遺留分算定の際の遺産の評価時期
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2022.11.17mf
弁護士河原崎弘
相談
3年前に父が亡くなりました。母は、既に亡くなっています。
遺言では、私が不動産(父が亡くなった当時の時価約1億2千万円)、弟が預貯金(2千万円)、妹が預貯金(2千万円)を相続しました。
当時、弟から私宛に、 遺留分侵害額請求の通知 があり、続いて、妹からも、同じ通知がありました。
その後、弟たちは遺留分額を請求して、家庭裁判所に対し調停を申立をしています。問題は、私のもらった不動産(自宅の土地建物)の価値が下がったことです。相続時は、1億2千万円の評価(路線価)でしたが、現在、路線価は、8千万円ほどです。
【計算方法1】
父が亡くなった時点で、弟の遺留分を計算すると、次の通りです。
遺留分額 | = | | 不動産 | | 預貯金 | | | | | |
2666万円 | = | ( | 1億2千万円 | + | 4千万円 | ) | ÷ | 3 | ÷ | 2 |
【計算方法2】
しかし、不動産を現在の時価に直して計算すると、弟たちの遺留分は次の通りになります。この計算では、遺留分不足額(遺留分と実際に取得した差額)はありません。
遺留分額 | = | | 不動産 | | 預貯金 | | | | | |
2千万円 | = | ( | 8千万円 | + | 4千万円 | ) | ÷ | 3 | ÷ | 2 |
どちらが正しい計算方法ですか。いつの時点で遺産を評価して遺留分を計算しますか。
相談者は、弁護士の意見を求めました。
回答
遺留分計算の際、遺産を、いつの時点で評価するかについては、説が分かれています。通説は、相続開始時(被相続人死亡時)です。
実務も通説を前提に動いていると言っていいでしょう。
計算方法1が正しいです。
昔、もらった金銭は、物価上昇率を考慮し、相続開始時の価値に直して計算します。
遺留分侵害額請求があると、相続開始時の時価で、遺留分を計算します。
なお、不動産の大雑把な時価の計算は、路線価を使ってもよいですが、より正確にするには、公示価格を使うと良いでしょう。
判決
- 東京地方裁判所平成24年10月12日
判決(出典:判例秘書)
原告X1の遺留分減殺請求について
(1)遺留分算定の基礎財産
原告X1と被告の間の遺留分算定の基礎財産は,本件55番102の土地の持分12分の8,本件預金,本件相続分譲渡にかかる本件55番106の土地及び本件建物の各持分3分の1である
なお,原告X1は,原告X2の特別受益が遺留分算定の基礎財産に含まれるとの主張をしていない。
(2)遺留分算定時の財産の評価
遺留分算定の基礎財産の価額算定の基準時は相続開始時(平成20年1月29日)であり,上記(1)の遺留分算定の基礎財産の相続開始時の価額は,上記3(2)で認定したとおり,本件55番102の土地の持分12分の8が8934万4200円,本件55番106の土地の持分3分の1が4511万6000円,本件建
物の持分3分の1が38万9933円である。
<< 中略 >>
(5)価額弁償
ア 争点(3)イ(価額弁償時の財産の評価方法)について
(ア) 被告は価額弁償の意思表示をしており,その際の財産の価額算定の基準時は口頭弁論終結時(平成24年8月24日)であり,公的評価である路線価を
採用すべきことは前記のとおりであるところ,証拠(乙20)によれば,本件55番102の土地の平成24年の路線価は9340万5300円(135.37平方メー
トル×69万円)である。
(イ) そうすると,本件55番102の土地の持分1億3401万6300分の1681万5449に関して被告がすべき価額弁償額は,1171万9858
円(9340万5300円÷1億3401万6300×1681万5449。円未満四捨五入)となる。
(ウ) また,本件預金についての価額弁償額は12万1536円である。
- 最高裁判所昭和51年3月18日判決(判例タイムズ335号211頁)
被相続人が相続人に対しその生計の資本として贈与した財産の価額をいわゆる特別受益として遺留分算定の基礎となる財産に加える
場合に、右贈与財産が金銭であるときは、その贈与の時の金額を相続開始の時の貨幣価値に換算した価額をもつて評価すべきものと解
するのが、相当である。
けだし、このように解しなければ、遺留分の算定にあたり、相続分の前渡としての意義を有する特別受益の価
額を相続財産の価額に加算することにより、共同相続人相互の衡平を維持することを目的とする特別受益持戻の制度の趣旨を没却する
こととなるばかりでなく、かつ、右のように解しても、取引における一般的な支払手段としての金銭の性質、機能を損う結果をもたら
すものではないからである。
- 名古屋高等裁判所昭和45年12月9日決定
原審判が右大川徳一の鑑定の結果を採用した当否はともかく、遺産分割審判において遺産の評価時期は、分割時とすべきものと解するのが相当である。もつとも、遺産
分割に遡及効があること(民法909条本文)、具体的相続分の算定のための遺産の評価及び遺留分算定の基礎となる財産の評価がいずれも「相続開始の時」を基準とし
ていること(民法第903条第1項、第904条、第1029条)から、遺産分割のための遺産の評価も、これと異別に取扱うべきではないと考えられないではない。
し
かし遺産分割の遡及効は、分割前の遺産処分から相続人を保護するための擬制であり、また相続財産の被相続人から相続人への移転と遺産分割とは平面を異にする問題で
あるから、両者を必ずしも同一に扱わなければならないとするいわれはない。そして遺産分割は、分割時にはじめて遺産が具体的に分割されるものなのである。ことに本
件のように相続開始時と分割時(原審判時)の間に5年弱の年月の経過があり、更に原審判のように、原審申立人には本件遺産の価額の6分の1に相当する金銭を与え、
原審相手方には本件遺産全部(不動産)を与えるというような分割方法をなすにおいては、その分割方法が本件の解決としては妥当であるとしても、物価上昇の著しい現
状に鑑みるときは、原審申立人と原審相手方との間に実質的な不公平をもたらす結果となることは明らかである。
したがつて原審は、本件遺産の相続開始時の価額によつて具体的相続分(遺留分)を算出し、その割合をもつて分割時を基準として評価された本件遺産の分割をなすべ
きである。
- 東京家庭裁判所昭和33年7月4日審判(家庭裁判月報10巻8号36頁)
申立代理人の抗争するところは理由はない。
しかしながら本件相続について、被相続人は相続人中相手方景子に対して生計の資本として前記土地が生前贈与せられているの
で、民法903条によりその価額を相続財産に加算して各相続人の相続分を決定すべきところ、この相続分決定についての遺産評
価の時期について、
(イ)相続開始当時の時に有した財産及び相続開始前の生前贈与分等について何れもの相続開始の当時の価額
より計算する。
(ロ)何れも分割時の価額によるべきである。
(ハ)民法903条による相続分の計算は何れも相続開始当時の価
額により計算しこの相続分の割合により分割対象の遺産を分割時の評価額により分割すべきものとする
との三つの見解が考えられ
るが、(ハ)説によるを相当する。
蓋し(イ)説のように相続開始当時の評価により分割するとすれば、分割当時より現在値上り
の著しい遺産を取得したものは非常に有利になるが、そうでない遺産の分割をうけたものは不利になる。次に(ロ)説によれば相
続開始後遺産分割迄の間における、未分割遺産に対する各相続人の民法903条により計算される相続分が物価の変動に従つて絶
えず変動する不合理が生ずる。(ハ)説はこの前二者の欠点を補うものである。即ち民法903条にて相続分を計算するについて
は、すべて相続開始当時の評価額によるものとするが、これにより遺産に対する相続分、即ち相続の割合が確定した上は、その相
続分に従つて、現在分割時の事情に則して分割の対象となる遺産を分割することになり最も妥当な結論が得られることになるから
である。
登録 2005.3.7
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