内縁の妻に居住権があるか
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2015.9.28mf
相談
私の父は、昨年、亡くなりました。父には 9 年ほど内縁関係にあった人がいます。この人は、父と一緒に、父名義の家に住んでいました。この家は、私が相続しました。
内縁の妻には相続権がないと聞きました。内縁の妻に居住権はあるのでしょうか。
私は、父の内縁の妻であった人に明け渡しを求めることができるのでしょうか。私には、現在、この家とは別に、住んでいる家があります。
相談者は、法律事務所を訪ねました。
回答
内縁の妻には、相続権はありません。内縁の妻の居住権については、議論があります。
多くの判例では、相続人に、この建物を使用しなければならない差し迫った必要がなく、他方、内妻の側で、この家屋を明け渡すと家計上相当な打撃を受けるおそれがある等の事実関係の下においては、相続人から被相続人の内妻に対する明渡請求を権利の濫用として、明渡し請求を認めません。
現状では、相談者から、父の内縁の妻であった人に対する明け渡し請求は難しいでしょう。
結論的に、弁護士が勧めたことは、「相談者が、父の内妻が住居を確保できるよう配慮をすること、例えば、明渡料を提供すること」です。そうすれば、裁判所は、明渡を認める可能性があります。
判例
- 大阪高等裁判所平成22年10月21日
内縁の夫と内縁の妻との間で、両名が同居していた内縁の夫所有の建物について、内縁の妻が死亡するまで内縁の妻に無償で使用させる旨の使用貸借契約が黙示的に成立していたとして、内縁の夫を相続した子から内縁の妻に対する右建物の明渡請求を棄却した。
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最高裁判所第平成10年2月26日判決
共有者は、共有物につき持分に応じた使用をすることができるにとどまり、他の共有者との協議を経ずに当然に共有物を単独で使用する権原を有するものではない。し
かし、共有者間の合意により共有者の一人が共有物を単独で使用する旨を定めた場合には、右合意により単独使用を認められた共有者は、右合意が変更され、又は共有関
係が解消されるまでの間は、共有物を単独で使用することができ、右使用による利益について他の共有者に対して不当利得返還義務を負わないものと解される。
そして、
内縁の夫婦がその共有する不動産を居住又は共同事業のために共同で使用してきたときは、特段の事情のない限り、両者の間において、その一方が死亡した後は他方が右
不動産を単独で使用する旨の合意が成立していたものと推認するのが相当である。
けだし、右のような両者の関係及び共有不動産の使用状況からすると、一方が死亡した
場合に残された内縁の配偶者に共有不動産の全面的な使用権を与えて従前と同一の目的、態様の不動産の無償使用を継続させることが両者の通常の意思に合致するといえ
るからである。
これを本件について見るに、内縁関係にあった上告人とAとは、その共有する本件不動産を居住及び共同事業のために共同で使用してきたというのであるから、特段の
事情のない限り、右両名の間において、その一方が死亡した後は他方が本件不動産を単独で使用する旨の合意が成立していたものと推認するのが相当である。
- 東京地裁平成9年10月3日判決
龍一(被相続人)は、被告を正式に戸籍上の妻とすることなく、約一八年間にわたって内縁関係を継続してきたもの
であり、そのことについて、被告に感謝するとともに、謝罪をしたい、償いをしたいとの気持ちでいたことが窺われるのであり、
自然の死後の被告の身の振り方について、遺言を作成するなどの特段の措置を講じてはいないものの、原告に任せてしかるべく配
慮されることを期待していたものと考えられ、龍一が、自分の死後に、代替住居の提供等もされずに本件建物から被告が退去しな
ければならない事態の生じることを想定していたとは、到底考えられない。
原告からの話で始まった本件マンションの手配も、原
告は否定するが、当時、原告も、龍一の意向を踏まえ、同人死亡後の被告の住居の確保を考えたのではないかと推測されるのであ
る。そして、本件マンションが原告により売却されてしまった現在、被告は本件建物以外に住むべき住居を有しておらず、他方、
原告は、自己の住居を有するとともに、龍一から不動産、有価証券、預金などを相続している。
これらの事情、その他、前認定の
事実を総合考慮すると、代替住居やこれに代わる金員の提供をしないまま、原告が、現段階で、被告に対し、龍一が死亡し自己が
本件建物の完全な所有権者になったことを理由に同建物からの退去とその明渡を求めることは、権利の濫用に当たり、許されない
ものというべきである。
- 大阪地裁昭和55年1月25日
原告は、太郎といわゆる重婚的内縁、少くとも保護に値する重婚的内縁の
関係にあったものとはみ難く、法的には妾関係とみるほかはないであろうが、太郎を挾んで被告らとは家族に近い関係にあったと
みられるのであって、長年夫であり父である太郎の世話を委ね、自らも世話になっておきながら、占有権原がないという一事をも
って他に行きどころのない老令の原告を本件家屋から追い立てる結果となる被告らの本件家屋の明渡請求は、人間の情義として許
し難いものといわねばならず、権利の濫用にあたるものというべきである。従って、被告らの本件家屋の明渡請求及び損害金請求
は、そのほかの点について判断するまでもなく理由がない
- 最高裁昭和39年10月13日
内縁の夫死亡後その所有家屋に居住する寡婦に対して亡夫の相続人が家屋明渡請求をした場合において、右相続人が亡夫の養子であり、家庭内の不和のため離縁することに決定していたが戸籍上の手続をしないうちに亡夫が死亡したものであり、また、右相続人が当該家屋を使用しなければならない差し迫つた必要が存しないのに、寡婦の側では、子女がまだ独立して生計を営むにいたらず、右家屋を明け渡すときは家計上相当重大な打撃を受けるおそれがある等原判決認定の事情(原決理由参照)があるときは、右の請求は権利の濫用にあたり許されないものと解すべきである
2006.8.10
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