後遺障害認定における外貌の醜状とは

弁護士(ホーム)弁護士の交通事故相談
2015.5.28mf updated
弁護士河原崎弘

相談:顔の後遺障害

20 歳の女性です。 バイクで直進中、急に左折してきたトラックに巻き込まれました。この事故の後遺障害のことについてお尋ねします。
この事故のとき、全身を打ち、怪我をしましたが、顔面の怪我が、後遺障害として残りました。整形手術もしたのですが、顔に約 3 cmの線状痕が残りました。
この後遺障害の損害賠償はどうなるでしょうか。
相談者は、日弁連交通事故相談センターの相談室で、弁護士に相談しました。料金は無料でした。

回答:認定基準

交通事故 の後遺症の認定では、 後遺障害等級表 を使います。顔面における醜状痕の認定基準(平成22年6月10日以降)は、次の通りです。

7級12号「外貌に著しい醜状を残すもの」とは、次のいずれかに該当する場合で、人目につく程度以上のもの
頭部にあっては、手のひら大(指の部分を含まない)以上の瘢痕又は頭蓋骨の手のひら大以上の欠損
顔面部にあっては、鶏卵大面以上の瘢痕又は10円銅貨大以上の組織陥没
頚部にあっては、手のひら大以上の瘢痕
9級11の2「外貌に相当程度の醜状を残すもの」とは、次のもの
顔面部の長さ5センチメートル以上の線状痕で、人目につく程度以上のもの
12級14「外貌に単なる醜状を残すもの」とは、次のいずれかに該当し、人目につく程度以上のもの
頭部にあっては、鶏卵大以上の瘢痕又は鶏卵大面以上の欠損
顔面部にあっては、10円銅貨以上の瘢痕又は長さ3センチメートル以上の線状痕
頚部にあっては、鶏卵大面以上の瘢痕

醜状と言えるには、ある程度、人目につくもの、すなわち、目立つものであることが必要です。あなたの場合は、目立つ場合、線状痕の長さが3cmですので、12 級 1 4号に該当します。したがって、後遺症についての慰謝料(裁判の場合 290 万円、任意保険の場合 93 万円)、と労働能力喪失率( 14/100 )に基づく損害( 得べかりし利益の計算機 )賠償を請求できます。
ただし、顔の線状痕は、逸失利益の減少を認めるか、どの位の期間認めるかについては種々の判決があります。ここで計算する逸失利益の全額は損害とは認められない(下記 2 の判決は慰謝料のみを認めた)でしょう。
従来、外貌の醜状の等級は、女性と男性で違いましたが、平成22年6月10日以後に発生した事故につき、男女差はなくなりました。

参考
外貌醜状に関する後遺障害等級の改正

判例

  1. 東京地裁平成10年3月26日判決
    原告は、本件事故により、下顎部挫創、右上第3歯打撲による歯牙破折及び亀裂の傷害を負い、下顎部については、創の縫合を受け、長さ1.5センチメートルの瘢痕が残り、歯牙破折については、鋭縁部の削合を受けたことが認められる。
    しかし、下顎部の瘢痕については、自賠法施行令2条別表後遺障害別等級表上の7級12号(女子の外貌に著しい醜状を残すもの)に該当しないのはもとより、同等級表の12級14号(女子の外貌に醜状を残すもの)所定の要件にも該当しないから(女子の場合、顔面部については、7級12号は、「鶏卵大面以上の瘢痕、5センチメートル以上の線状痕又は10円硬貨大以上の窪み」を、12級14号は、「10円銅貨大以上の瘢痕又は3センチメートル以上の線状痕」が要件とされる)、原告の瘢痕は、同等級表の後遺障害には当たらない。また、歯牙破折部についても、自賠法上の歯牙の障害には該当せず、いずれにしても後遺障害には該当しない(交通事故民事判例集31巻2号472頁)。
  2. 東京地裁平成9年9月8日判決
    本件事故により外貌醜状等の後遺障害が認められるものの、原告の収入減をもたらすほどの影響を及ぼすとは認めがたく、右手指の症状は、本件事故によって生じた可能性は否定できないが、因果関係を肯定するまでに至らない。
    従って、後遺障害による逸失利益を認めることはできない。しかし、これらの点は、後遺障害の慰謝料を算定するときに加算事由として考慮することとする(交通事故民事判例集30巻5号1357頁)。
  3. 東京地裁平成7年12月19日判決
    原告は、クラブを経営していたが、・・・・・ 原告は、本件事故により平成6年3月1日(当時39歳)顔面瘢痕(右顔面に長さ2.7センチメートル、幅1ミリメートル)、左足内筋痛の後遺症を残し(なお、右顔面瘢痕は今後も不変である。)、症状が固定したものであるが、本件事故後、飲酒をすると頭が痛くなる等するため、クラブの営業に支障を生じ、さらに資金繰りの関係もあって、平成4年10月クラブを閉店し、現在まで無職であることが認められる。
    右によれば、原告は、本件外貌醜状の後遺障害により、前記症状固定の日から 10年間(原告の請求は右期間であり、被告も特段争っていない)、 その労働能力の14パーセントを喪失したと認められるから、原告は、本件事故に遭わなければ、前記症状固定の日から10年間、少なくとも賃金センサス平成五年女子労働者・学歴計・35歳ないし39歳の年収350万7400円の収入を得たと推認されるので、右額を基礎として、ライプニッツ方式により中間利息を控除して、10年間の逸失利益の現価を算定すると、次式のとおり、379万1632円となる(交通事故民事判例集28巻6号1787頁)。
  4. 広島地方裁判所昭和62年6月25日判決
    原告美雪は、等級表第12級14号に該当する顔面の創瘢痕及び同第14級10号に該当する大後頭神経圧痛、頚部痛、頚性頭痛の後遺障害が残つた旨主張するので、 検討するに、原告美雪は、本件尋問において、右眉上に傷跡が残り、右眼のまつげが逆さまつげになり、二重まぶたが三重まぶたとなつており、顔の傷が気になる旨供述 しているが、同原告の顔面を撮影した写真であることに争いがない甲第78号証、証人堀川嘉也の証言によれば、同原告の顔面の傷跡は、小さなもので、人目につく程度 のものではないことが認められるのであつて、等級表第12級14号にいう「外貌の醜状」に該当すると認めるのは困難である。

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