弁護士にとって危険な依頼人/予備的主張を嫌う依頼人

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2014.8.13mf
相談
私は、土地を買いましたが、当時、資力があったのは、父でしたので、税務対策上、父名義で買いました。実際に、私が契約し、お金は、私が出しました。その後、私は、父から贈与を受けたとの贈与契約書を作りました。その場面はビデオに撮りました。
父の死後、兄弟が、(登記名義が父でしたので)これは父の遺産であると、主張してきました、弁護士に裁判を依頼しました。私が土地を買ったことは、書面に書きました。しかし、弁護士は、「予備的主張として、土地の贈与を受けた」と、主張すると言います。
こんな主張をしたら、「私が土地を買った」との主張が崩れませんか。弁護士を代えた方がいいでしょうか。
相談者は、区役所の法律相談室にきました。

回答
訴訟には技術的な面があります。主たる主張として、真実を主張し、(証拠がないないとの理由で)それが認められない場合は、予備的主張として、別の事実を主張することはよくあります。裁判官は、神様でありません。証拠がないと真実に反する認定もします。
このケースで言えば、所有権の取得原因としては、主たる主張として、「自分が買った」と主張し、予備的主張として、「自分が買ったことが認められない場合は、父が買って、父から贈与を受けた」と主張するのです。
予備的主張をすると、若干、主たる主張が弱いとの印象を与えます。しかし、あなたのケースでも、予備的主張をすべきでしょう。なお、予備的主張が嫌なら、弁護士に、「予備的主張はしないでくれ」と言えば済むことです。弁護士を代える必要はありません。

所有権の帰属が争われたケースで、亡くなった方(父)からの贈与契約書だけがある事件がありました。そのケースでも、主たる主張が「父の名前で自分で買った」、予備的主張が「父から贈与を受けた」として、成功しました。また、主なる主張(主位的主張)を遺言無効、予備的請求を遺留分とすることは、よくあることで、必要なことです。

予備的主張を、嫌う依頼者が、時々います。やはり、個人の依頼者であり、法人の依頼者ではありません。合理的な考えができない方、弁護士の仕事(法的紛争処理)に対する無理解な方です。
予備的主張に限らず、弁護士が妥当と考える主張を嫌がる依頼者の場合は、弁護士は、依頼者を説得すべきです。弁護士と依頼者が時間をかけて話しあえば、依頼者も納得してくれるはずです。
それでも、依頼者が説得に応じない場合は、弁護士としては、「・・・の予備的主張について説明を受けました。この主張はしないでください」との書類を作り、依頼者の署名、捺印をもらっておくことが必要でしょう。そうしないと、後で、依頼者は、「予備的主張をするべきだった」、「弁護士の説明不足である」と苦情を言い出すおそれがあるのです。あとで発生するトラブルを防止するために必要なことです。
2006.9.22