春の神奈川・渋沢丘陵から曽我丘陵を結ぶ里山ラン

 (2011/4/2、神奈川県中郡、秦野市)


フランスに住んでいたときに現地で知り合った自転車仲間のIさん。彼とは自分もフランスでは月一回のペースでサイクリングをご一緒させていただいていました。そんな彼は自分より一足早く日本に帰任していましたが先日久々に再会し、春の里山へ、神奈川県中西部の渋沢丘陵から曽我丘陵へのサイクリングを楽しんできました。

JR東海道線二宮駅まで車で行き、駅前で車をデポ。そこから自転車を組み立てます。渋沢丘陵は震生湖をめざしてゆっくりと北上。二宮周辺の住宅地をぬけると交通量は多いものののどかな地方道になります。桜の木もちらほらとしています。風景に惹かれ側道に乗り込むと酪農農家の庭先でした。牛舎の中に牛がいます。中井町の岩倉という集落から東名をくぐり、レインボーゴルフ場に出て震生湖に出ようと考えますが、色々道に迷い、かつアップダウンもそれなりでいささか疲れ気味です。東名を越えるともう渋沢丘陵の一角でしょうか、スタート地点の二宮町からは多少は標高を稼いだように思えます。短い登り下りから看板に導かれなんとか無事震生湖まで走ります。湖は思っていたよりも大きい。関東大震災で沢がせき止められて出来たという湖ですが、カルデラ湖ならわかりやすいですが、そうでないただの丘陵地帯の丘の上にこの大きさの湖があるのがやはりぴんときません。

震生湖の上の車道はちょうど丹沢表尾根と対面する形での丘陵地となっている、その稜線に位置しています。少し走った駐車場からの秦野と丹沢の眺めは秀逸でした。丹沢表尾根をこうして真横から遮られることなく、克明に稜線の上まで見られるポイントは多くないでしょう。二ノ塔に始まり三ノ塔、烏尾山、新大日、そして塔ノ岳、と、もう20年近く前に自分の初めての山歩きのコースとして歩いた尾根が、またおいでよ、と誘っているかのようです。そんな表尾根から視線を落とすと左右に長く秦野の町が伸びています。昔地理の授業で「秦野盆地」と学びましたが、こうして丘陵の高台から望むと、本当にそれを実感します。

いったん秦野の市街地まで駆け下りてコンビニで昼食。フランスの田舎のサイクリングではそうそう店舗にも行き当たらず、あっても土曜のお昼時などは店もお昼休みでしまっており下手すると食いっぱぐれる事もありますが、片や日本はこういう店が随所にあって本当に便利です。サイクリングは山歩き同様全身運動、やたらとお腹がすきます。コンビニ弁当もあっという間に平らげました。

今度は大井町へ向けての丘陵登り。渋沢集落から峠を越えるルートです。ギアをローローにしても朦朧として登っていきます。700Cの自分ですら辛いのに、小径折りたたみ車のIさんはもっと辛いはずです。ですがさすがに自転車通勤と休日の長距離ライドで鍛えているIさんの体力と脚は別格です。ペースを落とすことなく高みを目指していかれます。途中頭高山へのハイキングコース入り口看板を目にします。この山もまだ登ったことがないのでいずれ行ってみようと思います。最後の家を抜けるとトンネル。あーやった、超えた。峠を越えました。小さかったけど、峠です。

トンネルを抜けると、地図によるとそこは「峠」という名の集落です。集落でしばらく進むとると、菜の花畑があり、その先は尾根と谷が入り組んだ複雑な地形の中に集落が点在し、谷に向けて集落が遠望されます。すばらしい日本の里山風景が眼前です。菜の花の黄、山桜のピンク、なんという彩りに満ちた里でしょう。この先谷に向けて降りていく、どんな風で自分たちを迎えてくれるのか。春らしい、角の取れた、甘い、風でしょうか。

(峠のトンネルを越えると春の
色に包まれた)
(山がピンクに彩られ、柔らかな風を切って谷へ降りていく。
里山ランの楽しさが横溢する。)
(遠くに相模灘を望む果樹園の
集落に走り出た。)

緩い下りを降りていきます。フリーホイルーのラチェット音が耳に心地よい。春の風に混じり流れ来るラチェットの唄に、サイクリストは酔いしれるのです。下りきった篠窪という集落からは再び里山を経て東名を超えて曽我丘陵へ抜ける予定ですが地形が複雑です。集落の中で2万5千分の1図を広げます。が、なかなか道がわからない。正しい道(地形図では細実線で書かれている1.5m幅道路)はどこだろう。狭い路幅の急な道を押して上がります。簡易舗装のごつごつ感が足の裏に伝わります。

パズルを解くように地図を見て、ようやくあたりをつけました。裏山へ登るかのようなさもない細い道です。ギアを落とし一気に上ると眼科には再びかわいい里山風情。丘を複雑に越えていく農道からは早咲きの桜も散見されます。

自転車に乗っていては制動が効かなくなりそうな、前のめり転倒しそうな急な下り坂が出現、ここは自転車を降りて歩きながらおります。下りきると東名を高架で越えます。この先道なりに曽我丘陵へ登っていくことになります。今度は右手に箱根の山を見ながら尾根の農道をたどります。ここまで続いたアップダウンでもう足は言うことをききません。Iさんは小さなタイヤをクルクルまわしながら一定のピークで登っていかれます。なんだか申し訳ない。

曽我丘陵の稜線上を北から南下します。緩い登りが続きます。軽自動車一台分の幅の道、ジグザグ走行も出来ずに辛いです。なんとか登りきって曽我丘陵のピーク・浅間山317mへ到着しました。ここは無線中継塔の立つ、つまらない山頂です。とはいえ立派に2.5万分の1図にその名を記するピークなのでアマチュア無線の山岳移動ランキング・「山ラン」のポイントになりますが、今回は無線機はなし。しまった、430のハンディ機でもツーリングバックにしのばせておくべきだった、と後悔。まぁ、アマチュア無線に興味のない方と一緒のときに、山頂で「CQCQ」もないでしょう。(でも改めてこんなピークに山ランポイントの為に再訪するのも、なんだかぴんと来ませんが)

ここからは農道を経て一気に二宮町へ戻ります。果樹園の丘陵地、みかん畑の黄色の奥にしぶく輝く相模湾を見て、日本の良さを感じざるを得ません。登った分だけ下がる。心地よい風を受けながら二宮駅に戻りました。

走行距離40km、登り標高累計で約600m。値はたいしたものではないのでしょうが、なかなか疲れました。

今回は転勤先のヨーロッパでサイクリングを始めた自分にとっては初の日本でのサイクリングです。自転車が社会の仕組みに組み込まれておらず、自転車に対するドライバーの認識も、一般の自転車乗りの自意識も極端に低いこの国で、果たして快適なサイクリングが楽しめるのか、大きな疑問でもありました。確かに車道は自転車が走ることなど全く考慮されたつくりになっておらず、かつトラックや乗用車も追い越す際は十分なクリアランスを取らずに抜いていく車も多い。彼らの目から見てスポーツサイクルに乗って車道を走る自分たちは目の前のハエのように邪魔なのでしょう。また、買い物用の一般軽快車に乗った主婦や学生の運転は、右側車線を平気で逆送したり、と自ら事故を招くような走りをしています。彼らは悪気もなく、歩行者の感覚で自転車に乗っているのでしょう。

自転車にもルールがあった、ヨーロッパの、あの自転車が社会の中の地位をしっかり確保している社会とは思っていたとおり大きく異なります。とはいえマイナス面ばかりではないでしょう。何よりも日本の里山はコンパクトで懐かしい風景で自分を迎えてくれました。

初めての日本のサイクリングでしたが、まだまだなところもあるけれど、心配していたよりはずっと良いではないか、という印象を残しました。 渋沢丘陵から曽我丘陵という、丘陵地と里山の集落を結び今日のルートも良いコース設定でした。Iさん、のんびりペースにつきあっていただきありがとうございました。


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