相談
私の所有するアパートで賃借人が自殺しました。
4月に自殺があり、発見が遅れて、腐敗し、ひどい悪臭でした。それと、事件時にパトカーが来たので、近所に知れ渡り、アパートの部屋の半数が既に空き室になりました。管理を依頼している管理会社からは、「管理が不能である」との通知がきました。
このままだと、すべて空き室になります。アパートを売却すると、価格は通常の5000万円の3割、4割引きになります。また、風評はさらに広がり買い手は付かないと思います。
現在、連帯保証人への損害賠償を請求しています。
1.清掃料、リフォーム代金。これは先方が支払うことは合意しています。
2.さらに、入居者が現れないことの損害賠償は、妥当でしょうか。
過去3年間の売り上げ平均の40%×3年分(約1200万)を請求したいですが、適正でしょうか。
先方は、大手商社勤務だった入居者(33歳)のお父様で、生命保険はおりているそうです。
回答
建物内で自殺者が出た場合、借主は容易には現れないし、その建物を売却するとなると、容易には売れないでしょう。自殺者が出たことは建物の瑕疵であるとするのが判例です。例としては、安く売却せざるを得なくなり、その差額を損害として認めた判例もあります。知らないで買った買主からの解除を認めた判例もあります。そこで、不動産の売主、貸主には告知義務があります。死亡理由が,自然死や、日常生活での不慮の事故の場合は、原則として、告知義務はありません。他方、自殺、他殺、火災による死亡の場合は、告知義務があります。
これにつき、2021年10月8日、国土交通省が宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドラインを発表しました。
本件では、瑕疵は建物にあり、土地には瑕疵はないと考えられます。そこで、損害は、建物の価値が失われたことでしょう。通常は、不動産価格の2割前後と思います。
しかし、その建物を取り壊す計画ならば、瑕疵に当たりません。
自殺者の保証人あるいは相続人に損害賠償責任を請求できるでしょう。
その部屋ないしその建物を取り壊して新しく建築する費用を損害とする考えもあるでしょう。古い建物の場合は、建築費用から減価償却費をマイナスする必要があります。
なお、賃貸不能期間を1年、低額(半額)でしか貸せない期間を2年とみる判決もあります。
判例
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大阪高昭37・6・21判決(判時309号15頁)
土地建物を買い受けたが、7年前に建物内で縊首自殺を遂げたことにつき、縊死のあった座敷蔵が売買当時取り除かれて存在せず、右縊死の事実を意に介しない買受人が従前多数あったことから、一般人が住み心地のよさを各事由として感ずることに合理性を認め得る程度のものではなかったとする。
本件売買の目的物たる建物内で前居住者が縊死した事実は、未だ民法第570条にいわゆる瑕疵のある場合には該当しないと解するのが相当である。
- 横浜地方裁判所平成元年9月7日判決(判例タイムズ729号174頁)
家族の居住のため、マンションを購入したが、そのマンションで6年前に縊首自殺があったことを理由として、瑕疵担保責任による売買契約の解除を認め、かつ、違約金条項に基づく損害賠償(売買代金の20%)を認めた
- 東京地方裁判所平成7年5月31日判決(判例タイムズ910号170頁)
売買の目的物に瑕疵があるというのは、その物が通常保有する性質を欠いていることをいうのであり、目的物が通常有すべき設備を有しない等の物理的欠陥がある場合だけでなく、目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景等に起因する心理的欠陥がある場合も含むものと解されるところ、本件土地上に存在し、本件建物に付属する物置内で自殺行為がなされたことは、売買の目的物たる土地及び建物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的欠陥といえるとし、瑕疵担保責任の解除を認めた。
なお、売買契約は自殺後約6年11か月であった。
- 浦和地方裁判所川越支部平成9年8月19日判決
土地建物の売買において、右建物内で売主の親族が首吊り自殺していたことが目的物の瑕疵に該当するとし、買主の損害賠償請求が認容された
代金を総額7100万で買ったが、実質上、6206万7100円で売却できたので、差額の損害賠償を認めた。
- 大阪地方裁判所平成11年2月18日判決
既存建物の取り壊しを目的とする土地及び建物の売買契約において、右建物内で売主の母親の縊首自殺があったことは民法570条にいう隠れた瑕疵に該当しない
- 福岡地方裁判所平成17年9月13日判決(判例タイムズ1275号329頁)
不動産競売手続によってマンションを競落した原告が、当該マンションはいわゆる自殺物件であったのに、その競売手続において担当執行官及び評価人が必要な調査義務を尽くさずこのことを看過して現況調査報告書及び評価書に記載しなかったため、原告が、評価人の過失につき国家賠償法一条ないし民法715条に基づき国家賠償を求めたが、棄却。
- 東京地方裁判所平成20年4月28日判決
原告は,本件損害を慰謝料の名目で請求しているが,実質的には経済
的損害を含むものとして請求していることは前記のとおりであり,本件不動産の現実の購入価格である1億7500万円について,自
殺物件であることによる減価を25%とみて,2年経過後であることを考慮すると,売買価格は,本来,1750万円程度は減額され
るのが通常であったと解し得ること,現実にも,予定していたよりも3年間では540万円の減収となることが予想されること,本件
証拠によって認められる原告の精神的苦痛の程度,しかし,これは,経済的観点からの損害の填補により相当程度軽減される性質のも
のであると考えられることなど,本件に顕れた諸事情を総合考慮すると,民事訴訟法248条の趣旨に鑑み,本件告知,説明義務違反
と相当因果関係の認められる原告の損害額は,2500万円と評価するのが相当であると判断する。
- 東京地方裁判所平成21年6月26日判決
原告が購入した建物内で睡眠薬自殺をした者がいたことは建物の「瑕疵」に該当するが,その程度は極めて軽微なものであり,売主である被告に調査説明義務違反の債務不履行はないとして,本件不動産の売買代金額の1%相当の金額の限度で損害賠償請求を認容した。
- 東京地方裁判所平成22年9月2日判決(判例時報2093号87頁)
前提事実(4)に上記事情を併せ考慮すると,本件における原告の逸失利益については,本件物件の相当賃料額を本件賃貸
借と同額の12万6000円と見た上で,賃貸不能期間を1年とし,また,本件物件において通常であれば設定されるであろう賃貸借
期間の1単位である2年を低額な賃料(本件賃貸借の賃料の半額)でなければ賃貸し得ない期間と捉えるのが相当と考える。
また,将来得べかりし賃料収入の喪失ないし減少を逸失利益と捉える以上,中間利息の控除も必要というべきである。
以上によれば,逸失利益については,277万8752円となる。
1年目:¥126,000×12か月×0.9524(ライプニッツ係数)=¥1,440,028
2年目:¥63,000×12か月×0.9070=¥685,692
3年目:¥63,000×12か月×0.8638=¥653,032
合計¥2,778,752
- 東京地方裁判所平成25年7月3日判決
エ そこで以下においては,本件自殺の存在により,308号室の賃料がどのような影響を受けるかを検討する。
まず,原告が平成22年11月に308号室の賃借人の募集を停止したように,自殺が発見された時点から1年間程度は,新規賃借人の募集が停止され,そ
の間の賃料収入は100%喪失されるのが通常と解される。また,2年目以降においても,自殺の存在が告知事項となることから新規賃貸借契約の締結のためには賃料
を減額せざるを得ず,その減額割合は50%と想定するのが相当である。なお,自殺が告知事項となるのは,自殺が発生した次の新規入居者に対してであり,当該入居
者の次の入居者に対しては告知義務はなくなるものと考えられること,居住用物件の賃貸借契約の期間は2年あるいは3年とされることが多いが,賃借人が契約の更新
を希望すれば契約は更新され,その際,減額していた賃料を増額することは容易ではないと推認されることからすると,上記減額割合による賃貸借契約は6年から8年
程度継続するものと推認される。
R鑑定によると,308号室の1年目の賃料減価率を100%,2年目から5年目の減価率を50%とした場合の本件不動産の減価率が0.454%,1年
目を上記と同様,2年目から10年目の減価率を50%とした場合の本件不動産の減価率が1.617%であると認められるから,上記のように,1年目には賃料収入
がなく,2年目から7年目あるいは9年目まで50%の減額賃料が継続するとした場合の本件不動産の減価率は,およそ1%であると認めるのが相当である。そうする
と,収益性による減価額は390万円であると認められる(なお,308号室の賃料は月額7万7000円であることから,上記のとおりの減価が9年目の最終月まで
継続されれば,喪失される賃料収入は合計462万円となる。)。
オ 上記の各方法により算出される本件自殺の事実による本件不動産の減価額等に,原告が本件不動産について当初,代金額を3億8500万円とする買付証明
を出しており,その後,4億1000万円を希望価格としていた被告Y1とのやりとりで500万円の増額に応じたとの本件売買契約締結の経緯,被告は平成23年1
月に308号室のお祓いを行い,その費用として30万円を支出していること(甲20の1),他方で,原告が本件自殺の存在を理由として,他に特段の費用を支出し
たと認めるに足りる証拠はないこと等を総合的に勘案すれば,本件自殺という瑕疵の存在により,これがないものとして本件不動産を取得した原告に生じた損害額は,
600万円と認めるのが相当である。
虎ノ門(神谷町駅1分)
弁護士河原崎弘 03−3431−7161
登録 2007.7.28