折角のネズミ年だったのに、モスクワにきたとたん山之内は「眠れる獅子」ならぬ「眠りこけたネズミ」になってしまったのでしょうか!
一度、何もしないで、ザンブリとロシアの水に漬ってみようとは思ったものの、そして同じことなら、なるべく一般のロシアの人々と同じ目線でモスクワ生活を体験してみようと、給料の安いロシア国営のラジオ局でにわか国家公務員を始めたものの…効果があり過ぎて、最初の2ヶ月で4kgヤセるという耐乏生活になって目を白黒させました。(物価は日本並み、月給は日本の1/10以下なのだもの)
そして目と耳だけは外に出して感じとるロシア社会は、まことにわけのわからない 「ワンダーランド」でございます。
ではかけ足で1996年後半のロシアをプレイバック!
(今年は例年にない暖冬といわれたモスクワも
今日はすっかり雪景色、12月15日記)
6月16日の一次投票にも、7月3日の決選投票にも、市内の投票所をのぞいて歩きました。赤ちゃんを抱いた若夫婦、杖をついたおばあさん、ウォークマン片手の学生風カップル、…うららかな休日に三々五々下駄履き感覚で投票所を訪れる、のどかな選挙当日風景は、日本と変わらないものでした。でも、そののどかさ自体が、ソ連時代との画期的な違いを意味していました。
どの投票所にもピンクや赤い布が掛かった記入のための仕切りが3つか4つ並んでいて、人々はその中で書いて、出てきて、投票箱へ用紙を入れるのですが、ソ連時代にも同じような仕切りはあったものの、カーテンの中へ入るなど、とんでもないことだったそうです。
当時は、実質的には共産党推薦の候補が一人だけの無風選挙。カーテンの中へ入ること自体が反政府行動を意味し、また、投票に行かなくてもあとで懲罰の対象となるので、いつも限りなく100%に近い、投票率でした。ですから、ラジオ放送していて困ったのは、有権者と投票者を区別するロシア語の単語がないことでした。「投票率」という概念が、今までなかったのです。
ブルー系でまとめたエストニア、すっきりしたベージュのラトビア、草色のリトアニアなバルト三国の洗練されたセンスはさすがでした、CIS諸国も見ていてなかなか楽しかった。生成り(きなり)ズボン、スカート、上着に、草色のスカーフとネクタイをあしらったウクライナもカッコ良かった。
でも私は、白地に、五輪の5色のカケラを軽やかに遊ばせていたロシアチームのユニフォームに大喝采しました。ソ連も、いえロシアも本当に変わった。この軽快なセンスで進んで行ってほしい!(それにひきかえ、「ロシアの声」の旧態然とした大時代的なテーマ音楽には、うんざりします。各職場の上司は、前時代的なカタブツが残っているのでしょう。または単にセンスがついていかないだけなのか…)。日本チームのユニフォームはちょっと重かったネ。残念。ロシアのテレビ局4社がそれぞれ独自の取材班をアトランタに送り込んで中継を競い合っていたのもソ連時代には考えられないことでした。
でも日本のように国を挙げてオリンピックに沸き返り勝敗に一喜一憂するというエキセントリックな光景はこちらにはありません。テレビで、ファンとして、スポーツ観戦を楽しむものの、待ちはいつも通り静かなものでした。
「第6チャンネル」テレビが、毎日深夜に、その日の犯罪・事故を伝える「街角パトロール」という10分番組を放映しているのですが、それによると、モスクワ市内の殺人は毎日4〜5件、交通事故約20件。こちらのテレビは、現場や死体をそのまま克明に写すので、夜寝る前に見る番組としては、たびたびは正視できず、たまにチャンネルを合わせるだけにしています。
身近でも、ラジオ局の日本人男性同僚が夜道で二人組の強盗に襲われたり、ロシアではありませんが東欧旅行中に持ち物を盗られ半死半生の目に遭いました。政治家が殺されない国になって喜んだのもつかのま、現在のロシアでは、金銭をめぐって、いとも簡単に人が殺されます。健全な素人企業家が育ちえない悲しい現状です。
その一方で、年金は6千円か8千円。学校教師や医者など国家公務員の月給は、6千円から1万円。(国営ラジオ局の外国人職員である私の基本給は、8千円、それに翻訳料などいろいろ手当がついて、計、2万円弱)。しかも国家公務員の給与未払いはすごい勢いで広がっていて、春以来、月給を受け取っていない人が全国で6500万人もいます。みんな、どうやって食べているのダ?
<食品・嗜好品> | <通信・交通・生活雑貨> | ||
黒パン一斤 | 3000р(60円) | 公衆電話 | 1500р(30円) |
ジャガイモ1kg | 3000р(60円) | 地下鉄・バスetc | 1500р(30円) |
玉ねぎ1kg | 5000р(100円) | 地下鉄1ヶ月定期券 | 90000р(1800円) |
にんじん1kg | 3000р(60円) | 全市内交通1ヶ月定期 | 180000р(3600円) |
トマト1kg | 10000р(200円) | ヤカン(2l) | 61000р(1250円) |
キャベツ中1コ(2kg) | 10000р(200円) | 片手鍋 | 30000р(600円) |
リンゴ1kg | 10000р(200円) | トイレットペーパー一巻ロシア製 | 1400р(28円) |
バナナ1kg | 5000р(100円) | トイレットペーパー一巻外国製 | 3800р(76円) |
ハム1kg | 34000р(680円) | シャンプー | 20000р(400円) |
チーズ1kg | 27000р(540円) | ヘアームース | 16000р(320円) |
レモン1コ | 3000р(60円) | 洗剤(750g) | 11000р(220円) |
卵10コ | 6000р(120円) | 折りたたみ傘 | 60000р(1200円) |
スパゲティ(500g) | 5000р(100円) | 電球(100W) | 1700р(34円) |
カップヌードル | 5000р(100円) | 単3電池(2本) | 9000р(180円) |
コーン缶詰 | 6000р(120円) | フジフィルム(36枚) | 26800р(536円) |
マーガリン(500g) | 8000р(160円) | TDKビデオテープ(200分) | 21000р(420円) |
缶コーラ | 5000р(100円) | FAX用紙(A3 30m) | 18000р(360円) |
ジュース1l | 6500р(130円) | 新聞(イズベスチヤ) | 800р(40円) |
牛乳1l | 5000р(100円) | 週刊テレビガイド | 4000р(80円) |
紅茶ティーバッグ(25袋) | 7500р(150円) | バラの花1本 | 15000р(300円) |
インスタントコーヒー(100g) | 7500р(150円) | ストッキング | 76000р(1520円) |
ボリショイ劇場は別格で75000ルーブル(1500円)ですが、余程のツテがないと正規の値段では手に入らず、ダフ屋からだと50ドルが相場。クラシックのコンサートは10000〜50000ルーブル(200〜1000円)で素晴らしい演奏が堪能できます。
今は時代も変わり、基本的には自由な放送局になりました。でも時には「ン?」と思うような記事を訳して読まねばならぬ時もあり、読みたくない!と思ったりします。
たとえば、大統領選挙の直前には、「ロシア軍がチェチェン軍をせん滅した」という「そんなバカな!」と思うような記事がまぎれこんできましたし、ロシア政府の方針の変化に応じて、放送上のチェチェン側勢力の呼び方が「ならず者集団→分離主義者たち→野党勢力」と変化してきています。日本の新聞が用いているような「独立派」という呼び名に変わるには、まだ1〜2年はかかるでしょう。国営ラジオ局の限界です。でも私にとっては、こうしたズレや変化そのものが、ロシア社会の現実を物語る証左として興味深いものがあります。
その代わり、後半の30分間は独自取材も含めて、楽しみながら作っていますので、たまにはダイヤルを合わせてみてください!
周波数は、中波:720, 630 短波:7380, 7151
(入力者註:ここに番組表がありますが、省略。22:00 - 23:00の日本語放送の内、前半30分が問題のニュース/ニュース解説、後半30分が月曜日から日曜日まで日替わりで、月〜金が「科学と技術」、「文化の世界(**)」、「スポーツ(**)」、「ヤングウェーブ(*)」、「リクエスト音楽(*)」、土日が「お便りスパシーバ(*)」。(**)はレギュラー出演、(*)はイレギュラー出演。)
毎月最終月曜日は「科学と技術」の代わりに交流番組「ドゥルージバ(友情)」
毎月最終金曜日は「リクエスト音楽」の代わりに「モスクワ・エクスプレス」