この間の自然環境保全審議会野生生物部会・野生鳥獣保護管理方策小委員会の討議をふまえた上で作成された11月9日の骨子案の概要には、いまだに解決されないさまざまな問題が残されています。この解決なしに捕獲許可権限を地方へ委譲することは、野生鳥獣の保護に重大な危機をおよぼし、生物多様性の条約にそむくものであると私たちは考えています。この点について、よりよい解決の方策をお願いいたしたく、問題提起およびに公開質問をいたします。
環境庁回答(99/1/29) |
全体について |
地方分権推進計画に基づき、鳥獣保護及び狩猟制度がどのように変更されるかについては、現在、政府部内において検討中であり、具体案はできあがっていない状況です。
しかし、地方分権推進計画をご覧頂ければお分かり頂けるように、当該計画は、質問書でご指摘されているような鳥獣の保護繁殖上の問題を生じる内容のものではないと承知しています。 |
1)基本的な状況
野生鳥獣は、幾つかの行政区画にまたがる分布をするものが多い。渡り鳥のように、広範囲に移動するものもある。各地域個体群をつなぐ通路(コリドー)も複数の行政区画にまたがって存在する。
このような基本的な鳥獣の生態の認識にたてば、本来、野生鳥獣保護は日本全体を把握し、各地域個体群が日本全体の中でどのような空間的位置を占めているか、それぞれの個体群がどのくらいの危機的な状況にあるかを把握した上で、総合的な保全対策がとられなくてはならない。また、このような保全策を実行するためには、環境庁のみならず、農水省、建設省など、複数の省庁間の協力が必要である。こうした整備のないままに、各地方自治体がばらばらに独自の鳥獣行政を行った場合、野生鳥獣の主要な分布域の消失、各個体群のさらなる孤立化を招く恐れがある。
<問題点>
現在進められている法律改正案では、有害とされる鳥獣の捕獲権限が地方自治体におろし、鳥獣保護の為の方針も各都道府県が独自に作成することになる。そのために、広域的な「保護計画」を作成するための連絡関係を密に取り合って、総合的な保全策を打ち立てる必要がある。
今回の改正内容では、都道府県知事が条例によって野生鳥獣の捕獲許可権限を市町村に簡単に引き下ろすことができ、しかもその歯止めとなるような方策が抜け落ちている。
質問1)省庁間で、野生鳥獣の保全、あるいは鳥獣保護法の実現のために、これまでどのような調整がはかられてきたのでしょうか、また、今後、改善のためにどのような協議が行われる予定でしょうか。その際の情報の公開はどうなるのでしょうか?
質問1について |
鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律の目的を達成する上で、関係省庁と連絡調整や連携を図りつつ施策を実施することは重要なことであると思います。 これまでも、会議の開催等による連絡調整、共同研究等の連携事業を実施してきたところですが、今後とも連絡調整を密にするとともに、連携事業の実施に努めて行きたいと考えています。 |
質問2について |
実施された施策は検証し、必要に応じて改善することが重要であると思います。
これまでも、シンポジウムや学識経験者やNG0代表者等からなる検討会等を開催して、講ずべき施策について検証や検討を行ってきたところですが、今後ともその拡充に努めて行きたいと考えています。 また、野生鳥獣の保護管理方策について自然環境保全審議会のご意見を聞いたように、今後とも重要な施策については、審議会のご意見を聞きながら検討して行きたいと考えています。 |
質問3について |
施策の検討に当たり、必要に応じて学識経験者等のご意見を聞くことは重要なことであると思います。
先に審議会から出された野生鳥獣保護管理方策答申を踏まえ、特定の鳥獣を保護管理するための計画の策定に当たっては、公聴会や審議会等を活用することにより、科学的知見や合意形成に基づいた保護管理が適切に行われるような仕組みを検討して行きたいと考えています。 なお、行政監察は、総務庁行政監察局において行政全般を対象として定期的に実施していると聞いています。 |
最も問題の部分は、有害とされる鳥獣の捕獲権限(鳥獣保護法12条関連)や捕獲許可の許可基準を決める権限が地方自治体におろされる(環境庁が一部の鳥獣の許可権限を国に残す可能性もあるが)ことである。
<問題点>
各都道府県で有害駆除等による鳥獣の乱獲がなされ、危機的な状況になった場合も、国の指導による歯止めはほとんど期待できない。環境庁は、緊急な場合においては「指示」できるとしているが、指示が手遅れになる前に行われるかどうかの保証はない。すでに、市町村レベルまで捕獲許可、有害駆除許可を先行している都道府県もあり(アンケート参照)、国際的には保護の対象とされるニホンザルなどの駆除数が年間1万頭に達したに関わらず、環境庁による何らかの指示は行われなかった。
質問4)国際的な条約によって保護されている鳥獣の捕獲許可権限の地方委譲は問題が大きいと考えられます。有害駆除の許可権限を委譲する種からはずすなどの積極的な措置が必要ではないのでしょうか?(ex.カモ類・ツキノワグマ・ニホンザル等)
質問4について |
野生鳥獣の保護繁殖については、今後とも、環境基本計画や鳥獣保護事業計画の基準等によりその基本的方向性を示すとともに、必要に応じて助言や指導等を行うことにより、全国的見地から国としての所定の責任を果たすことができるよう努めて行きたいと考えています。
また、野生鳥獣の捕獲許可についてですが、今後とも、全国的に重要な野生鳥獣の生息地として指定されているところに生息する種の捕獲、希少な種の捕獲、鳥獣の保護繁殖に重大な支障を及ぼすおそれのある方法による捕獲については、国の判断にしたいと考えています。 |
質問5について |
これまでも、ガイドライン等の提示などの技術的助言、調査費の補助等の予算支援を行ってきたところですが、今後とも、都道府県等における施策の実施状況を踏まえ、鳥獣保護事業を実施するために必要な指導や援助に努めて行きたいと考えています。 |
質問6について |
平成11年度から、人と野生鳥獣との共存を図るための諸施策に係る業務を担当する係長が増員されるように要望しているところですが、今後とも、行政需要の増大等に応じて、環境庁内部の組織体制のより一層の充実に努めて行きたいと考えています。
なお、現在、業務室(全6名(うち技術職4名))には、生物学・生態学・林学等を学んだ博士1人、修士1人、学士1人が配置されています。 |
質問7について |
法律の専門家から、「「指示」は、従わなければならない当然のものなので、法制上、従われないということは予定されていないものである」と聞いています。 |
これまで環境庁が行ってきた鳥獣保護のための計画の策定、実施を都道府県が行うには、複数の野生鳥獣の専門家を交えた行政の受け皿が必要である。
アンケート結果でも明らかなように、複数の専門家を抱えた野生動物センターを設置している都道府県は極めて少数である。そのため、鳥獣の現状調査、保護管理プランを立てられる人材がいない。
質問8)都道府県の野生鳥獣保護担当部署の配置はそれぞれ異なり、担当者は専門職ではなく、かつ2年程度で配置換えされてしまいます。専門的な立場での事業計画の策定は難しいのではないでしょうか。このような現実にたいして、今後、どのように専門家を育成・配置する予定がおありでしょうか? 科学的な保護管理についても、野生生物の調査等に関する技術研修を実施し、専門家を育成・配置されるまで、それらが実現するまで、捕獲許可に一定の制約を設ける必要があるのではないでしょうか?
<専門家:野生動物生態学等を修めた博士、修士レベルの方々のこと。>
質問8について |
科学的・計画的な保護管理を適切に推進する上で、それを支える実施体制の整備は重要なことであると思います。このため、担当する行政機関の組織体制の充実、保護管理(計画策定及び実行)技術者の育成等が適切に図られるよう努めて行きたいと考えています。 |
以上の問題点にたいして、どのような解決を考えておいでかお答え願いたい。