離婚係争中の、自宅の共有物分割請求
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2016.2.24mf
弁護士河原崎弘
相談:離婚係争中の共有物分割請求の訴え
3年前に、夫が
家を出て、
離婚調停を経て、裁判になりました。私は、離婚訴訟で、勝訴判決を得ました。夫の請求した離婚は認められませんでした。
その後、夫は、共有物分割請求の訴えを提起して来ました。夫の目的は、私を家から追い出すことです。
私の住んでいる家は、私と夫が共同して買ったもので、私の持分10分の2、夫の持分10分の8です。夫は、現在も、ローンを支払っています。
私は、住み続けられますか。
回答:財産分与確定前はできない
共有物分割の訴え(民法258条)
が認められると、通常、共有物を現実に分割する、あるいは、売却して代金を分割することになります。いずれにしても
住み続けることはできなくなります。
ところで、共有物分割は、持分割合が確定していることが前提です。夫婦が婚姻中に取得した財産は、例え片方名義でも、他方の潜在的持分があります。相談者の例でも、妻の持分10分の2、夫の持分10分の8は、形式的なものです。妻に、潜在的持分があり、
離婚の際には、財産分与により、潜在的持分が顕在化するのです。従って、財産分与が終わるまで、夫婦の共有財産は、持分が確定しないわけです。そこで、財産分与の前に、共有物分割を認めることはできません。
従来の判例を見ますと、離婚係争中の共有物分割請求の訴えは、まず、離婚訴訟で解決すべき問題としています。従って、分割
請求そのものは、権利の濫用として認めておりません。
相談者は、安心してよいでしょう。
判例
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東京地方裁判所平成20年11月18日中間判決
1 被告は,夫婦共同財産についての清算は,財産分与の審判の申立て又は人事訴訟手続によるものであって,夫婦が共有持分を有する共有財産がある場合にも共有物
分割請求訴訟を提起することは許されないと主張するが,そのように解すべき法律上の根拠はなく,被告の主張は採用することができない。理由は以下のとおりである。
(1) 被告は,夫婦の共有財産についても,遺産分割について,共有物分割が許されず,遺産分割の審判によるものとされているのと同様に解するべきであると主
張する。
ア 共同相続人が相続財産を共有する場合に,その分割については,遺産分割手続によるべきであって,共有物分割請求が許されないと解される前提には,@相続
分は,法律上その割合が明確に規定されており,共同相続人の範囲に争いのない限り,相続分の割合は一義的に明らかであること,A相続財産の範囲に争いがある場合に
は,遺産確認の訴えによって,相続財産の範囲を既判力をもって確定することができること(相続財産の範囲の確定を通じて,遺産を構成する個々の財産につき,相続人
が各相続分に応じた共有持分権を取得したことを各相続人間の共通の前提とすることができ,これによって遺産の具体的な配分の手続を進めることができる。)を指摘す
ることができる。このような前提があるからこそ,相続財産の共有の場合に,遺産分割審判のみを認め,共有物分割請求を認めなくても,権利義務関係の確定の見地から,
格別,不都合を生じることはない。
イ しかしながら,財産分与の場合には,上記のような前提を欠いているといわざるを得ない。
被告も前提とするように,夫婦共同財産の分配の割合は,具体的な数値をもって予め定められているものではなく,夫婦共同財産の形成に対する寄与の度合を
しん酌して決められるべきものであって,これを既判力をもって確定すべき方法はない。また,仮に夫婦共同財産に属するか否かについて当事者間に争いがあったとして
も,この点についても,既判力をもって確定しうる手段が確立しているとも言い難い。したがって,夫婦共同財産を財産分与によって分配,清算しても,分配による所有
権の取得については既判力をもって確定されるものではないし,分配の前提となる事柄についても確定されるものでもない(これに対し,共有物分割請求の場合には,当
事者双方の共有持分の割合が認定され,その認定された共有持分の割合に基づいて,共有物分割が行われ,共有物分割請求権の存在については既判力が及ぶことによって,
共有物分割による所有権取得の効果は争い得なくなる。)。
そうすると,夫婦の共有財産について,共有物分割請求を認めずに,財産分与請求のみを認めることは,共有物の分割を希望する者に不都合を生じさせるとい
わざるを得ない。
ウ また,財産分与の場合には,対象となる夫婦共同の財産が夫婦の共有名義ではなく,どちらか一方の単独名義となっていることも珍しくない。このような事案
については共有物分割を論じる余地はなく,専ら財産分与請求をするしかないのであって,その意味においても財産分与請求と共有物分割請求はそれぞれが想定する場面
を共通にするものでもない。
エ したがって,遺産分割について共有物分割請求が許されず,遺産分割の審判手続によるものとする最高裁判所の判例は,夫婦の共有財産の分割については,妥
当しないというべきである。
(2) 加えて,夫婦の中には,一方の側からの離婚請求が,有責配偶者であること等の理由から排斥される事案もあり,たとえこのような事案であっても,夫婦の
共有名義となっている財産の共有物分割の途が閉ざされるべき理由はないところ,仮に被告主張のような前提に立てば,共有物分割の途が完全に閉ざされ,不当な結果と
なる(もとより,個別の事案によっては,共有物分割請求が権利の濫用として排斥される可能性はあるが,およそ夫婦財産の清算は財産分与請求によるべきであって,共
有物分割請求が許されないと解することはできない。)。
(3) さらに,夫婦の共有財産といえども,その取得の時期,財源,経緯等の事情から,財産分与の対象とならないものもあるのであるから,この点に照らしても
被告の主張は採用することができない。
2 以上によれば,本件の共有物分割請求は適法であり,本件建物の所在地を管轄する裁判所である当裁判所は裁判管轄を有するというべきである。
- 東京地方裁判所平成17年10月28日判決(出典:判例秘書)
(1)本件不動産は,原告と被告の婚姻生活のために生活の本拠とする自宅として購入したものであることは,原告が本件不動産を出るまで原被告が本件不動産に同居
していたことから明らかであり,特段の事情がない限り,原被告には本件不動産における同居義務があるというべきである。原告は,実質的に被告が単独で購入したもの
である旨主張するが,そうであるとすれば,原告がローンを負担する必要はないのであって,採用することができない。
原告は,居住しておらず,今後も居住する意思のない本件不動産のためにローンを負担し続けることは,全く不合理なことである旨主張するが,原告が本件不動
産に居住していないことは同居義務の不履行にほかならず,かつ,被告が原告を本件不動産から追い出した等,同居しないことがやむを得ないと認められるような事情も
特に存在しない。
(2)かつ,原被告間には離婚訴訟が係属しており,本件不動産のような夫婦共同生活の基礎となるべき財産については,離婚訴訟の中で,他の事情と総合して帰趨を定めるのが合理的であり,ことさら本件不動産の共有関係の解消を先行させなければならない理由はない。
(3)原告は,共有物分割請求権は,単独所有を原則とする近代的所有権の本質に発するものであるから,安易な制約は認められない旨主張するが,本件不動産のよう
に,夫婦共同生活の基礎として共有者双方が出捐して購入した財産は,組合財産類似の性格を有することも否定できず,このような個別事情を斟酌することまでもが禁じ
られるものではない。
(4)以上の事情を総合すれば,原告の共有物分割請求は,現時点においては権利の濫用に当たり許されないものというべきである。
- 大阪高等裁判所平成17年6月9日判決(出典:判例時報1938号80頁)
(2)以上の観点に立って本件について、被控訴人の分割請求権の行使が権利の濫用に当たるか否かについて検討する。控訴人が指摘するとおり、本件不動産は、被控訴人が控訴人との婚姻後に取得した夫婦の実質的共有財産であり、しかも現実に自宅として夫婦及びその間の子らが居住
してきた住宅であり、現状においては被控訴人が別居しているとはいえ、控訴人及び長女春子が現に居住し続けているものであるから、本来は、離婚の際の財産分与手続
にその処理が委ねられるべきであり、仮に、同手続に委ねられた場合には、他の実質的共有財産と併せてその帰趨が決せられることになり、前記認定に係る、資産状況及
び控訴人の現状からすると、本件不動産については、控訴人が単独で取得することになる可能性も高いと考えられるが、これを共有物分割手続で処理する限りは、そのよ
うな選択の余地はなく、被控訴人が共有物分割請求という形式を選択すること自体、控訴人による本件不動産の単独取得の可能性を奪うことになる。
そして、前記認定のとおり、被控訴人は、離婚調停の申立て自体は経由しているものの、いまだ離婚訴訟の提起すらしておらず、現に夫婦関係が継続しているのである
から、本来、被控訴人には、同居・協力・扶助の義務(民法752条)があり、その一環として、控訴人及び病気の長女春子の居所を確保することも被控訴人の義務に属
するものというべきである。
ところが、被控訴人は、病気のために収入が減少傾向にあるとはいうものの、依然として相当額の収入を得ているにもかかわらず、これらの
義務を一方的に放棄して、控訴人や精神疾患に罹患した長女の春子をいわば置き去りにするようにして別居した上、これまで婚姻費用の分担すらほとんど行わず、婚姻費
用分担の調停成立後も平成16年9月以降は、月額わずか3万円という少額しか支払わないなど、控訴人を苦境に陥れており、その結果、控訴人は、経済的に困窮した状
況で、しかも自らも体調が不調であるにもかかわらず、一人で春子の看護に当たることを余儀なくされている。
その上、本件の分割請求が認められ、本件不動産が競売に
付されると、控訴人や春子は、本件不動産からの退去を余儀なくされ、春子の病状を悪化させる可能性があるほか、本件不動産には前記認定のように抵当権が設定されて
いるため、分割時にその清算をすることになり、控訴人と春子の住居を確保した上で、二人の生計を維持できるほどの分割金が得られるわけでもないし、控訴人は、既に
満60歳を過ぎた女性であり、しかも原田病や神経症のため通院治療を受けていて、今後、稼働して満足な収入を得ることは困難であるから、経済的にも控訴人は一層苦
境に陥ることになる。
これに対し、被控訴人は、現在、進行した前立腺癌に罹患し、その治療などのため、収入が減少傾向にあり、借入金の返済が徐々に困難になっていることから、余命を
考慮して、負債を整理するため、本件不動産の分割請求をしているものである旨主張している。
被控訴人の病状からして、上記のような考えを持つこと自体は理解できないでもないが、前記認定事実によっても、その主張自体からも、現時点で、金融機関から競売
の申立てを受けているわけでもなく、直ちに本件不動産を処分しなければならないような経済状態にあるとは認め難いし、仮に、そのような必要があるとしても、事務所
不動産を先に売却して、事務所自体は他から賃借することも考えられるのであって、どうしても負債整理のために本件不動産を早期に売却しなければならない理由も認め
られない。また、上記のような困難な状況にある妻である控訴人や子供らの強い反対を押し切り、控訴人らを苦境に陥れてまで負債整理を行わなければならない必然性も
見出し難い。
(3)以上の諸事情を総合勘案すると、被控訴人の分割の自由を貫徹させることは、本件不動産の共有関係の目的、性質等に照らして著しく不合理であり、分割の必
要性と分割の結果もたらされる状況との対比からしても、被控訴人の本件共有物分割請求権の行使は、権利の濫用に当たるものというべきである。
登録 Sept. 7, 2014
東京都港区虎ノ門3丁目18-12-301(神谷町駅1分)河原崎法律事務所 弁護士河原崎弘 電話 3431-7161