オーバーステイ(不法残留)の外国人に対する法的措置

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2015.4.14mf更新
弁護士河原崎弘

相談

私と一緒に住んでいた内縁の妻(32歳、中国人)が1998年5月29日富山で逮捕されました。6月1日警察から連絡があり、罪名は外国人登録証不携帯だそうです。

運送会社を経営している53歳の男性が6月1日、日曜日でしたが、法律事務所を尋ねて来ました。男性は、妻とは離婚裁判中で、中国人女性と2年ほど同棲しており、妻と離婚できたら、この女性と結婚するつもりでいました。
男性は、弁護士に対し、「自分の名前は警察に出さないでくれ」と頼みました。

接見

男性は、弁護士のところへ、女性の外国人登録証とパスポートを持って来ました。外国人登録証は1998年4月で期限が切れており、パスポートには、1994年4月に就労ビザを申請した判が押してあるだけで、在留期間更新許可の判はありませんでした。オーバーステイ(出入国管理及び難民認定法(以下、難民認定法)24条4号ロ の不法残留)です。
弁護士は、女性の旅券とパスポートを持って富山に行きました。夜9時頃警察に到着しましたが、東京から来たことを話して、接見をさせてもらいました。

逮捕の経緯

女性の話によると、逮捕の経緯は次の通りでした。
女性は、新宿のクラブで働いていたが、友人から「富山で働かないか」と誘われ、友人とともに、観光客気分で2週間前に富山に来て、店(クラブ)の寮に寝起きしていた。
ところが、働いていた店が風俗営業の許可(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律3条)を得ていないので、開店後1月ほどで警察の捜査が入り、日本人の経営者、店長、中国人8人が逮捕された。
オーバーステイはこのように他の違法行為に付随して捜査されるケースが多いです。警察はこれを機会に中国人の裏社会(蛇頭)の組織を摘発しようとしている様子でした。
刑事の説明では、嫌疑は外国人登録証不携帯ではなく、旅券不携帯でした。弁護士は外国人登録証と旅券を任意提出しました。刑事は執拗に、「外国人登録証と旅券はどこにあったか」と、尋ねましたが、弁護士は答えませんでした。
女性は、裁判所で、判事から、当番弁護士について告知され、既に当番弁護士を依頼していました。当番弁護士の費用のうち最初の接見の日当(1万円)は弁護士会の負担です。依頼人(身柄を拘束されている人)はこれを支払う必要はなく、無料なのです。
弁護士は、「当番弁護士がよい人だったら、その弁護士に依頼するとよい。費用は東京の彼が持つ」と、説明しました。東京の弁護士が来て接見するのでは機動的でないからです。
現状では、捜査の段階では国選弁護人は付きません。国選弁護人は、起訴されてから、私選弁護人がいない場合に付きます。当番弁護士は、私選弁護人なのです。私選弁護人がいた方が、接見の便宜、後に説明します即日判決の交渉などで裁判期日を早く入れるために便利です。

警察での取調

このとき逮捕された被疑者全員に接見禁止の処置が取られました。弁護士以外は接見できません。
女性は、同棲していた男性のことは話しませんでした。警察は、執拗に、外国人登録証と旅券はどこにあったかと、尋問しましたが、女性は、「友人に預けてあった。私が逮捕されたと知ってその友人が弁護士のところへ持って行った」と、説明しました。
6月8日、女性は不法残留(オーバーステイ)で再逮捕されました。一緒に逮捕されたホステスのうち、2人はオーバーステイの期間が1年未満でしたので、起訴されずに入国管理事務所に送られました。
女性は、取調べに対して、「住んでいるところは富山、寮に住んでいた」と答えました。中国人の裏組織を調べたい、警察にとっては気に入らない被疑者でした。
警察は執拗に男性関係などを尋問しましたが、女性は応じませんでした。通訳が間に入りますから、質問も迫力に欠けました。最後には、女性は、オーバーステイの取調べだから、「男性関係は関係ないでしょう」と言って、刑事の質問の不当なことを非難しました。これには、刑事も参ったようです。
6月19日、女性の勾留はさらに延長されました。同時に逮捕された他の被疑者は勾留延長されずに、起訴され、拘置所に送られました。刑事の取調べに素直に応じなかったので、女性は勾留延長されたのです。
その後、刑事の取調べも検事の取調べもありませんでした。取調べの必要もないのに勾留延長するのは違法でしょう。

起訴

6月29日の午前中までに女性は難民認定法違反(不法残留)で起訴されました。さすがに、この日は、女性も自分に対する処置が気になりました。そこで、午後5時になって、女性は(自分に対する処分を尋ねるため)警察を通して弁護士に接見を依頼しました。警察はすぐ女性に起訴のことを伝えました。意地悪をして刑事は起訴のことを女性に伝えるのを遅らせたです。
7月6日、女性は、拘置所に送られました。

裁判

起訴後、弁護士は、裁判所と交渉し、裁判と判決を同じ日にしてくれるよう頼みました。即日判決を求めたのです。女性が早く中国に帰りたいと希望したからです。 これは東京では当たり前の手続きですが、富山では裁判に2期日、判決に1期日を入れるのが普通だからです。
裁判所は、これに応じ、裁判期日を7月29日午前11時、判決をその日の午後1時にすることに決まりました。
この女性の不法残留期間は4年でしたが、不法残留期間が8年の他の被告の場合、1日での裁判、判決を認めないケースもありました。 7月29日午後1時、懲役1年6月、執行猶予3年の判決が言い渡されました。同日言い渡された不法残留期間が8年の被告の場合は、懲役2年6月、執行猶予4年の判決が言い渡されました。不法残留だけなら執行猶予が付きます。

入国管理局

7月29日、女性は、法廷外で待っていた入国管理事務所の係官に連れられ、名古屋の入国管理事務所に収容されました。
入管では面会の場合は、裁判の打ち合わせではないので、弁護士でも係官の立会いがあります。時間は10分です。
入管で、簡単な取調べの後、女性は帰国の飛行機代を所持していましたので、7月31日、上海に送られました。女性は、飛行機の中で、隣の乗客から携帯電話を借り、弁護士にお礼の電話をかけてきました。
男性が富山の弁護士に支払った費用は30万円でした。当番弁護士の場合、第2回目の接見以降の費用は自己負担です。

処分の検討

この事件について不法残留期間と検事の処分、判決、入管の扱いの関係は下記のようになっています。

不法残留期間検察庁の処分裁判所入国管理局
ビザ有り警察ですぐ釈放
以下は、ビザなし
8月不起訴強制送還
1年不起訴強制送還
1年5月不起訴強制送還
2年6月起訴懲役1年 執行猶予3年強制送還
4年起訴懲役1年6月 執行猶予3年強制送還
8年起訴懲役2年6月 執行猶予4年強制送還

関連質問

私も在留期限を過ぎてしまいました。どうしたら、よいですか。

お答え

在留期間の更新は、在留期間経過前に申請しなければなりません。例外として、「病気などのやむをえない事情で在留期間経過前に申請できなかった場合で、在留期間をあまり経過していない場合は、在留期間の更新申請が認められることもあります(特別受理)。
そこで、身辺を整理し時機を見て、在留期間の更新の申請をして下さい。これが認められなかったときは、自主的に出頭すれば、出国命令を受けますが、強制退去のための収容はされません。
また、任意に出頭すれば、オーバーステイを理由とする逮捕、裁判を避けることができます。
強制退去を受けた者でリピーターは10年、それ以外は5年(平成12年2月17日以前は1年)を経過しない(出入国管理及び難民認定法5条1項9号)と、上陸拒否事由に当たり、入国できません。さらに、不法残留での1年以上の懲役もしくは禁固判決(執行猶予付判決を含む)を受ける(出入国管理及び難民認定法5条1項4号)と上陸拒否事由に当たり以後入国できなくなります。執行猶予期間が満了しても同様に解釈されています(法律の解釈としてはおかしいです)。従って、再度入国する必要のある場合は、強制退去や刑事事件にならぬよう気を付けてください。

最近の傾向

オーバーステイの場合、時々は故国に帰りたいのが人情です。そこで、同年齢の日本人から住民票と戸籍謄本などを買い、写真だけ本人(オーバーステイ)の写真を貼り、パスポートを取得し、日本人になりすまして、出入国しています。

日本人でも、口頭での嘘は多いです。裁判で嘘を言う傾向があります。中国人の場合、さらに、偽造文書を利用にも抵抗がありません。留学ビザ申請に必要な「滞在費を支弁できる証明書」として預金残高証明書の偽造が多いです。こうなると、文書の内容だけでなく、その成立のチェックも必要でしょう。他方で、そのような無理な書類の要求をせず、奨学金の至急などを考えるべきでしょう。

最近(2001年)は、オーバーステイだけの場合は、起訴せずに、入管は2週間ほどで強制退去させているようです。不法残留期間6年のケースでも同様でした。

しかし、中国などでは2万元ないし4万元(約30万円ないし60万円)ほどの賄賂を支払ってで身分証明書の番号と名前を変え、正規の旅券を取得し、ビザを取得して来日するケースが多くなりました。
こうなると、指紋などで確認しないと、不法入国・滞在を調査できません。実際、強制退去後6か月ほどして、このようにして入国した人たちは、入管の調査では、摘発されていません。指紋押捺システムには批判があり、難しい問題です。
このような人は日本の法律を守る気持ちがなく、罪の意識も薄いです。種々の仕事に従事しながら、機会があると、窃盗、強盗、贓物故買などをする人もいます。

関連質問2

仲の良かったフィリピン人の女性が不法滞在で入国管理局に捕まってしまいました。 不法滞在ということで法を犯したこと自体悪いことであると認識しております。
私は、彼女をできる限り速やかにかつ安全に本国へ返ることを望んでいます。 彼女の友達や両親が心配しており、私に何かできないのかと悩んでいます。私は、 法律に関し何の知識もありません。
次のような情報を説明してあげ、彼女や周りの人たちへ少しでも力になってあ げたいと思っています。 教えていただけないでしょう
  1. 彼女の現在の処遇
  2. 今後の彼女への対応。いつ本国へ送還されるのか。
  3. 彼女への面会の可否とその手続き

回答

  1. 東京入国管理局の管轄(下記)なら、入管の第2庁舎(*北区西が丘3-2-21、JR東十条下車)に収容されているでしょう。
    東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、茨城県、栃木県、群馬県、山梨県、長野県、新潟県
  2. 法律違反調査をされます。入管法違反だけなら、最近は、起訴せずに(刑事裁判にせずに)、2、3週間位で本国に送還されます。
  3. 面会できます。1回10分以内。
*東京入国管理局(大手町庁舎および第2庁舎)は、2003年2月1日、港区港南5−5−30(電話:03-5796-7111) へ移転しました。

登録 Oct. 13,1998
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