金融機関の預金者に対する預金口座の取引経過開示義務
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2024.5.21 9mf
弁護士河原崎弘
相談
3か月前に父が亡くなりました。
相続人5人の内、1人が預金通帳と印鑑を持っています。私は持っていません。
銀行に預金台帳の閲覧請求をしたいのですが、どうすればよいでしょうか。
相談2
銀行(信用金庫)に行って参りました。銀行(信用金庫)が申すには、預金の開示には相続人全員の同意書が必要と言われました。
印鑑を握りしめてる1人が反対したら、預金口座の取引経過の開示はダメなんですか。死亡前の引き出しの有無も確かめたいのです。
それに確証がない他の銀行も調べたいのですが、全員の同意と印鑑証明が必要ですか。
相談3
弁護士会の無料相談にも行ってきました。担当の弁護士は、やはり、預金台帳の開示には相続人全員の同意が必要と説明しました。しかし、他の銀行で預金の開示を求めましたら、そこでは、開示して頂きました。地方銀行です。
回答
戸籍謄本などで、相続人であること、運転免許証あるいは印鑑証明などで本人であることを証明すれば、銀行は、預金の残高証明や、預金台帳の写しをくれます。
預金債権は金銭債権です。これは可分債権で、相続人が全員で、全体の債権を持つのではなく、各相続人が、法定相続分に従い分割した債権を持っているのです。そこで、全員の同意がなくとも、1人でも預金台帳の写しを請求できます。ただし、判例は、開示を共有物の保存行為と見て、各自開示を認めています。
相続については、銀行は、相続センターと言うものを持ち、専門的に対処しています。強く請求する必要がありますね。
この銀行は特別で、他の銀行は1人の相続人からの請求でも、写しを交付してくれると思います。
このように、各銀行で対応がまちまちである問題の原因は、その支店の担当者の不勉強が原因です。そこで、対処法としては、銀行の相続センター(名前は色々)の電話番号を尋ね、そこで、相談する。
さらには、内容証明郵便で、預金台帳の写しの交付を求め、交付しないなら生じた損害を請求すると通知する。文書で請求されると、担当者も真剣になり、銀行の文書課(法務課)や顧問弁護士に相談したりします。さすがに、銀行の顧問弁護士なら、まともな回答をするでしょう。
それでも駄目なら弁護士に通知してもらうなどの手段を採ったらいかがでしょう。
なお、平成21年1月22日、共同相続人の1人からの開示請求に対し金融機関の開示義務を認めた、最高裁の判決が出ています。この判決を教えるのもいいですね。
判例
- 最高裁判所平成21年1月22日判決(出典:判例タイムズ1290号132頁
)
このことは預金契約において金融機関が処理すべき事務についても同様であり,預金口座の取引経過は,預金契約に基づく金融機関の事務処理を反映したものであるから,預金者にとって,その開示を受けることが,預金の増減とその原因等について正確に把握するとともに,金融機関の事務処理の適切さについて判断するために必要不可欠であるということ
ができる。
したがって,金融機関は,預金契約に基づき,預金者の求めに応じて預金口座の取引経過を開示すべき義務を負うと解するのが相当である。
そして,預金者が死亡した場合,その共同相続人の一人は,預金債権の一部を相続により取得するにとどまるが,これとは別に,共同相続人全員に帰属する預金契約上
の地位に基づき,被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる(同法264条,252条ただし書)というべきであり,他の共同相続人全員の同意がないことは上記権利行使を妨げる理由となるものではない。
上告人は,共同相続人の一人に被相続人名義の預金口座の取引経過を開示することが預金者のプライバシーを侵害し,金融機関の守秘義務に違反すると主張するが,開
示の相手方が共同相続人にとどまる限り,そのような問題が生ずる余地はないというべきである。
2010.1.20
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