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2015.7.8mf

債務の相続と遺産分割協議/弁護士の法律相談

弁護士河原崎弘

質問

昨年、父が亡くなり、兄と、私と妹が相続しました。
父が残したものは、ビル1棟(時価2億円)、預金5000万円、銀行に対する債務9000万円です。
弁護士に遺産分割協議書を作ってもらい、兄がビルを取得し、私と妹は1000万円ずつもらい、残りの預金は銀行に対する支払いに当てました。それでも借金が6000万円残りました。
兄は、銀行に対する借金については自分が支払うと約束しました。
ところが、先日、銀行から私宛てに、6000万円の1/3の2000万円の支払い請求がありました。兄が債務を引き受けたのですから、私には責任はないはずですが、どうでしょう。
銀行は私に支払う義務があると言います。
兄がビルを売れば支払えるのですが、兄はビルを売ることを渋っています。

回答

遺産分割の対象

遺産分割の対象は、積極財産です。 債務は、相続放棄などをしない限り、相続分に応じて分割され、相続されます。 債務は遺産分割の対象ではありません。判例もそう指摘しています。
あなた方は、相続放棄ないし限定承認をせずに、単純承認しています(民法920条)。債務は 法定相続人が法定相続分に応じて負うことになります。

債務についての合意の効力

遺産分割協議で、債務については兄が引受ける約束をしていますが、それは相続人間での契約であって、第三者である銀行に対し主張することはできません。
銀行に対してもあなた方の債務を免除させる行為は、免責的債務引受け(他の債務者の責任を免除させる債務引受け)と言います。免責的債務引受けは、債権者の承諾が必要です。債権者である銀行は中々承諾しないでしょう。
しかし、兄との間で債務引受けの契約としては有効ですので,あなたが銀行に支払った場合は、兄に求償できます。
なお、遺産分割が確定するまでの固定資産税は、相続人が連帯納付義務を負います(地方税法10条の2第1項)。

民法
第920条〔単純承認の効果〕相続人が単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。
第921条〔法定単純承認〕左に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。但し、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は放棄をしなかつたとき。
相続人が、限定承認又は放棄をした後でも、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを財産目録中に記載しなかつたとき。但し、その相続人が放棄をしたことによつて相続人となつた者が承認をした後は、この限りでない。

判例
  1. 大阪高裁昭和31年10月9日決定
    被相続人の負債即ち相続債務は、それが可分のものであれば、相続開始と同時に、当然共同相続人に、その相続分に応じて分割承継せられるのであり、また不可分のものであつても、これを特定の相続人の負担とするのは、債務の引受として債権者の承諾なき以上効力を生じない関係にあるのであるから、遺産分割の対象たる相続財産中には、相続債務は含まれないものというべきである。また遺産の分割は、相続財産たる積極財産より相続債務たる消極財産を控除し、その残額についてのみ実施されるというわけではなく、ひろく相続財産たる積極財産を対象として行われるのであるから、原審判か遺産の分割につき消極財産を計算に入れなかつたのは、当然であつて、この点に何らの違法はなく(家庭裁判月報8巻10号43頁)

  2. 最高裁判所昭和34年6月19日判決
    連帯債務は、数人の債務者が同一内容の給付につき各独立に全部の給付をなすべき債務を負担しているのであり、各債務は債権 の確保及び満足という共同の目的を達する手段として相互に関連結合しているが、なお、可分なること通常の金銭債務と同様であ る。ところで、債務者が死亡し、相続人が数人ある場合に、被相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然分割され、各共 同相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと解すべきであるから(大審院昭和5年(ク)第1236号、同年12月4日 決定、民集9巻1118頁、最高裁昭和27年(オ)第1119号、同29年4月8日第一小法廷判決、民集8巻819頁参照)、 連帯債務者の1人が死亡した場合においても、その相続人らは、被相続人の債務の分割されたものを承継し、各自その承継した範 囲において、本来の債務者とともに連帯債務者となると解するのが相当である。 (家庭裁判月報11巻8号89頁)

  3. 東京高裁昭和37年4月13日決定
    遺産分割の対象となるものは被相続人の有していた積極財産だけであり、被相続人の負担していた消極財産たる金銭債務は相続開始と同時に共同相続人にその相続分に応じて当然分割承継されるものであり、遺産分割によつて分配せられるものではない (家庭裁判月報14巻11号115頁)


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