小野田線乗車記2
さて、そろそろメインイベントの小野田線に乗りにいきたい。門司港駅から電車で行くことにした。門司港駅から乗り込む。ビックリ!普通電車なのに、何と、転換式クロスシートじゃないか!どこかでその旨本で読んだことがあり、知識としては知っていたが、こうして乗ってみると改めてその車両の質の高さに驚く。西日本の方がスピード、車両の質とも良く、東に行くほどレベルが下がると良く言われるが、それを実感。まあ、東京は輸送密度が他の地域と比べて遙かに濃いから、一概には言えないのだろうが。
門司で下関行きに乗り換え。ここから先はロングシート。トンネルをくぐるとそこは本州だった。下関で更に乗り換え、山陽本線を東に進む。小野田駅で下車。小野田では30分ほど待ち時間がある。駅そばでも食べようと思っていたが甘かった。何もない。食事をするのであれば、下関駅でしておくべきだった。青春18きっぷがあれば、駅の外に出て散策する所だが、あいにく普通乗車券のため途中下車不能。ホームの待合室もないため寒い。仕方なく、自販機でホットコーンスープを買って暖まる。
そこへ、小野田線の電車がようやくやってきた。小野田発宇部新川行き。クモハ123というワンマン電車。小野田線の本線上はこれが走っている。本山支線でも、老齢のクモハ42が不調の時はクモハ123が代打を務める。3/15以降、クモハ42が引退してからは、このクモハ123が本山支線を走ることになるという。私はこの時点で、本日クモハ42に乗れるかどうか分からなかったため(通常は乗れるはずだが、前述の通りクモハ42が不調という事もあり得る)、「運が悪いとこんなのに乗らないといけないのか」と不安になった。遠くから乗りに来て、こんなのにしか乗れないということになれば、不運だ。
別に古いのが良くて新しいのがダメなんて申す気は全くございません。JRだって今や営利企業。効率の良い運用をして利益をあげないといけない。古すぎて整備にお金や手間が掛かる電車を使うべきなんて思わない。しかし、このクモハ123、いけないところが1つある。ウルサいのだ。これは乗った方なら分かっていただけるだろう。フワーンという音が、ずーっとずーっと鳴り続けているのである。加速時だけでなく、停車時も常に。京王の6000系(都営新宿線直通用に使われている黄色いやつ)で、時々うるさいのが来ることがあるが、あんな感じの音。音程は「ファのシャープ」と「ドのシャープ」の和音。補助として、「ラのシャープ」の音を鼻歌で付け加えてしまった。というのはウソ。この電車の場合、「ファのシャープ」が少し低いため、あまり綺麗な和音ではない。これを乗っている間、休むことなく聞かされ続けるのだ。気が狂いそうである(大げさ)。気にならない人はいっこうに構わないのだろうが、私にとっては苦痛な電車であった。
車内は混んでいる。鉄道マニアの姿は見えず、地元の高校生が多い。さて、本山支線との乗換駅、雀田に着く。おうおう、いるいる、カメラを持った人々や、三脚を抱えたお兄さん達。大勢集まっている。こりゃ、ラッキーにも、クモハ42に乗れそうだな。。。
おおっ、これか〜!(ここで私が携帯電話で掲示板に投稿した訳である)唐突にクモハ42が現れた(嘘、ずっとそこに止まっていたが、私がその時気付いただけ。なんて、わざわざ解説する事もないか)。雑誌やインターネットでの紹介写真では、下から見上げたアングルの物が多い。その方が立派に見えるからだ。そのため、何だか巨大な車両を想像していた(おかしな話だが)。だが、そこにあるのは、普通のサイズの電車だった(当たり前)。たった一両。もう暗くなり始めている。車体の色がチョコレート色のため、夕暮れ時とマッチし、目立たない。こじんまりと佇んでいる。そのために発見が遅れたのである。

真っ白な車体に青と赤のラインが引かれて暗くても目立つ上、フワーンと巨大な音を発し続けているクモハ123と、真っ茶色で暗がりに溶け込んでしまい、音も立てずに次の発車を待つクモハ42。新旧揃い踏み。非常に対照的。まもなく私が乗ってきたクモハ123は宇部新川に向けて発車してしまった。うるさい変な和音が漸く消えた。やれやれ。早くあっちへ行け。もう来るな。しっしっ(ヒドい)。せめてもうちょい和音が綺麗だったら良かった物を(しつこい)。
クモハ42の最後の1台、クモハ42001がそこに停まっていた。もともと15台くらい、42015位まであったらしい。数年前までクモハ42006があったが廃車、解体。最後の生き残りクモハ42001に部品を譲り、消えていった。かつて東海道線や飯田線を走っていたこともあるらしい。
私がここでどのように表現しても、本やインターネットで読んだことの受け売りになってしまうが、とにかく70年生き抜いてきた威厳があった。旅先で荘厳な建物を目の前にして、なんだか厳粛な気分になる事がある。自分でも不思議な感覚だったが、この電車に対しても同じような感情を持った。長年使われてきた建物には昔の人々の伝えてきた重みがある。電車と建物とは違うはずだが、同じように感じたのが面白い。この電車は戦争・高度成長期・バブル時代・平成不況と日本の歴史を共にしてきたわけだが、この電車に乗り日本を作ってきた先輩達に対する敬意を持った。旅先で感傷的になったのかも知れないが、この時は確かにそう感じた。
車内に入る。木製の床と椅子。昔、子供の頃通った病院がこんな感じだった。銀河鉄道999の二等車(鉄郎やメーテルが乗っていた所)を思い出す。セミクロスシート。椅子は垂直。黒電話がジリジリジリと鳴り出そうだ。ここで何十万人もの人が乗り降りしたはずだそうだ。軍人さん、疎開の学生、戦後の闇市へ買い物へ行く人、高度成長期の工場地帯へ働きに行く工員等が乗り降りしている所を想像した。ここで恋が生まれた事もあっただろうし、ケンカしたり仲直りしたり、怒ったり笑ったりしていたのだろう。と、しばしイマジネーションの世界を楽しんだ(妄想に耽ったとも言う)。
車内は殆どが鉄道マニア。乗客は15人程か。青春18きっぷシーズンでないため、鉄道マニアの中では裕福な部類に入る人々なのかも知れない。高そうなカメラや立派な三脚を持った人が多かった。青春18きっぷユーザーみたいにガツガツしておらず(みんがそうだとは言いませんが)、心にもお金にも時間にも余裕がある人々が多かったのかも知れない。乗車マナーは良かったのではないだろうか。ただ、フラッシュを大勢で焚きまくるのでまぶしくて閉口したが。
長門本山へ向けて発車。途中浜河内という駅があるが、何もない。ここは鉄道マニアが撮影ポイントへ行くためだけの駅である。終点長門本山へ。もう外は暗くなっている。折り返しまで10分程ある。外に出てみる。昔は石炭で栄えた駅だそうだが、今は駅前には道路があるだけ。店もジュースの自販機もない。先ほど下関で買ったフグハガキを、駅前のポストから投函。ミレ坊ちゃんやもえちゃんにはいつ届くかな?
「すいませ〜ん」と女性に声を掛けられる。なんだ?こんな所でキャッチセールスか?見ると若い。「課外研究なんですけど、質問して良いですか?」中学校の宿題だそうだ。
「電車は好きですか?」「え?うーん、まー、そうだね」
「どこから来ましたか?」「東京」「遠いですね」
「どうやって来ましたか?」「飛行機」
「これで何回目ですか?」「始めて」
「3/14の引退までにまた来ますか?」「いや、多分もう来れない」
「乗ってどう思いましたか?」「え?あー、いやー、こんな古い物が今まで残っていたのはすごいことだな、と・・・」「有り難うございました」
調査終了。今度は私がインタビューする番。
「君高校生?」「いえ、中学生です」
「今まで何人くらい話聞けた?」「え?10人くらい・・・」
「いつまでやるの?」「明日位まで」
この辺で解放してあげる。その女子中学生は別のおじさんにインタビューしていた。
「電車は好きですか?」「え?うん、まーね」と私と同じように答えたいたのが面白い。「大好き!」と胸を張って言えない所がつらい。
クモハ42の最後の生き残り、クモハ42001の本日最後の出走(競馬みたい)。宇部新川まで延長運転となる。これが目当てだったのだ。長門本山で撮影していた人々も大勢乗ってくる。でも、中には乗らずに発車する電車をとり続けている人々もいる。どうやって帰るのか?と思うが、車で来たのだろう。途中の浜河内からも撮影を終えた人々が乗ってくる。雀田着。ここで車内アナウンス。「宇部新川へは小野田からの電車が先着します。宇部新川へお急ぎのお客様、お乗り換え下さい」マニアは誰も乗り換えないが、地元の人は乗り換えていった。そう、この電車の面白いところは、今でも地元の足だと言うこと。以前廃線直前に乗りに行った深名線など、名寄〜朱鞠内間はマニアしか乗っていなかった。この小野田線ではマニアと地元客が仲良く共存している。どうか、廃止直前の青春18きっぷユーザーの皆様は、地元客の邪魔をしないように、マナーを守って乗車頂きたい。。。
小野田発宇部新川行きの電車が来る。例のクモハ123の和音が聞こえてくる。そして先に行ってしまった。雀田駅で外に出ると、マニアの成年が地元の人に得意そうに解説をしていた。地元の人が「久々に来てみたら、大勢乗客がいてびっくりしたよ」という話をしたところ、マニア氏は色々とこの車両の貴重さについて解説しており、私もそばで聞かせていただいた。マニアと地元客の共存、素晴らしい風景だ。地元客はマニアを迷惑そうな目で見るのが常なのだ(というのは大げさか)。
雀田を出て宇部新川に向かう。やはり、長時間乗車の方がよく味わえる。エンジン音が独特だそうで、録音しているマニアもいた。最近の電車の加速時の音は高い音が多い。下手をするとファソラシドレミファソ〜と音階だったりする。またはプワーンと高い音だ。しかし、このクモハ42はウウウ〜と低い唸り声を上げる。これは文で書いても仕方ないので体験していただくしかないが。小野田市から宇部市に入り、宇部新川で終点。車庫に消えていった。
停車中のクモハ123が相変わらずうるさい和音を響かせている。駅の外に出ても、駅前広場まで聞こえてくる。勘弁してくれ〜。本日宿泊の宇部全日空ホテルへ。一人旅だと、部屋に入ったときの虚しさがつらい。あと、寝るときに寂しい。好きで一人旅をしている訳だが、宿の部屋に入る時だけは仲間が欲しいと思う。
高いがホテルのレストランへ。なんと!近くの席で、悪徳商法の勧誘をしているではないか!旅先でそんなものを目撃するなんて!私は本を読む振りをしながら聞き耳を立てる。スーツを着たサラリーマン風の勧誘員と、いかにも世間知らずっぽい、私服のお客様(カモ)が話している。
「ですから、会員になりますと、この様な特典が・・・」
カモ氏の方も、欲の皮が突っ張っているのか、すぐに首を縦には振らず「でも、・・・なんですよね?」と色々質問している。ただ、断るのであれば席を立って出ていくだろうから、話を聞いているだけでもやはりカモなのだろう。いつのまにか、会員特典の話から、話題は支払の話に移っている。「来週の何曜日までなら10万円口座に入金できますか?」と。いつのまにか話題が変わっているのに、カモ氏は気付かない。「では、こちらに住所・名前をご記入を・・・。あっ、すいません、ちょっと席を外します」と勧誘員は席を立ってしまった。携帯電話がちょうどかかってきたという芝居だろうが、書いている所をじっと見られていると正気に返るかも知れないからか、1人で記入させるみたいだ。後で揉めても「あくまで強制ではなく、ご自身の意思で記入して頂いた」という事になるのだろう。
勧誘員の男が帰ってきた。別の男が一緒にいる。「すみません、私は急に行かなくてはいけなくなりました。これからはこのBがお話をさせて頂きます。本当に申し訳ございません。何かありましたが、後日私にご連絡下さい」と頭を下げて大慌てでいなくなってしまった。
最初の男をA氏、後から出てきた男をB氏とする。B氏は話の続きをするが、A氏とは違い、支払の話専門。カモとしては、もし「ちょっと話が違うな・・・」と思うことがあっても「まあ後でAさんに言えば良いや」となるのだろう。そして本当にA氏宛に電話したところで「Aは不在でございます、折り返し連絡させます」と言われるのが関の山。勿論、折り返しの電話なんて掛かってこない。そして、B氏が「あなた、ほら、この契約書に印を押しているだろう」と言うのだ。カモ氏はついに契約書に記名・押印した様だ。B氏も慣れた物で時々「休日は何をしてるの?」「へえー、山口ってそういうのが名産なんだ」と雑談。敬語を時々タメ口にする事で、親しみをアピール。閉店の22時くらいまで私はずっと付き合っていた(勝手に近くにいただけだが)。B氏にとってはさぞ迷惑だっただろう。
ホテルのレストランというのも都合が良いのだろう。閉店まで追い出されないから。あーあ、カモ氏は10万円取られた上、会員として更新費を取られるのだろうなあ。と、なんだかいたたまれない気分のまま部屋に戻る。一人旅で1人で眠る寂しさを紛らわすため、先ほどコンビニで購入した缶チューハイを煽る。半分くらいでもう十分で、眠った。
しかし、これがいけなかった。ここ数日睡眠不足だった上、疲れもあったのだろう。缶の半分しか飲んでいないに関わらず、2日酔い状態になってしまったのだ。夜中の2時頃ムカムカして目が覚めた。寒気・吐き気。ああ、最低。このような事になったことが我が人生で4,5回ある。その度に反省するのだが。これで朝まで苦しむ羽目に。旅先での健康管理は最重要事項。これは私が悪い。
早朝、始発電車に乗る時間。まだ体調は悪いが、このために山口まで来たのだ、フラフラになりながら外出。コンビニで液キャベとドリンク剤を購入。どうにか持ち直し、宇部新川駅に到着。ああ、まただ。例のクモハ123の和音が駅前広場まで聞こえてくる。
さて、クモハ42の入線シーンにも立ち会いたいところだったが既に入線しており、乗客も10人ほど乗っていた。さすがに日曜の早朝ということで、マニアばかり。半分くらいは昨晩と同じ顔ぶれ。まだ朝早くて外は位。車内にはノートがあり、旅行者が思い思いに記帳している。私も書く。
長門本山に向けて発車。だんだん明るくなってくる。昨日とは趣が違って面白い。低い唸り声を上げて雀田に到着。今朝の長時間運転はこれで終わり。長門本山まで25分の道のり。外はもう明るくなっている。明るいところで見ると、昨日とは違った感じ。昨日は暗くてよく分からなかったが、車体の表面にデコボコがあったり、古さを感じる。雀田まで2往復。乗り心地の差を味わうために、立ったり、ロングシート部分に座ったり、色々試してみた。立つと揺れが酷い。最後の乗車はクロスシートに座って雀田へ。いよいよお別れである。雀田で小野田行きが来る。小野田方面へ帰る客が乗っていく。宇部新川行きはその10分程後に来る。クモハ42の中で待つことが出来る。宇部新川行きの例の和音がやって来た。いよいよ本当にお別れ。製造・整備をしてきた方々に敬意を表しつつ、クモハ123で雀田を後にした。マニア氏達も全員、小野田行きか宇部新川行きのいずれかに乗り込んで雀田を発った。雀田に残ったマニアはいなかった。この後クモハ42は雀田で夕方まで停車しているので、撮影をする事は可能。車内には入れないそうだが。ちなみに、月曜日と金曜日だけは雀田で夜まで待たず、検査のため下関に回想されるとのこと。
なんとかフラフラになりながらもホテルに戻り、チェックアウトぎりぎり(10:30)まで寝ている。当初の計画では常磐公園に行きたかったのだが、断念。こんなにゆったりした旅行は珍しい。空港まではバスを使うのが一般的だが、ちょうど良い接続電車があったので、宇部線で行くことにした。草江駅下車。空港の乗換駅とは思えないほど何もない駅。無人駅で、空港はこちらという小さな案内がかろうじてあるだけ。駅まで800メートルほど。駅から空港に乗り換えた客は私1人だけ。空港にJRの時刻表がある訳でもなく、JRは宇部線を空港アクセス路線として活用する考えは全くないようだ。月に一回運休もあるし。
無事羽田に着く。京急の羽田空港駅では新しく設定された浦賀行きが停まっており、思わず飛び乗ろうとしてしまった。私はちょうどよくエアポート快特京成成田行きに乗る。京急線内と都営浅草線内はエアポート快特、京成線内は快速という複雑な電車。
さて、ここまで読んでどのような感想をお持ちになりましたでしょうか?
車両なんて全然興味ないという方もおられるでしょう。私もそうでした。
泊まりでないと無理なので、2日間も空く日はない、とい方もおられるでしょう。
少なくとも3,4万円はかかるでしょうから、そんなお金は用意できないという方もおられるでしょう。
体を壊して自由に動けないという方もおられるかも知れません。
興味がないのなら仕方ない。状況が許さないのなら仕方ない。でも、興味があり、行ける状況にあるのなら、是非行ってみて下さい。博物館の展示物ではない。遊園地の乗り物でもない。臨時運行のイベント列車でもない。定期運行の現役の通学用電車(通勤に使う人はあまりいないだろうから)なのだ。3/14いっぱいでなくなることが決定しているのである。緊急度は極めて高い。お急ぎいただきたい。心よりお勧め致します。