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2015.5.15mf

弁護士に依頼し、仮差押により、債権回収

弁護士河原崎弘
相談
B 会社はアパレルメーカーです。取引先のL 会社は、JR の駅ビルに店舗を持っていました。
B 会社は、平成 7 年 4 月、L 会社と取引きを開始し、洋服など納入していました。 B 会社の支払は当初から遅れがちでした。そのうちに L 会社の滞納額も 250 万円ほどになりました。 L 会社はその後、若干額を支払いましたが、平成 9 年 11 月を最後に、 B 会社がいくら催促しても、 210 万円ほどの滞納額を支払いません。危険を感じた B 会社は平成 10 年 6 月を最後に商品の納入を止めました。
B 会社の担当者が、 L 会社へ行って様子を尋ねると、 L 会社の社長は、「税金も 400 万円ほど滞納している。他の買掛金も滞納し、債務は 4000 万円ほどある。いつ B 会社 に支払えるかわからない」と、言うだけでした。
仕方なく、B 会社の社長は、法律事務所を訪ね、弁護士に取立を依頼しました。

内容証明郵便による請求
平成 10 年 3 月 2 日、弁護士は、 L 会社に対して 内容証明郵便 を出し、売掛金 210 万円を請求しました。しかし、 L 会社から返事はありませんでした。

債務者の事情:売上げを駅ビルに納入している
弁護士は、L 会社に資産があるかが問題であると考えていました。 弁護士が B 会社の担当者から L 会社の事情をよく聞くと、次のような事情が分かりました。
L 会社は、 JR の駅ビルに店舗を持っています。このような場合、駅ビル側は入居契約で、店舗側に毎日の売上を駅ビルに納入させていることが多いのです。
弁護士が、駅ビルを所有している会社に、電話で、システムは既に知っている振りをして、「納入している売上金の返還請求権の名称」を尋ねました。駅ビルを所有している会社担当者の応答はお役所のような雰囲気でした。担当者は、名称は単に「売上金の返還金です」と、教えてくれました。
L 会社が、毎日、売上げを駅ビル会社に納入していることは間違いありません。弁護士は、「これはいい」と、思いました。弁護士は、 B 会社の社長に、「売上の返還請求権を仮差押えすると、売掛金は取立てできる可能性がある」と、説明しました。売上を仮差押えすると、将来、差押えする資産を確保できるし、駅ビル側が、 L 会社に圧力をかけ、債務を支払うよう仕向けるからです。駅ビルを所有しているお役所体質の会社は、駅ビルに入居している取引先がトラブルを起こすことを嫌うのです。
B 会社の社長は、現状ではどうせ取れないのだから、仮差押えに賭けることにしました。

債権仮差押の申立
弁護士は、着手金 40 万円を受取り、平成 10 年 5 月 8 日、裁判所に対し、(仮差押え日から向こう 1 年間の売上金の返還金のうち、 210 万円の)仮差押えを求める旨の申立をしました。 この場合、向こう1年間に継続的に入金する債権を包括的に仮差押するため、仮差押する債権の表示は次のようにしました(民事執行法151条)。

仮差押債権目録

1.金210万円

ただし、債務者が、○○駅ステーションビル内の店舗につき、第三 債務者に対して有する寄託売上金の返還請求権のうち、平成10年5月8日から同11年5月7日までに支払いを 受けるべきものについて弁済期の早いものから頭書金額に満つるまで。


返還金が少なくても、これなら容易に 210 万円に達します。裁判所は、仮差押の保証金を 40 万円と決めました(保証金は、通常、請求債権の 2 割くらいです)。弁護士はすぐ 法務局 に保証金を供託しました。
裁判所は、 5 月 13 日、仮差押決定をし、同日、決定正本を、駅ビルのオーナー会社に書留郵便にて送りました。
この通知が届いた後、駅ビルのオーナー会社は、 L 会社から納入を受けた売上げのうち、210万円は、 L 会社に返還できなくなりました。
5 月 14 日、仮差押決定正本を受け取った駅ビルのオーナー会社は、 L 会社の社長を呼びつけました。驚いた L 会社の社長は、同日、弁護士に電話をしてきました。 L 会社の社長は、「仮差押を取下げてくれ」と、頼んできました。

和解
仮差押をこのまま放置すれば、 L 会社は倒産するでしょう。 B 会社としては、売掛金を支払ってもらえばいいのであって、 L 会社の倒産は望みません。弁護士は、 B 会社と取下げる条件を打合わせしました。
支払いは、 10 回払いの、手形で、保証人と抵当権を付けてもらうことにしました。
平成 10 年 5 月 20 日、弁護士は、 L 会社から、手形 10 枚、(遅延損害金を含め)合計約 230 万円を受取り、 L 会社の社長所有のマンションに抵当権を設定し、「 L 会社の社長、専務が個人保証をする」旨の厳重な 債務弁済契約書 を作成した後、仮差押えを取下げました。個人保証と、抵当権がありますから、 L 会社の支払いは、ほぼ、大丈夫でしょう。
平成 10 年 6 月 5 日、法務局から保証金も帰ってきました。非常に短期間に決着が付いた事件でした。売上げを、毎日、ビルのオーナーに納入する債務者(入居店舗)に対するこの種の仮差押えは、成功する確率が高いです。営業委託契約をしている受託者に対する仮差押の場合も同じです。

費用
この事件で B 会社が使った費用は、弁護士に対する着手金 40 万円、報酬 20 万円、実費(印紙代、切手代、登記簿謄本取寄料金など)約 1 万円でした。
抵当権設定費用(登録税、司法書士の手数料など)約 4 万円は、相手(債務者)に負担してもらいました。

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