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2015.4.2mf更新

付録のCDROMの数が契約と異なる/数量指示売買の規定

弁護士河原崎弘
(相談)
工業デザイナーである A さんたちは、自分たちのグループを作り、 CD−ROM でデザイン集を作る計画を立てました。
平成 5 年、 A さんは、ある雑誌社に、「デザイン集のサムネイル版を CDROM に収め、これを雑誌の付録に付ける」企画を持ち込みました。
A さんたちにとっては宣伝になり自分たちの作品を知ってもらえる機会が増え、雑誌社にとっては、先端媒体である CDROM を付録に付けることで出版社のイメージアップで、雑誌の売上げ増進に役立つと考えられたのです。
雑誌社は、その雑誌の発行部数を公称 7 万、実販売部数は 4 万と説明していました。 CDROM の制作費などはパッケージを含め、単価 300 円、 4 万枚で総額 1200 万円位と決まりました。 CDROM をどちらが作成するかについては、雑誌社は「よい経験になるから」と自分のところで作りたがりましたので、雑誌社に作ってもらうことになりました。
A さんたちは雑誌の販売されたときに 1200 万円を支払う旨の簡単な契約書を作っただけでした。契約書の中に、代金を単価 300 円、 4 万枚分で、合計 1200 万円であるとは書いてありませんでした。
Aさんたちは CDROM の原版を作り、雑誌社の下請けの複製業者に渡しました。そのとき、複製業者から「製作する CDROM は合計約 1 万 2000 枚である」ことを知ったのです。
A さんたちは、雑誌社に CDROM の製作枚数について尋ねましたが、雑誌社は、雑誌の発行部数に関することで、企業秘密として教えませんでした。雑誌社は雑誌の販売部数を 4 万と説明したことも否定しました。
A さんたちは、雑誌の発行部数が 4 万部であると聞いていたので、広告効果を予想し、 1200 万円との費用を納得したのです。これが 1万2000 であると、広告の効果は違ってきます。 CDRO Mが付録に付いた雑誌は予定通り発行されましたが、 A さんたちは 1200 万円の支払いを拒否しました。

(交渉・調停)
双方とも弁護士を依頼して交渉が始まりました。雑誌社は、まず、簡易裁判所に調停の申立をしました。調停は話し合いです。この調停は 3 回ほどで、物別れになりました。

(訴訟)
平成 6 年 7 月、雑誌社は A さんたちに対して訴えを提起しました。 A さんたちも、「雑誌社は詐欺をして自分たちに損害を与えた」と主張し、損害賠償を求め、雑誌社に対し反訴を提起しました。
審理の過程の中で、日本では雑誌などの販売部数がいいかげんに(虚偽が)発表されていることがわかりました(発行部数を査定する社団法人日本 ABC 協会と言うものがあるくらいです)。
訴訟における雑誌社と A さんたちの主張は以下通りです。雑誌社の主張 雑誌社は、当時、雑誌の発行部数を公称 7 万部と発表していましたので、実際は約 1万2000 部であると知られることを嫌がっていました。

(和解)
A さんたちは契約時の会話を録音していました。これには出版社の担当者が雑誌を、「実販売部数は 4 万部」と説明している様子が不鮮明ながら録音されていました。Aさんたちの弁護士はこのテープを証拠として提出しました。
これが決め手になったのでしょう、何回かの準備書面のやり取りの後、平成 7 年 7 月、「代金を 360 万円とする」裁判上の和解が成立しました。Aさんたちの主張が通った結果になりました。

本件がこれほどもめたのは、契約書の中に、「 CDROM の単価 300 円、 4 万枚分で代金総額 1200 万円である」と書いていなかったからです。
数量指示売買は、中々認められ難いですが( 判例 参照) 、契約の中身としてそのような内容が必要です。土地の売買で坪単価と実測面積を基に代金を決める場合と同様です。
本件では、録音テープがあって、うまく和解で解決できました。本件が判決になった場合、数量指示売買の規定が適用されるかは明確ではありません。
それにしても、実販売部数とは別に、虚偽の公称販売部数が通用するとはおかしなことです。

(法律/民法)
第559条〔有償契約一般への準用〕この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。             〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

第563条〔権利の一部が他人に属する場合の担保責任〕売買の目的である権利の一部が他人に属することにより、売主がこれを買主に移転することができないときは、買主は、その不足する部分の割合に応じて代金の減額を請求することができる。
2 前項の場合において、残存する部分のみであれば買主がこれを買い受けなかったときは、善意の買主は、契約の解除をすることができる。
3 代金減額の請求又は契約の解除は、善意の買主が損害賠償の請求をすることを妨げない。第564条前条の規定による権利は、買主が善意であったときは事実を知った時から、悪意であったときは契約の時から、それぞれ一年以内に行使しなければならない。             〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

第565条〔数量の不足又は物の一部滅失の場合における売主の担保責任〕前二条の規定は、数量を指示して売買をした物に不足がある場合又は物の一部が契約の時に既に滅失していた場合において、買主がその不足又は滅失を知らなかったときについて準用する。

(判例)
  1. 数量指示売買とは、当事者において目的物の実際に有する数量を確保するためその一定の面積・容積・重量等を売主が契約において表示し、かつ、この数量を基礎として代金が定められた売買をいう。土地の売買において、目的たる土地を登記簿記載の坪数をもって表示したとしても、これでもって直ちに売主がその坪数のあることを表示したものというべきではない(最判昭43年8月20日民集22-8-1692)
  2. 買主において実際にあるものと信じ、かつ、代金計算の基準とされた面積に比べ、実測面積が4分の1であったので、・・・・ 山林売買が数量指示売買(主位的請求)に当たらないとされたが、予想以上の面積不足につき要素の錯誤(予備的請求)が認められ、契約が無効とされた (東京地裁昭和50年5月14日、判例時報798-59)
  3. 土地の売買契約において、売買の対象である土地の面積が表示された場合でも、その表示が代金額決定の基礎としてされたにとどまり売買契約の目的を達成する上で特段の意味を有するものでないときは、売主は、当該土地が表示通りの面積を有したとすれば買主が得たであろう利益について、その損害を賠償すべき責めを負わないものと解するのが相当である(最判昭57年1月21日民集36-1-71)
  4. 必ずしも1平方メートル当たり何円との代金算定方法をとっていない場合でも、売主が一定の面積であることを保証し、これが代金算定の重要な要素となっているときは数量指示売買に該当する・・・本件借地権付建物の売買契約が、いわゆる数量指示売買に該当するとして代金の減額請求を認めた(東京地裁平成5年8月30日判決(判例時報1505-84)

弁護士河原崎法律事務所 03-3431-7161
登録 2009.6.17