相談:不動産
マンションを貸しています。借主の中には、更新契約をせず、更新料を支払わない人がいます。
賃貸借契約書には、更新料として次の条項があります。
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契約更新に関しては、期間満了2か月前までに、貸主、借主協議の上決定する。
- 前項の更新する場合には、借主は貸主に対し更新料として新賃料の2か月分を支払うこととする。
この人(更新料を払わない人)の言い分は、これは、合意更新の場合であって、法定更新の場合には、更新料を支払う義務はないとのことです。弁護士に相談した上での言い分だそうです。
借主は更新料を支払う義務がないのでしょうか。また、私の使っている契約書に不備がありますか。
回答
建物賃貸借契約においては、賃借人が使用を継続する限り、期間が満了しても、原則として、契約は更新されます(法定更新、借地借家法26条)。法律の力で更新するのであり、更新料の支払いを必要とするとことは、借主に不利なものは無効です(30条)。
ここに、法定更新の場合は更新料の合意は無効との根拠があるのです。
他方、更新料を有効とする判例もあります。
さらに、判決の中には、契約書中の字句(必ずしも字句だけではないのですが)によっては、契約書の解釈として、更新料の合意は、合意更新の場合であって、法定更新では更新料を支払い義務はないと判示するものもあります。
あなたが使った契約書は、まさに 1 で合意更新を前提にし、 2 でも「前項の更新」として合意更新を前提とした更新料のように読めます。しかも、「新賃料」との字句は、合意更新を前提にするものです。
これを次のように直せば、法定更新の場合を含んだ更新料と解釈できます。
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契約更新に関しては、期間満了2か月前までに、貸主、借主協議の上決定する。
- 契約を更新する場合(法定更新を含む)、借主は貸主に対し更新料としてその時点の賃料の2か月分を支払うこととする。
上記理由のため、
あなたのケースで、借主に更新料支払い義務があるとの判決が出るか、はっきり回答できません。
判例上、
不動産賃貸借契約 において、賃貸人が、更新料を請求できるのは、更新料の合意があり、その金額が合理的である場合です。合理的額とは、2年更新で、更新料が毎月支払う賃料(管理費を含めて)の1ないし2か月、最大で3か月分くらいまでです。
最近は更新料は消費者契約法に違反するとの判決も出てきましたので、更新料は消費者の利益を害するかの観点から考える必要があります。
更新料の合意が、法定更新にも適用ありとする判例と、法定更新には適用ないとの判例を挙げておきます。
判決 - 【法定更新にも適用あり】
東京地方裁判所平成10年3月10日判決(判例タイムズ1009号264頁)
3更新料の支払義務の有無について。
(一)証拠(甲1の2)によれば、本件賃貸借契約においては、特約条項として「賃貸借契約更新の場合は更新料として、賃借料
及び共益費合計額の2ケ月分を乙(被告石田商会)は甲(原口)に支払うものとする。」と定められているところ、第3条の賃貸
借期間の条項には「但し期間満了6ヶ月前に上記契約期間を更新するかどうかを協議することとし、協議をしないときは上記契約
期間終了と同時に本件賃貸借契約は、了するものとする。」と定められている。
(二)借家契約における更新料支払の特約については、その内内いかんによっては、借地借家法30条により無効となる場合はあ
り得るとしても、本件においては、使用目的は店舗・事務所であること、賃貸借の期間も5年であること、更新料の額も87万6200円であることからすると、使用目的及び賃貸借期間と比較してそれほど高額とはいえず、更新料の性質については見解が分か
れるところではあるが、賃料の補充ないし異議権放棄の対価の性質を有すると解するのが相当であることも併せ考えると、本件に
おける更新料の特約については、必ずしも不合理なものとはいえないというべきであるから、右特約は有効であると認めることが
できる。
(三)次に、本件において、被告石田商会に更新料支払の義務があるかどうかであるか、右(一)によれば、第3条の条項を せ
て考えても、更新料の支払を合意による更新の場合に限定しているとは認められず、賃料の補充ないし異議 放棄の対価という更
新料の性質、合意更新の場合との均衡という点にも鑑みると、本件の場合においては、法定更新の場合を除外する理由はないとい
うべきてあるから、被告石田商会には、原告に対して、更新料として87万6200円を支払う義務があるというべきである。
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【法定更新にも適用あり】
東京地方裁判所平成9年6月5日判決(判例タイムズ967号164頁)
三 更新料支払義務について
原告と被告は、平成四年の契約更新時に、「本契約更新の際、賃借人は賃貸人に対し、更新料として新賃料の四か月分相当額を
支払うものとし、賃料については当事者協議のうえ決定するものとする。」とする本件更新料支払合意をしたことが認められ、こ
れが合意更新のみならず、法定更新の場合にも適用されるかどうか争われているところ、
(1)賃貸借が期間満了後も継続される
という点では、法定更新も合意更新も異なるところはなく、右文言上も、更新の事由を合意の場合のみに限定しているとまでは解
されないこと、
(2)本件賃貸借が期間を三年と定め、三年ごとの更新を予定して、新賃料を基準とする更新料の支払を定めてい
ることなどからすると、右更新料は、実質的には更新後の三年間の賃料の一部の前払としての性質を有するものと推定され、本件
鑑定の結果もそのような理解のもとで前記適正賃料額を算出したものと窺われること、
(3)本件のように、当事者双方とも契約
の更新を前提としながら、更新後の新賃料等の協議が調わないうちに法定更新された場合には、賃借人が更新料の支払義務を免れ
るとすると、賃貸人との公平を害するおそれがあることなどを総合考慮すると、本件賃貸借においては、法定更新の場合にも、本
件更新料支払合意に基づいて更新料支払義務があるものと解するのが相当であり(東京地方裁判所平成5年8月25日判決・判例
時報1502号126頁参照)、法定更新の場合に本件更新料支払合意の効力が及ばない旨の被告の主張は、採用することができ
ない。
また、被告は、本件更新料支払合意が借地借家法又は旧借家法の強行規定に反して無効であると主張するが、新賃料の4か月分
程度の更新料であることに照らし、右主張は採用することができない。
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【法定更新には適用ない】
東京地方裁判所平成9年1月28日判決(判例タイムズ942号146頁)
まず、本件約定を含む本件賃貸借の契約書17条1項は、「本契約は、賃貸人と賃借人の協議により更新することができる。更新
する場合は賃借人は、更新料として新家賃の2カ月分を賃貸人に支払うものとする。」と定めており(甲第1号証)、本件約定は、
協議による更新を受ける形でこれと同一条項に規定されているから、合意による更新の場合を念頭において定められたものという
べきであり、また、「家賃」という表現からは、更新時に賃料の増減請求が行われ、そこで新家賃が合意されて更新することが予
定されていると解するのが自然であるから、新家賃が定められることのない法定更新は、念頭に置かれていないものというべきで
ある。
(二)次に、更新料支払いの特約を締結する場合の当事者の合理的意思を推測すると、建物賃貸借の場合、合意更新がされると少
なくとも更新契約の定める期間満了時まで賃貸借契約の存続が確保されるのに対し、法定更新されると爾後期間の定めのないもの
となり、いつでも賃貸人の側から正当事由の存在を理由とした解約申入れをすることができ、そのため賃借人としては常時明渡し
をめぐる紛争状態に巻き込まれる危険にさらされることになるのであるから、この面をとらえると、更新料の支払いは、合意更新
された期間内は賃貸借契約を存続させることができるという利益の対価の趣旨を含むと解することができる。
(三)そもそも、建物賃貸借の法定更新の際に更新料の支払い義務を課する旨の特約は、借家法1条の2、2条に定める要件の認
められない限り賃貸借契約は従前と同一の条件をもって当然に継続されるべきものとし、右規定に違反する特約で賃借人に不利な
ものは無効としている(同法六条)同法の趣旨になじみにくく、このような合意が有効に成立するためには、更新料の支払いに合
理的な根拠がなければならないと解されるところ、本件において法定更新の場合にも更新料の支払義務を認めるべき特段の事情は
認められない(例えば、被控訴人が主張するような、借主において貸主の申入をことさらに無視して話合に応じないため法定更新
されるに至ったような場合は、貸主において実質上異議権を放棄したものとして、右特段の事情に当たると考える余地があるが、
本件賃貸借においては被控訴人において契約解除を主張して明渡しの訴訟を遂行中に法定更新されたものであるから、右特段の
情があるとはいえない。)。
(四)このようにしてみると、本件賃貸借における更新料の支払いは、更新契約の締結を前提とするものと解するのが合理的であ
るから、本件約定は、合意更新の場合に限定した趣旨と認められ、法定更新された本件の場合には適用されないものというべきで
ある。
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【法定更新にも適用あり】
東京地方裁判所平成5年8月25日判決(判例タイムズ865号213頁)
(三) 次に、本件のように賃貸借契約が法定更新された場合にも、賃借人に更新料支払義務があるかどうかについて考え
るに、〈書証番号略〉によると、本件賃貸借の契約書には、2条2項として、「契約期間満了の場合は甲乙協議の上更新出来るも
のとし、更新の場合は更新料として新賃料の参か月分を甲に支払う。」と記載されていることが認められ、右文言のみからすれば、
合意による更新を念頭に置いたものとみられないこともないが、しかし、
(1)賃貸借が期間満了後も継続されるという点では、
法定更新も合意更新も異なるところはなく、右文言上も、更新の事由を合意の場合のみに限定しているとまでは解されないこと、
(2)本件賃貸借の契約目(〈書証番号略〉)では、契約期間が満了しても更新条件についての協議が調わないときは、「引続き
暫定として本契約を履行する」ものとする旨定め(16条3項)、法定更新の場合にも、契約書の定めが適用されるものとしてい
ること、(3)本件賃貸借が期間を3年と定め、3年ごとの更新を予定して、新賃料を基準とする更新料の支払いを定めているこ
となどからすると、右更新料は、実質的には更新後の3年間の賃料の一部の前払いとしての性質を有するものと推定されること、
(4)本件のように、当事者双方とも契約の更新を前提としながら、更新後の新賃料の協議が調わない間に法定更新された場合に
は、賃借人が更新料の支払義務を免れるとすると、賃貸人との公平を害するおそれがあることなどを総合考慮すると、本件賃貸借
においては、法定更新の場合にも更新料の支払いを定めた前記条項の適用があり、被告はその支払義務を免れないと解するのが相
当である。
3 したがって、被告は、本件賃貸借が平成2年11月24日の経過をもって法定更新されたことより、更新後の賃料(少な
くとも更新前の賃料と同額)3か月分相当額の支払い義務を負ったものというべきであり、前示のように右更新料が賃料の一部と
しての実質を有していることからすると、被告が右更新料を支払わないことは賃貸借契約上の重要な債務の不履行であり、解除の
原因となると解すべきてある(更新料の不払いは解除原因にならない旨の被告の主張は採用することができない。)。被告は、被告の更新料の不払いは未だ賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめる不信行為とはいえない旨主張するが、前記認定
のとおり、被告は、契約書で定められた更新料の支払義務自体を一貫して否定し続けるとともに、本件賃貸借の存続期間は20年
であるとの特異な見解に固執して、原告の更新料の請求に応じようとしなかったものであって、被告の右更新料不払いは、賃貸借
当事者間の信頼関係を破壊するものと認めるのが相当である(なお、新賃料について合意が成立していないときは、従前の賃料額
に基づいて更新料を計算すればよいのであって、右合意の不成立をもって更新料不払いの理由とすることはできない。)。
港区虎ノ門3-18-12-301 弁護士河原崎弘 03-3431-7161
2004.10.19