葬式(葬儀)費用の相続における扱い
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2024.8.19 mf
弁護士河原崎弘
葬式費用の負担者
葬儀(葬式)費用- 死者の追悼儀式に要する費用(通夜、告別式の費用)
儀式を主宰した者(喪主)が負担
- 埋葬等の行為に要する費用(死体の検案に要する費用,死亡届に要する費用,死体の運搬に要する費用、火葬に要する費用)
亡くなった者の祭祀承継者が負担
葬儀(葬式)費用とは、死者の追悼儀式に要する費用、埋葬等の行為に要する費用(死体の検案に要する費用,死亡届に要する費用,死体の運搬に要する費用及び火葬に要する費用等)に分けられます。
亡くなった人が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず、かつ、亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合は、追悼儀式に要する費用については同儀式を主宰した者、すなわち、自己の責任と計算において、同儀式を準備し、手配等して挙行した者が負担します。
埋葬等の行為に要する費用については、亡くなった者の祭祀承継者が負担します。
通常、儀式の主宰者と、祭祀承継者は同一人(喪主)です。社葬などの場合は、葬儀の主宰者(会社)と祭祀承継者(喪主)は異なります。
なお、葬式費用を、相続財産に関する費用(民法885条1項)に入れ、葬式費用を相続人に負担させる考え方はあります。
祭祀承継者は、被相続人の指定、慣習、家庭裁判所の定めで決まります(民法897条)。
香典
香典は、儀式の主宰者(社葬の場合は、喪主)が取得し、香典返しの費用も儀式の主宰者が負担します。
葬式費用と遺産分割、遺留分計算
葬儀費用は、遺産分割、遺留分の計算の際に問題となります。
- 原則:葬儀費用は、控除しない
葬式費用は、相続債務ではないのです。
葬式費用を祭祀承継者が負担しますが、それは、遺産分割とは無関係です。葬式費用は遺産分割の対象ではありません。
これは、遺留分を計算する場合も同じです。遺留分計算をする際に、相続債務を控除して、遺留分の基礎となる総遺産を計算しますが、葬式費用は、控除しません。
- 例外
被相続人が相続人に対し遺言等で葬儀の方法や内容を定め、その費用を相続財産から支出することを求めて
いたりした場合、あるいは、
相続人全員が葬儀の執行について合意していた場合
以上の場合には(相続人の合意がある場合)、被相続人が負担すべき債務として、遺産分割、あるいは、遺留分の算定にあ
たり、相続財産の評価額から、葬儀費用を相続債務として控除します。
相続税法上の扱い
相続税を計算する際は、相続人および包括受遺者が負担した葬式費用を、相続債務とします(相続税法13条、基本通達13−4〜5)。
- 葬式費用となるもの
遺産総額から差し引く葬式費用は、通常次のようなもの。
- 死体の捜索又は死体や遺骨の運搬にかかった費用
- 遺体や遺骨の搬送にかかった費用
- 葬式や葬送などを行うときや、それ以前に火葬や埋葬、納骨をするためにかかった費用(仮葬式と本葬式を行ったときにはその両方にかかった費用が認められる)
- 葬式などの前後に生じた出費で通常葬式などにかかせない費用(お通夜の費用)
- 葬式に当たり、寺に支払ったお布施、読経料、戒名料
- 葬式費用に含まれないもの
次のような費用は、遺産総額から差し引く葬式費用には該当しません。
- 香典返しの費用
- 位牌、仏壇、墓石、墓地の費用
- 法事(初七日、四十九日)の費用
判例
- 名古屋高等裁判所平成24年3月29日判決
ところで,葬儀費用とは,死者の追悼儀式に要する費用及び埋葬等の行為に要する費用(死体の検案に要する費用,死亡届に要する費用,死体の運搬に要す
る費用及び火葬に要する費用等)と解されるが,亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず,かつ,亡くなった者の相続人や関係者の間で葬
儀費用の負担についての合意がない場合においては,追悼儀式に要する費用については同儀式を主宰した者,すなわち,自己の責任と計算において,同儀式を準備し,手
配等して挙行した者が負担し,埋葬等の行為に要する費用については亡くなった者の祭祀承継者が負担するものと解するのが相当である。
なぜならば,亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず,かつ,亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては,追悼儀式を行うか否か,同儀式を行うにしても,同儀式の規模をどの程度にし,どれだけの費用をかけるかについては,もっぱら同儀式の主宰
者がその責任において決定し,実施するものであるから,同儀式を主宰する者が同費用を負担するのが相当であり,他方,遺骸又は遺骨の所有権は,民法897条に従っ
て慣習上,死者の祭祀を主宰すべき者に帰属するものと解される(最高裁平成元年7月18日第三小法廷判決・家裁月報41巻10号128頁参照)ので,その管理,処
分に要する費用も祭祀を主宰すべき者が負担すべきものと解するのが相当であるからである。
これを本件についてみるに,上記(1)の認定事実からすると,亡Eは予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず,かつ,亡Eの相続人である被控
訴人らや関係者である控訴人らの間で,葬儀費用の負担についての合意がない状況において,控訴人Bが,亡Eの追悼儀式を手配し,その規模を決め,喪主も務めたので
あるから,控訴人Bが亡Eの追悼儀式の主宰者であったと認められ,控訴人Bが亡Eの追悼儀式の費用を負担すべきものというべきである。
他方,亡Eの遺骸,遺骨の埋葬等の行為に要する費用については,亡Eの祭祀を主宰すべき者が負担すべきものであるが,亡Eの祭祀を主宰すべき者については,
亡Eにおいてこれを指定していた事実は認められないから,民法897条1項本文により,慣習に従って定められるべきものであるが,亡Eには被控訴人らという二人の
子があるものの,上記(1)で認定したとおり,20年以上も親子の交渉が途絶えていた状況である一方(なお,亡Eの長男である被控訴人Aは,亡Eの葬儀にも出席し
なかった。),兄弟である控訴人らとの間に比較的密な交流があった事情が認められることも考慮すると,亡Eの祭祀を主宰すべき者を亡Eの子である被控訴人ら又はそ
のいずれかとすることが慣習上明白であると断ずることはできず,結局,本件における証拠をもってしては,亡Eの祭祀を主宰すべき者を誰にすべきかに関する慣習は明
らかでないというほかない。
そうすると,家庭裁判所で,同条2項に従って,亡Eの祭祀承継者が定められない限り,亡Eの遺骸等の埋葬等の行為に要する費用を負担す
べき者が定まらないといわざるを得ない。
- 東京地方裁判所平成19年7月27日判決
(2)葬儀費用285万5518円について
葬儀費用は,相続開始後に生じた債務であるから,相続債務には当たらず,当該葬儀を自己の責任と計算において手配して挙行した葬儀主宰者がこれを負担する
と解するのが相当である。
本件相続税の申告書(乙1)又は修正申告書(甲6)に各添付された債務及び葬式費用の明細書には,「葬式費用285万5518円」が計上され,支払年月日
が平成6年8月15日,被告Y1の負担と記載されていること,そして,被告Y1の供述によれば,亡Aの死亡後にその葬儀が執り行われ,被告Y1が自らその喪主を務
めたことが認められる。
したがって,当該葬儀費用285万5518円は,葬儀主宰者の被告Y1が負担する債務であり,亡Aが負担していた相続債務ではない
-
東京地方裁判所平成19年3月6日判決
負債として葬儀費用等462万9777円(原告支出分314万8643円と被告支出分148万1134円の合計)が発生した。
なお,上記葬儀費用やア(ウ)の香典等をAの債権債務とするには異論もありうるが,本件においては,後述するとおり,原被告間の合意によりAの遺産である
郵便貯金と合算処理されているため,これをAの遺産として扱うのが相当である。
- 東京地方裁判所平成17年2月14日判決
被告は、葬儀費用の支出や、亡Cの死後支払った病院の費用を控除すべきものと主張するもののようであるが、葬儀費用については、相続開始時の債務に当たらないから、遺留分算定の基礎となる遺産からこれを控除することはできないし、また、病院費用については、その主張する相続債務の存したことを認めるに足りる的確な証拠はない。
-
東京地方裁判所平成16年12月28日判決
(1)以上によれば,遺留分算定の基礎となる財産の総額は,別紙相続財産目録記載(1)ないし(5)の各財産の価額の合計1億3246万2759円に,原告の
特別受益の価額8886万8780円を加えた計2億2133万1539円から,Aの負債196万4992円及び葬儀費用123万3189円を控除した残額2億18
13万3358円となる(葬儀費用を控除することについては,当事者間に争いはない。)。
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東京地方裁判所平成16年11月12日判決
被告は、葬儀費用を控除すべき旨の主張をする(乙7、18ないし23)。
葬儀費用については、被相続人が相続人に対し遺言等で葬儀の方法や内容を定め、その費用を相続財産から支出することを求めて
いたり、相続人全員が葬儀の執行についておよそ合意していたような場合には、被相続人が負担すべき債務として、遺留分の算定にあ
たり、相続財産の評価額から、葬儀費用を相続債務として控除することが相当である。
葬儀については、被相続人の意思のみならず、
相続人がその判断により被相続人のために執り行うという側面もあるが、前記のとおり、相続人全員の合意のもと葬儀を執り行った場
合には、その費用も相続人間で負担することが合理的であるから、葬儀費用を相続債務として相続財産から控除することが相当である。
これに対し、例えば、共同相続人の一人が、ほかの共同相続人の承諾を得ないで、葬儀を主宰し、その費用を支出したような場合には、
ほかの共同相続人に対しその費用の負担を求めることができると解することは不合理であり、同様に遺留分を減額する理由もないから、
主宰した相続人の負担とすべきであり、遺留分の算定にあたって、葬儀費用を相続債務として控除すべきでない。
この点について、ほ
かの共同相続人の承諾を得ていなくても、葬儀費用が相当額であれば、相続人全員の負担としてもよいのではないかとの考えもあり得
るが、主観的にも客観的にも葬儀費用の相当額の認定は困難を伴うから、このような場合にまでほかの相続人に負担を強いるべきでは
ない。
これを本件についてみると、公正証書遺言には、亡Aが被告に対し一切の財産を相続させ、その代わりに、被告が葬儀、埋葬、供
花、供養、お墓の維持、管理に要する一切の費用を支出し、その処理をするように記載されている。この趣旨については、亡Aは、被
告に対し、一切の財産を相続させる代わりに、葬儀等の面倒をみてもらい、その費用の支出を求めた趣旨であることは明らかである。
実際にも、被告は、亡Aの意思に従い、原告ら兄弟姉妹に対し亡Aの死亡の事実を知らせず、葬儀の執り行いについても連絡せず、ご
くわずかの関係者に対してのみ連絡をして葬儀を執り行った(被告の供述。被告の表現に従えば密葬をしたという。)。
これらの事実によれば、亡Aは被告に対し、葬儀を主宰させる代わりに全財産を相続させる意思であり、実際に被告は原告らに対
し死亡についても葬儀についても連絡をしないで葬儀費用を支出したというのであるから、被告が葬儀費用を支出したと考えるべきで
あり、遺留分の算定にあたり、葬儀費用を被相続人(または遺留分権利者)の負担とすべき理由はない。
本件では、特に、原告らが本
件土地建物についてのみ遺留分減殺を求め、現金等についてはこれを求めていないことから、このように解しても格別不公平であると
はいえないと思われる。
したがって、葬儀費用を控除すべき旨の被告の主張は認められない。
2013/3/17
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