家業を手伝ってきた次男の寄与分
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2015.8.23mf更新
弁護士河原崎弘
相談
私は、サラリーマンをしていましたが、途中で、辞めて、父の商売(家具販売)を手伝いました。家業は、私と妻が手伝ってきました。
9月、父が亡くなりました。相続人は、母と、私(次男)と兄です。父の遺産は、ビル(土地、建物、時価5億円)と預金約1億6000万円あります。
建物は父名義ですが、私が手伝った以後に建築しました。預金も、私が手伝ってから形成されたものです。私は、明確に父の遺産の増加に寄与しています。
遺産分割に際して、私はどのような主張ができるのでしょうか。
相談者は、弁護士会の法律相談を訪ねました。
回答
あなたが、お父さんの資産の形成ないし維持に貢献した場合は、あるいは療養看護に務めた場合、あなたは、相続分とは別に寄与分を請求できます。
寄与分を主張できるのは相続人だけですので、あなたの奥さんは寄与分を主張できません。あなたの奥さんの寄与は、あなたの寄与として考慮(計算)します。
寄与分は、5%とかの割合、あるいは、1000万円などと金額で表示します。
寄与分は、遺産分割協議の際に相続人が決めますが、協議できなければ、当事者が遺産分割の申立に加えて、寄与分の申立てをし、家庭裁判所の審判で決めます。
寄与分は、およそ、遺産の20%以下です。療養看護の寄与分は1日の金額に日数を乗じます。例えば、1日8000円の1年分で、292万円とするなどです。
【通常の計算(法定相続)】
各人の相続分(相続取得額)は以下のとおりです。
|
相談者の相続分 | =6億6000万円×1/4 | |
| =1億6500万円 | |
母親の相続分 | =6億6000万円×1/2 | |
| =3億3000万円 | |
長男の相続分 | =6億6000万円×1/4 | |
| =1億6500万円 | |
【寄与分を考慮した計算】
あなたの寄与分をお父さんの遺産の5%とした場合。
遺産から5%(3300万円)をマイナスし、6億2700万円を法定相続の割合で分けます。各人の相続分は以下のとおりになります。
寄与分 | =6億6000万円×0.05 |
| =3300万円 | |
相談者の相続分 | =6億2700万円×1/4 + 3300万円 | |
| =1億8975万円 | |
母親の相続分 | =6億2700万円×1/2 | |
| =3億1350万円 | |
長男の相続分 | =6億2700万円×1/4 | |
| =1億5675万円 | |
条文
民法第904条の2〔寄与分〕
@共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の
療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加につき特別の寄与をした
者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人
の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から
第902条までの規定によつて算定した相続分に寄与分を加えた額をもつてその者の相続
分とする。
A前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同
項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額
その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
B寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除し
た額を超えることができない。
C第2項の請求は、第907条第2項の規定による請求があつた場合又は第920条に規
定する場合にすることができる。
判決
- 広島家庭裁判所呉支部平成22年10月5日審判
以上の認定事実,特に被相続人Gの遺産は,主に行商や呉服店の営業収益を原資とするものであったこと,相手方Fは,約30年間にわたり,上記の行商や呉服
商の手伝いをしてきたが,被相続人GやHから上記認定の生活維持費の負担や遊興費の交付は受けていたものの,上記就労に見合うほどの対価の支給は受けていなかっ
たこと,相手方Fが取得すベき障害者年金はHが保管し,あるいは費消し,それが被相続人Gの遺産形成の一助になったものと推認されること,目録5の建物は被相続
人Gが貯めていた手持ち資金で建築したものであり,この資金の形成には相手方Fの就労や年金が一部貢献したものと推認されること等の点のほか,相手方Fは,交通
事故による障害から,眼鏡を使用しても視力は0.05程度で,片足は義足であり,漢字の習得がほとんどできていないなど読み書きの能力が劣っていたのであり,こ
のような点から,その就労には自ずと制約があったものと推認されること等の点を総合勘案すると,相手方Fについては被相続人Gの遺産形成について寄与があったも
のと認め,その割合を相続財産(相続開始時の価額合計額3341万6767円)の20パーセント(668万3353円)とするのが相当である(1円未満切り捨て。
以下同じ。)。
- 大阪高等裁判所平成19年12月6日決定(出典:家庭裁判月報60巻9号89頁)
遺産分割及び寄与分を定める処分審判に対する抗告審において,被相続人の死亡まで自宅で介護をした申立人の負担は軽視できず,申立人が支出した費用は,遺産の形成維持に相応の貢献をしたものと評価できるが,遺産建物の補修費関係の支出は,被相続人と同居していた申立人自身も相応の利益を受けており,申立人の寄与を支出額に即して評価するのは建物の評価額からすると必ずしも適切ではないこと,農業における寄与についても専業として貢献した場合と同視できる寄与とまでは評価できないことなどから、寄与分を遺産総額の30パーセントと定めた原審判を変更し,遺産総額の15パーセントと定めた。
- 大阪家庭裁判所平成19年2月26日審判(出典:家庭裁判月報59巻8号47頁)
被相続人に対する介護を理由とする寄与分の申立てに対し、申立人の介護の専従性を認めた上で、申立人が被相続人から金銭を受領しているものの他の相続人らも同様に金銭を受領していた事実があるから、その介護の無償性は否定されず、寄与分を評価する上で評価すべき事情としてその他の事情と併せ考慮し、申立人の寄与分を遺産総額の3.2%強である750万円と定めた
2 被相続人が所有していた資産を運用し、株式や投資信託により遺産を増加させたことを理由とする寄与分の申立てに対し、株式、投資信託による資産運用は利益の可能性とともに常に損失のリスクを伴うことから、単に株価が偶然上昇した時期を捉えて被相続人の保有株式を売却した行為のみで特別の寄与と評価するには値しないとして、寄与分の申立てを却下した。
- 大阪家庭裁判所平成19年2月8日審判(出典:家庭裁判月報60巻9号110頁)
被相続人に対する身上監護を理由とする寄与分の申立てに対し、被相続人が認知症となり、常時の見守りが必要となった後の期間について,親族による介護であることを考慮し、1日あたり8000円程度と評価し、その3年分(1年を365日として)として,8000円×365日×3=876万円を寄与分として認めた。
2004.11.13
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