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2024.1.10mf更新
弁護士河原崎弘
遺言者の生存中の遺言無効確認の訴え
相談
私は母の養子です。母は私と別に住んでいます。母の妹の子供(母の姪)は、2年前、母を公証役場に連れて行き、全財産を自分(母の姪)に遺贈する旨の遺言を作りました。
立会い証人は、近所の人でした。当時、母は正常な精神状態ではなく、意思能力はありませんでした。
母は、昨年、アルツハイマーのため後見開始の審判を受け、母の姪が成年後見人となりました。
母に意思能力はなく、この遺言は無効です。私の周りの人は、時間が経過すると「意思能力がなかったことを証明できなくなるから、今から弁護士に頼んで遺言無効確認訴訟を提起した方がいい」と言います。どうでしょうか。
回答
遺言が存在し、その遺言の内容では、全財産を姪が取得するのであり、あなたの母親は心神喪失状態ですから、遺言が書き換えられる可能性はない。従って、権利は確定しているとの考えもあります。しかし、この確定した権利は、法律上のものではなく、事実上のものです。
そこで、現在の裁判所の考えでは、被相続人(あなたの母)が生存中は、遺言無効の訴えは提起できないとしています。遺言者の生存中に訴えを提起した場合は、却下されます(下記判例参照)。
あなたの母が亡くなった後は、権利は法律上確定しますから、遺言無効の訴えを提起できます。
この裁判所の考え方と異なる沢山の学説はあります。
なお、成年被後見人が、意思能力を回復したときに、遺言するには、医師2人以上の立会いが必要です(民法973条)。
判決
- 最高裁判所平成11年6月11日判決(判例時報1685号36頁)
1 本件において、被上告人が遺言者である上告人藤井ウメの生存中に本件遺言が無効であることを確認する旨の判決を求める趣旨は、上告人田中清が遺言者である上告人藤井ウメの死亡により遺贈を受けることとなる地位にないことの確認を求めることによっ
て、推定相続人である被上告人の相続する財産が減少する可能性をあらかじめ除去しようとするにあるものと認められる。
2 ところで、遺言は遺言者の死亡により初めてその効力が生ずるものであり(民法985条1項)、遺言者はいつでも既にした遺
言を取り消すことができ(同法1022条)、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときには遺贈の効力は生じない(同法994条1項)のであるから、遺言者の生存中は遺贈を定めた遺言によって何らかの法律関係も発生しないのであって、受遺者とされた
者は、何らかの権利を取得するものではなく、単に将来遺言が効力を生じたときは遺贈の目的物である権利を取得することができ
る事実上の期待を有する地位にあるにすぎない(最高裁昭和30年(オ)第95号同31年10月4日第一小法廷判決・民集10巻10号1229頁参照)。
したがって、このような受遺者とされる者の地位は、確認の訴えの対象となる権利又は法律関係には
該当しないというべきである。遺言者が心身喪失の常況にあって、回復する見込みがなく、遺言者による当該遺言の取消又は変更
の可能性が事実上ない状態にあるとしても、受遺者とされた者の地位の右のような性質が変わるものではない。
3 したがって、被上告人が遺言者である上告人藤井ウメ生存中に本件遺言の無効確認を求める本件訴えは、不適法なものというべきである。
2004.10.17
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