危ない弁護士/相手から金を受けている
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2014.12.1 mf
相談
私は、自宅の土地、建物を貸金業者に譲渡担保に取られてしまいました。自宅は約4000万円ほどの時価ですが、貸金業者から借りたのは、1000万円です。
貸金業者は、私に立退くよう要求しています。そこで、弁護士に依頼しました。
ところが、私は、この弁護士に不審を感じる点が多く、信頼できません。私は、自宅を売り、その代金で借金を返したいのですが、弁護士は、「相手(貸金業者)から1000万円ほど、清算金をもらって解決したら」と、勧めます。私が借金を返済するお金を用意できないからです。しかし、弁護士が、相手から金をもらっているような様子があります。どうしたら、よいですか。
この弁護士は、相談に乗ってもらった別の貸金業者から紹介された弁護士なのです。
回答
このような事件では、まず、自宅につき処分禁止の仮処分をして、自宅を処分できないようにします。それには、自宅の時価の1割ほどの保証金を供託する必要があります。
その後、借金につき、弁済するから、自宅の登記名義を返してくれと交渉するのです。これが、通常の方法です。
また、債務額を越える価値のある担保物件を処分する場合は、差額を返すなど、貸主には清算義務があります。
弁護士が貸金業者の紹介である点が心配です。
しかし、
あなたの依頼した弁護士がどんな方かわかりませんし、上記の点につき、どのような対処をしているかがわかりませんので、処理が妥当か否かは、判断できません。あなたが保証金を用意できない、あるいは、弁済するお金を用意できないなら、弁護士も活動できません。それなら、弁護士も、適当に和解するしかないと考えるでしょう。
ただし、貸金業者の紹介である点が気になります。相手から金をもらっている様子とは、何か根拠があるのですか。
希ですが、弁護士の中には、提携弁護士 等、とんでもない人がいることは事実です。
さらに、弁護士は、依頼者の正当な利益を実現するように努めなければなりません( 弁護士倫理 19条、 弁護士職務基本規程 21条)。依頼人の不動産を売る処理をする場合も、できるだけ高く売る義務があります(違反すれば、善管注意義務違反で債務不履行責任です)。弁護士が、これらに違反すれば、懲戒処分を受けます。
さらに、事件の相手から、お金を受け取るなど、利益を受ける行為は、汚職行為ですので、弁護士は懲戒処分を受けるだけでなく、刑事罰(3年以下の懲役)を科せられます ( 弁護士法 26条、76条)。
ご心配なら、別の弁護士に、直接、詳しい事情を説明し、意見を聴くことをお勧めします。その結果、相手方から金を受けている状況なら、その弁護士については懲戒申立をし、事件については、弁護士を代える こととし、他の弁護士に依頼するとよいと思います。
判決
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東京地方裁判所平成24年11月27日判決(出典:判例時報2188号66頁)
このように、被告は、本件分筆土地の売却については、原告との関係からも、丁原社との関係からも、密接な関係を有する立場にあったのであり、被告の主張するよう
に、「本件分筆土地の売買は原告と丁原社の問題であって被告の関知するところではない」などということは到底できない。
そして、原告と丁原社が売買契約の直接の当
事者となる場合、その売買代金いかんが、両者の利害が直接対立しかねない重要な問題になることは避けられないのであるから、被告において、丁原社に肩入れして原告
の利益を犠牲にして廉価売却を行おうなどという意図は毛頭なかったにしても、そのような疑念を招くことのないよう、最低限、中立的な不動産業者に対し本件分筆土地
の購入希望価格を提出させて有利な条件を提示した業者に売却するよう助言する程度のことは、委任契約上の義務として期待されていたというべきである。
ところが、被告は、そのような義務を果たすことなく、本件各土地の売却が緊急を要することであるかのような誤った前提に基づく不適切な助言(上記(2))と相ま
って、原告をして、上記のような不正常な廉価での売買契約を締結するに至らせたのであり、これにより原告に生じた損害の賠償義務を免れないというべきである。
(4)以上をまとめると、被告は、@消費者金融業者四社との取引について取引歴の開示を求め、引直し計算をした上で本件債務の処理方針を示すべきであるのに、
漫然とこれを怠ったまま、平成19年9月27日に初めて原告と面談した際、本件債務の額は723万円以上であって原告はその支払義務を負っているという誤った前提
に基づく説明をし、このような誤った前提に基づいて、本件各土地を更地にして売却せざるを得ないという不適切な助言をした点、A同日の面談及び平成20年5月30
日に送付した「ご連絡書(重要)」において、本件債務に関する客観的状況はさほど切迫していたわけではないのに、非常に厳しい状況であって本件債務を整理するため
には直ちに本件各土地又はその一部を更地にして売却する必要がある旨の必要以上に危機感を強調した説明をする一方、消費者金融業者の対応に関する原告の不安感を解
消するような配慮をしなかった点、B賃借人4名の立退き交渉を済ませながら、本件建物の一部取壊しというおよそ費用対効果に見合わない中途半端な処理を助言した点、
C原告が本件分筆土地を可能な限り高値で売却できるよう、丁原社以外の不動産業者にも購入希望価格を提出させるように勧めるなどの適切な指導助言をすることなく、
不正常な廉価での売買契約を招いた点のそれぞれについて、弁護士委任契約上の善管注意義務違反があったというべきである。
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名古屋高等裁判所平成23年7月27日判決
借地権等の譲渡契約(以下「本件契約」という。)に関し,譲渡人の代理人であった弁護士が,本件契約の相手方である甲社の共同事業者である会社の実質的経営者であり,かつ,本件契約締結交渉の甲社の窓口となり,甲社顧問の肩書で甲社のために本件契約締結交渉を行ってきた者から,本件契約締結に関する謝礼の趣旨で供与された200万円を受領した事案において,弁護士法26条の「相手方」には,実質的にみて相手方本人と同視しうる程度に利害対立状況にある者も含まれるから,当該利益供与者は,同条の「相手方」に当たる,とした原判決の判断は正当である
- 東
京地方裁判所平成4年4月9日
判決
主 文
被告人を懲役2年に処する。
この裁判の確定した日から5年間、刑の執行を猶予する。
被告人から9120万円を追徴する。
第一(犯罪事実)
被告人は、弁護士として加商から事件を受任していたが、平成元年9月20前記A法律事務所にやって来たCが「加商の件では
いろいろお世話になりました。今後ともよろしくお願いします。」「この中には、お礼として小切手が入っております。」と言って封
筒を差し出すと、Dを加商の非常勤取締役として受け入れるについて尽力してくれた謝礼及び今後とも地産グループのために種々の便
宜を図ってほしいという趣旨で供与されるものであることを知りながら、その場で、株式会社G振出しの額面810万円(1000万
円から所得税を源泉徴収した金額)の小切手一通を受け取り、受任している事件に関し相手方から利益を受けた。
〔第二の犯行に至る経緯〕
被告人は、引き続き、地産側への対応について加商から委任を受けていたところ、平成2年に入って、BがCから、加商の代表取締
役を辞任するように迫られたり、加商の業績不振を非難されたりした上、5月25日に被告人とBがCに会った際、C本人を加商の非
常勤取締役に就任させるように要求されたため、以後、Bが怖がってCに会うのを避けるようになっていた。
第二(犯罪事実)
被告人は、弁護士として加商から事件を受任していたが、平成2年6月21日、前記A法律事務所にやって来たCが「先生の方から、
B社長に、私との話し合いに応じるよう話していただけませんか。お力添えをお願いします。」「先生には、加商の件では、大変お手
数をかけておりますが、一つよろしくお願いします。」と言って封筒を差し出すと、Cからの要求に関してBがCとの会談に応じるよ
うに尽力してほしいという趣旨で供与されるものであることを知りながら、その場で、現金300万円を受け取り、受任している事件
に関し相手方から利益を受けた。
〔第三の犯行に至る経緯〕
被告人は、平成2年7月2日にBとCとの会談を実現させたが、その席で、BがC本人ほか一名を加商の役員に就任させるという新
たな要求を出された上、7月9日までに代案を出すように迫られたことから、Bに対し、地産グループの所有する加商株を買い取るか
どうかを決断するように促していたところ、7月9日、加商から、加商株全部の買取りについて地産側と交渉することを依頼されて、
これを受任した。その後、被告人は、Cに加商の意向を伝えて交渉を続けたものの、地産側が売渡価格を1株2500円とすることに
固執して譲らなかったため、これを受け入れることとし、7月31日になって、加商と地産側との間で、B又はその指定する第三者が
8月31日までに地産グループの所有する加商株合計1316万1000株を単価2500円、合計329億250万円で買い付け、
その代金が支払われない場合には加商が地産グループの傘下に入って経営につき地産グループの指導を受けるという条件で合意するに
至った。
第三(犯罪事実)
被告人は、弁護士として加商から事件を受任していたが、平成2年7月31日、東京都渋谷区《番地略》渋谷道玄坂ビル株式会社チ
サンレストラン「旬の館」において、加商と地産側との合意に関する契約書に立会人として署名押印した際、Cから「今回は大変あり
がとうございました。」「今後は、契約書のとおり実現できるようよろしくお願いします。」「先生には、いずれ改めてお礼をさせて
いただきます。」と言われ、合意が成立したことに対する謝礼及び今後とも合意事項の履行につき尽力してほしいという趣旨で相当額
の金銭を供与したい旨の申し出であることを知りながら、これを承諾し、これに基づいて、平成2年9月6日、前記A法律事務所にお
いて、Cから秘書のEを介して、株式会社G振出しの額面8010万円(1億円から所得税を源泉徴収した金額)の小切手1通を受け
取り、受任している事件に関し相手方から利益を受けた。
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仙台高等裁判所昭和30年12月8日判決
Aの原判示第二の事実に対する控訴趣意第一点第二点、同Bの控訴趣意第七点第八点及び同Cの控訴趣意第二点について、
(一) おもうに、弁護士法第26条が、「弁護士は、受任している事件に関し相手方から利益を受け、又はこれを要求し、若し
くは約束してはならない」と規定していわゆ汚職行為を禁止し、同法第76条が右規定に違反する行為に対し刑罰の制裁を以て臨ん
でいる所以のものは、けだし、基本的人権の擁護、社会正義の実現を使命とする弁護士の公共的性格に鑑み当然要請される職務執行の
誠実性を担保しようとするにあるものと解せられる。従って、右禁止規定にいう「受任している事件」とは委任を受けて現に処理して
いる事件を指し、委任の終了した事件を含まず、いわゆる「利益」とは、報償たる性質を有すると否とを問わず人の需要若しくは欲望
を充たすに足る有形無形一切の利益を包含し、また、いやしくも弁護士が受任している事件に関し相手方から利益を受け、又はこれを
要求し、若しくは約束をすれば、すなわち汚職の罪は成立し、現に職務の構成を害したことは同罪の成立要件ではないと解するのを相
当とする。従つて、「利益」とは報酬ないし謝礼たる性質を有するもののみに限り、実費弁償たる性質を有するものを含まないとの論
旨の採る見解は採用することができない。
2003.1.11