証券会社が預り金を返還しないので裁判で勝ち取った事件
(外務員の横領)

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2013.11.8mf更新

(相談)

私は、1997年2月20日、自宅で、証券会社の外務員(営業)にマツダのCB(転換社債)の購入資金として現金1533万円を預けました。
そのお金は、国債を売った代金でした。外務員は売却代金をわざわざ支店長と一緒に私の自宅に届けました。その2時間後に外務員は1人で来て、お金を持って行ったのです。
外務員は、事前に、「支店長は部下の成績を横取りする悪い人です。不倫で飛ばされてきた人で、皆に嫌われています。CBを買うことは支店長には言わないでください」と私に言っていましたので、私は少し同情し、国債の売却代金を受け取るときには、支店長には何も言いませんでした。
ところが、その後、外務員からCBが買えたとの連絡はなく、私から何度も連絡を入れても、外務員は不在でした。
2月25日、突然支店長から私に電話があり、「その外務員は、お金を会社に入れていない」と言ってきました。
外務員がお金を横領したのです。私以外にも6人被害者がいるようでした。
私と外務員が結託したわけでもありません。外務員はお金を預るときにくれた書類は、よく見ると、預り証ではなく、「現金預り証発行票」と書いてありました。
証券会社は、私にも過失があると言って預けたお金を返してくれません。

(回答)

弁護士は判例を調べました。このような例ではいくつか 判例があります。 証券取引法64条は、外務員に一般的な代理権限があることを認め、相手に悪意があった場合を例外と規定しています。悪意とは相手が外務員に権限がないことを知っていることを指します。
相談者は、外務員が受け取った金を自己の用途に使うとの事情は知らなかったのですから、善意です。従って、金銭の寄託契約は相談者と証券会社の間で有効に成立しています。相談者としては単に寄託契約に基づき、金銭の返還請求すれば、よいでしょう。なお、本件の類似例で、損害賠償請求して、顧客に過失があったとされ、請求額の3分の1が過失相殺された判例がありました。
弁護士は、相談者を代理して1997年3月27日、 内容証明郵便にて1533万円の返還を請求しました。証券会社から返事はありませんでした。

(訴訟)

4月2日、弁護士は用意してあった訴状を裁判所に提出し、訴えを提起しました。その直後に証券会社の弁護士から電話があり、 弁護士会で話をしました。証券会社の態度は明確ではありませんでしたが、話合いで8割くらいの金額を返還するような様子でした。
依頼者は、これでは納得しませんので、裁判が進行しました。
裁判では、相談者が外務員が預り金を流用することを知り得る状況であったか(民法93条但し書の心理留保)が、争点でした。証券会社は、「相談者は外務員が金を横領することを知り得る状況にあった」と主張したのです。
外務員が証人に出て相談者に2万円の商品券を渡したなどと証言していました。相談者も法廷で陳述しました。
裁判所では話合いもありましたが、証券会社内部では、大きな金額は判決がないと支払えないとの態度でしたので、和解は成立しませんでした。

1998年1月16日、判決がありました。証券会社は1533万円および返還請求後の日である1997年4月30日から年6%の遅延損害金を相談者に支払えとの判決でしたので、相談者は前面的に勝ちました。

(和解)

判決後、証券会社の弁護士から、「遅延損害金をまけてくれ」との話がありました。この頃には遅延損害金だけでも80万円にもなっていたのです。
相談者の弁護士は、これを断りました。その後、証券会社から「遅延損害金を半分にまけてくれ」との話がありました。相談者の弁護士は、これも断り、代わりに、遅延損害金を「4分の1(約20万円)だけ減額する」と回答をしました。
これで和解が成立し、証券会社は1998年2月13日、1533万円と遅延損害金約60万円を支払いました。

証券会社の責任を否定した判例

*東京地裁平成5年8月5日判決(判例タイムズ839-225)
*東京地裁昭和38年5月13日判決(判例時報337-39)

過失相殺を認めた判例

*東京地裁昭和38年7月19日判決(判例時報343-55)
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登録 2009.6.17