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2013.11.12mf
弁護士河原崎弘

無断でなされた協議離婚届出は無効でないとしても、親権者指定は無効

相談
私は31歳、3歳の子どもがいます。結婚して4年になります。夫の暴力がひどく、1年前から別居しています。
別居後、話し合いの際、夫が離婚届出用紙を持ってきて、「サインしろ」と言うので、私は、署名してしまいました。途中、夫が怒り出し、話し合いは中断しました。そのため、その届出用紙の親権者の欄には、何も指定がされていませんでした。

夫は、私が署名した離婚届出用紙に、勝手に自分を親権者として書き込み、区役所に届けました。夫の弁護士が、内容証明郵便で、「自分(父親)に親権があるから、子供を引渡せ」と要求してきました。
私は、親権をとりたいです。どうしたら、よいでしょうか。
相談者は、弁護士のアドバイスを求め、法律事務所を訪ねました。

回答
協議離婚は、夫と妻に、離婚する意思及び届出意思の両者がないと無効です。あなたの場合は、離婚する意思はあったが、届出する意思はなかったようです。協議離婚も無効ではないかとの疑いがあります。
しかも、親権者については、夫が、親権者の定めについて妻と協議をしないまま、妻に 無断で、離婚届用紙の該当欄に父を親権者と書いて、届出たに過ぎないのですから、この親権者の届けは無効です。
このような場合は、離婚届の受理を阻止するため、協議離婚届不受理申出書 を提出する方法があります。しかし、相手が離婚届け出をした後では意味がありません。
時間が経過すると、親権者の指定が無断でされたことの証明が難しくなりますので、 すぐに、家庭裁判所に対し、(親権者指定は無効だから、新たに)親権者指定を求める調停の申立をするとよいでしょう。 この場合、親権者指定の調停ではなく、協議離婚無効調停を申立てもよいでしょう。

下の1の判例では、同様のケースで、裁判所が「親権者の指定はなかった」判断し、新たに母親を親権者と指定し、2の判例は、控訴人()が、「子の親権者を被控訴人()と定める協議をしたことはない」と主張したケースです。 裁判所は、「親権者の指定について了解があった」と判断しています。

参考判例
  1. 大阪家庭裁判所平成8年2月9日審判(家庭裁判月報49巻3号66頁)
    平成6年10月13 日大阪市○○区長宛て届け出られた申立人()と相手方()との協議離婚自体 については双方の離婚意思及び届出意思があったものといい得,従っ て同離婚が有効に成立したものと解せられるところである(なお,仮 に同離婚が申立人の届出意思を欠くものであったとしても,その後申 立人において同離婚を追認しているので,遅くも追認の時から申立人 と相手方との離婚は有効に成立したものというべきである)が,未成 年者の親権者を父である相手方と定めたことについては,相手方が, 同親権者の定めについて申立人と相手方との協議未了のまま申立人に 無断で,同離婚届用紙の該当欄に相手方を親権者として定めた旨を記 載して届け出たに過ぎないものであるから,無効のものというべきで ある。
    ・・・・
    申立人には未成年者の監護養育について特に支障と なる点が見当たらず,また未成年者は,平成4年7月8日生(当3歳 7月)の女児であり,平成6年9月末日頃から,母である申立人の膝 下で監護養育され,適当な健康管理を受けながら,特段の支障もない まま健康に成長し,日本語によって日常の会話をしているものである こと,その他本件に表れた諸般の事情を考慮すると,本件親権者指定 申立事件(第3177号事件)については,未成年者の親権者を母で ある申立人と定めるのが相当である。

  2. 東京高等裁判所平成15年6月26日判決
    本件は、協議離婚をした元夫婦の一方である控訴人()が、離婚意思及び離婚届出意思の存在は認めつつ、すなわち、協議離婚の成立は認めながら、離婚届に記載された未成年の子の親権を行う者の記載に沿う、親権者を定める協議における合意の不存在を主張しているものである。
    一般にこのような場合、親権者指定の合意の不存在あるいは無効を主張する元夫婦の一方は、戸籍法114条により、家庭裁判所の許可を得て、戸籍に協議離婚届に基づいて記載された親権者を父又は母と定める記載の訂正(抹消)をすると共に、改めて元の配偶者と親権者を定める協議を行うか、その協議が調わないものとして家庭裁判所へ親権者指定の審判を求める(民法819条5項、家事審判法9条1項乙類7号)ことが考えられる。
    この場合、戸籍法114条による戸籍訂正の許可を求める審判手続においても、親権者指定の審判手続においても、親権者を定める協議の不存在あるいは無効の主張の当否が判断の中心の一つとなるものと予測されるが、戸籍訂正の許可を求める審判手続では相手方配偶者は当事者ではないし、戸籍訂正の審判も親権者指定の審判も、親権者を定める協議の不存在あるいは無効について判断がされても、その判断に既判力はなく、紛争が蒸し返される可能性がある。
    このようなことを考えると、協議離婚をした元夫婦の一方は、他方を被告として親権者指定協議無効確認の訴えを提起することも許されるものと解するのが相当である。
    このような訴訟は、人事訴訟手続法に定められた人事訴訟の類型ではなく、また現在解釈上人事訴訟の類型として認められている訴えではないが、事案の性質に鑑み、離婚無効確認訴訟と同様に解釈上人事訴訟として、手続や効果を規律するのが相当である。
    また、そうでないとしても、少なくとも、人事訴訟ではない通常訴訟として許されるものである(通常訴訟として考える場合、協議離婚届に記載された子の親権者を父あるいは母と定める記載に沿う協議の無効を確認する旨の請求の趣旨では、過去の法律関係の確認となるが、そのような請求について裁判することが、これを現在の法律関係の確認にひきなおして、「当事者間の子○○が当事者の共同親権に服することを確認する」との請求について裁判するよりも、当事者間の紛争の焦点に既判力を生じさせ、紛争の根本的な解決を図ることができるところであるから、このような訴えは適法というべきである)。したがって、本件訴えは適法である。
    そこで、本件において、控訴人と被控訴人()との間に、一郎の親権者を被控訴人と定める協議が成立していたか否か(争点)について検討する。
    ・・・・
    (1)一郎の親権者を被控訴人と定め、控訴人の署名押印がなされている協議離婚届が提出されていること
    (2)仮に、控訴人が署名押印した際に、離婚届出用紙に一郎の親権者を指定する記載はなかったという控訴人の主張を採用するとしても、控訴人は、そのような離婚届出用紙に署名押印して、直ちに被控訴人に交付していること
    (3)控訴人は、離婚届に署名押印して被控訴人に渡した直後に、実妹である松子から、その離婚届に証人として署名したということを聞かされているのに、特に何の行動もしていないこと
    (4)松子が戸籍の全部事項証明書をとり、それを控訴人の机の引き出しに入れてその旨告げられていながら、特に何の行動もしていないこと(それに目を通していないとは到底考えられない) 以上の事実は動かない事実というべきであるところ、控訴人の供述ないし陳述が肝心な点で不明確ないし曖昧であることを併せ考慮すると、一郎の親権者を被控訴人と定めて離婚する旨の意思を表示した本件離婚届が、控訴人の意に反して作成されたものであると認めることはできず、むしろ、本件離婚届に署名押印した時点では、控訴人は、当面の間、被控訴人が一郎を連れて別居したり、旧姓に復したりせずに、控訴人宅での生活を外形上従前どおりに継続することを前提とする限り、一郎の親権者を被控訴人と定める離婚届が提出されることは、了解していたと推認するのが相当である。
    五 以上によれば、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

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2004.12.30