暴力夫の面接交渉を拒否できますか

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2015.3.20mf更新
相談
夫の暴力がひどく、私は、子供(2歳)を連れて実家に帰りました。夫は、「子供に会いたい。面接交渉権がある。会わせないのは違法だ」と電話をかけてきます。私は、怖いので、いつも父に電話に出てもらっています。
夫は、弁護士を立てて、家庭裁判所に申立てをすると言っています。
私は、子供を夫に会わせなくてはいけないでしょうか。私は、夫の暴力のため、むち打ち症になりました。子供を夫に会わせるときに、また、殴られそうで、夫のことを考えるとノイローゼになります。
相談者は、電話で予約し、法テラスの契約弁護士の法律事務所で相談しました。相談者は収入がないので、無料でした。

回答
面接交渉(面会交流)は、子供の福祉にとって、利益がある場合に認められます。子供が親と会うことは、子供にとって、よいことでしょう。原則として、子供が母親の下で養育されている場合、父親が面会を求めれば、正当な理由のない限り、母親は子供を父親に会わせる必要があります。しかし、父親の暴力がある場合は別です。暴力を振るう父親に会うことは子供にとって、よい養育環境といえないからです。
家庭裁判所の審判例では、父親の暴力を理由に、父親の面会交渉権を否定したものが、結構あります。

下記2の例では、この実父母の離婚の原因は、実父の暴力でした。
3の例では、母が父の暴力等を理由に提起した離婚訴訟が係属しており、保護命令が発令されており、そのうえ、父親は自分の子供であることを争っているのです。父親の主張は、めちゃめちゃと言えます。

あなたの夫(子供の父親)が家庭裁判所に申立てしても、裁判所は父親の面接を認めない可能性が大きいです。
一般的に、配偶者が暴力を振るって、自分が怪我をした場合には、医師に診てもらい、後日の証拠を確保しておくとよいでしょう。医師に診て貰っていない場合には、痣の写真を撮ったり、そのときの様子をメモしたりして記録しておくとよいでしょう。
あなたは、離婚調停の申立てをするとよいでしょう。

審判例
  1. 横浜家庭裁判所 平成14年1月16日審判
    ところで,子の監護者とならなかった親と子とが面接交渉をすることは,一般,抽象的には,子の利益にそうものと考えられるところから,子の監護に関する処分の内容として認められているが,具体的に面接交渉を認めるか否かは,監護について必要な事項か否か,あるいは,子の利益のため必要があるか否かという観点から,決められるべきことがらであり,面接交渉を認めることが子の最上の利益にそうものであると認められない場合には,面接交渉を求めることはできないと解するのが相当である。
    そこで,これを本件についてみると,上記認定の事実によると,申立人(父親)は相手方(母親)に対し,繰り返し,暴力をふるい,骨折を伴うような重大な傷害を与えていること,そのため,相手方は,申立人に対し,強い恐怖感を抱いており,所在を知られることによって,再び暴行を受けるかもしれないという危惧感をいだいており,そのような感情を抱くことが不自然,不相当ということはできないこと,これに対し,申立人において,例え暴力をふるったことに理由があるとしても,その暴力について反省し,相手方の恐怖感を和らげるような行動が十分にとられているとは認めがたいこと(平成13年6月に到達した申立人の相手方代理人宛の書面によると,申立人は相手方が嘘をついているとして相手方に対し詫びを求めており,また,人の心を分からない人には天罰が降りてもおかしくないなどの記載がある),相手方及び未成年者は,現在は,暴力を受けることなく,安定した状態で生活をしていること,前記認定のような暴力が過去にあり,未成年者は積極的に申立人との接触を求めてはいないことなどが認められ,これに本件記録に現れた一切の事情を総合すると,申立人が未成年者に愛情を抱いている事実があるとしても,現時点において,申立人が求める面接交渉を認めることが子の最上の利益に合致するとは認められない。反対に,もし,これを認めると,未成年者が再び両親の抗争に巻き込まれ,子の福祉が害される危険がある。
    よって,本件申立は,相当でないから,これを却下する
    こととし,主文のとおり審判する。

  2. 東京家庭裁判所 平成14年5月21日審判
    当事者間の離婚の原因は,申立人(父)の暴力にあり,申立人がいわゆるDV加害者であったことは,申立人自身そのための治療を受けるなどしていることからも明らかである。そして,申立人は,相手方(母)に対する暴力を反省しており,治療も受けているので,面接交渉に支障はない旨主張している。しかし,現在でも申立人に加害者としての自覚は乏しく,相手方を対等な存在として認め,その立場や痛みを思いやる視点に欠け,また,事件本人について,情緒的なイメージを働かせた反応を示すこともない。
    他方,相手方は,平成12年1月にPTSDと診断され,安定剤等の投与を受けてきたほか,心理的にも手当が必要な状況にあり,さらに,母子3人の生活を立て直し,自立するために努力しているところであって,申立人と事件本人の面接交渉の円滑な実現に向けて,申立人と対等の立場で協力し合うことはできない状況にある。現時点で申立人と事件本人の面接交渉を実現させ,あるいは間接的にも申立人との接触の機会を強いることは,相手方に大きな心理的負担を与えることになり,その結果,母子3人の生活の安定を害し,事件本人の福祉を著しく害する虞が大きいと言わざるをえない。
    従って,現時点で申立人と事件本人との面接交渉を認めることは相当でない
    ので,本件を却下することとし,主文のとおり審判する。

  3. 東京家庭裁判所 平成14年10月31日審判
    一般に,父母が別居中の場合も,未成熟子が別居中の親と面接・交流の機会を持ち,親からの愛情を注がれることは,子の健全な成長,人格形成のために必要なことであり,面接交渉の実施が子の福祉を害する等の事情がない限り,面接交渉を行うことが望ましい。

    しかし,真に子の福祉に資するような面接交渉を実施するためには,父母の間の信頼・協力関係が必要である。しかるに,本件においては,相手方が申立人の暴力等を理由に提起した離婚訴訟が係属しているのみならず,保護命令が発令されており,申立人と相手方は極めて深刻な紛争・緊張状態にあり,従来からの経緯に照らせば,このような深刻な対立状態が早期に解消されることは期待しがたいとみるのが相当である。そうすると,未成年者はまだ2歳の幼児であるから,このような状況下で面接交渉を行えば,父母間の緊張関係の渦中に巻き込まれた未成年者に精神的な動揺を与えることは避けられず,未成年者の福祉を害するというべきである。
    また,申立人は,現実に,未成年者の通う保育園に出向いて面会を強行しているが,その態様は一方的で配慮を欠くものであったといわざるをえず,未成年者も面会後精神的に不安定になるという反応を示している。
    さらに,申立人は,本件と同時に未成年者に対し嫡出子否認調停事件を申し立てており,父親としての純粋な愛情に基づく面接交渉の実施を期待できるのか疑念を抱かざるをえない。
    以上の次第で,現時点におけると未成年者との面接交渉の実施は,未成年者の福祉を害する畏れが強く,未成年者との面接交渉を求める本件申立ては理由がないから,これを却下することとして,主文のとおり審判する。

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