相続開始後、遺産分割確定までの不動産賃料と相続
河原崎法律事務所(ホーム) > 弁護士による遺言、相続法律相談 >
2015/7/25mf
弁護士河原崎弘
相談:相続開始後に発生する賃料
5年前に母が亡くなり、3年前に父が亡くなりました。相続人は、兄2人と私です。ビルが3つありますが、若干、価値に差がありますので、一番小さいビルをもらう私が、兄たちから代償金もらう話をしていましたが、まとまらず、家庭裁判所で遺産分割の調停も成立しませんでした。
調停は審判に移行しました。近々、遺産分割の審判が出ます。
現在、3年分の賃料約4千万円が父名義の口座に入っています。これは、それぞれ、取得したビルごとに、相続人が取得するのでしょうか。今、依頼している弁護士によると、審判では、父が亡くなった後に発生した賃料は、審判で分割してくれないと言っています。
回答:原則として遺産分割の対象ではない
相続人が遺産について協議をすると最低でも1年程度の期間は経過します。遺産に不動産があると、その間に賃料が生じます。相続開始後遺産分割確定までの賃料を誰が取得するかについて議論されてきました。
遺産分割は、相続開始の時にさかのぼって効力を生じます(民法909条)。従って、遺産分割で各ビルを取得した相続人は、「そのビルの(相続開始後から、遺産分割確定までの)賃料を取得する」と考えることができます。そのような判例もありました。しかし、最近の最高裁の判例は、相続開始後の果実(賃料、利子など)は、遺産ではなく、各相続人が法定相続分に応じて取得すると判決しています。
あなたの場合、相続開始後の賃料は、あなたと兄2人が、1/3づつ権利を持ちます。
判例によれば、相続開始後の賃料は、遺産ではありません。しかし、相続人が、全員で、「賃料を遺産とする」と合意すれば、裁判所は、賃料についても、遺産分割の審判をしてくれます。この合意がないと、裁判所は、賃料については、遺産分割の審判をしません。
本件で問題となる賃料: | | 相続開始(被相続人死亡)時 | 〜 | 遺産分割確定時 | |
判例
-
東京地方裁判所平成18年10月6日判決(出典:判例秘書)
遺産は,相続人が数人あるときは,相続開始から遺産分割までの間,共同相続人の共有に属するものであるから,この間に遺産
である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権は,遺産とは別個の財産というべきであって,各共同相続人がその相続分に応じ
て分割単独債権として確定的に取得すると解するのが相当である。
そうすると,本件において,遺産である本件各不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は各共同相続人がその相
続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解されるから,原告は,本件各不動産の賃料を賃借人から受領した被告に対
し,自己の相続分に応じた金額の支払を求めることができる。
したがって,被告は,原告に対し,被告が受領した本件各不動産の賃料収入から必要経費を除いた残額の4分の1に相当する1
90万8676円を支払う義務を負う。
- 最高裁平成17年9月8日判決(出典:判例タイムズ1195号100頁)
3 原審は、上記事実関係の下で、次のとおり判断し、被上告人の請求を認容すべきものとした。
遺産から生ずる法定果実は、それ自体は遺産ではないが、遺産の所有権が帰属する者にその果実を取得する権利も帰属するのである
から、遺産分割の効力が相続開始の時にさかのぼる以上、遺産分割によって特定の財産を取得した者は、相続開始後に当該財産から生
ずる法定果実を取得することができる。
そうすると、本件各不動産から生じた賃料債権は、相続開始の時にさかのぼって、本件遺産分
割決定により本件各不動産を取得した各相続人にそれぞれ帰属するものとして、本件口座の残金を分配すべきである。これによれば、
本件保管金は、被上告人が取得すべきものである。
4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
遺産は,相続人が数人あるときは,相続開始から遺産分割までの間,
共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸
不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は,遺産とは
別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて
分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。
遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであ
るが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的
に取得した上記賃料債権の帰属は,後にされた遺産分割の影響を受け
ないものというべきである。
東京都港区虎ノ門3丁目18-12-301(神谷町駅1分)河原崎法律事務所 弁護士河原崎弘 03-3431-7161
2006/10/1