弁護士(ホーム) >
遺言、相続法律相談 > 相続回復請求、預金の調査
2015.9.28mf
相続回復請求、預金の調査/弁護士の法律相談
相談
8月、
母が亡くなりました。父は以前に亡くなり、相続人は私と兄です。
母は、生前、兄と一緒に住んでいましたが、兄夫婦にいじめられ、最後の3年間は、ホームで過ごしました。
母は、「不動産(時価約5000万円)と動産は、兄に与える」との公正証書遺言を残していました。兄は、「動産とは預金のことなので、預金も自分が相続する」と言っています。母の預金はありましたが、私にわかっているのは、残金は800万円ほどしかありませんでした。
兄は母の預金を管理し、私が、調べたところ、兄は100万円単位で1200万円ほど預金を払戻しています。兄は、そのお金を入院費用と葬式費用に使ったと言っています。私は納得できないので、裁判をするつもりです。
母の預金を調べる手段はありますか。
どのようなことが必要ですか。
兄の言い分は正しいですか。
回答
まず、遺留分減殺の通知をすべきでしょう。
次に、預金の調査です。金融機関に行き、戸籍謄本などであなたが相続人であることを証明し、金融機関からお母さんの死亡時の預金の残高証明や預金台帳の写しをもらいます。
兄が払い戻してしまっているのなら、払戻し請求書の写しももらいましょう。兄が預金を払い戻した事実は、払い戻し請求書の筆跡で証明できます。
銀行は10年前まで、郵便局は5年前まで書類が残っているでしょう。
なお、希な例ですが、平成24年に、東京高裁は、銀行に対し、平成8年からの
取引履歴の開示決定をしました(このケースでは、弁護士は、文書廃棄の内規写しを出すよう求め、銀行は、意見書で、平成8年からの取引履歴があることを認めた)。
一般には、
できるだけ早い機会に調査をすべきでしょう。金融機関名(銀行、支店)が不明ならば、お母さんの自宅の近くの金融機関を調べればよいでしょう。
弁護士会を通じての照会する方法もあります(弁護士法23条の2)。
調査が終わったら、遺留分減殺を請求した不動産の移転登記、預金の権利確認、勝手に払戻された預金について返還請求を求める訴えを提起します。
裁判の中で、被告(兄)に対し、遺産の明細を明らかにするよう求め、裁判所に対し、被告に明らかにさせるよう求めることができます(求釈明、民事訴訟法149条、151条)。
さらに、裁判所から金融機関に対し、調査報告(調査嘱託民事訴訟法186条)、書類の送付を求める手続(送付嘱託、民事訴訟法226条)もとれます。
裁判所から被告に対し文書を提出するよう命令するよう求める手続きもあります(文書提出命令の申立、民事訴訟法221条)。
裁判の中で、被告を尋問し、他に預金がないか、預金は残っていないかを尋問できます。
以上の手続きは完全ではありませんが、被告が不誠実な態度をとれば、判決に影響します。
動産に、預金が入るかは、遺言の解釈の問題です。裁判所が判断してくれます。
判例
- 東京地方裁判所
平成15年8月29日判決(出典:判例時報1843号85頁)
原告は遺留分減殺請求をしたことにより相続人と同様の立場で本件開示請求をすることができるか
遺留分減殺請求をした者は、遺留分に応じて相続財産を相続開始時にさかのぼって包括的に承継取得す
るところ、その結果、遺産分割までの暫定的な法状態ではあるものの、個々の相続財産についても、持分
的権利を取得するものと解される。遺留分減殺請求を受けた者は、価額による弁償をすることにより返還
義務を免れることができる(民法1041条)が、それまでの間は、遺留分減殺請求をした者が上記の持
分的権利を有することを否定することはできない。この持分的権利の性質は、相続分の2分の1又は3分
の1の割合であることを除けば、相続人の有する権利と異なるところはないというべきである。
ところで、相続財産に属する預金債権が当然に分割され各相続人が直ちに単独でこれを行使することが
できるとの理は、遺留分減殺請求をした者についても当てはまり、遺留分減殺請求をした者は、遺留分に
応じて預金債権を分割取得し、直ちに単独でこれを行使することができるものと解すべきである。
原告は太郎の子であり法定相続分の2分の1に当たる遺留分を有するから、仮に前記遺言が有効である
としても、本件預金債権の12分の1を相続開始時にさかのぼって取得したものであって、これを被告に
対し直ちに単独で行使することができるというべきである。したがって、原告は、被告に対し、本件預金
の取引履歴の開示を請求することができる。
2004.10.30
港区虎ノ門3丁目18-12-301(神谷町駅1分)河原崎法律事務所 03-3431-7161