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2015.6.10mf弁護士河原崎弘
保証債務の相続
質問
父は、会社の代表取締役でしたが、その後、代表取締役を辞め、退職しました。しかし、父は、代表取締役の時代、会社の取引銀行に対する債務を連帯保証していました。
その父が、先日亡くなりました。会社が支払えなくなった場合、私たち相続人(母、兄弟3人)は、この債務を支払う義務があるのでしょうか。
回答
弁護士は次の通り回答しました。
(代表取締役の辞任と保証債務)
代表取締役が会社の保証人になっていることはよくあります。この場合、代表取締役を辞めても、保証契約は存続します。
(保証債務の相続)
相続は、被相続人の法律上の地位(債権、債務を含め一切)を受け継ぐので、相続放棄をしない限り、原則として債務も相続されます(民法896条)。保証人としての地位(保証債務)は、相続の対象になります。
しかし、当事者の個人的信頼関係に基づく一身専属的保証、すなわち、被相続人死亡時に具体化していない当事者の個人的信頼を前提とする継続的契約や身元保証については例外があります。
(根保証の場合)
継続的取引について将来発生する債務を保証する場合(根保証)は、問題があります。
保証人の責任の限度(極度額)が決まっている場合は、保証人の地位は相続されます。
極度額が決まっていない場合は、保証人は、金額が確定しない債務を相続することになるので、非常に不安定な状態に置かれます。そこで、極度額が定めのない根保証契約は、無効です(保証人が法人である場合は別、民
法465条の2第2項)。従って、保証人の相続もありません。
期間のみ限定されている場合は、明確ではありませんが、相続されないとの意見が強いです。
根保証でも、相続開始時に既に発生している具体的債務については、保証人の責任は相続されます。
なお、平成17年4月1日施行された改正民法により貸金(貸金根保証契約)の場合、個人の包括根保証は効力がありません(民法465条の2第2項)。
(身元保証人)
身元保証は、個人的な信頼関係を基礎においていますので、一身専属性を有し、保証人の地位は、相続されません。ただし、相続開始当時に具体的損害額が発生している場合は、保証人の責任は、相続されます。
(賃貸借契約)
賃貸借契約の保証人の地位は、相続されます。気を付けなければいけないことは、賃貸借契約が更新されても、保証人の責任は続きます。
(本件の場合)
連帯保証人は、本人の債務を、全額、保証しています。
しかし、連帯保証人の相続人は、全額ではなく、法定相続分に応じて、債務を相続します。
相談者の場合、根保証の場合でも、極度額が決めてあるなら、母 1/2、兄弟各 1/6の割合で保証債務を相続することになります。
極度額が決めてないなら、根保証契約は、無効で、相続もありません。
具体的な保証債務や極度額が多額で、支払い困難な場合は、3か月以内に相続放棄すれば、相続されません。
判決
- 東京地方裁判所平成15年12月12日判決(出典:判例秘書)
本件は,医療法人社団Aが,原告の保証に基づき,金融機関から借り入れをしたが,弁済をしないため,原告が各金融機関に代位弁済したとして,原告に対する保
証人である亡Bの相続人である被告らに対し,求償金及び代位弁済の日の翌日から支払済みまで約定利率による遅延損害金の支払を求めたものである。
<< 中略 >>
(本件債務の相続性)について
相続の効力について,民法896条は,「相続人は,相続開始の時から,被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」ものと定めており,この被相続人の
財産に属した一切の権利義務」,すなわち,被相続人の財産的地位には,連帯保証人たる地位も当然に含まれるというべきであるから,相続の発生時点において,求償権
として具体的に発生していないとしても,相続人は,相続後に求償権が具体化したときは,その支払の責めを負うのが相当である。
もっとも,身元保証等,継続的な保証
契約においては,その保証すべき範囲が不明確であり,時には広汎となるものであることからすれば,相互の信頼を基盤とした全くの一身専属的債務となることはあり得
るものであり,また,責任限度や継続期間の定めのない継続的保証契約においては,相続発生後に主債務者が新たな借入れを行った場合についてまで,相続人がその債務
を承継負担するものとはいえないが,本件債務は,いずれも,Bが,その生存中に,個別に保証契約を締結した結果,発生したものであるから,このような本件債務につ
いて,一身専属性を認めることはできない
というべきである。
- 東京地方裁判所昭和54年3月8日判決(出典:判例タイムズ389号113頁)
本件保証契約は、原告と訴外会社間の継続的売買取引について将来負担することがあるべき
債務についてしたものであるが、責任の限度額が1800万円と定められており、かつ、連帯保証人である一夫の存命中に原告と訴外
会社との売買取引によつて既に発生していた主債務について、一夫の相続人である被告らに保証債務の履行を求めるものであることが
認められるから、本件保証契約に基づく保証債務が一夫その人と終始する一身専属のものであると解することができず、そのほかに本
件保証契約に基づく保証債務が一夫の一身専属のものであつて、その相続人においてこれが保証債務を承継負担するものではないと認
めるに足りる証拠はない。
- 最高裁判所昭和37年11月9日判決
継続的売買取引について将来負担することあるべき債務についてした責任の限度額ならびに期間の定めのない連帯保証契約における保証人たる地位は、特段の事由のな
いかぎり、当事者その人と終始するものであつて、保証人の死亡後生じた債務については、その相続人においてこれが保証債務を負担するものではない。
すなわち、保証人としての地位、抽象的保証債務は相続されない。しかし、保証人死亡前に、具体化している具体的保証債務は、相続される。
- 大審院昭和9年1月30日判決
賃貸借契約における保証人の相続人は、其の相続開始後に生じたる賃料債務についても保証の責めに任ずべきものとす。
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