盗難にあった預金通帳の副印鑑を偽造され、使われた
弁護士(ホーム)
>
金銭貸借、保証、債務整理、破産の法律相談 > 盗難にあった預金通帳の副印鑑を偽造され、使われた
Last updated 2015.6.27mf
弁護士河原崎弘
質問1
保険証と銀行の通帳の盗難にあいました。銀行の窓口に犯人らしき人物がお金を引出そうと、印鑑まで偽造してやってきました。たまたま、知り合いの勤めている銀行だったので、おかしいということで電話があり、即座に警察へ通報してもらいましたが、犯人らしき人物は、勘付いたのか、逃げてしまいました。警察へ紛失届は出したのですが、犯人が逃げたときの車も、ナンバーが偽造されておりました。今、不安でしょうがありません。
盗難に遭った場合に、警察へ届ける以外に、なにかやっておかなくてはいけないことはありますか。
相談者は、予約をして、弁護士会で相談しました。料金は5400円でした。
質問2
銀行の預金通帳が盗難にあい、その日のうちに300万円引出されてしまいました。この場合、私は銀行に300万円払戻し請求できますか。印鑑は別の場所に置いてあり,無事でした。犯人は通帳に押された印影から印鑑を偽造してるようです。
回答
銀行通帳が盗難にあい、通帳に押されていた印影と同じ印鑑を偽造され、預金を引き出された場合、問題となるのは銀行の注意義務です。通常、預金払戻しについては、「払い戻し請求書に使用された印影を、届出の印鑑と相当の注意をもって照合し、相違ないものと認めて取扱いしたうえは、それらの書類につき偽造、変造、その他の事故があってもそのために生じた損害については、当金庫は責任を負いません」との約款が適用されます。
このような約款がなくても債権の準占有者に対する弁済として、払戻しは有効とされるでしょう(民法478条)。銀行取引の迅速性の要求から、銀行の注意義務が軽減されているのです。
要するに、銀行に過失がある場合にのみ、銀行に責任があります。
銀行が相当の注意をもって印影を照合した場合は、偽造印鑑であっても、銀行は責任を負わないことになります。相当の注意とは、肉眼による平面照合であり、機械による照合ではありません。現に、下記ような判例が沢山あります。
通常は、銀行は免責されます。免責されない場合もあります。問題となるのは次の状況です。
- 預金者がその支店と取引していたか(自店払い)。
一般的に、預金した店舗には預金者の顔を知っている行員がいる可能性があるので、犯人は心理的に他の店舗に向かい易い。
実際に、自店払いと、他店払いでは、払い戻し請求書を異にし、他店払いの請求書には住所欄を設けている金融機関がある。
- 金額が大きいか。
100 万円以上か、あるいは、 1000 万円以上か。金額が大きいほど銀行の注意義務は重い。
- 具体的に疑わしい素振りなどの特段の状況があったか。
これは後で、防犯ビデオを見て確認できます。しかし、防犯ビデオは不鮮明で、疑わしい素振りかを確認が難しいことが多いです。
- 住所、氏名の誤記
自分の住所、氏名を間違えるのは、疑わしい状況です。
判例上では、自分の名前を書き間違えたなどがありますが、「誤って子供の名前を書いてしまった」との言い訳が、合理的と判断されています。
銀行は、疑わしい場合は、住所を書かせるとか、電話番号を書かせるとか、運転免許証など身分証明の提示を求める、電話によって確認する義務があるでしょう。
払出し請求書に書かれた名前の字と真実の名前の字が違う場合、自分の名前の字を間違えるのは不自然ですので、銀行がこれを見過ごすと銀行の責任に責任があります。具体例として、真実は「樹」なのに「土」と「口」の間に草かんむりが書かれていたのを銀行が見過ごして払い出しに応じた事件では銀行に責任が認められました(東京地方裁判所平成15年1月15日判決;朝日新聞同年同月16日朝刊)。
最近は、通帳に押された届出印鑑(副印鑑)の印影をスキャナーで読み取りパソコンを使って、印鑑を偽造する事件が多いです。パソコンは印影の線の中心を読み取りますので、重ね合わせ照合でも線の中心が合います。特徴として、偽造された印鑑の印影は線が細いです。これは、朱肉の付き具合、捺印時の圧力の差によるものとして、見過ごされ、同一の印鑑と認定する障害になりません。
払戻し請求書に印影を直接印刷する方法もあります。この方法では、真正の印影と全く同じ印影が印刷されます。
盗難の直後に払戻しされますから、通帳が盗難にあったらすぐ銀行に連絡する必要があります。
銀行でも印影の見分け方のを訓練していますが、偽造印影の、この(印影の字が細い、あるいは、払戻し請求書に印影が印刷されているとの)特徴が一般的な常識になると、さらに、偽造印鑑を使った払戻しが多くなると、銀行の注意義務の内容も変わってきて、銀行の過失も認められるようになるでしょう。そのような趣旨の判例もあります。
印鑑と通帳を別々に保管するだけでは危険を防止できません。通帳に印影を押すことは危険ですので、避けた方がよいでしょう。古い通帳には印影が押してありますから、印影は、はずしてもらった方がよいでしょう。銀行業務もその方向で進んでいます。
郵便貯金は、相変わらず、副印鑑を使い偽造対策をしていません。
最近は、銀行の過失を認める預金者側にたった判例も増えています。
新法
平成18年2月10日、「偽造カード及び盗難カード等を用いて行われる不正な機械式預貯金払戻し等からの預貯金者の保護等に関する法律(いわゆる「預金者保護法」)」が施行されました。
預金者保護法では、偽造と盗難のいずれの被害にも、金融機関側が、
原則、全額を補償します。
対象となるのは、銀行や日本郵政公社をはじめ、信用組合、信用金庫など、すべての金融機関のキャッシュカードを使った払い戻し。ATM(現金自動預払機)から通帳を使って不正に引き出された場合も同様に補償されます。
被害に遭った預金者は、警察と金融機関への被害届け出が必要で、原則として、届け出から30日前までのATMでの引き出し被害が補償対象となります。
預金者の重過失(暗証番号をカードに書き込んでいたりする場合)があると補償されません。重過失の挙証責任は、金融機関にあります。法人の預金、窓口での払戻しは保護されません。
判例- 東京地裁平成10年7月28日判決
(真正な印影)と・・・(偽造の印影)を比較すれば、この両者は極めて酷似しており、その相異は払戻の際に通常行われる平面照合、二つ折り照合によって見分けることは極めて困難であると認められる。したがって、もし仮に、《証拠略》の払戻請求書の印影が偽造された印鑑により押捺されたものであったとしても、右認定事実に照らせば、窓口担当のY及びSは相当の注意をもって印影を照合したと認められるのであり、前示免責約款により、被告は責任を免れるというべきである(金融法務事情1526号65頁)。
- 東京高裁平成15年7月23日判決
そこで、届出印鑑によって押捺されたものではない本件印影を届出印鑑による印影と判断した被控訴人の担当者の印鑑
照合につき過失がなかったかどうかを判断するに、一般に、払戻請求書によって預金の払戻しが請求された場合、当該払戻請
求書上の印影と届出印鑑の印影とを照合するに当たっては、銀行の担当者は、金融機関としての銀行の照合事務担当者に対し
て社会通念上一般に期待される業務上の相当の注意をもって慎重に行うことを要し、銀行の照合事務に習熟している銀行員が
このような相当の注意を払って熟視すれば肉眼を持っても発見し得るような印影の相違が看過されたときは当該担当者に過失
があるものと解するのが相当である(最高裁判所所昭和46年6月10日第一小法廷判決・民集25巻4号492頁参照)。
かかる見地に立って本件をみるに、上記(2)で指摘した届出印影と本件印影の印影相互の相違は、そのすべてを朱肉の付
き具合、押捺の際の力加減、用紙の違い、あるいは印章の経年変化等の理由だけで説明することは到底できないものであると
いわなくてはならず、印影照合事務に習熟した者が相当の注意力をもってすれば、そのほとんどがいわゆる平面照合により十
分確認することができるものであるといえるものである。特に、上記(2)の(5)及び(6)の「会社」、(8)及び(9)
の「エン」、及び(13)の「代表」などの文字は、必ずしも印影照合事務に習熟した者でなくとも、通常人が相当の注意力
をもってすれば、その相違を認識できるものであるというべきものであり、これらは、本人確認の手続として重要な作業であ
る印影照合事務を担当する金融機関の担当者としては、容易に見逃すことの許されない相違であるといわなくてはならない。
したがって、本件印影を届出印鑑によるものと判断した被控訴人の担当者には過失があるものというべきであり、被控訴人
の担当者が本件払戻請求者を正当な権利を有する者と信じたとしても、そのことに過失がなかったものということはできない
から、本件払戻しは、債権の準占有者への弁済として有効とはいえず、控訴人の預金債権を消滅させ得るものではない(判例時報1841-107)。
- 名古屋地裁平成16年9月15日判決
預金者が29歳なのに、払い戻しのため来店した男性が40歳以上ことなどを根拠に銀行の行った本人確認に過失があると判決した(判例時報1886-92)。
登録 Mar. 30, 2001
東京都港区虎ノ門3丁目18-12-301(神谷町駅1分)河原崎法律事務所 弁護士河原崎弘 03-3431-7161