更新料不払いと土地賃貸借契約解除/弁護士の法律相談
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2024.4.18 mf
弁護士河原崎弘
相談:不動産
土地を借りています。20年の更新時期に際し、更新料を200万円支払うことを合意しました。ところが、我が家の家計が苦しくなり、200万円用意することができません。
この場合、更新料を支払わないと、土地の賃貸借契約を解除されてしまうでしょうか。
回答
更新料条項、あるいは、更新料支払いの合意は、裁判で、無効とされる場合があります。しかし、下記条件を満たすと,
この条項あるいは、合意が有効とされる場合もあります。
-
更新料の支払い合意があり
- 更新料の額が合理的と認められる場合には
更新料支払いの合意が有効な場合、賃借人が更新料を支払わないことを理由に解除できるかは大きな問題です。
賃貸借契約上の賃借人の義務は、賃料の支払いです。更新料は、賃料の一部、あるいは、賃料の前払いの性質を持ちますので、更新料の不払いは、賃料の不払い同様に解除事由になるのではないかが問題となります。
ただし、賃貸借契約は、当事者の信頼関係に基礎をおく、継続的契約ですので、もう1つの
要件、信頼関係を破壊すると認められる程度の不払いが必要です。例えば、地代の場合は6か月くらい(以上)の不払いとが必要となります。
この点については、裁判例・学説とも見解に争いがありましたが、最高裁は解除事由になると判示しています。
相談者の場合、地主が期限付きで催告してきた場合、支払わないと、信頼関係の破壊と見なされ、契約を解除させるおそれがあります。
判決:更新料
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東京地方裁判所平成27年4月10日判決
2 争点1(平成10年2月の更新時における本件更新料支払条項が効力を有するか)について
(1) 前記前提事実及び前記認定事実によれば,原告と被告は,平成10年2月16日に,本件賃貸借契約の契約証書に署名押印しているところ,原告及び被告
が署名押印した契約証書には,本件更新料支払条項が明記されており,同条項が契約の内容となっていることが認められる。
そして,上記契約書に署名押印するに当たり,原告と被告との間で,上記契約証書の条項について書面のやり取りがなされ,この中で本件更新料支払条項の改
定が問題となったが,最終的には元々の本件更新料支払条項の文言が契約書に記載されていることからすれば,被告は,本件更新料支払条項について十分認識,理解し
て,同日,本件賃貸借契約の契約証書に署名押印したものと認められる。
そうしてみると,本件賃貸借契約において,本件更新料支払条項は記載どおりの効力があるものと認められる。
<<中略>>
3 争点2(本件更新料支払条項が効力を有するとした場合,同条項の債務不履行に基づく原告の解除権の行使が,権利の濫用又は信義則違反といえるか)について
この点,被告は,本件更新料支払条項において約定した更新料の支払に基づいて解除をすることは信義則に違反し,権利の濫用である旨主張する。
しかしながら,前記認定事実記載のとおり,平成25年6月に,原告が更新について被告に連絡した際に,具体的な額を提示することなく,話し合いを求めたに
もかかわらず,被告は一方的に支払を拒絶していること,被告は,本件更新料支払条項を十分に理解し認識した上で,本件賃貸借契約の契約証書に署名押印しており,
原告は,更新時期である平成25年7月にも同契約証書の作成経緯について説明し,再度,話し合いによる解決を求めたにもかかわらず,被告はかたくなに本件更新料
支払条項の効力を否定して話し合いにも応じなかったことなどの事情からすれば,原告及び被告間の信頼関係が破壊されたと認められ,更新料の不払は本件賃貸借契約
の解除原因となる。
よって,原告の解除権行使は有効であり,解除権の行使が信義則に違反し権利の濫用であるとは認められない。
- 東京地方裁判所昭和59年6月7日判決
1 土地の賃貸借契約において、その存続期間が満了する際に、当事者間でいわゆる更新料が授受される事例の多いことは当裁判
所に顕著なところであるが、その趣旨は、賃貸人において賃貸借の存続期間満了を機に賃貸借を終了させることを求めず、更新に関す
る異議権を放棄して円満に賃貸借を継続させることとし、その対価として、賃借人から一定額の金額の支払を得ることにあると解され
る。
2 これを本件の事案に即してみるに、昭和三九年一一月一五日原被告間に交された契約書中に更新料に関する条項が含まれてい
ることは前認定のとおりであるが、これは、将来賃貸借契約の存続期間満了時に当事者双方の合意で契約を更新することができ、その
場合には賃借人は一定額の更新料の支払を要することとしているにとどまり、法定更新の可能性が否定されるものでないことはもとよ
りであり、法定更新のときの更新料を定めたものでないことは文理上明らかである。ことに本件においては、更新料に関する特約は、
存続期間満了までまだ一七年も残していて将来の土地の需給に関する予測もたてがたい時期になされているのであり、しかもそこで約
定された更新料の額は、土地の売買価格の一割という今日の世間相場からみれば異例に高額なものである(証人飯島実の証言による)
ことにかんがみると、賃借人が存続期間満了時に約定更新料の支払による円満な合意更新の途を捨てて、賃貸借の継続についての多少
の危険は覚悟の上で、何らの金銭的負担なくして更新の効果を享受することのできる法定更新の途を選ぶことは妨げられるべきではな
いのであり、本件における更新料支払に関する特約は、他に特段の事情のない限り、法定更新の場合には適用されないものと解するの
が相当である。そして本件では、賃借人に更新料支払の義務を負わせるのを相当とするような特段の事情があるとは認めることができ
ない。
3 そうすると、被告に更新料の支払義務があることを前提とする第一次請求及び第二次請求は、いずれも理由がないものといわ
なければならない。
- 最高裁判所第2小法廷昭和59年4月20日判決
土地の賃貸借契約の存続期間の満了にあたり賃借人が賃貸人に対し更新料を支払う例が少なくないが、その更新料がいか
なる性格のものであるか及びその不払が当該賃貸借契約の解除原因となりうるかどうかは、単にその更新料の支払がなくても法定更新
がされたかどうかという事情のみならず、当該賃貸借成立後の当事者双方の事情、当該更新料の支払の合意が成立するに至つた経緯そ
の他諸般の事情を総合考量したうえ、具体的事実関係に即して判断されるべきものと解するのが相当であるところ、原審の確定した前
記事実関係によれば、本件更新料の支払は、賃料の支払と同様、更新後の本件賃貸借契約の重要な要素として組み込まれ、その賃貸借
契約の当事者の信頼関係を維持する基盤をなしているものというべきであるから、その不払は、右基盤を失わせる著しい背信行為とし
て本件賃貸借契約それ自体の解除原因となりうるものと解するのが相当である。
- 東京高等裁判所昭和58年7月19日判決
(一)本件賃貸借契約は、昭和9年に締結され、当時権利金・敷金等の差入れはなく、昭和29年に第1回目の更新がなされ、本件は
昭和49年の第2回目の更新に関するものであるが、その間地価を始め物価が著しく値上りしていることは明らかであり、控訴人は、
更新料の額を算定するについて土地の更地価格に七割を乗じて借地権価額を算出したうえ、更にその一割をもつて更新料の額とし(そ
の当否は措く。)、これについて双方当事者が協議し合意したものであつて、その経緯から見ると、本件更新料は本件土地利用の対価
として支払うこととされたものであつて、将来の賃料たる性質を有するものと認められる。
(二)控訴人は、その所有土地の有効利用を考え、また、被控訴人の不信行為もあつたが、賃貸借契約の解消を求めず、その継続を前
提として更新料を請求したものであるから、更新に関する異議権を放棄し、その対価としての更新料を請求し、これについて更新料の
支払が合意されたものと認めるべきである。土地賃貸借契約の更新に際し、賃貸人が述べる異議に正当事由があるか否かは不明確な場
合が多く、その解決のためには、多くの時間と費用を費して訴訟等で争われることがあるのであるから、訴訟等による損害を未然に防
止する目的で金銭的解決をはかることは賃借人にとつて利益となる側面もあり、その支払の合意は、必ずしも借地法6条の規定を潜脱
し、同法11条の賃借人に不利なものとは一概にいえないから、本件事情のもとではその効力を認めるべきである。
(三)また、本件においては、被控訴人彦治に建物の無断増改築、借地の無断転貸、賃料支払の遅滞等の賃貸借契約に違反する行為
(これらが、それ自体契約解除の原因たる不信行為に該当するか否かは別として。)があつたが、本件調停は、これら被控訴人彦治の
行為を不問とし、紛争予防目的での解決金をも含めた趣旨で更新料の支払を合意したものと認められる。そうすると、本件更新料の支
払義務は、更新後の賃貸借契約の信頼関係を維持する基盤をなしていたものというべきであり、しかも、右更新料支払の合意を、被控
訴人彦治は弁護士を代理人とする調停においてなしたものであり、支払期限後は催告もされているから、その不払は右基盤を失わせる
ものとして、賃貸借契約を解除する原因となるというべきである。
そして、本件について、前記認定事実によるとき、信頼関係を破壊しない特別事情があるとはいえないし、ほかに信頼関係を破壊しな
い特別事情の存在を認めるべき証拠はない。
五 そうすると、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の更新料不払を原因とする本件賃貸借契約の解除は有効であるから
本訴請求を認容すべきところ、
2010.1.19
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