相談
父は、生前、私が家族と共に住んでいる家(土地付き)を、私に相続させると言っていました。父が亡くなり、遺言書(自筆証書)が見つかりましたが、一部マジックインキで塗りつぶされており、判読できません。多分、その個所に私に対する相続のことが書かれていたと思います。
このままだと、自宅と私の住んでいる家を4人兄弟、姉妹で平等に分けることになりそうです。どうしたらよいでしょう。家を出なければいけませんか。回答
弁護士は次のように説明しました。 遺言書がマジックインキなどで消された場合、元の字が判読できるかによって扱いが違います。元の字が判読できれば、民法が要求する遺言書の変更の要件(民法968条2項)を満たさない限り、消される前の文字による遺言として扱われます。元の遺言が判読できないと遺言の破棄
消された前の文字(元の遺言)が判読できない場合は、遺言の一部ないし全部を破棄として扱われます。遺言者が故意に破棄した場合は、遺言の一部ないし全部を取消したものとみなされます(民法1024条)。
あなたの場合,特に第三者が破棄したとの証明ができないと、遺言者が故意に破棄したと推定されるでしょう。現状を前提とする遺産分割を主張する
遺言の破棄とされた場合でも、あなたがその家に住んでいますから、まず、それを前提に、遺産分割手続きをしてもらうように主張してください。具体的には、あなたがその家を取得し、他の相続人に代償金を支払う遺産分割協議をしたら良いでしょう。現状を前提に遺産分割することは、現在の家庭裁判所の実務では、普通のことです。
遺言の全部あるいは一部を抹消した場合の比較表 遺言書の抹消 元の文字が判読可能 変更要件具備(民法968条2項) 遺言書の変更と解釈 変更要件具備しない 抹消前の遺言が有効 元の文字が判読不可能 遺言者が故意に抹消 遺言書の一部または全部の破棄 それ以外 元の遺言を証明できれば元の遺言が有効
相続欠格の問題発生法律
民法
第968条 (自筆証書遺言) 1 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。 2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。 3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
第1024条 (遺言書又は遺贈の目的物の破棄) 遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。 判例
- 最高裁判所平成27年11月20日 判決
民法は,自筆証書である遺言書に改変等を加える行為について,それが遺言書中の加除その他の変更に当たる場合には,968条2項所定の厳格な方式を遵守したと きに限って変更としての効力を認める一方で,それが遺言書の破棄に当たる場合には,遺言者がそれを故意に行ったときにその破棄した部分について遺言を撤回したも のとみなすこととしている(1024条前段)。そして,前者は,遺言の効力を維持することを前提に遺言書の一部を変更する場合を想定した規定であるから,遺言書 の一部を抹消した後にもなお元の文字が判読できる状態であれば,民法968条2項所定の方式を具備していない限り,抹消としての効力を否定するという判断もあり 得よう。ところが,本件のように赤色のボールペンで遺言書の文面全体に斜線を引く行為は,その行為の有する一般的な意味に照らして,その遺言書の全体を不要のも のとし,そこに記載された遺言の全ての効力を失わせる意思の表れとみるのが相当であるから,その行為の効力について,一部の抹消の場合と同様に判断することはで きない。
以上によれば,本件遺言書に故意に本件斜線を引く行為は,民法1024条前段所定の「故意に遺言書を破棄したとき」に該当するというべきであり,これによりA は本件遺言を撤回したものとみなされることになる。したがって,本件遺言は,効力を有しない。- 東京地方裁判所平成19年7月12日判決
次に、上記のような本件第一遺言の日付の訂正及びこれによる本件第三遺言の作成の要式性について検討する。
民法968条2項によれば、自筆証書遺言の訂正は、遺言者自身がその場所を指示し、これを変更した旨を附記して特にこれに署名し、かつその訂正の場所に印を押さなければ、その効力がないとされているが、このような要式性の要求は、あくまでも遺言の訂正という重大な単独行為につき、事後に疑義が生じることを防ぎ、その効力を明確にするためのものであると解するのが相当である。
そうすると、個別具体の事案において、遺言の訂正の外形的事実及びその遺言者の意思について疑義が生じる余地がなく、また、要式性の欠如を不問に付することにより関係者間の公平を害するような事情も見当たらない場合には、形式的に要式性の一部に欠陥があるからといって、遺言者の真意に反して遺言訂正の効果を認めないとすると、実質的正義に反する結果を招来することになりかねないから、このような解釈は相当ではないというべきである。
前示のとおり、本件においては、花子による日付の訂正は、原告及び被告松夫が同席している場で行われており、被告竹夫は、その場に同席はしていないものの、花子が自己の意思で日付の訂正を行ったこと自体はこれを争っていないものと認められ、また、花子が要式性を欠いて日付の訂正を行ったのは、それが真意ではないため、あえて効力が生じないように意図的に行ったものと認めることも できない。
さらに、被告松夫が本件訂正行為により日付の訂正に加担したこと及び本件第二遺言を破棄した旨ことさら虚偽の事実を原告に伝えていたこと、要式性の欠如は、変更場所の指示及び変更した旨の附記及びこれへの署名の欠如の点にとどまり、変更自体は自書により適正に行われていること等の本件特殊事情を総合勘案すれば、要式性の一部欠如を不問に付することにより関係者間の公平を害するような事情も見当たらず、むしろ本件は、遺言者の真意に反して遺言訂正の効果を認めないとすると、実質的正義に反する結果を招来する事案に当たると解するのが相当である。
(3) 以上によれば、本件第一遺言の日付の訂正は有効に行われ、その結果、最新の遺言として本件第三遺言が作成されたものと認めるのが相当であるから、本件第二遺言は、これにより無効となったものというほかない。- 最高裁判所第1小法廷昭和36年6月22日判決
自筆遺言書は、数葉にわたるときでも1通の遺言書として作成されているときは、その日附、署名、捺印は一葉にされるをもつて足りる。