弁護士の事件簿/日付が「11月吉日」との記載ある遺言は有効ですか
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2022.1.5mf
弁護士河原崎弘
相談:日付が「11月吉日」との記載ある遺言
父が亡くなってから遺言状が出てきました。生前、私が父の介護をしていましたので、次のように自筆で書いてあり、印が押されていました。
遺言状 |
長女○○子に全財産を相続させる |
令和2年11月吉日 |
○○○○ 印
|
|
この遺言は、日付が書いてないので、無効だという人がいます。そうでしょうか。
回答:「11月吉日」では、日を特定できない
自筆証書遺言は、全文自筆で書き、日付、署名、捺印があることが有効要件です。日付がない遺言は無効です。
お父さんの遺言の「11月吉日」との記載は、日が確定できないので、日付がないものと扱われ、残念ですが、遺言は無効です。その旨の判例もあります。
一般的に、日付けが特定していない遺言は、無効ですが、誤記の場合は、有効とする判決があります。
判例、通説をまとめると、次のようになります。
有効
- 日付の誤記があっても、遺言は有効
- 「昭和五拾四拾年」を「昭和五拾四年」の
誤記として遺言を有効とした。
- 「昭和」を「正和」と誤記した遺言を
有効とした。
- 真実の作成日と、異なっても、真実の作成日が容易に判明する場合は、有効
- 封をした封筒に日付が記載してあれば、有効
-
「還暦の日」、 「第○○回誕生日」、 「昭和○○年敬老の日」、「長女の婚姻の日」といった記載でも、特定が可能であれば、有効
-
「平成元年一一月末」の記載なら、有効
無効
-
封をしていない封筒に日付が記載してあっても、無効
- 故意に、真実でない日付を記載した場合は、無効
判例
- 最高裁判所令和3年1月18日判決
3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,被上告人らの本訴請求を認容すべきものとした。
自筆証書によって遺言をするには,真実遺言が成立した日の日付を記載しなければならず、本件遺言書には押印がされた平成27年5月10日の日付を記載すべきであった。自筆証書である遺言書に記載された日付が真実遺言が成立した日の日付と相違しても,その記載された日付が誤記であること及び真実遺言が成立した日が上記遺言書の記載その他から容易に判明する場合には,上記の日付の誤りは遺言を無効とするものではないと解されるが,Aが本件遺言書に「平成27年5月10日」と記載する積もりで誤って「平成27年4月13日」と記載したとは認められず,また,真実遺言が成立した日が本件遺言書の記載その他から容易に判明するともいえない。
よって,本件遺言は,本件遺言書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているから無効である。
4 しかしながら,本件遺言を無効とした原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
自筆証書によって遺言をするには,真実遺言が成立した日の日付を記載しなければならないと解されるところ(最高裁昭和51年(オ)第978号同52年4月19日第三小法廷判決・裁判集民事120号531頁参照),前記事実関係の下においては,本件遺言が成立した日は,押印がされて本件遺言が完成した平成27年5月10日というべきであり,本件遺言書には,同日の日付を記載しなければならなかったにもかかわらず,これと相違する日付が記載されていることになる。
しかしながら,民法968条1項が,自筆証書遺言の方式として,遺言の全文,日付及び氏名の自書並びに押印を要するとした趣旨は,遺言者の真意を確保すること等にあるところ,必要以上に遺言の方式を厳格に解するときは,かえって遺言者の真意の実現を阻害するおそれがある。
したがって,Aが,入院中の平成27年4月13日に本件遺言の全文,同日の日付及び氏名を自書し、退院して9日後の同年5月10日に押印したなどの本件の事実関係の下では,
本件遺言書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているからといって直ちに本件遺言が無効となるものではないというべきである。
- 東京高等裁判所平成5年3月23日判決
右事実によれば、亡雄三は、被控訴人諸我が右転居をした以後に、実際に作成した日と異なる日を作成日とする遺言書を作成したものと
認められる。そして、本件全証拠によっても、本件遺言書が実際に作成された日及び実際の作成日と異なる日を作成日と記載された理由は明らかでないが、二年近くも遡
った日を記載しているところから見ると、単なる誤記ではないものというべきであって、かかる不実の日附の記載のある遺言書は、作成日の記載がない遺言書と同視すべ
きものであるから、本件遺言は、民法九六八条一項所定の自筆証書遺言の方式を欠くものとして、無効と解すべきものである。
- 東京地方裁判所平成3年9月13日判決
1 日付の記載
(一) 被告は、前記のとおり、甲第一一号証の遺言書に、日付として「昭和五拾四拾年一月参拾壱日」との記載があることをもって、かかる年は存在せず結局同遺言
書は日付のないものとなり無効である旨主張する。
(二) 確かに、民法は、遺言者の真意を確保し、偽造・変造を防止するために、遺言に厳格な方式を要求し、同法九六八条一項は自筆証言遺言には日付の記載が必要
である旨規定している。これは、その記載が、遺言能力の有無を確定する基準として重要であり、また、複数の遺言書が存在してその内容に抵触がある場合に遺言作成の
前後を確定する手段として不可欠であることから、遺言に必ず特定可能な年月日を記載することを要求しているものである。
そこで本件について検討するに、「昭和五拾四拾年」なる年が存在しないことは疑いの余地のない当然のことであるが、その記載自体及び弁論の全趣旨に照らし、これ
が「昭和五拾四年」の誤記であることもまた明らかなので、右記載をもって特定の年月日の記載があると認めるにつき支障はなく、してみれば、右法律の趣旨に照らして
もこれを日付のないものとして無効とするいわれはない。
- 東京高等裁判所昭和55年11月27日判決
そして、民法968条は数次にわたり日を異にして自書した文書をあわせてこれを一つの遺言にまとめ、とりまとめた日をもって遺言の日付とすることを禁止するもの
とは考えられないから、右のように一通の自書した文書に補充、訂正を加えてゆき、これを仕上げた段階でその日を日付として遺言書とすることも当然許されるものとい
うべきである。
従って本件遺言は、具体的な財産の配分を別紙に譲り相続人間の和合と協力を要請した第一葉の遺言と、具体的な財産の配分を定めた第二葉ないし第四葉の遺言との二
つの部分から成るが、その間に何ら牴触するところはなく、夫々の内容及びそれが一綴りとなっている状態(このことは控訴人の自陳するところである。)から考えれば、
右両者は、全体として一個の遺言を形成しているものというべく、この場合、本件遺言の日付は、特段の反証のない本件においては、後の日付である昭和47年11月10日であると認めるべきである(本件遺言の第一葉と第二葉との間の割印の関係や、第一葉の内容からすると、第一葉には以前第二ないし第四葉とは異る内容の別紙が付
属させられていたかとも見られるが、仮りにそうだとしても、その後の遺言でこれを牴触する第二ないし第四葉の遺言によってそのとおりに改められたことになる。)
従って本件遺言が全体として自筆証書遺言の方式に適合せず無効であるとする控訴人の主張は採用することができない。
- 最高裁昭54年5月31日(判例タイムズ389号69頁)
自筆証書によつて遺言をするには、遺言者は、全文・日附・氏名を自書して押印しなければならないのであるが(民法968
条1項)、右日附は、暦上の特定の日を表示するものとい
えるように記載されるべきものであるから、証書の日附として単に「昭和四拾壱年七月吉日」と記載されているにとどまる場合は、暦上の特定の日を表示するものとはいえず、そのような自筆証書遺言は、証書上日附の記載を欠くものとして無効であると解するのが相当である。
- 最高裁判所昭和52年11月29日判決
自筆遺言“証書に年月の記載はあるが日の記載がないときは、右遺言書は民法968条1項にいう日付の記載を欠く無効のものと解するのが、相当である。
- 最高裁判所昭和52年11月21日判決
自筆遺言証書に記載された日付が真実の作成日付と相違しても、その誤記であること及び真実の作成の日が遺言証書の記載その他から容易に判明する場合には、右日付
の誤りは遺言を無効ならしめるものではない。
2008.3.6
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