危険な依頼者/意に反する和解
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Last updated 2015.5.15mf
裁判が和解で終わるケースは多いです(平成24年の統計では、地方裁判所に提起された第一審の訴え168,230件中、57,368(34%)が和解で終っています)。裁判官も、判決を書く手間が省け、判決が上訴され上級審で判決が審査されるのを心配し、民事紛争では和解が最良の解決との考えの下に、和解を勧めます。
弁護士の立場からは、敗訴が予想される場合や、強制執行が難しい場合で、和解は良い解決方法です。
弁護士は、依頼者の完全な了解の下で和解をする目的で、依頼者に対し「和解に立ち会うよう」に求めるのが普通です。
依頼者が和解に立ち会ったにもかかわらず、後になって、依頼者が、和解につき、「意思に反する和解をさせられた」と、苦情を言う例があります。子供じみた行為ですが、よくあります。弁護士会に対する苦情としてこの種の申立が、ときどき、あります。
この種の依頼者は、自分の言い分が通らなかったことに不満があるので、判決にも不満です。しかし、和解をした場合、和解が客観的にはその人にとって有利であっても、後で弁護士に対し不満を出します。自分の主張が無理なことを自覚せず、弁護士が悪いと考えるのです。報酬の支払いを拒否する理由として、意識的に弁護士の責任を云々する人もいます。
対策としては
- 和解期日前に依頼者に、和解条項案に確認の意味で署名をしてもらうことです。
- しかし、和解期日当日に和解の詳細が突然決まった場合は、この方法は、無理です。そこで、弁護士としては、依頼者に対し、「じっくり検討して和解は次回にしましょう」とアドバイスをしてみることもよい方法です。この方法は、相手の弁護士も裁判官も嫌がりますが、仕方がありません。そして次回の和解期日前に和解条項案を作り、事前に依頼者に、署名をしてもらうことです。
それでも、即日和解せざるを得ないこともあるでしょうが、このアドバイスで若干でもトラブルの発生は減るでしょう。
- この種の依頼者は事前に予測できますから、事件処理の経過を詳しく記録しておくこと、依頼者との連絡の記録を保存しておくこと、重要な連絡は、面倒でも、書留郵便を使う必要があります。
弁護士から、連絡をしたのに、後で、「聞いていない」と、平然と言う、依頼者も時々います。普通郵便なら「届いていない」と言い、メールなら、「パソコンが壊れていた」と言います。
、このような依頼者には、通常の連絡方法として書留郵便を使うとよいでしょう。要するに相手に隙を与えてはならない、油断してはならないということです。
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事件処理の依頼は委任契約ですから、弁護士は、いつでも辞任できます(民法651条1項)。問題がある依頼者の場合は、早い段階で辞任することによって、トラブルを回避できます。
弁護士が和解の前に依頼者に対し、「あなたは発言しなくてもいい」とか、「発言するな」ということがあります。依頼者が、感情的な発言をしたり、理論的でない発言をして、話し合いが混乱し、和解ができなくなることをおそれたからです。
しかし、問題のある依頼者に対しては、この種の発言は慎重にすべきでしょう。トラブルになるからです。依頼者が感情的発言をしたために、和解ができなくても、それはやむをえないことです。ただし、感情的な発言で和解が壊れる危険があることの説明はしておくべきでしょう。
また、問題のある依頼者に対しては、和解するよう説得するのはトラブルのもとです。和解した場合と、判決になった場合のメリット、デメリットの説明だけにとどめ、判断は依頼者に任せるべきでしょう。
経験のある弁護士なら、後で苦情を出す危険な依頼者か否か、弁護士報酬の支払いを拒否する依頼者か否かは、段々、わかってきます。
問題のある依頼者の場合、事件を和解で解決すると後でトラブルが発生します。そこで、弁護士はできる限り和解を避けます。事件を判決で終わらせようとの気持ちになります。これが客観的に依頼者の利益になるかは、問題です。しかし、判決なら、「意に反する判決」でも(弁護士が決めたことでも勧めたことでもなく、裁判所が決めたことなので)弁護士の責任を問うことはでき難いからです。
Jan. 27, 2002
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