認知の訴えの出訴期間/弁護士の法律相談

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Last updated 2024.4.5mf
弁護士河原崎弘

相談

私は、母と妹と生活しています。母と父は結婚しておらず、父は別に家庭を持っているときいていましたが、詳しいことは知りませんでした。
私たちは認知されておらず、戸籍の父の欄は空欄になっていました。
最近、父が 7 年前に死亡したとの話が親戚から伝わってきました。
妹には、現在結婚の話があります。結婚する前に戸籍の父の欄に正しい父の名前を入れてあげたいのですが、できるでしょうか。

回答

弁護士の回答は以下の通りです。
正式に結婚していない父母の子ども(非嫡出子、婚外子)は、母の戸籍に入り、母の名前は記載されますが、父の名前は記載されません。父が、認知をして初めて父の欄に父の名前が記載されます。
父が生きている間は子はいつでも認知を請求できます。父が死亡後は、 3 年以内に認知の訴えを提起しなければなりません(民法 787 条)。

起算日は、父の死亡の日です。父の死亡の日を知った日ではありません。父が誰であるかを知らない場合、あるいは、父の死亡を知らない場合、この 3 年の期間が経過しまうことはあります。
裁判では、父の死亡後18 年以上経過した後に提起された認知の訴えを、 適法と認めたものがありますが(下記 1、京都地裁H18.10.31 )、多くの判例は、父の死亡の日から出訴期間を計算しています(下記 3)。
このような判例の状況です。あなたの場合、確定的な回答はできませんが、なかなか難しいと言えます。

法律

民法第787条
子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は、認知の訴えを提起することができる。ただし、父又は母の死亡の日から3年を経過したときは、この限りでない。

判例

  1. 京都地裁平成8年10月31日判決:
    父の死亡の日から18年以上経過した後に提起された認知の訴えが適法であると認めた
    原告は、父が「乙山太郎」という氏名であることを知っていたものの、平成7年4月から5月にかけて、弁護士を通じて大阪府南部等に居住する「乙山太郎」の戸籍調査をしていることからしても、ただ単に太郎の所在あるいは生死が明らかではなかったのではなく、自己の父である太郎を本籍等により特定することさえできなかったものである。したがって、原告としては、「乙山太郎」を特定できていない以上、従前、太郎が所在不明であるとして公示送達の方法により認知の訴えを提起したり、あるいは、失踪宣告を得た上で検察官を相手方として死後認知の訴えを提起することもできなかったことになる。
    確かに、原告が「乙山太郎」を特定できなかったのは、母花子が原告に対し太郎のことを明らかにしなかったためであり、太郎の死亡が昭和53年に客観的に明らかになっている以上、前記出訴期間が規定されている趣旨からして、その判断に当たっては、右のような個別の事情を考慮することは相当ではないとも考えられる。原告にとっては、前記一の認定のとおり、太郎を特定しその死亡を知ったのは平成8年3月頃であり、それ以前においては他に認知の訴えを提起する手段がなく、且つ、右提起できなかった事情を全て原告の責に帰すべきものであるとするのも原告にとって酷に過ぎると解される。
    本件においては、右事情に加えて、太郎の親戚である丙川春子、丙山夏子及び乙野梅夫も本件認知が認められることを望んでおり、且つ、太郎は、死亡時に生活保護を受けており特に財産を有していなかったこと、原告が本件認知の訴えを提起した理由は、自己の娘の婚姻等に際して、原告の父が戸籍上空欄になっていることにより不利益を受けることがないようにとの親心によるものであること等の事情を総合勘案するならば、本件認知の訴えの出訴期間は、原告が太郎を特定しその死亡を知った平成8年3月頃から起算すべきであると解するのが相当であり、このように解したとしても、本件に限っては、右事情に鑑みるならば、身分関係の法的安定性を害するとまではいえず、よって、本件認知の訴えは適法である。

  2. 最高裁第二小法廷昭和57年3月19日判決:
    民法七八七条ただし書所定の認知の訴えの出訴期間は、父の死亡が客観的に明らかになつた時から起算すべきであるとし、父の死亡の日から3年1か月を経過した後の認知の訴えを認めた。
    父の死亡の日から3年1か月を経過したのちに右死亡の事実が子の法定代理人らに判明したが、子又はその法定代理人において父の死亡の日から3年以内に認知の訴えを提起しなかつたことがやむをえないものであり、また、右認知の訴えを提起したとしてもその目的を達することができなかつたことに帰すると認められる判示の事実関係のもとにおいては、他に特段の事情がない限り、民法787条但書所定の認知の訴えの出訴期間は、父の死亡が客観的に明らかになつた時から起算すべきである

  3. 最高裁第三小法廷昭和57年11月16日判決:
    父の死亡の日から39年1か月後に提起された認知の訴えが、不適法 であるとされた。
    本件記録に鑑みれば、本件認知請求の訴えは民法787条但書所定の出訴期間を徒過したのちに提起されたものであるから不適法であるとした原審の判断は、正当として是認することができる。
    父の死亡の日から39年1か月後に提起された認知の訴えは、当該父の存在及びその死亡の事実を知つた日から3年を経過していないという事情があつても、不適法である
登録 April 5, 1999