(G)は、シトシン(C)との間に、塩基対が作られるわけですね...そして、そうやっ

て、ヒトゲノムでは、30億塩基対もの二重らせん構造が作られて行くわけですね...」

「そうです...」外山が、口元に微笑を浮かべ、うなづいた。「夏美さんも、だいぶ詳しくなってき

ましたね、」

「はい...一緒に勉強していますから、」

  堀内も、笑ってうなづいた。

「ええと...」外山が、モニターをのぞいた。「それから、ですねえ...

  さらなる研究によって...ATP で活性化する・・・ P2・受容体には...“2つの・・・異な

る働き”、があることも分かって来ました。そして...バーンストックは、ケネディ(Charles Kennedy)

と共に...“P2・受容体”にも、“2つの・・・異なる型”、があると予測しました。

  そして、それぞれを...“P2X・受容体”と...“P2Y・受容体”命名しました...」

「はい...

  “P1・受容体”“P2・受容体”があり...“P2・受容体”はさらに、“P2X・受容体”と、“P

2Y・受容体”とがあるわけですね?」

「そういう事になりますね...

  ええ...こうした時間経過の中でも...ATPが、神経伝達物質であるかどうかの議論は、続

いていたと言います。しかし、その後、しばらくの間は、忘れ去られたかのようになっていた期間

があったようです。

  そして、 1990年代になると...様相が変わって来たと言います。ようやく、分子生物学的

解析手法が発達して来て...“様々な・・・ATP・受容体”が、発見されるようになりました。

  さらに、神経系の他にも...様々な器官の細胞で...“ATPの・・・驚くような作用”が...

解明され始めて来たのです...」

「はい...」夏美が、作業テーブルの上に両腕を置き、手を組み合わせた。

 

  〔3〕 ATP情報系・・・新時代に突入! wpe56.jpg (9977 バイト)  
 

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  ポン助が、盆の上に茶碗を並べ、丁寧に茶を注いだ。それを、作業テーブルについている、3

人に配って回った。

「ありがとう、ポンちゃん、」夏美が、長い髪を絞って、ほほ笑んだ。

「オウ、」

「ほう...」外山が、両手で茶碗を取り上げた。

「これは...」堀内が、茶碗に顔を近づけた。「いい香りですねえ...」

「これは、新茶だよな...」ポン助が言った。「きのう、静岡から届いたものだよな、」

「なるほど...」外山が、茶をすすった。「深い香りだ...」

「はい...」夏美も、茶碗をそっと口から離し、笑窪を作った。

  ポン助も、自分の茶碗を片手で取り上げ、慎重に飲んだ。そして、満足そうにうなづいた。

 

「ええと...」夏美が、空の茶碗を、そっと脇に押しやった。「 1990年代の話からですね?」

「そうです...」外山が、両手で茶碗を包みながら、うなづいた。

1990年代の...」堀内が、コトリ、と茶碗を置いた。「初めと言えば...

  “ヒトゲノム計画”が、動き出した頃ですねえ...あの頃は、ヒトゲノム重要タンパク質/

遺伝子が、つぎつぎに解明されましたが...」

「そうです...」外山が、うなづいた。「その頃ですね...

  その時...“ATP・受容体”遺伝子も、幾つか見つかっています。遺伝子配列判明したの

で、これらの受容体が、様々な細胞発現していることを、実際確認できるようになったわけで

す。この時期に...“ATP・情報伝達系の研究”...新時代に突入しています...

「うーむ...」堀内が、脚を組み上げた。「まさに、“ヒトゲノム計画”威力ですね」

「そうだと思います...

  同時に...“プリン受容体”分子構造に関する研究も進みました。それから、ATP情報伝

にかかわる、“イオンチャネル(参考文献では、イオンチャネルとなっていますが、意味は同じです...今まで、イオ

ンチャネル、としてきたので、ここでもそれを踏襲します)や...酵素も、数多く発見されるようになりました」

「はい...」夏美が言った。

  ポン助が、飲み終わった茶碗を集めて回った。夏美が、その盆の上に、自分の茶碗をのせた。

「さて...」外山が言った。「この時...

  関係者予想どうり...“プリン受容体”には...“P1・受容体”“P2・受容体”という、

きな2つのグループが見つかりました。しかし、それぞれのグループには...予想以上に...

“様々なタイプの受容体/・・・様々なプリン受容体”...があることが、分かって来たのです」

「はい...」夏美が、髪を揺らし、頭をかしげた。

「そこで...」外山が、両手の指を組んだ。「いいですか...

  “様々なタイプの受容体/・・・色々なプリン受容体”があるならば...特定タイプ特定組

織・細胞の・・・その受容体にだけ作用する・・・特別な薬物...を、創出できる可能性があ

るわけです。

  事実、その通りで...そうした“ATP受容体”標的とした、医薬品開発されつつあります。

これについては、後で紹介しまましょう」

「はい...」夏美が、メモをチェックした。

「うーむ...」堀内が、うなった。「 1990年代から、すでに20年近くがたつわけですねえ...

  それだけ時間がたてば、だいぶ様相も変わって来るわけですね...?」

「そうです...」外山が、うなづいた。「ええと...

  この種のもので...すでに製品として販売されているが、2つほどあるようです。開発段階

のものは幾つもあります...ま、この説明は後回しにして、ともかく、順を追って話しましょう」

「はい、」夏美が、大きくうなづいた。

 

「当時...」外山が言った。「“ATP受容体”が、次々と見つかり...

  それらの構造は...大きく2種類に分類されることが、はっきりしてきたわけです。しかも、そ

れぞれが...“全く異なる方法で・・・情報伝達している”...ということも、分かって来たのです」

「ええと...」夏美が、髪を耳の後ろへ送った。「つまり...

  “P1・受容体”と、“P2・受容体”という...大きな2つのグループが、あるということですね。

そして...“全く異なる方法で・・・情報伝達している”...ということですね。

  “P1・受容体・・・アデノシンによって活性化”され...“P2・受容体は・・・ATPそのも

のによって・・・活性化”される...ということですよね?」

「その通りです...」外山が、大きくうなづいた。「ちなみに...

  ATPで活性化する・・・ P2・受容体の方は...さらに、“P2X・受容体”と、“P2Y・受容

体”に...分類/・・・クラス分け、されるわけです」

「はい...」夏美が、うなづいた。「そういうことですね、」

「ええ...」外山が、モニターの方に肩を寄せた。「さて...

  この、“P2X・受容体”というのは...“伝達物質活性化型・イオンチャンネル”...に、

類/クラス分け、されます。このクラスには...“グルタミン酸”“GABA”などの、“神経伝達

物質・受容体”が含まれます」

「ええと...」夏美も、モニターをのぞいた。「何だったかしら...

 “伝達物質活性化型・イオンチャンネル”...ですか。その中に、“グルタミン酸”“GABA”

などの...“神経伝達物質・受容体”が、含まれるというわけですね?」

「そうです...」外山が、うなづいた。「さて...“参考文献”もう1人の著者/カークたちは、

ですねえ...

  “P2X・受容体”に...“ATPが結合”すると...イオンチャンネルが開いて・・・ナトリウ

ムイオンと、大量のカルシウムイオンが・・・細胞の外から中へ流れ込む”...ことを示して

います」

「ふーむ...」堀内が、顎に手を当てた。「なるほど...

  “P2X・受容体”に...“ATPが結合”すると...“イオンチャンネル”が開く...というわけ

ですね。そして細胞の中へ...ナトリウムイオンと、大量のカルシウムイオンが流れ込む、わけ

ですか...そして、そのことがまた...次の反応を呼び起こす...ということですね?」

「そうです...」

“イオンチャンネル”とは...」夏美が言った。「そういうものだということですね...とりあえず、

これを、覚えておきますわ...」

「まあ...」外山が、口元で微笑した。「理解していれば、それでいいわけです...

  そして、いいですか...もう1つクラス“P2Y・受容体”の方は...これは、“代謝型・受容

体”1種です...この受容体は、開閉はしませんね。

  そのかわりに...細胞の外側に出ている部分に、“ATPが結合”すると...細胞の内側で、

一連の分子反応が始まり...小胞体などに蓄えられているカルシウムイオンが・・・ 細胞

質に放出...されます」

「はい...」夏美が、口にコブシを押し当てた。

「つまり...いいですか...

  “P2X・受容体”も、“P2Y・受容体”も...それが活性化すると...細胞内カルシウム

濃度が上昇するわけです...そして、様々な反応が始まり、細胞の働きが変化するわけです」

「はい...」夏美が、髪を揺らした。「つまり、こういうシステムが、解明されてきたわけですね?」

「ま、そういうことですね」

ATP・・・の作用/影響!>        

        wpe74.jpg (13742 バイト)            

 

「ええ...」外山が言った。「ここに、提示してある分子模型は...ATPとは関係のない、単なる

イメージですね。一応、お断りしておきます」

「はい...」夏美が言った。「ええと...

  ATPの分子模型は、“参考文献/日経サイエンス/2010.03/ATPの意外なはたらき”

トップに、大きく描かれています...それを、参考にして欲しいと思います」

「お願いします...」外山が、インターネット正面カメラに向かって、頭を下げた。「さて...

  “神経細胞から・・・放出された・・・ATP”は...シナプス間隙(/20ナノ・メートルほどの隙間)

で渡ります。そして、“様々なATP・受容体”キャッチされるわけですね...それから、“受容

体”活性化した後に起こる反応スピードは、実に様々です...

  “1/1000秒単位・・・の素早い反応”から...“数年もかかる・・・非常に緩やかな反応”もあ

ります。例えば...“P2X・受容体”活性化して...カルシウムイオン細胞内に流れ込む

と、“グルタミン酸”“GABA”など、他の神経伝達物質が...“すぐに・・・放出”されます...」

「はい...」

「こうした、素早い反応に対し...

  “P2Y・受容体”活性化して...細胞内カルシウム濃度が上昇すると...“細胞の増殖

に関係する遺伝子が発現して・・・組織が変化し・・・それが一生残る場合もある”...ということ

です」

一生ですか?」

「そうです...」

「ふーん...

  同じ、カルシウムイオンに作用しても...その影響する方向が、まるで違うわけですね?」

「そのようです...

  ともかく、...細胞の外でのATPは・・・短命ですが...その生物学的な効果は、極めて

広範囲に及ぶということです」

「ふーむ...」堀内が、うなった。「生物体・情報系の...複雑さが、垣間見えて来ますね...」

「はい、」夏美が、堀内にうなづいた。

細胞外の...」外山が、モニターに目を当てながら言った。「別の情報伝達システムとの相互作

を考え合わせると...ATP・情報伝達メカニズムは、さらに複雑なものになります」

「はい、」夏美が言った。

 

「さて、いいですか...」外山が言った。「少し、詳しく説明しましょう...

  “ほとんどの細胞の・・・外側表面”には...“エクト・ATP・アーゼ”と呼ばれるグループの、

酵素が存在します。この酵素は...実は、“ATPの・・・3つのリン酸を・・・1つずつ取り外し

て行く...のです」

「そうやって...」夏美が言った。「細胞の...エネルギー源にして行くわけですね?」

「そうです...

  御存じのように...“ATPとは・・・アデノシン3リン酸”ですね...そして、リン酸が1つとれて、

“ADP・・・アデノシン2リン酸になります。それから、さらに、もう1つリン酸がとれて、“AMP・・・

アデノシン1リン酸になります。

  “T・・・ tri/トリ ・・・ギリシア語で3つの”...D・・・ di /ジ ・・・2つの”...“M・・・ mono/

モノ・・・1つの”...ということに、なるわけです」

「そうですね...」堀内が言った。「ええと、参考までに...ギリシア語で数える時は...

 

  1/ モノ mono ...2/ ジ di ...3/ トリ tri ...4/ テトラ tetra ...

5/ ペンタ penta ...6/ ヘキサ hexa ...7/ ヘプタ hepta ...8/ オクタ octa ...

9/ ノナ nona ...10/ デカ deca ...

 

  ...になります」

「はい...」外山が、ニッコリとうなづき、頭を下げた。「ありがとうございます」

「はは...」堀内が笑った。

「うーん...」夏美が言った。「ADPは...double/英語...ではないのですね?」

「そうです...

  さて、ATPリン酸1つずつとれ...3つ全部とれると...最後にアデノシンだけになるわ

けですね。“それぞれの分解産物は・・・細胞に対して・・・それぞれ固有の作用...を持ち

ます。例えば、最後に残ったアデノシンは、前に述べた、“P1・受容体”結合するわけです」

「はい...」夏美が、うなづいた。

「こうしたものに比べると...」堀内が言った。「原子炉などは、本当にシンプルですねえ...」

「そうですね...生物体は、まさに複雑系です」

  夏美が、ポン助がワゴンを押し、部屋から出て行くのを眺めた。

                        wpe56.jpg (9977 バイト)    wpe4D.jpg (7943 バイト)

「ええと...」外山が、遠目にモニターを眺めた。「うーむ...

  東京慈恵会医科大学/医学部/加藤総夫(ふさお)・教授は...ええ...同大学/神経生理

学研究室・室長(/井上和秀とともに・・・参考文献を日本語に翻訳した1人)でも、あるようですが...

  この加藤総夫・教授は...呼吸/心拍/消化管運動などの...生命維持にかかわる脳幹

神経回路で...ATPアデノシンが・・・協力して働いている...ということを、明らかに

しています。

  逆に...ATPアデノシンが・・・相反的に働く場合もある...ようです。例えば、ある

種の、ニューロン(神経細胞)からニューロンへのシナプス伝達では...“アデノシンが・・・ATPの

放出を・・・抑えるように働く”...ようですねえ...ややこしいです、」

「なるほど...」堀内が言った。「ここも...非常に複雑ですねえ...」

 

「そうですね...」外山が、モニターをスクロールした。「ええと、いいですか...

  様々な生体反応で...“ATP”と...その分解産物/・・・“リン酸”と、“アデノシン”...そ

して、細胞の外側表面にある“エクト・ATP・アーゼ”が...“互いに作用しあって・・・自己調

節ループを形成し・・・情報伝達/情報交換”...を行っているようだ、と言います」

「うーむ...」堀内が言った。「一筋縄では、いきませんねえ...」

「さらに...」外山が言った。「ATPの作用影響を与えるのは...その分解産物だけではない

のです」

  夏美が、頭をかしげた。

「いいですか...

  “神経系で・・・ATP”は...他の神経伝達物質一緒に...共伝達物質・・・として放出

され・・・それらと協調的に働く...ようなのです」

「うーん...」夏美が言った。「他の神経伝達物質と、一緒に働く...“共伝達物質”としての

も、あるということですね、」

「そうです...

  1976年に...バーンストックが、この現象を発見しました。“1つのニューロンは・・・1種

類の神経伝達物質を・・・合成/貯蔵/放出する”...という、“長年続いた考え方は・・・ここか

ら・・・見直されて行く”...ことになります」

「つまり...」堀内が言った。「“個々のニューロンは・・・1種類の神経伝達物質しか、放出しな

い”...という、アレですね?」

「そうです...

  “コリン作動性・ニューロン”とか...“ドーパミン作動性・ニューロンとか呼ばれていたもので

すね...

  今日では...“ATPは・・・一般的に”...“ノルアドレナリン”や、“アセチルコリン”など...

“古くから知られている神経伝達物質と・・・ 一緒に放出される...ことが、数多くの研究

ら分かっているようです」

「うーむ...」堀内が、口の上に指を当てた。

「こうした...

  “ATPでの・・・発見”が、きっかけとなり...“GABAと・・・グリシン”...“ドーパミンと・・・

セロトニン”...“アセチルコリンと・・・グルタミン酸”...などというように...様々な神経伝

達物質の...“共放出現象”が見つかっています」

「はい...」夏美が、うなづいた。

「うーむ...」堀内が、頭をかしげた。「“共伝達物質”の...“共放出現象”ですか...

  つまり...“プリン作動性神経”というのも...すでに“そういう概念”は、存在しなくなったと

いうことですね?」

「詳しいことは、“参考文献”からは分かりませんが、そのようですね...

  まあ...このような、“共伝達物質”に関する発見からも分かるように...“ATPによる情報

伝達の研究”が...生理学的一般原理の発見をも、導いたわけです...

  ようやく、面目躍如めんもくやくにょ、ではなく・・・めんもくやくじょ・・・と読みます。確認してください)といったところ

でしょうか...」

「はい...」堀内が、白い歯を見せた。「最初は否定されていたわけですから...この分野の開

拓者たちの気持ちは、良く分かりますねえ...」

「そうですね...」外山も、明るく笑った。

  〔4〕 ATP・・・多彩な仕事/多彩な役割!    

          wpe74.jpg (13742 バイト)          

 

「さあ...」夏美が言った。「外山さん...

  ATPの多彩な仕事/役割ということですが、具体的には、どのようなことをしているのでしょう

か?」

「ええ...」外山が、椅子の背に上体をあずけた。「そうですねえ...

  ATPが、神経系細胞間で、情報伝達していることを考えると...ATP五感(視・聴・嗅・味・触

の5つの感覚)の働きに...重要な役割をしていても、不思議ではありません」

「はい...重要な役割を、しているということでしょうか?」

「そうです...」外山がうなづいた。「例えば、≪視覚≫です...

  視覚のシステムでは...“網膜”神経細胞上に、“ATP・受容体”があります。そして、

“光・受容細胞”である...“錐体(すいたい)“桿体(かんたい)から受け取った情報に応じて...

“神経細胞の・・・応答を調整”しているのです。

  さらに...“網膜”神経細胞が...“ATPとアセチルコリンを・・・“共放出(/・・・共放出現象)

し・・・脳の視覚中枢へ情報を伝達”...しているわけです」

                                                         <・・・・・詳しくは、こちらへどうぞ>

「うーん...」夏美が言った。「そんなことになっているのですか...」  

「ええ...」外山が、モニターをのぞいた。「こうした、日常的な役割の他に...

  胎児の、目の発達期段階において、ですが...“ATPによる情報伝達”が・・・それこそ、

一生にわたる影響”...を及ぼすことが...複数の研究から示されていますね、」

「あ...」夏美が、口に手を当てた。「ええと...

  先ほど言った...“一生にわたる影響”、ということですね。それは、どのようなものかしら?」

「そうですね...

  詳しいことは分かりませんが...イギリス/ウォーリック大学/ディール(Nicholas Dale)たちは、

胎児たちの初期・発育段階の...“ある重要な時期に・・・放出されるATPが・・・目の発生

を促すシグナル”...になっていることを、明らかにしています」

初期・発育段階ですか...」

「そうです...

  それから、≪聴覚≫でも...ATP重要な仕事をしています。聴覚を担う...“渦巻状器官

/蝸牛(かぎゅう)の形成においても・・・ATPは必須”...となります。そして成人でも、内耳の

働きには...“ATPによる情報伝達が・・・重要な役割”...を果たしているのです」

「それは、どのようなものでしょうか...」

「そうですね...

  ええ...ヒトではおよそ、5万個“有毛細胞(内耳で、音を電気信号に変換する細胞)が...“蝸牛”

並んでいるわけですが...その、“約半数に・・・ATP・受容体が存在”、するようです。“ATP

・受容体”は、“有毛細胞”“発火”を助け...電気信号発生に、役立っているのです...」

「ふーん...“発火”ですかあ...ともかく、聴覚でも重要な働きをしているわけですね、」

「そうですね...

  次は、≪味覚≫ですが...舌の表面にある、“味覚の受容器/味蕾(みらい)の端は...味・

神経線維とつながっています。そして、そこにある、“P2X・受容体”は、味に関する情報伝達

しています」

も...ですか、」

「そうです...」外山が、口元に微笑を浮かべ、モニターを見た。「ええと...これは...

  アメリカ/コロラド州立大学/キンナモン(Sue C.Kinnamon)たちですね。“参考文献”によれば、

非常に優れた研究を行っているということです。

  それは、舌の表面の...“味蕾から・・・味神経へ送られる情報伝達物質は・・・ATP”、であ

り...さらに、“P2X・受容体”、および“P2X・受容体”欠損したマウスでは...“味覚を

・・・失っている”、ということを示したのだそうです」

「うーん...」夏美が、うなった。「“P2X・受容体”“P2X・受容体”は、“P2X・受容体”

さらに細かく分類するものですね...?」

「そのとおりです...

  いいですか、ここで興味深いのは...舌の表面“味蕾”にある...“P2X・受容体”“P

2X・受容体”は...“ある種の・・・痛みの伝達”、にも関与していることです。“皮膚に放出さ

れたATPが・・・痛みを引き起こす”、ということは、すでに数十年前から知られているそうです」

「はい...」夏美が、うなづいた。「ずいぶんと、昔からなのですね、」

「そうですね...」外山が、眼鏡を押さえ、モニターに目を当てていた。「“参考文献”には、そうあ

ります... 1929年に、ATP発見されたわけですから、そのぐらい古くても、不思議はあり

ません...

「はい、」

「ええと...いいですか...

  イギリス/ロンドン大学/ガイズ・キングズ・セントトーマス校/医学部/マクマホン(Stephen

 Mcmahon)たちは...最近、こういうことを明らかにしたそうです。

  ええと...“接触・刺激”と...“痛み・刺激”反応する感覚神経に...“P2X・受容体”

あり...これは、ATPによって・・・これが活性化するために・・・痛みが生じる”...という

ことですね、」

「ええと...」夏美が、頭をかしげた。

「つまり...」堀内も、口を開いた。「舌の表面の...

  “味蕾”にある“P2X・受容体”は...“ATPが結合”すると、“痛み”が生じるわけですか?」

「いや...」外山が言った。「いいですか...

  “参考文献”では...“P2X・受容体”、および“P2X・受容体”欠損したマウスでは...

“味覚を・・・失っている”、と言っているわけです。そして、これらの受容体は...“ある種の痛

みの伝達にも・・・関与している”...関与している、ということですね、」

「うむ...」堀内が、口に手を当てた。「“言葉に・・・忠実に解釈”すれば、ということですね...」

「はは...」外山が、笑って見せた。「その通りです」

「あの...」夏美が言った。「それは...

  “P2X・受容体”は...舌の表面“味蕾”にあるだけでなく...他の細胞にもあるというこ

とでしょうか?」

「うーむ...」外山が言った。「“参考文献”からは、確認できません...

  しかし...“P2X・受容体”に、さらに細かなナンバーが入るということは...それが、特別

な臓器などに存在する、ということでしょう。“味蕾”他にも存在するのかも知れませんが、 こ

“P2X・受容体”標的とした薬は...現在・開発中ということです...」

「なるほど...」堀内が、椅子の背に上体を倒した。

「ええ...」外山が言った。「他にも...

  ≪神経細胞≫が、ダメージを受けた場合に起こる、“神経障害性疼痛(/神経因性疼痛とも呼ぶ)

にも、ATPが関与していますね...

  九州大学/大学院/薬学研究院/井上和秀・教授(/加藤総夫とともに・・・“参考文献”を日本語に翻訳した

1人。ATP受容体について、生理・薬理的研究を行っている)と...カナダ/トロント大学/ソルター(Michael Salter)

たちが行った...優れた研究があるということです」

「はい...」堀内が言った。

「それによると...

  神経損傷/・・・“神経障害性・疼痛”では...脊髄の、“ミクログリア・・・と呼ばれる免疫細

胞の・・・ATP・受容体が活性化”します。このミクログリアは、刺激に応じて、生理活性分子

放出します。それが神経過敏にするために、“神経障害性・疼痛が起こる、ということです」

「うーむ...」堀内が言った。「“ATP・受容体”というのは...

  人体に...非常に広範囲に...そして、深く関与しているわけですねえ...さすがに、“共

通エネルギー通貨”でもある...ということですか、」

「そうですね...」外山が、うなづいた。「ここで...

  ATPが関わっている、働きというものを、簡単にまとめておきましょう。他にも色々あります」

「はい...」夏美が、笑窪を作って、うなづいた。「お願いします!」

  〔5〕 ATP・・・人体の中での働き!     

              wpe74.jpg (13742 バイト)     

  
「ええ...」外山が、眼鏡をかけ直して言った。「ATPの...

  “シグナル分子・・・としての作用”...が、初めて明らかになったのは、前にも話しましたが、

神経細胞筋細胞間隙/・・・20ナノ・メートルほどをつなぐ情報伝達でした。

  その後...身体のあらゆる細胞で...“細胞のエネルギー源のATPが・・・情報の運搬を

もしている”...ことが分かって来ました。ここでは、まず循環器系を例にとり、“ATPの多様な

作用”について、その“様子/・・・概略”を、のぞいてみましょう」

「はい...」夏美が、頬に手を当てた。「ええと、外山さん...循環器系というと...?」

「ええと、そうですね...

  病院などで、よく循環器系という言葉を使いますが...脊椎動物では、心臓・血管・リンパ管

をさします。ここでは...“参考文献”にしたがい、循環器系のうちの、“血管に対する・・・ATPの

作用”、というものを見てみましょうか」

「はい!」

血管対する・・・ATPの作用       

          wpe74.jpg (13742 バイト)          

 

「まず...」外山が言った。「...@ ≪血管の収縮≫における...ATPの作用というものを、

見てみましょう...

  交感神経(高等・脊椎動物の神経系の1つ・・・自律機能を調節しているは...“神経伝達物質の ノルアドレ

ナリン と共に・・・ ATPを放出 ・・・”、します。これは前に説明した、“共放出”ということです。

  この... 交感神経 が放出したATPが・・・血管の 平滑筋細胞 にある P2X・受容体

 結合 すると・・・ただちに 血管が収縮 する”...ということです」

「なるほど...」堀内が言った。「“ノルアドレナリン”は...“共伝達物質”になるわけですね?」

「はい...」外山が、ポン助が用意した、オレンジ・ジュースに手を伸ばした。「そういうことです

ね...

  次に、A ≪血管の拡張≫ですが...“血流の変化”というものは、“血管の・・・内皮細胞を

(ゆが)ませ”ます。これを、“シアーストレス”と呼びます。この“歪み/シアーストレス”によって、

ATPが放出され、周辺の内皮細胞にある、“P2X・受容体”活性化するのです...

  すると... 血管弛緩因子 /一酸化窒素/NO が放出され・・・ 血管が弛緩 する”...

ということになります。つまり...“血管が・・・拡張する”...というわけですね」

「うーむ...」堀内が、顔をかしげた。「一酸化窒素/NOが・・・血管弛緩因子”なのですか、」

「そうです...」外山が、モニターに目を流した。「次は、B ≪血液の凝固≫に関する、ATP

作用ですね...

  いわゆる傷口/ダメージを受けた細胞 から・・・放出されるATPというのは・・・リン酸

が1つとれて、 ADPに分解 される”...ことになります。“その ADP が・・・ 血小板 にあ

P2Y・受容体 を活性化すると・・・ 血液が凝固/傷口をふさぐ ...ことになります、」

「はい...」夏美が、髪を耳の後ろに撫でた。「血友病患者では...それが、うまく機能しなく

なるわけですね...?」

「ええと...そうですねえ...

  血友病というのは...“血液凝固因子”欠乏のために、出血がしやすくなります。しかも、そ

“出血が・・・なかなか止まらない疾患”ですね。これは...“伴性(ばんせい)劣性遺伝”で...

方から遺伝し、男性に発現します。

  しかし...少数ですが...女性の血友病患者というのも、確認されています。インターネット

情報ですが...日本では、2007年時点で...34人女性・血友病患者が報告されているよ

うです」

血友病は...」夏美が言った。「“薬害エイズ事件”で...有名になったのですよね、」

「そうです...」外山が、うなづいた。「“ひどい事件”でした...

  事件は、終わりましたが、エイズに感染した患者は、今も苦しんでいるわけです。つまり、“HIV

(エイズウイルス)・ワクチン”が、いまだに出来ていないこともあり、現在でもパンデミック(世界的大流行)

の状態にあるからです。しかし、“薬物療法”の方は進み、平均寿命もずいぶん延びています」

「はい...普通の人並みとか、」

「そうですが...」外山が、首を振った。「経済環境・医療環境の整った先進国では...というこ

とです...“エイズの克服は・・・先進国に・・・重い使命と責任がある”...ということですね」

「はい!」

「さて...

  この、血友病は...欠乏因子血液製剤で補うことによって、症状を防ぐことができるのです。

“薬害エイズ事件”は、その血液製剤に、“HIV(エイズウイルス)混入していたわけですね。当時、

血友病・患者は、非常な恐怖だったと思います...」

「はい...」夏美が、うなづいた。「そんなことが、人為的に行われていたわけですね、」

「そうですね...だから、医療事故ではなく、“薬害事件”になったわけです。

  すでに、“加熱製剤”という、安全な薬剤普及していたわけですが...“非加熱製剤”在庫

処分をするために...“ウイルス感染の・・・危険性のある薬剤”を、使い続けていたわけです

ね。厚生省担当者も、これを黙認していたということで、結局、重い罪を問われたわけです」

「あの事件は...」夏美が言った。「結局...どう、決着したのでしょうか?」

「そうですね...

  最近...つい最近ですが...有罪判決が出たと思います。しかし、私は、裁判の方は専門で

はありません。詳しくは、その方面のホームページで確認してください」

「はい...」夏美が、目を閉じた。「そんなことで、犠牲になったは...戻ってくるわけではない

ですよね、」

「その通りです...」外山が、深くうなづいた。「さて、次は...C ≪細胞の増殖≫ですね...

  “梗塞(こうそく/ふさがって通じないこと)を起こした血管”を...手術で取り除くと...“手術でダメー

ジを受けた細胞は・・・ATPを放出”、します。“そのATPは・・・血管の 内皮細胞と平滑筋

にある ATP・受容体 と結合し・・・そこで、 細胞増殖を起こす ...ということになります。

  さて、この結果... 細胞増殖 で盛り上がるために・・・ 血管の内径 が・・・再び小さくな

る現象”...が起こります。この現象を...“動脈・再狭窄(どうみゃく・さいきょうさく)...と言います」

「うーむ...」堀内が、腕組みをした。「つまり...

  “梗塞を起こした血管”を...手術で取り除いても...手術で傷ついた組織が、細胞増殖で盛

り上がり...“再び・・・血管径を小さくしてしまう現象”がある...ということですね、」

「そういうことです、」

   

「外山さん...」夏美が言った。「ATPは...他の生物ではどうなのでしょうか。やはり、こんな

風に、機能しているのでしょうか?」

「ええと、そうですねえ...」外山が、モニター画面を、マウスでクリックした。「ああ、ここです...

  ええと...アメーバや...住血吸虫(じゅうけつきゅうちゅう/ヒトに感染するのは5種類・・・)など...原始的

な生物や、植物などでも...“ATP・受容体”は見つかっています。

  そのために,“ATPの・・・シグナル分子としての機能”は...“生命進化の・・・非常に早

い段階で・・・生まれてきた可能性がある”...と推測されているようです」

「はい...」夏美が、うなづいた。「それでは...

  “共通エネルギー通貨としても・・・ATP・情報系/シグナル分子”としても、“生命進化の

早い段階から・・・生物体に組み込まれてきた”...というわけかしら...?」

「そうですねえ...

  ええと...粘菌(ねんきん)“キイロタマホコリカビ”でも...ヒト“P2X・受容チャンネル”

よく似た...“ATP・受容体”が見つかっています。コイツが、この粘菌の、“細胞への・・・水の

取り込みと排泄を・・・制御している”、ということです」

「ええと...」夏美が、モニターを見た。「“キイロタマホコリカビ”ですか...」

「そうです...

  粘菌というのは、下等菌類1群です...植物分類上1門です。まあ...不定形・粘液状

原形質塊で...アメーバ運動をしますね。

  コイツ等には...“ムラサキホコリカビ”や、“カワホコリカビ”などという...ホコリカビと名の

つくヤツが多いようですねえ...はは...面白いですねえ...」

「はい...」夏美も、口元に微笑を浮かべ、うなづいた。 

 

ヒトの身体で働く・・・ATP風景               

           wpe74.jpg (13742 バイト)                  

 

「さて...」外山が言った。「話をヒトの身体に戻しましょう...

  ここまでは...“血管に対する・・・ATPの作用”、というものを見て来ましたが、今度は全身

を、ザッ、と見てみましょう...」

「はい、」

「ええ...

  生物体としてのヒトの全身で、ATPは... 神経伝達物質 として・・・ 脳機能 や、 感覚受

や、 筋肉 や、 器官 ・・・ 神経系の制御 に深く関わっている”...ことが、しだいに分

かって来ました」

「はい、」夏美が言った。

「一方...

  ATPが... 神経細胞・以外 から・・・放出された場合”は... 骨形成 や、 細胞増殖

などの・・・ 生体防御反応 ...を引き起こすようですねえ...」

「はい、」夏美が、髪を絞った。「その他に...

   もう1つの側面として...細胞や器官を動かす・・・ エネルギー源 ・・・共通エネルギー

通貨、として...“生命体としての・・・ 主要な役割 、を担っているわけですね、」

「その通りです...

  ええ、そういうわけで...ここで、ヒトの身体で、これまでに明らかにされて来た、“ATPの・・・

 多様な働き ”というものを、簡単に整理しておきましょう」

「はい...」夏美が、頭を下げた。

 

「まず...」外山が言った。「@ ≪脳≫においては...

   ATPは...神経細胞間...および、神経細胞グリア細胞(神経系の補助的な役割をはたす細胞)

の、“情報伝達を・・・調節している”...ということですねえ。化学シナプスでは、20nm(ナノ・メ

ートル)ほどの、シナプス間隙をつないでいるわけです。

  それから...ATPと、その分解生成物/アデノシンは... 睡眠・記憶・学習・運動 など

の・・・ 脳の活動 に関与”...しています。

  しかし、1方では...“過剰な情報伝達は・・・ てんかん 精神疾患 ...にも、関わって

いるようです」

“てんかん”ですか...」堀内が、顎をなでた。

「はい...」外山が、堀内に言った。「“参考文献”からは、これ以上の詳しいことは分かりません

が、」

「はい...」堀内が、うなづいた。

「ええと...それから..

  ATPは・・・ 組織の発達 傷口の修復 ...を、促すわけですが... 神経変性・疾

では・・・ 細胞死(アポトーシス)を促進 するようです」

「ふーむ...」堀内が言った。「なるほど...

  全体としての傾向は分かりますが...それをコマンド(命令)の形にするには、“ファジー(人間の

知覚・感情・判断にともなう曖昧さ)な・・・意識判断”...のようなものを感じますねえ...」

「それは...」外山が、指で唇をこすった。「つまり...

  “ATP・シグナル伝達物質の・・・さらに・・・ 背後にあるファジーなもの ...ということで

しょうか?」

「うーむ...

  そうですねえ。そうかも知れません。生物情報系が、仮にコンピューターの並列処理のような

ことをやっていたら...たちまち、“計算時間が膨大になり・・・システムが破裂”してしまいます」

「そうですね...」外山が、堀内を眺めた。

「それゆえに...」堀内が言った。「高杉・塾長は...

  “ 生物体を 統合管理 しているのは・・・ 無意識 をも含めた 意識ではないか ・・・”...と

いう仮説を立てたわけです。ここでは、複雑化するので、あえて“霊魂”というものは、避けている

わけですが...まあ、私としては、納得のできるものです...」

「ええと...」夏美が言った。「それが...“36億年の彼”という、≪ニューパラダイム・仮説≫

ですね?」

「そうです...」堀内が、夏美の方にうなづいた。「まあ...

  36億年の超時空間的人格 との・・・ 全/生命体のリンク という・・・壮大なパラダイ

ム”ですが...まだ、まとまっていません。時間的・熟成を待っているようです。

  ただ...その“リンク”でつながっている限り... 全/生物体は平等 であり・・・ 1つの巨

大な全体的/生命体 であり・・・ 新陳代謝の生滅 をくり返し・・・ 命は半永久に続く ...

ということですねえ。

  それは...細胞器官個体生態系と...ヒエラルキー(階層制)をなしています。ヒトの

個体では、60兆個の細胞常時/新陳代謝し...山々の樹木は、新しい葉をつけては枯れ葉

を落としています...そしてまた、個体も、も、生態系の中では、新陳代謝して行くわけです。

  それが、高杉・塾長の言う...エントロピー増大宇宙の中で、熱力学の第2法則拮抗してい

る... 生態系空間 ・・・ 多様性・複雑化のベクトル空間 ...だということですねえ。

  この視点が...“次世代の・・・新しい価値観”と、リンクする可能性があるというので...あ

えて、ここで、言及しておきました」 

「はい...」外山が言った。「いずれは...そういう段階の解明に、進んで行くのだと思います」

「はい...」夏美が言った。

 

「さて、次ですが...」外山が言った。「A ≪感覚器と神経系≫ですね...

  ATPは... 目・耳・鼻・舌 から・・・ 脳への情報伝達を制御 ...しています。それから、

痛みを感受する神経 では・・・ 脊髄に信号を伝達 ...しているようです」

「はい...」夏美が、うなづいた。「から...まで...ATP・シグナル関与

しているわけですね?」

「そうですね...」外山が、マウスに手を置いた。「しかし...

  そのメカニズムが...全て解明されているわけではありません...関与していることが、分

かってきた、という程度でしょう...」

「はい、」夏美が、コクリとうなづいた。

「ええと...次は、B ≪心臓≫ですね...

  ここでは...自律神経(/交感神経と副交感神経があり・・・その中枢は脊髄と脳幹から... ノルアドレナ

リン 共放出 されるATPは・・・ 心筋の収縮 を引き起こす”...ということです。この機能

が損なわれると...“不整脈”と、“血圧の異常な変化”を...引き起こすようです...」

「ふーむ...」堀内が、小さくうなづいた。「その、“共放出”に、異常が起こると...“不整脈”

原因になるわけですか。それと、“血圧の異常な変化”ですか...怖いですなあ、」

「何か、持病をお持ちですか...?」

「いや、そういうわけではないですがね...もう若くはないですから、」

「はは、そうですね...」外山が、笑った。「さて、次は、C ≪その他の臓器≫です...

  “消化過程の・・・ 小腸の収縮/酵素の分泌 ・・・ATP・情報伝達系が・・・ 重要な役割

を果たしている...ということですねえ。 膀胱 の・・・ 収縮と制御 でも・・・ATPが調節し

ている”...ということですねえ。

  それから... ペニスの勃起と弛緩 でも・・・ATP・情報伝達が・・・ 重要な役割 を果たし

ている...ということです。 内皮細胞 平滑筋 に向けて・・・神経からATPが放出され

ると・・・ 一酸化炭素/CO の生合成が高まり・・・ 平滑筋が弛緩 する”、というわけです」

  堀内が、うなづいた。

「あと...D ≪骨≫ですか...

  “骨”で...“ATP・受容体が・・・活性化”すると... 骨芽細胞 による 骨形成 が進み

・・・ 破骨細胞 による 骨破壊 が抑制される”...ということになりますね」

「はい...」夏美が言った。「骨芽細胞が、骨形成を活発化して...破骨細胞が、骨破壊を抑制

するのですね?」

「そうです...

  “骨を作るのが・・・骨芽細胞”“骨を壊す/溶かすのが・・・破骨細胞”です。2種骨細胞が、

交互に活動することによって、“骨”も絶えず新陳代謝し、生まれ変わっているのです」

「はい...“骨”も、そうなのですね、」

「まあ、“骨”細胞でできていますからね...

  ちなみに...破骨細胞活発になり過ぎると、“骨”スカスカになり、“骨粗しょう症”になりま

す。この破骨細胞の働きを抑えているのが...実は、女性ホルモンなのです。したがって、50代

を過ぎると、“骨粗しょう症”女性患者が、急増すると言います」

「うーん...」夏美が言った。「注意が必要ということですね...

  同じ食事内容で、カルシウムを補給していたのでは、“骨粗しょう症”になってしまうということ

ですね...?」

「ま、そういうことです...」外山が、顔を和ませた。「次は、E ≪皮膚≫ですね...

  “通常の・・・/ 新陳代謝・傷の治癒 において・・・ATPは・・・皮膚細胞の 新旧交代 を促

進している”...ということですね。また、 乾癬 (かんせん) 強皮症 などの疾患において・・・

おそらく・・・ 細胞の増殖 を引き起こしている”...ということのようですね。

  “参考文献”からは、これ以上の、詳しいことは分かりませんが...現在研究が進んでいる分

野なのでしょうか、」

「ふーむ...」堀内が、顎に手をかけ、うなった。「なるほど...

  ともかく、ATPは...“皮膚細胞の・・・新陳代謝”と...“乾癬”“強皮症”などの疾患では、

“細胞の増殖に・・・関与しているらしい”、というわけですか...」

「そんな所ですね...最後に、F ≪免疫系≫です...

  ええと... 傷ついた組織 から・・・ATPが放出”されると...“免疫細胞が・・・ 炎症

 治癒反応 を引き起こし・・・ 痛みを生ずる ...ということがあります。“炎症がひどいと・・・

 関節リウマチ ...などになります。

  それから...“ATP・シグナルは・・・ 感染細胞 を・・・ 免疫細胞が破壊する時 にも...

役立っているわけですね。

  いずれにしても、“参考文献”からは、これ以上の詳しいことは分かりません。もっと、詳しい情

が欲しい時は、その方面のホームページを参照してください...」

「はい...」夏美が、うなづいた。「あ、ポンちゃん、お茶をお願いね、」

「おう...準備ができているよな、」

  〔6〕 標的ATP・受容体・・・新薬開発!  wpe56.jpg (9977 バイト) 

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「うむ...」外山が、ポン助が置いた茶碗をつかんだ。「ありがとう...」

「ありがとう、ポンちゃん」夏美が、ポン助に小さく頭を下げた。

「私は...」堀内が、肩越しにポン助に言った。「もう一杯、オレンジジュースをもらおうか、」

「オウ、」ポン助が、ワゴンへ戻る。

  半分解けかけた氷を、コップにいっぱいに入れた。そこに、紙パックのジュースを注いだ。それ

を盆に載せ、堀内の所へ運んだ。

「すまんな...」堀内が手を伸ばし、コップを受け取った。

「ジュースを置いて行くぞ、」ポン助が、テーブルに紙パックのジュースを置いた。

「うむ...」堀内が、コップに口をつけながら、うなづいた。

“新薬の開発”で、終わりですね...」夏美が言った。「みんなで、ビアガーデンへくり出しましょ

うか?」

「いいですねえ...はは、」外山が、茶碗を片手に持ち、口へ運びながら言った。

「そうしますか...」堀内が、氷だけになったコップを、テーブルに置いた。

「それじゃ、頑張りましょうか、」夏美が言った。   

疼痛血栓症・・・新薬開発!         

          wpe74.jpg (13742 バイト)    


「ええ...」外山が、モニターを眺め、茶碗をそっと置いた。「これまで、述べてきたように...

  “ATP・受容体”機能というものが、しだいに明らかになって来たわけです。そこで、多くの製

薬会社が、まず... 神経障害 炎症 による・・・ 痛みを抑える新薬 ターゲットとして、

“P2X・受容体”を、研究しているようです。

  他にも... ATP や、 ATP・受容体 をターゲットに・・・ 治療できそうな対象は多数

あるようです」

「はい...」夏美が、そっと茶碗を脇の方へ押した。

細胞は...」外山が、マウスに手を置いて、言った。「ストレスや、物理的障害を受けると、ATP

細胞外へ放出します...」

「はい...」夏美が、うなづいた。「つまり...普通の細胞は、ということですね?」

「そうですね...」外山が、うなづいた。「このような場合には...

  先ほども言ったように...“ATPは・・・ 防御反応 や、 治癒反応 を引き起こす”...とい

うことです」

「ふーん...」夏美が言った。「ええと...確認しますが...

  “神経細胞以外の細胞から・・・ATPが放出された場合”...ということになりますね?」

「そうです...」外山が、ゆっくりと肩をかしげた。「例えばですねえ...

  血小板表面には...“P2Y12・タイプ/型”の、“ATP・受容体”があります。傷口ができ

て、この血小板“ATP・受容体”が、ATP・シグナルを受け取ると...“血小板が凝集”し...

傷口からの出血を止めるために... “血栓” ...が作られるわけです」

「はい...」夏美が、モニターをチェックした。「血友病患者では、それがうまく機能しなくなる、

ということかしら?」

「まあ、そうですね...

  いいですか、ここが肝心ですが...これと同じ仕組み血小板が凝集 し...“ 血管内に

 血栓 が作られると・・・ 心臓発作  脳卒中 につながる”...ということです」

「はい...」夏美が、顎に手を当てた。「うーん...“心臓発作”や、“脳卒中”ですかあ...」

「さて...」外山が、モニターに目を流した。「ええ...

  よく使用されている...“抗血栓薬/クロピドグレル”は...血小板“P2Y12・受容体”

ブロックします...そうすることによって、血液凝固を防ぐわけですねえ...ええと、これは、

つまり...すでに商品が、市場に出回っているわけですね」

「はい...」夏美が、“参考文献”を眺めた。

「他にも...

  “冠動脈・疾患”向けの、同じような作用の薬についても...現在、臨床試験が行われている

ようです」

「はい、」

消化器系・疾患・・・の新薬開発!>       wpeA.jpg (42909 バイト)         

      wpe74.jpg (13742 バイト)        


「さて...」外山が、モニターを見た。「同様に...

  “ATP・受容体”で、治療対象として有望視されているのが...“消化器系の疾患”です。アメ

リカ/ミシガン州/ミシガン州立大学/ギャリガン(James J.Galligan)たちは...

  “小腸の 神経系 から放出されたATP”が...腸壁にある、“P2X・受容体”“P2Y・受

容体”に作用して... リズミカルな収縮を制御 し・・・ 腸管内の食物を運搬 ...をしてい

ることを、明らかにしました。

  一方、いいですか...腸壁内側表面粘膜にある... P2Y・受容体 に・・・ATPが結合

すると・・・ 消化酵素が分泌 ...されるということです」

「はい...」夏美が、顔を上げた。「あの...外山さん...

  小腸の神経系から放出されたATPも...同じ表面粘膜にある、“P2Y・受容体”結合する

のでしょうか?」

「うーむ...そうですねえ...それは、“参考文献”からは分かりません。色々な、タイプ/型も、

あるようですから...」

「はい...」夏美が、うなづいた。

「さて...いいですか...

  これらの、“ATP・受容体に・・・作用する 新薬 というのは... 消化酵素の分泌 を・・・

 調節が可能 ですので...“過敏性腸症候群”や、“さらに症状の重い・・・クローン病”に対す

る...効果的な治療薬として期待されます。

  まあ...この辺りは製薬会社で、さかんに研究が進められている領域のようです...」

「ふーむ...」堀内が言った。「なるほど...

  新薬開発というのは...そういう風に、ターゲットを絞り...周辺の情報リサーチして行くと

いうことですね、」

「そうですね...

  周辺に...何が、転がっているか分かりません。とんでもない発見があるかも知れませんし、

悪魔のトラップが口を開けているかもしれません。ともかく、人体に使用する薬剤ですから、細胞

動物実験による十分な検証と...人体による、臨床試験が必要になります...」

大きなギャンブルを...」堀内が、重ねて言った。「やっているようなものですね、」

「まあ、そうした要素もあります...

  しかし、その準備と、態勢...忍耐力...そしてそれを、見逃さない眼力のある所に、新発見

と、成功の果実出現します。これは、医学以外の研究分野でも...そうですがね...」

「確かに...」堀内が、うなづいて、ほくそ笑んだ。

「うーん...」夏美が、頭を振って見せた。「だから...新薬承認されるまでは、ずいぶんと

がかかるわけですね?」

「そうですねえ...」堀内が言った。「時間と...莫大な費用と...患者の協力も...必要にな

ります」

「はい...」夏美が、コクリとうなづいた。

 

「さて...」外山が言った。「もう少しです。話を進めましょう」

「はい、」夏美が、姿勢を正した。

「ともかく...

  ATPは...他の器官組織の働きにも関与しているので...非常に多くの疾患で、創薬の

可能性が浮かび上がっています。

   腎臓、骨、膀胱、皮膚 ・・・それから・・・ 神経系や、精神系の疾患 まで...その対象

になっています」

「将来的には...

  そうした方面の...“ATP・受容体”ターゲットとした薬剤も...開発されて行く可能性があ

る、ということですね?」

「そういうことです...

  しかし、さらに重要なことがあります。それは...“ATPは・・・ 天然の抗ガン剤 としての、

可能性を秘めている、ということです」

“天然の・・・抗ガン剤”ですか...?」

「そうです...

  ええと...アメリカ/マサチューセッツ州/ボストン大学(BU)/医学部/ラパポート(Eliezer

Rapaport)は... 1983年在籍当時...“ATPに・・・ 腫瘍を殺す効果 がある”、と報告し

ています」

「あの...」夏美が言った。「その前に、外山さん...

  ボストン大学/Boston University/通称BUですが...日本では、同じようにボストン大学

として紹介されることのある、Boston College/通称BCとは...全く違う大学ですよね?」

「そうです...」堀内の方が、満面に顔を崩して、うなづいた。「私は...

  アメリカにいた時、Boston University/BU へは、しばらく通ったことがあります。ここは、

米で4番目の規模を誇る大学です。そして、古くから、有色人種女性留学生を、積極的に受

け入れていることでも、広く知られています。

  あ、それから...2008年日本人ノーベル化学賞を受賞した、下村脩(しもむら おさむ)が、

ここの名誉教授となっています。

  一方、Boston College/BC の方は...アメリカで最も古い“イエズス会”経営する大学

の1つです...つまり、カトリック系の大学ということですね...」

“イエズス会”というのは...」夏美が、堀内に言った。「あの、戦国時代に日本にやって来た、

フランシスコ・ザビエルだったかしら...あの、“イエズス会”かしら?」

「まあ...」堀内が笑った。「そうですね...」

「堀内さんが、ボストン大学に行っていたというのは、初めて聞きましたわ」

「そうですかね...最初は、1年いました。しかし、まあ、長くいたのは、カリフォルニアですね、」

 

「ええ...」外山が言った。「いいですか...話を進めます...」

「はい...」夏美が言った。

「ええと...

  “ATPに・・・ 腫瘍を殺す効果 がある”、という話に戻りましょう。実は、これも...ATP・情

報伝達と同様に、当初懐疑的に見られていたようです。しかし、その後、多くの科学者がそれ

ぞれが独立的に、よい仕事をしています。

  ちなみに...メラノーマ(悪性黒色腫)前立腺ガン乳ガン大腸ガン卵巣ガン食道ガン...

などで...“ATPが・・・ 腫瘍の成長を抑制する ...ということを、明らかにしています」

「どのように、抑制するのでしょうか?」堀内が聞いた。

「そうですねえ...

  ATPは...ガン細胞に... 自殺 や・・・ 異なる性質の細胞への分化 を促し...“ガン

細胞の・・・ 増殖を遅らせている ...ということのようです」

「なるほど...」堀内が言った。

「ええ、さて...

  ATP・情報伝達に関する知見をもとに...新薬を探索し...臨床の場で使えるようにするに

は、さらなる研究が必要だと言います。

  多くの研究所製薬会社では... 特定のATP・受容体型 だけを・・・ 活性化/抑制

きるような薬”...あるいは、“ATPの放出や代謝分解を・・・ 調節するような薬 ...を求

めて、研究を進めているようです...」

  夏美が、うなづいた。

「ええと...」外山が言った。「“ATP・受容体”標的とした...開発中の医薬品1部を、紹介

しておきましょう」

「はい...」夏美が、“参考文献”に目を落とした。「ええと...これらは...

  すでに販売中のものもありすが...市場一般患者に使用し...さらに多くのデータを集め

て...監視を続行しているわけですね?」

「そうです...」外山が、うなづいた。「特に...認可されたばかりの新薬は...慎重に監視して

いるはずです」


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    “ATP・受容体”  を標的とした・・・医薬品開発 

 
                                 

 

嚢胞性線維症 (のうほうせい・せんいしょう・・・/遺伝性疾患の一種で、常染色体劣性遺伝を示す。

                                    白人に高頻度で見られる)

    薬剤 :  デヌフォソール    作用メカニズム :  P2Y・受容体  刺激

                        開発段階 :  後期有効性・臨床試験中>

 

ドライアイ

    薬剤 :  ジクアフォソール  / 作用メカニズム :  P2Y・受容体  刺激

                        開発段階 :  後期有効性・臨床試験中>

 

炎症

    薬剤 :  EVT401       作用メカニズム :  P2X・受容体  阻害

                         開発段階 :  安全性・臨床試験/終了

 

疼痛

    薬剤 : GSK1482160  作用メカニズム :  P2X・受容体  阻害

                        開発段階 :  安全性・臨床試験中>

    薬剤 名称未定       作用メカニズム :  P2X・受容体  および、

        (エボテック社)                 P2X2/3・受容体  を阻害

                        開発段階  細胞・動物実験中>

 

リウマチ

    薬剤 : CE−224、535  作用メカニズム :  P2X・受容体  阻害

                          開発段階 :  後期有効性・臨床試験/終了

        AZD9056     作用メカニズム :  P2X・受容体  阻害 

                         開発段階 :  安全性・臨床試験   /終了

 

血栓症 (異常な血液凝固)

    薬剤 : クロピドグレル   / 作用メカニズム :  P2Y12・受容体  阻害

                       開発段階 :    販売中        >

   薬剤 : プラスグレル     作用メカニズム :  P2Y12・受容体  阻害 

                       開発段階 :    販売中 (/日本では未承認 )

   薬剤 : PRT060128   作用メカニズム :  P2Y12・受容体  阻害 

                       <開発段階 :  安全性・有効性・臨床試験中

   薬剤 : チカグレロール  /  作用メカニズム :  P2Y12・受容体  阻害 

                       <開発段階 :  後期有効性・臨床試験中

 

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  〔7〕 まとめ・・・ 究極のシグナル分子!  

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「ええ、さて...」外山が言った。「色々と言ってきましたが、この辺りでまとめに入りましょうか」

「はい、」夏美が、顔を上げ、うなづいた。

  堀内も、うなづいた。

ATPは...

  “共通のエネルギー通貨”として、また“情報伝達・分子”として...体中大量に存在します。

そのために...“1つの臓器や組織だけに作用し・・・体の他の部位に副作用を起こさない

・・・医薬品として開発する”...のは、非常に難しいように思われるかもしれません。

  しかし... 異なる種類の細胞 で・・・ タイプ/型 の異なる・・・ ATP・受容体 ...が、

見つかっているわけです。したがって、 特定の組織をターゲット ・・・とすることも可能!”

になると思われるわけです」

「ふーむ...」堀内が、言った。「なるほど...

  “ATP・受容体”の方に...“様々なタイプ/型”があるというわけですねえ...“ATP・情報

系システム”が、そのようになっていると...」

「そうです...

  “参考文献”の、著者の1人/カークは...“特別な・・・ATP・受容体”を...遺伝子操作

作り出し...培養細胞実験用マウス発現させ...

  それで...“P2X・受容体”の、“機能の・・・微妙な違い”...というものを、調べているよう

です...」

「ふーむ...」堀内が、顎にコブシを当てた。「なるほど...

  “P2X・受容体”にも、“様々なタイプ/型”があるわけですからねえ。その、“微妙な違い”

すか...まず、そこを埋めて行くということですか、」

「まあ...

  “ATP・受容体の・・・生体内での機能”...を明らかにする方法は、他にも色々あります...」

「例えば...?」

「そうですねえ...」外山が、モニターをスクロールした。「ええ...

  過去20年間で...最も重要な発見の1つは...アメリカ/オレゴン健康科学大学(OHSU)

グーオー(Eric Gouaux)たちがですねえ...ええと、ゼブラフィッシュですか...この魚の、“P2X

・受容体チャンネル”の...“立体構造”...を解明したこと、だそうです」

「何ですか...?

  ゼブラフィッシュの...“P2X・受容体チャンネル”の...タンパク質の立体構造ですか?」

「そうです...

  “P2X・受容体チャンネル”の...立体構造を解明したようですね。これは、“参考文献”の、

77ページの一番下に...その概略図が掲載されています...分かりますか...?」

「ああ...はい...」堀内が、夏美の指し示す...“参考文献”...の図を見て、うなづいた。

「これは...」夏美が言った。「 2009年に...明らかになったばかりですね?」

「そうですね...」外山が、眼鏡の奥の顔を崩した。「非常にホットな状況のようです」

「ふむ...」堀内が、静かに息を吐いた。

「さあ...」外山が言った。「この画期的な成果によって...

  “ATP・受容体がどのように働くのか・・・ 原子スケール で分かるようになる”...のだ

そうです。したがって...ATP・情報伝達仕組みを... 分子レベル から・・・ 生理システ

ム全体のレベル まで...“幅広く理解する道”、が開かれるのだそうです」

「なるほど...」堀内が、肩をかしげた。「すると...創薬の過程も、大幅に進展する、ということ

になりますか?」

「当然、そうなると思います...

  前にも言いましたが...最近の報告によりますと...藻類アメーバ住血吸虫などの

始的な生物や、植物でも...“ATP・受容体”が見つかっているわけです。

  したがって...“ATP・情報伝達を・・・ターゲットとした・・・薬物開発”は...農業や、感染

症治療にまで...広範に拡大する可能性があるようです」

「ふーむ...」

「ええ...最後になりますが...」夏美が言った。「私の方から...

  最近の、“ATP・受容体”の研究で、成果を上げた日本人・研究者を紹介しておきます...」



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  “ATP・受容体” /日本人研究者の・・・成果!   

          wpe1D.jpg (34276 バイト)       

  

2003年・・・

  九州大学/津田誠・准教授、井上和秀・教授(参考文献の日本語訳者)は...脊髄

ミクログリアと呼ばれる免疫細胞にある、“P2X・受容体”が...

  多くの患者を長期的に苦しめている、“慢性疼痛の発症にかかわる”...という

ことを示しました。

 

2004年・・・

  現・山梨大学/小泉修一・教授は...グリア細胞の間の情報伝達を...

“ATP・受容体”が行っている...ということを明らかにしました。

 

  東京慈恵会医科大学/加藤総夫・教授(参考文献の日本語訳者)と、繁富英治・博士

研究員は...

  “P2X・受容体”が、活性化して...神経伝達物質が放出されると...その

効果が非常に強いこと...

  したがって...1970年度のノーベル賞・受賞者/カッツ(Bernard Katz)が提唱

し、“40年あまり信じられてきた法則”に...“あてはまらない!”...ことを発見

しました。

 

2005年・・・

  東京大学/安藤譲二・教授、山本希美子・講師は...血管内皮細胞が、

“ATPの放出”と、“P2X・受容体”活性化によって...“局所的・・・かつ自律

的に・・・血管の収縮を調整”...していることを...明らかにしました。

 

2007年・・・

  前出の、山梨大学/小泉修一・教授と、九州大学/井上和秀・教授たちは...

“脳内のミクログリア”が...“P2Y・受容体”活性化によって...死んだ細胞

どを食べ...“脳内を掃除すること”を...発見しました。

 

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「ええ、夏美です...

  暑い中、ご静聴ありがとうございました。生物体の中で、ATP・情報系というもの

が、クローズアップして来たようですね。既存の生体情報系と合わせ、ATP・情報系

というものが、今後、どのように解明されて行くのでしょうか。楽しみです。

  ええと...堀内秀雄さんと、秋月茜さんたちは...《軽井沢基地》で、“生体ウ

エアー”の考察を進めています。堀内さんも、すぐまた、駆け付ける予定になってい

ます。そちらの動向ともあわせ、注目して行きたいと思います。

 

  時代は...“文明の第2ステージ/エネルギー・産業革命”/・・・“機械科学の

文明・・・”から...“文明の第3ステージ/意識・情報革命”/・・・“生体科学の

明・・・”へ...パラダイム大きくシフトして行くことが、期待されるのだそうです。

  それが、“人類文明存続の必須要件”となる様相ですが...どのように推移して

行くのでしょうか。注目したいと思います。そして、私たちも、しっかりと考え、しっか

りと見守って行きたいと思います...

  ええ、そんなわけで...どうぞ、今後の展開に...ご期待下さい!」