セーヌ川下流地帯のサイクリング - ル・ベック・エルルアンからルーアンへ

 (2010年9月10日、フランス・オートノルマンディ地域圏)


9月のサイクリングはルアン(Rouen)付近のセーヌ川をめぐるコースとなった。目玉の一つがセーヌ川の渡し舟に乗る、というもの。ルアンより下流ではセーヌ川は川幅も広くなりまた大型船舶が往来する都合上、橋をかけるとなると大掛かりなものにならざるを得ない。そんなこともあり渡し舟(フェリー)が随所に往復している。それに乗ってみるのも面白いだろう。またルートを検討すると付近には「フランスの最も美しい村」に登録されているル・ベック・エルルアン(Le Bec-Hellouin)という村があり、ここを絡めて走るのも楽しかろう。いつものようにIさんとともに出かける。

パリの自宅からルアンまではノルマンディ高速A13で一時間強。駅のそばに駐車、予定していたカーン(Cane)行きの列車には充分間に合う時間だ。ここから途中のブリオンヌ(Brionne)で列車を降りるとル・ベック・エルルアンはすぐ近くで、あとはルアンに向けて北へ、渡し舟によるセーヌ川の渡河を経て戻る、というのが今日のコース。

ルアンから乗った列車はブルゴーニュでも体験した電気とディーゼルエンジンのハイブリット車両だった。列車はパリールアンを結ぶ幹線路線を15分程度走り、途中からローカル路線に停車する事なく進入する。と、突然ディーゼルエンジンが唸りだした。停車しての切り替えではなく走行中に電車からディーゼルカーへとその駆動方式を変更できるとはたいしたもんだ、と感心してしまう。隣のシートからドイツ語が聞こえてくる。若い女の子二人連れで、フランスのガイドブックを持っている。9月に入ったとはいえまだまだ夏のバカンスの時期なのだ。

ルアンから約45分、ブリオンヌはその周りに何もない閑散とした小駅だった。雑草の生えた低いホームに降り立つとエンジンを唸らせ列車は出て行ってしまった。身支度を整え走り出す。すぐに街を抜けるとゆるい丘に取り掛かった。このあたり、複雑に枝分かれするセーヌ川の支流群が作る緩やかな谷がいくつか連続しており、高低差は少ないが川の流れ以外の方向に進む場合はそのつど台地へ上り下りする必要がある。

(静かな村の入り口で) (ル・ベック・エルルアンは本当に小さな村だった) (セーヌ川を渡し船で対岸へ渡った)

緩い登りは長く、横を車が高速で駆け抜けていく。8月丸一杯、自分は自転車とは無縁の生活をしていたのでなんだが妙に、いつも以上にペースに乗らない。一方Iさんは8月の半ばにフレンチアルプスでツール・ド・フランスの難所としても知られるガリビエ峠を自転車で超えられてきた、というだけあり、好調なペースで進まれている。いつものことながら申し訳ない。坂を上り終えるとすぐに下りが待っている。セーヌの、異なる枝流の谷へ下りていくことになる。展望の良い大きなカーブで下りていくと、すぐに左手に折れる。この数キロ先が今日の目的地第一号のル・ベック・エルルアン。

緑豊かな緩い谷の合間に静かな村が立っていた。村のはずれの修道院が有名なのだろうか。木々の木漏れ日で石造りの修道院が緑に染まっている。村はどこがその中心なのか良くわからないほどの小さいものだ。綺麗な花壇に彩られた木組みの家並みが100m程度続いている。あとは、何もない。この静けさが、美しい村に認定されている理由なのだろうか。思わずIさんと顔を見合わせる。オート・ノルマンディには同じく美しい村に認定されているリヨン・ラ・フォレがある。こちらは、古い家並み、静かな谷にたたずむ小さな教会、などいかにもそれらしい雰囲気を感じさせてくれていたが、ル・ベック・エルルアンはあまりに普通の村すぎてどうもピンと来なかった。

一服してから走り始める。すぐ前をMTBに乗った数人のサイクリストが通っていく。交通量も少なく自転車には良い環境だ。再び進行方向を右折。ルアンへ、北東に向けて進路をとる。再び緩い台地の上に登り始める。登りきるとノルマンディらしい農地が延々と広がる広い台地であとはその中をただただ走っていくだけとなる。道に変化がなく、時速20km程度で走る。時折現れる放牧の牛たちが可愛らしい。牧草地のすぐそばで昼食。持ってきたサンドイッチを食べる。

この後も淡々とした道で、なんだがボーっとしてきた。少し走ると大きな森に侵入するが、その少し手前から幹線道を走ることになったのでびゅんびゅんと傍らを通過する自動車に気を使う。大部分は十分余裕を持ってクリアしてくれるのだが、たまにぎりぎりの間隔で追い抜いていく車もいて肝を冷やす。もっとも今後日本でサイクリングをしたならば、そもそも道路も狭いし、大部分のドライバーの自転車に対する認識の低さ・自転車は邪魔者といった感覚のおかげで、さぞやもっと危険かつ不愉快な思いをするのだろう。自転車に対して極端な幅寄せをする輩すらいるのだ。少なくともドイツしかりフランスしかり、ヨーロッパではドライバーはきちんと自転車を車両としてレスペクトしてくれている。もっとも一方の自転車も信号を守り交通ルールを守っているのだが。日本に足りないのは自転車の交通ルールだろうか。そもそもどんなルールで、それが乗り手に理解されているのか。乗り手もそれがわからないので好き勝手な運転をして、いっぽう車の運転手も自転車のルールが認識されていない分、道路を走っている彼らを単なる不愉快な邪魔者に感じてしまうのではないか。そんな日本で自分もいつかサイクリングをするのだろうから多少気が滅入ってしまう。

森を抜けて今度はセーヌ川の本流へ向けて急な下り坂となった。一気に下るとそこはLa Bouilleという集落で、ここから対岸に渡し舟(フェリー)が出ているのだ。フェリー乗り場まで走っていくとちょうどフェリーがまさに出発せんとしているところだ。係員が手招きして早く乗れ、と自分たちに指示している。ちょっとここでのんびりしたかったところだがそのまま船に乗り込むとゲートを上げてすぐに出船。

船はライン川で橋代わりに運行されているフェリー同様、両端から乗下船可能な前後の区別のないものだった。料金を回収しに来ないところがライン川の渡し舟とは違うようだ。川の流れは結構強いようで対岸までやや蛇行気味に進むこと 5分程度で渡りきってしまう。陸路一辺倒のサイクリングにもこのようなアクセントが入るとやはり楽しい。コースを考えてくれたIさんに感謝する。

ここまで来るともうルアンの街も遠くはない。緩い登り坂が延々と続く大きな森の中を進んでいく。今日は一日なんだか波に乗れないようで、スピードも乗らないしやや疲れてきた。さらにわずか50km程度の走行なのだがお尻が痛くなってくる。半ばぼーっとしながら淡々と走ってルアンの街まで、最後の詰めは長かった。

(走行距離55km)


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