遺体、遺骨は相続されるか、所有権は
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2024.5.9mf更新弁護士河原崎弘相談:遺骨を引取りたい
13年間一緒に生活していた内縁の夫が死亡しました。
私と夫は、「一緒の墓に入ろう」と話をしていました。また、夫は、生前、「自分が先に逝ったときは、お前が墓守をしてくれ」と言っていました。葬儀は夫の長男が取り仕切り、夫の遺骨は夫の長男が埋葬してしまいました。
私が、夫の遺骨を引き取って埋葬したいのですが、できませんか。
相談者は、弁護士会の電話相談で、質問しました。回答:祭祀承継者が遺骨について権利がある
遺体や遺骨は遺産ではなく、相続の対象にもなりません。 遺体や遺骨は、相続とは関係なく、祭祀を主宰すべき者(祭祀承継者)に権利(多分、所有権)が認められ、内縁の妻であっても(内縁の妻は相続権はない)、祭祀を主宰すべき者であれば、認められています(民法 897 条)。あなたの場合、亡夫が、生前、「お前が墓守をしてくれ」と言っていた(指定していた)のですから、あなたは、亡夫の祭祀を主宰すべき者(祭祀承継者)です。 祭祀承継者であるあなたが、遺骨の引渡の請求が可能です。
- 被相続人の指定
祭祀を主宰すべき者は、被相続人の指定 で決まります(これは、遺言で指定してもいいですが、遺言でなくてもよいです。書面でなくてもよいです(下記判例参照)。- 慣習
指定がなければ、 慣習に従って決まります。- 家庭裁判所の 審判
慣習が明らかでなく、誰を、祭祀を主宰すべき者とするか、意見が対立するなら、家庭裁判所に調停の申立をすることができます。そこで、話がまとまらなければ、家庭裁判所が審判で決めてくれます。
なお、納骨前の遺骨につき、喪主に所有権があるとの判決があります。参考法律
民法第897条 民法第897条〔祭祀に関する権利の承継〕 @ 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従つて祖先の祭祀を主宰すべき者がこれを承継する。ただし、被相続人の指定に従つて祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が、これを承継する。 A 前項本文の場合において慣習が明かでないときは、前項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所がこれを定める。 判例
- 東京地裁昭和62年4月22日判決
そもそも、被相続人の遺骸ないしこれを火葬した焼骨の所有権は、被相続人に属していた財産ではないから、相続財産を構成するものではなく、被相続人との身分関係が最も近い者の中で、その喪主となつた者に当然に帰属するものと解すべきである。
これを本件の場合について見るに、原告が喪主となつたこと自体は争いがなく、〈証拠〉によると、昭和四九年八月二三日に死亡した植竹敏夫の葬儀は、妻である原告が喪主となつて執り行い、植竹敏夫の遺骸を火葬した焼骨を行安寺の墓地にある植竹家之墓に収蔵したものであつて、このことについては、親族の間において何らの異論もなかつたことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
してみると、植竹敏夫の遺骸を火葬した焼骨の所有権は、喪主である原告に当然に帰属したものというべきである。- 最高裁判所平成元年7月18日判決
原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて,本件遺骨は慣習に従つて祭紀を主宰すべき者である被上告人に帰属したものとした原審の判断は,正当として是認することができ,その過程に所論の違法はない- 高知地裁平成8年10月23日判決(家裁月報41-10-128)。
被相続人が死亡した場合には、その遺体、遺骨も物体となって、所有権の対象となると考えるべきであるが、その遺体、遺骨の所有権といっても、性質 上埋葬、管理、祭祀、供養の範囲内で権限を行使できるものであって、通常の所有権の概念からは著しく離れており、むしろ、祭具と近似するものであるから、民法八 九七条の準用により承継されるとするのが相当である。
そして、前記に判示したとおり、敏博は、生前において、自己の遺骨の管理について、原告に委ねているのであるから、敏博の遺骨は原告において承継すべきもので ある。
なお、被告博昭は、予備的に敏博の長男として慣習上の祭祀承継者であると主張するが、既に判示のとおり、先祖の祭祀に関しては、原告と敏博の弟が別々 に祭っており、仮に、敏博が祭っていたものについては被告博昭が慣習上の祭祀承継者であるとしても、先祖の祭祀に関するものと敏博のそれとは同一に考えることは できず、敏博自身のものは敏博の意思が優先するというべきであるから、敏博の遺骨が祭祀財産であるといっても、被告博昭において、敏博の遺骨について所有権を取 得するものではない。したがって、被告博昭の請求はその余の点について判断するまでもなく失当である。
3 本件位牌は、原告において、敏博を供養するために製作させたもので、敏博の遺骨、供養と一体となるものであるから、その所有権は原告に属し、被告らに帰属するとは考えられない。したがって、被告らの請求は認められない。- 東京家庭裁判所平成12年1月24日審判(出典:家庭裁判月報52巻6号59頁)
本件墓所は○○株式会社の創業者である亡父道晴及びその妻であった母なおが永眠するものであり,亡 父道晴は,社業の興隆発展に生涯情熱を傾けていたことからすれば,本件墓所については,○○株式会社の経営の任に当たる息子に承 継させることを望んでいたと推認される。また,亡父道晴の妻であった母なおも同様の希望を有していたと考えるのが自然であり,上 記3認定事実にこれらの事情をも考慮すると,本件においては,祭祀財産の承継者を相手方と定めるのが相当というべきである。- 名古屋高等裁判所平成26年6月26日 決定
前記認定事実によれば,原審相手方は,被相続人の住居に隣接して居住し,被相続人が一人暮らしとなり認知症になると介護療養を行っており,被相続人の生前, 親密に交流し療養に努めたほか,被相続人の葬儀も取り仕切ったと認められる。
原審相手方は,被相続人の死後,法要を行っていないが,被相続人の死後間もない時期に原審申立人から遺産分割協議の申し入れを受けて紛争を生じていること からすると,法要を行っていないことをもって祭祀を主宰する意思を欠くということはできない。
原審相手方は,別紙目録記載の墳墓の近くに住み,これら墳墓を自ら管理し,遺骨を先祖代々の墓に入れ,仏壇を自宅に引き取る意向である。
これに対し,原審申立人は,△△市に居住しており,墳墓を自ら管理する意思はなく,仏壇は使える状態ではないとして処分することを考えている。しかし,仏 壇は,写真(乙24)で見る限り,使用に支障があるとは認められない。
また,原審申立人は,遺骨を○○寺に納める意向であるが,被相続人が先祖代々の墓に入ることを拒んでいたと認めるに足りる証拠はない。被続人がDと不仲で あったとも認められず,被相続人が祭祀承継者として別紙目録記載の祭祀財産を管理していたことからすると,被相続人の遺骨を先祖代々の墓に納めるという原審相手 方の方針は,被相続人の意向に沿うと推認される。
なお,原審申立人が将来における墓の引継先となり得るとするEは,当審における事実の調査において,Dから墓を頼むと言われたことはなく,墓のことは原審 申立人と原審相手方が仲良く話し合い解決すべきもので,墓の管理を引き受けるのであれば「相応の負担料」があるのが常識であると述べており,同人の認識は,原審 申立人の認識と一致するものとはいえない。
以上によれば,被相続人の祭祀承継者には,被相続人の遺骨を先祖代々の墓に入れて自ら墓を管理する意向を持ち,仏壇や位牌も引き継いで自ら祭祀を主宰する ことのできる原審相手方を指定するのが相当である。また,被相続人の遺骨についても,民法897条を準用して原審相手方をその所有権の取得者と定めるのが相当で ある。- さいたま家庭裁判所平成26年6月30日審判
(2)被相続人及び当事者らが居住する地域において,祭祀を主宰すべき者についての慣習が存在することを認めるに足りる証拠はない。そうす ると,祭祀財産の承継者を決めるに当たっては,被相続人との間の身分関係や事実上の生活関係,被相続人の意思,祭祀承継の意思及び能力など,その 他一切の事情を斟酌して決定することとなる。
これを本件につきみるに,申立人は,被相続人と平成21年×月まで同居して生活を共にし,また,被相続人が主宰するDの葬儀及び法事等を 補助していたことに鑑みると,被相続人も祭祀の承継者として,同居していた申立人と考えていたと推測されること,被相続人が相手方と同居したのは, 申立人宅の建替工事期間のごく短期間につき高齢の母親を預かるということが契機となっており,被相続人と申立人との関係が悪化したことによるもの ではないことがうかがえること,一方,相手方は,申立人との関係が悪化していたとはいえ,被相続人の子である申立人をはじめ,被相続人の実妹らに 対し,被相続人が危篤状態となった際にも,その後死亡した事実も伝えず,密葬を済ませたことは,親族など関係者らの意思を踏まえ末永くその祭祀を 主宰していくに相応しい行為ではなかったことなどが認められる。
(3) これらの諸事情を勘案すると,申立人を被相続人の祭祀財産の承継者と定めることが相当である。- 大阪家庭裁判所平成28年1月22日審判
したがって,被相続人の指定又は慣習がない場合には,家庭裁判所は,被相続人の遺骨についても,民法897条2項を準用して,被相続人の祭祀を 主宰すべき者,すなわち遺骨の取得者を指定することができるものというべきである。
そこで,以下,被相続人の祭祀を主宰すべき者(被相続人の遺骨の取得者)の指定について検討する。
(1) まず,申立人らは,被相続人が祭祀財産の承継者として申立人らを指定していた旨主張するが,それを裏付ける書面はなく,本件全資料を検討 してもその事実を認めることはできない。
(2) また,本件において,祭祀財産の承継者となるべきものについての慣習があると認めることもできない。
(3) そうすると,家庭裁判所が,被相続人の祭祀を主宰すべき者(被相続人の遺骨の取得者)を指定することになるが,その指定にあたっては,被 相続人との身分関係や生活関係,被相続人の意思,祭祀承継の意思及び能力,祭具等の取得の目的や管理の経緯,その他一切の事情を総合して判断するのが 相当である。
しかるに,本件においては,相手方は,被相続人とは親族関係にないものの,約45年前に知り合い,平成9年に妻のNが死亡した後,被相続人が 居住している本件マンションを訪問し,少なくとも月に数日は生活を共にし,被相続人と一緒に旅行に出かけたりしていたほか,被相続人との間で数百万円 の金銭の授受をしていたこと,相手方は,被相続人が死亡した際には,葬儀業者に連絡して被相続人の葬儀を主宰し,葬儀費用を負担し,被相続人の遺骨を 現に所持し,位牌や戒名の手配をしていることなどからすると,被相続人との生活関係は緊密であり,被相続人としても,近年,生活の一定部分を相手方と 共にし,相手方との間で多額の金銭の授受があったことなどからすると,相手方を信頼しており,遺骨についても相手方に委ねる意思を有していたと考える ことができる。
他方,申立人らは,被相続人の姪・甥にあたり,近年,病院に被相続人を見舞いに行ったり,本件マンションの管理をしたりなどしているが,相手 方と比較すると,被相続人との関係は希薄であるといえること,被相続人の葬儀を相手方が主宰することに異議を述べたり,自ら費用の負担を申し出たりし たことをうかがわせる資料はなく,それを是認していたと考えられることなどからすると,相手方との比較において,被相続人の遺骨の取得者とするのは相 当でない。なお,申立人らは,相手方が被相続人の遺骨を納めることを予定しているP寺は合祀を前提としていることを問題視しているが,遺骨をどの寺に 納骨するかは遺骨の取得者に委ねられており,遺骨の取得者の指定にあたっての判断に影響を与える事情とはいえない。