相談:交通事故損害賠償債務は免責されるか
破産しても、免責されない債務があるそうですね。前方不注意の交通事故(人身事故)の損害賠償債務約430万円はどうですか。
男性は、クレサラ相談所で、弁護士に相談しました。相談2:不貞関与を理由とする慰謝料は免責されるか
不貞関与を理由に相手の奥さんから、300万円の慰謝料を請求されています。私は、今度、破産決定、免責決定をされました。慰謝料も免責されますか。回答:故意または重過失に基づく損害賠償債務
担当の弁護士は次の通りに説明しました。破産手続きの中で、免責決定があれば、通常、破産者は、債務の支払いから免れます。自己破産の目的は免責決定を得て債務を免れることです。 しかし、免責決定を得ても、免責されない債務があります。それは、下記の通り、破産法253条に規定されています。
不法行為に基づく損害賠償請求権は、不法行為者が、当時、故意、又は、重過失(1項3号)でなければ免責されます。
相談者の場合、単なる過失による交通事故のようですので、破産後免責決定を得ると、免責されます。
さらに、単なる故意を超え、故意を超えた積極的な害意でなければ、免責されるとの考えが強いです。貞操侵害に加担した慰謝料の場合にも、積極的な害意がない場合は免責されます。法律
破産法第253条(免責許可の決定の効力等)
1 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権に ついて、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
一 租税等の請求権 二 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権 三 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
四 次に掲げる義務に係る請求権
イ 民法第752条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
ロ 民法第760条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
ハ 民法第766条(同法第749条、第771条及び第788条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
ニ 民法第877条から第880条までの規定による扶養の義務
ホ イからニまでに掲げる義務に類する義務であって、契約に基づくもの
五 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
六 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)
七 罰金等の請求権
2 免責許可の決定は、破産債権者が破産者の保証人その他破産者と共に債務を負担する者に対して有する権利及び破産者以外の者が破産債権者のために供した担保に影響を及ぼさない。
3 免責許可の決定が確定した場合において、破産債権者表があるときは、裁判所書記官は、これに免責許可の決定が確定した旨を記載しなければならない。
判決
登録 2006.11.7
- 東京地方裁判所平成28年3月11日判決
破産法253条1項2号は 「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」は非免責債権である旨規定するところ,同項3号が「破産者が故意又は重大な過失により加えた 人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)」と規定していることや破産法が非免責債権を設けた趣旨及び 目的に照らすと,そこでいう「悪意」とは故意を超えた積極的な害意をいうものと解するのが相当である。本件においては,上記認定及び説示したとおり, 被告の,Aとの不貞行為の態様及び不貞関係発覚直後の原告に対する対応など,本件に顕れた一切の事情に鑑みると,被告の不法行為はその違法性の程度が 低いとは到底いえない。しかしながら他方で,本件に顕れた一切事情から窺われる共同不法行為者であるAの行為をも考慮すると,被告が一方的にAを篭絡 して原告の家庭の平穏を侵害する意図があったとまで認定することはできず,原告に対する積極的な害意があったということはできない。原告の被告に対す る慰謝料請求権は破産法253条1項2号所定の非免責債権には該当しないといわざるを得ない。- 大阪地方裁判所平成28年2月25日
破産法253条1項3号は,「破産者が故意または重大な過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」を非免責債権と定 めているところ,同号は,人の生命または身体という法益の重大性に照らし,その保護の必要性が特に高いことから,破産者の経済的再生を図る要請よりも,被害者を 保護しまたは加害者に制裁を与える要請が上回る場合について規定したものと考えられる。そうすると,同号にいう「重大な過失」とは,当該過失が故意に比肩する程 度に悪質な場合を指すと解すべきである。
これを本件についてみるに,被告の上記過失は,本件事故のような類型で通常想定されている前方不注視の程度を超えていることは否定できない。しかしなが ら,被告が対面信号機の赤色表示を見落としたのは,前方にある東寺の五重塔のほうに注意力が奪われていたため(甲2・134頁),一つ東の九条旧千本交差点の青 色信号の表示を一つ手前の対面信号機の表示と誤認したという事情に基づくものである。そうすると,本件事故現場前方の見通しが良かったことを考慮しても,被告の 上記過失をもって故意に比肩する程度に悪質な過失に当たるとまでは認め難い。また,被告は,本件事故以前に信号違反で検挙された経歴を有しているが,これは,赤 色信号で停止していたところ交差道路の信号が赤色に変わったため,未だ青色信号に変わらないうちに発進したというものであるから(甲2・136頁),この点を考 慮しても,本件事故における被告の上記過失が故意に比肩する程度に悪質な過失に当たるとは認められない。
(4) したがって,訴外Bの被告に対する損害賠償請求権は,破産法253条1項3号の非免責債権には当たらない。- 千葉地方裁判所平成27年4月9日判決
民法七〇九条の不法行為は故意又は過失を要件とするが、破産法二五三条一項二号の不法行為が要件とする「悪意」は、単なる故意ではなく、他人を害する積極的な 意欲すなわち害意が必要であると解すべきところ、前提事実、認定事実、証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告は、原告からの預託金五〇〇万円を被告が従前から使用 していた被告名義の銀行口座に入金して保管を開始し、その後も口座の金員の利用を継続したこと、その後である平成一四年頃、被告は同預金口座残高が五〇〇万円を 下回っていることに気付き、原告からの預託金を使ってしまっていることに気付いたが、それ以降も格別の収入のあてがないにもかかわらず自己の必要に応じて、同口 座の金員を利用し続けたこと、原告から再三にわたって預託金返還を求められた際、必ずしも口座の金員がゼロではなかったにもかかわらず、平成二六年七月三〇日に 一〇〇万円を返済するまでの間全く返還に応じず、連絡もしないまま転居をし、破産の申立てをしたことが認められる。
すなわち、被告は、原告から請求を受けるまでの間にこれを補填する具体的な見込みもないまま、原告からの預託金をそれと認識して費消し、返済を平成二六年七月 三〇日までの間全く行っていないのであって、被告が同日行った一〇〇万円の返済も、売却しようとした自宅不動産について債権者を原告とする仮差押登記を受けたた め、その登記の抹消を求めて行われたものであることが認められる。
そうすると、被告は遅くも原告から請求を受けて返還をしなかった平成一八年一〇月三一日の時点で原告からの預託金を横領したものであって、同不法行為には原告 に対する積極的な害意があったものである。
したがって、原告の主位的請求である不法行為に基づく損害賠償請求につき主文のとおり認めることができ、同損害賠償請求権は、被告に対する免責決定が確定した としても、破産法二五三条一項二号に定める非免責債権に該当するものと認められる。その余の請求については判断の必要がない。- 福島地方裁判所郡山支部平成27年3月6日判決
このような本件事故に至った経過のほか被告松夫及び被告夏子らの言動等からすると、本件事故は、本件施設内において、いわば日常的に乳幼児をうつ伏せに寝かせ るなどしていた経緯の中で生じたものというべきであって、決して一過性のものということはできず、被告乙山が前提事実(2)ウに記載したような行為に及んだ背景 には、被告松夫及び被告夏子による指導監督に重大な怠慢があったものというほかない。
そして、以上で認定した被告松夫及び被告夏子の注意義務違反の態様ないし程 度等に照らすと、同人らの注意義務違反は、「重大な過失」(破産法二五三条一項三号)に該当するものというべきである。
よって、本件事故後、被告松夫及び被告夏子について破産免責決定が確定していても、同人らは本件事故の不法行為責任を免れるものではない。港区虎ノ門3丁目18-12-301(神谷町駅1分)弁護士河原崎弘 03-3431-7161