蝸牛月刊 第9号 1996年6月15日発行
Interpresscon '96開催!!
本年度各賞決定
今年も恒例のInterpressconが滞りなく開催された。例年ならばロシアを代表する三つのSF賞,カタツムリ賞,Interpresscon賞,遍歴者賞が発表されるはずなのだが,今年は遍歴者賞の発表が秋になった。
なぜ,このような措置が取られたのか,詳細は不明だが,わかり次第お伝えする予定。
今年のカタツムリ賞,Interpresscon賞は以下の通り。
カタツムリ賞
- 長編 エドゥアルド・ゲボルキャン 「ごろつきどもの時間」
- 中編 エウゲニー・ルーキン 「冥府の河(Aheron)の向こう側」
- 短編 パウル・クズメンコ 「ベイルートサラダ」
- 評論 セルゲイ・ペレスレギン 「台風の目」
インタープレスコン賞
- 長編 S.ビチツキイ 「天命を求めて…」
- 中編 エウゲニー・ルーキン 「冥府の河(Aheron)の向こう側」
- 短編 セルゲイ・ルキャネンコ 「役人(Servant)」
- 評論 セルゲイ・ペレスレギン 「台風の目」
解説
昨年から引き続き,ターボリアリズム系とSFとの綱引きが起こっているが,今年はターボ勢が昨年以上に押されてしまっている。ターボ色が最も強く出る遍歴者賞が無かったせいだけではあるまい。なぜなら,ターボそのものを作ったボリスが選ぶカタツムリ賞ですら,SF優勢の感が強いからだ。(資料として歴代SF賞リストを掲載)
レム選集(ロシア語訳版)完結
モスクワのテクスト社から刊行中のレム選集(ロシア語訳版)がこのほど完結した.同社のストルガツキイ選集が当初予定の10巻から別巻2冊を含む12巻になったのと同様に,これまた2冊が増えて全12冊となった.
第11巻には,レムが出版を禁じている?はずの『マゼラン雲』が収録されており,その意味ではちょっと貴重かもしれない.なお,この作品自体は,旧ソ連時代に大手出版社の共同出版で出されていたБиблиотека
Фантастикиのレムの巻にも収録されていたので,初訳ではないのだが,巻末の注によれば今回の版は初の完訳とのことである.第12巻には,日本語未訳の宇宙もの『フィアスコ』及び非SF作品『変形された病院』(ポーランドで映画化されたものが日本でも自主上映された)を収録.これらは英訳もある.
(大山博)
書評
流れ星(チャペック小説選集4)
カレル・チャペック著 飯島周訳
成文社
全6巻の予定で刊行中のチャペック選集もこれで3冊目になりました.SFとはちがった系列の作品ですが,南国の地を舞台に,主人公の「詩人」と飛行機事故で重傷を負った謎の男「X」をめぐる物語.『哲学3部作』の一つとされていますが,まずは気楽に読んでみるのが良いでしょう.(大山博)
ロシア民俗夜話
栗原成郎著,丸善ライブラリー
ゴーゴリ「ヴィー」の元になった死神を連れて遍歴する女神ピャートニッツァ,悪を働くカシヤーン,熊の顔を持つヴォロス,麦畑にザロームと呼ばれる呪いをかける魔女たち,龍を退治する勇者ゲオルギ.
古代ロシアの神たちがキリスト教の信仰の中にとりこまれ,聖者信仰と結びつき,聖者が古い神の役割を負うようになった.そしてイコンとして残り,崇拝される.ゴーゴリを驚嘆させたロシアの民衆の驚くべき想像力を垣間見る.
映画情報
アレクサンドル・ソクーロフ『精神の声』上映予定
アレクサンドル・ソクーロフ監督の長編ドキュメンタリー作品『精神の声』(配給:パンドラ)の渋谷ユーロスペース2における上映スケジュール等は下記のとおり.
- 7/20 10:30, 17:00 全5話一挙上映
- 8/03-8/08 21:00- レイトショー
- 8/03 第1,2話
- 8/04 第3話
- 8/05 第4話
- 8/06 第5話
- 8/07-08 『オリエンタル・エレジー ロシアン・ヴァージョン』英語字幕付き特別上映のため,『精神の声』の上映はなし.
- 8/10-9/06 11:00- モーニングショー
- 8/10-16 第1,2話
- 8/17-23 第3話
- 8/24-30 第4話
- 8/31-9/06 第5話
また,ユーロスペース1では次の作品を上映予定.
- 8/10-12 21:00- 『日陽はしづかに醗酵し……』
- 8/13-16 21:00- 『孤独な声』,『エレジー』
- 8/17-23 21:00- 『ヒトラーのためのソナタ』,『ペテルブルク・エレジー』『ロシアン・エレジー』
(大山博)
参考資料
近年のロシアSF各賞受賞作リスト
1990年以降の代表的な賞のみを掲載した。
遍歴者賞
選考委員会によって選ばれる.
1994年
- 長編 アンドレイ・ラザルチューク「もう一つの天国」
- 中編 アンドレイ・ストリャーロフ「コリント人への手紙」
- 短編 アントレイ・ストリャーロフ「小さな灰色のロバ」
- 翻訳者 アレクサンドル・シュチェルバコフ「月は夜の無慈悲な女王」(ハインライン)
- ノンフィクション R.S.カーツ「ソビエトSF史」
- アート セルゲイ・シェクホフ「時は乱れて」(ディック)のイラスト
- 編集者 エフィン・シュル「MEGA」
- 出版社 テラ・ファンタスティカ
1995年
- 特別賞 ビタリイ・ブグロフ
- 長編 ミハイル・ウスペンスキイ「我々のいない場所」
- 中編 ミハイル・ウスペンスキイ「親愛なる仲間たる王」
- 短編 ボリス・シテルン「堕落のカシシェイは悪鬼の詩人」
- 翻訳者 セルゲイ・クフレノフ「The Manuel Saga」(James Branch
Cabell)
- ノンフィクション ビクトル・ペレービン「ゾンビ化」
- アート ヤナ・アシマリナ ハインライン全集
- 編集者 ロマン・ソルントセフ「昼と夜」
- 出版社 ミール
カタツムリ賞
ボリス・ストルガツキーによって与えられる
1992年
- 長編 ミハイル・ウスペンスキー「アイアン・ライダー」
- 短編 ミハイル・ウェレル「パリに行きたい」
- ノンフィクション セルゲイ・ペレスレジン「…幻影と道」
1993年
- 長編 アンドレイ・ストリャーロフ「月下の修道士」
- 中編 ビクトル・ペレービン「オモン・ラー」
- 短編 キール・ブリーチョフ「恐怖について」
- ノンフィクション ロマン・アルビトマン「ほんの二回の人生」
1994年
- 長編 ビャチェスラフ・ルィーバコフ「重力航行船"皇位継承者号"」
- 中編 該当無し
- 短編 アンドレイ・ラザルチューク「木乃伊」
- ノンフィクション R.S.カーツ「ソビエトSF史」
1995年
- 長編 アンドレイ・ラザルチューク「バビロンの兵士」
- 中編 アレクサンドル・シチェゴレフ「永遠の夜」
- 短編 ボリス・シテルン「堕落のカシシェイは悪鬼の詩人」
- ノンフィクション ヴャチェスラフ・ルィバコフ「感覚の探求における旋回」
インタープレスコン賞
参加者の投票
1993年
- 長編 ワシーリ・ズヴャギンツェフ「オデッセイはイタカを置き去りにする」
- 中編 ビクトル・ペレービン「オモン・ラー」
- 短編 ビクトル・ペレービン「ゴスプランの王子様」
- ノンフィクション ロマン・アルビトマン「ほんの二回の人生」
1994年
- 長編 ビャチェスラフ・ルィーバコフ「重力航行船"皇位継承者号"」
- 中編 S.ヤロスラツェフ「人類にひそむ悪魔」
- 短編 アンドレイ・ラザルチューク「木乃伊」
- ノンフィクション R.S.カーツ「ソビエトSF史」
1995年
- 長編 スビャトスラフ・ロギノフ「ダライの多手神」
- 中編 セルゲイ・カズメンコ「竜の印」
- 短編 セルゲイ・ルキャネンコ「制服を着た河豚」
- ノンフィクション ヴァヂム・カザコフ「蛙の巣の上を飛ぶ」
グレート・リング賞
ファンによる郵便投票.
1991年
- 長編 ビクトル・ペレビン「ゴスプランの王子様」
- 短編 ルーボフ&エブゲニイ・ルーキン「神はいない.しかし神様.兵士達の話」
- 翻訳長編 J.R.R.トールキン「指輪物語」
- 翻訳短編 アーシュラ・ル・グイン「Rule of a Names」
1992年
- 長編 ルーボフ&エブゲニイ・ルーキン「デッドリースティール」
- 短編 アンドレイ・ラザルチューク「リーンの神聖月」
- 翻訳長編 アーシュラ・ル・グイン「ゲド戦記」
- 翻訳短編 ジョージR.R.マーティン「サンドキングス」
1993年
- 長編 ビャチェスラフ・ルィバコフ「重力航行船"皇位継承者号"」
- 短編 ビクトル・ペレヴィン「イワン・クブラクハノフ」
- 翻訳長編 アーシュラ・ル・グイン「テハヌ」
- 翻訳短編 ヘンリー・カットナー「This World Is Mine!」
アエリータ賞
選考委員会のよって決定
- 1991年 ウラジミル・ミハイロフ「キャプテン・ウルデミール」二部作
- 1992年 ワシーリ・ズヴャギンツェフ「オデッセイはイタカを置き去りにする」
- 1993年 ゲンナヂイ・プレシケビッチ「スパイ」シリーズ
- 1994年 無し