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2024.3.24 mf
先行する遺産分割時の相続放棄等
は寄与分か
弁護士河原崎弘
相談:父の相続のときに母の取得分は少ないです
私と母は、父が亡くなったときの遺産分割協議で現金少々(1000万円づつ)を受取っただけで、大部分の遺産(現金プラス不動産で2億円くらい)を兄が相続しました。このときは、私も母も、母の面倒は兄が看てくれると思っていました。
昨年、兄が亡くなりました。兄には子供がいないため、相続人は兄の妻と私の母です。
父の相続のときに、母が大部分の遺産を兄に取得させたことは、兄の相続のときに寄与分として考慮できませんか。母は財産のない状態で放り出されるおそれがあります。
回答:寄与分と言える可能性がある
この場合、お兄さんの妻の相続分は2/3、お母さんの法定相続分は1/3ですが(民法900条)、お母さんにそのほかに寄与分があるかです。
先行の相続(被相続人父)において相続放棄したり、遺産分割協議において他の相続人の取得分を増加させる行為が、その後、他の相続人が死亡した場合の相続において、特別の寄与といえるかの問題です(民法904条の2)。
- 否定する考え(一粒社、「寄与分-その制度と課題」、P100)
先行の相続における放棄などの行為は、色々な動機、理由でなされ、相続分がなかった場合もある。これを認めると、遺産分割時に先行の遺産分割時の事情を遡って考慮する必要があるが、時間が経過すると、これができなくなる、結局、一旦確定した前の遺産分割をやり直すこととなるなどの事情で、否定する。
-
肯定する考え(最高裁判所事務総局、「改正民法及び家事審判法規の解釈運用について」、家庭裁判月報33-4、P6、斎藤秀夫=菊地信男編、注釈家事審判法、P446、中川淳、相続法逐条解説、P263、新版注釈民法(27)、P270参照)
他の相続人の財産を増やしたことは間違いなく、寄与を認めた方が公平であるとの理由です。
- 事情により肯定する考え(法曹会、「遺産分割事件の処理をめぐる諸問題」、P293)。
原則として否定する。しかし、先行の相続における放棄などの行為の類型、色々な動機、理由、先行の相続から後行の相続までの期間などを考慮し肯定できる場合もある。
先行の相続で1人の子(A)が相続し、他の子(B、C)が相続放棄した後、Aが死亡し、Aの配偶者とB,Cが相続人となった場合は否定する(B、Cに寄与を認めない)。
しかし、本件のように、母親が兄に扶養されることを期待して遺産分割で兄に多くの遺産を取得させた(あるいは放棄した)場合などは認める(母親に寄与を認める)。
これについては、寄与を認めた審判はありますが、未だ公表された判例集などには掲載されていません。裁判官によって判断が異なると思います。寄与を認める場合でも100%の寄与は認めないでしょう。
あなたのお母さんの場合は、2および3の説では寄与を認めます。
これが妥当でしょう。
計算
弁護士は、この場合の実際の寄与分の計算をしました。
お父さんの遺産は2億2000万円とし、お兄さんの遺産は2億円として寄与分を計算してみます。
先行の相続(被相続人父)
各自の法定相続分、実際の相続分は以下の通りです。
お兄さんの法定相続分は5500万円ですが、実際相続したのは2億円です。このうちお母さんの法定相続分からは1億円が行っています。寄与はこのうち40%(これは当事者間の公平を考え適当に決めます)の4000万円とします。
遺産=2億2000万円
| 兄(子) | 母 | 相談者(子) |
法定相続分 | 5500万円 | 1億1000万円 | 5500万円 |
実際相続した額 | 2億0000万円 | 1000万円 | 1000万円 |
差額 | +1億4500万円 | -1億0000万円 | -4500万円 |
後行の相続(被相続人兄)
(寄与を4000万円として)寄与分などをまとめると次のようになります。配偶者の法定相続(お兄さん死亡による相続)分から4000万円が母に行きます。1万円未満は四捨五入。
遺産=2億円
母の取得分
(2億円-4000万円)÷3+4000万円=1億667万円
兄の配偶者の取得分
(2億円-4000万円)×2÷3=9333万円
| 母 | 兄の配偶者 |
法定相続分 | 5333万円 | 1億0667万円 |
寄与分 | 4000万円 | 0 |
合計(具体的相続分) | 9333万円 | 1億0667万円 |
あなたのお母さんの行為でお兄さんの財産が増えたことは間違いないのですから、お母さんは調停、審判において寄与分の主張をするとよいでしょう。
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