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2015.9.27mf
遺産を共同相続人に横領された/弁護士の法律相談
相談:相続人が遺産を奪った
今、父の遺産の分割協議ということで
調停申立を行う予定ですが、一部の相続人か預金を解約したり、死亡後、CDで払い戻したり、
車を処分しています。これは、戸籍上の妻、子供であれば、法律に違反しないのでしょうか。
ちなみに、父と母は離婚調停中で、20年間別居していました。他の兄弟は母側に育てられ、
私は父側に育てられました。
父は生前に、「遺言書を書いた」と言っていましたが、
死亡直後2日以内に、母が家具等すべて処分してしまったため、何もありませんでした。
さらに、
母は父名義の通帳をCDで引き出し、自分の懐に入れてしまいました。
私は、
警察と弁護士に相談しましたが、「家族なので仕方ない」と片付けられてし
まいました。しかし、どうも納得できません。
回答
刑事上
(被害者と犯人が親族の場合)窃盗、横領 については、直系血族、
配偶者、同居の親族間の犯罪は刑を免除するとなっています(親族間の犯罪に対する特例、
刑法244条)。それ以外の親族間の場合は、告訴すれば警察は犯罪として扱う、すなわち、
横領罪、窃盗罪となります。本件は、「直系血族間」に該当しますので、刑事事件にすることは無理でしょう。
一般論ですが、親族間の犯罪については、警察は実際のところ、なかなか、犯罪として扱いません。
告訴 して警察に対し、根気よく捜査を求めるしかありません。
民事上
この場合は、早めに、銀行に相談し、母親が払い戻したことの証拠を確保してください。
戸籍謄本などであなたが相続人であることを証明できれば、銀行はお父さんの死亡時の預金の残高証
明や預金台帳の写しをくれます。銀行は、過去10年以内なら、帳簿類を保存しています。
他の相続人が預金を引き出したことは、銀行にある払い
戻し請求書の筆跡で証明できます。CD(現金自動支払機)を使って、払い戻した点については、
銀行に設置してある
ビデオカメラ、あるいは、相手に対する尋問などで証明できるかもしれません。時期が早ければ、
法廷で、「あなたが引き出したのではないですか?」との質問されると、「違います」とは言えない
ものです。
できるだけ早い機会に、弁護士に相談し、
家庭裁判所 に対し、遺産分割の調停申立をしてください。
時間が経過すると、うやむやになります。
お母さんは、離婚していませんから、相続権(相続分1/2)があります。
しかし、自己の相続分を越えて預金を引き出す権利はありません。お母さんは、権利がないのに遺産を占有している表見相続人に当たります。あなたは、母親に対して引き出したお金を返せと請求できます(民法884条、相続回復請求権)。
相続回復請求権は、相続権を侵害されたことを知ったときから5年、相続開始のときから20年との時効期間があります。しかし、自ら相続人でないことを知っているか又はその者に相続権があると信ぜられるべき合理的な事由なしに自ら相続人と称している場合には、その者は、相続回復請求制度の対象とされる者ではなく、消滅時効を援用することができないとなっています。
領収書の保管
他人の預金を預かっている場合は、支出の際には領収書を整理してノートに貼り、保管しておきましょう。預金通帳の余白に使途をメモするだけでは不十分です。
親の通帳を預かり、領収書を保管していないで、亡くなった親の預金を「横領したのでは」と疑われ、兄弟の仲が悪くなった例は多いです。
判決
-
最高裁判所平成11年7月19日判決
相続回復請求権の消滅時効を援用しようとする者は、真正共同相続人の相続権を侵害している共同相続人が、右の
相続権侵害の開始時点において、他に共同相続人がいることを知らず、かつ、これを知らなかったことに合理的な事由があったこと
(以下「善意かつ合理的事由の存在」という。)を主張立証しなければならないと解すべきである。
- 最高裁判所昭和53年12月20日判決(出典:判例タイムズ374号62頁)
次に、共同相続人がその相続持分をこえる部分を占有管理している場合に、その者が常にいわゆる表見相続人にあたるものであるかどうかについて、検討する。
思うに、自ら相続人でないことを知りながら相続人であると称し、叉はその者に相続権があると信ぜられるべき合理的な事由があるわけではないにもかかわらず自ら相
続人であると称し、相続財産を占有管理することによりこれを侵害している者は、本来、相続回復請求制度が対象として考えている者にはあたらないものと解するのが、
相続の回復を目的とする制度の本旨に照らし、相当というべきである。
そもそも、相続財産に関して争いがある場合であつても、相続に何ら関係のない者が相続にかかわ
りなく相続財産に属する財産を占有管理してこれを侵害する場合にあつては、当該財産がたまたま相続財産に属するというにとどまり、その本質は一般の財産の侵害の場
合と異なるところはなく、相続財産回復という特別の制度を認めるべき理由は全く存在せず、法律上、一般の侵害財産の回復として取り扱われるべきものであつて、この
ような侵害者は表見相続人というにあたらないものといわなければならない。
このように考えると、当該財産について、自己に相続権かないことを知りながら、又はその
者に相続権があると信ぜられるべき合理的事由があるわけではないにもかかわらず、自ら相続人と称してこれを侵害している者は、自己の侵害行為を正当行為であるかの
ように糊塗するための口実として名を相続にかりているもの又はこれと同視されるべきものであるにすぎず、実質において一般の物権侵害者ないし不法行為者であつて、
いわば相続回復請求制度の埓外にある者にほかならず、その当然の帰結として相続回復請求権の消滅時効の援用を認められるべき者にはあたらないというべきである。
これを共同相続の場合についていえば、共同相続人のうちの一人若しくは数人が、他に共同相続人がいること、ひいて相続財産のうちその一人若しくは数人の本来の持
分をこえる部分が他の共同相続人の持分に属するものであることを知りながらその部分もまた自己の持分に属するものであると称し、又はその部分についてもその者に相
続による持分があるものと信ぜられるべき合理的な事由(たとえば、戸籍上はその者が唯一の相続人であり、かつ、他人の戸籍に記載された共同相続人のいることが分明
でないことなど)があるわけではないにもかかわらずその部分もまた自己の持分に属するものであると称し、これを占有管理している場合は、もともと相続回復請求制度
の適用が予定されている場合にはあたらず、したがつて、その一人又は数人は右のように相続権を侵害されている他の共同相続人からの侵害の排除の請求に対し相続回復
請求権の時効を援用してこれを拒むことができるものではないものといわなければならない。
- 最高裁判所昭和39年2月27日判決
民法884条にいう相続権が侵害されたというためには、侵害者において相続権侵害の意思があることを要せず、客観的に
相続権侵害の事実状態が存在すれば足りると解すべきであるから
<<中略>>
旧民法966条、993条(民法884条)の相続回復請求権の20年の時効は、相続権侵害の事実の有無に拘らず相続開
始の時より進行すると解すべきことは、当裁判所の判例(昭和二三年(オ)第一号同年一一月六日第二小法廷判決民集二巻一二号三九
七頁参照)とするところである。
登録 Oct. 12, 2000
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