素晴らしかった御座山

 (1999/8/29、長野県南佐久郡北相木村)


御座山(おぐらやま)の名はJI1TLL・須崎さんがNIFTYサーブの山と無線の談話コーナ(パティオ)に山行記をアップされていたのを読んで知る事になった。その後須崎さんと無線でつながった際に御座山の印象を聞いたところ即座にいい山ですよと明快な答が返ってきた。「百名山より二百名山の方がいい山が多い、そんないい例です・・。」 全国津々浦々の山に登っている須崎さんが推す山。以来心の中に気になる山が又ひとつ増えていた。

* * * *

御座山を紹介する登山ガイドブックはあまり無いようだ。二百名山にランクされているわりにはマイナーなのだろうか。2.5万図信濃中島とわずかな文献のコピー、それに須崎さんの山行記事コピーを持って前夜発で山麓の白岩集落を目指す。中央高速・釈迦堂PAで仮眠の後、国道141号線小海からぶどう峠へ抜ける道に入った。相木川に沿って山村風景が広がる。のどかな日本の農村風景。住んだ事もないというのに何故か自分にとって心が休まる風景だ。学生時代にバイクツーリングによく出かけたがそんな折に頭の中にインプットされた風景なのかもしれない。

白岩集落から派生する舗装された林道をつめていくと果てに車5、6台のスペースの広場があった。栃木ナンバーが一台止っており丁度その横で父親と10歳位の息子がテントを撤収中だった。昨夜はよく冷えましたと父親が言う。彼らも栃木からわざわざここに来たのか・・。

靴紐を締めていると親子連れは先行して出ていった。彼らを追い7時55分、歩きはじめる。すぐに分岐があり直進する良い道は先にある送電線鉄塔の巡視路っぽい。ここは地形図の示す通り尾根に乗るまでのしばらくは山頂とは逆方向にトラバース気味に山腹を進んでいく。歩く人が少ないのか枝や下草がうるさい。しばらく歩けば山頂から延びる尾根に乗って先ほどとは反対方向の山頂目指して南へ向って歩き出す。ここには御座山へ、を示す交通標識のような指導標が立っている。車を停めた地点が標高1460m、山頂が標高2112mだから高低差は約650m。もっとも自分にはこの程度の高低差が一番楽でフィットするようだ。

尾根道は相変らず枝がかかっているが踏み跡は明瞭で起伏の少ない道を快調に歩く。白樺が陽射を遮りひんやりと心地よい。しばらく進むと東面から上がってくる登山道をあわせた。長者の森へとある。道の立派さといいこちらが主流っぽい。先程の送電線鉄塔巡視路とつながっているのだろうか?だとすれば尾根を巻いてきた自分のコースよりも距離的にはこちらが近いだろう。そういえば数分違いに出た先ほどの親子連れの影も形も見えない。彼らはこの道で上がってきたのだろうか?

道は相変らず平坦だがやがて徐々に高度を稼ぎ始めた。標高1800m地点で見晴しのいい露岩地帯にひょっこり飛出して行手に山頂が望めた。北に四万原山から茂来山への稜線が連なっている。ここまで丁度1時間。菓子パンを食べながら一息入れる。標高がそれなりにあるので風が心地よく爽快な気分だ。

緩急混ぜた登りが続く。時折現れる岩稜で展望が開ける。道はおおむね尾根上についているものの、トラバース気味に巻いて上がる道と尾根通しに進む道が時折分れているようだ。踏み跡はトラバース道の方が明瞭でそちらを進む。迷う心配はない。
(圧倒的な高度感のある岩場からの眺めに
言葉を失った。御座山2112mの絶頂)

1992m地点の露岩からは山頂が手に届くように近い。一旦50m程下がると道標があり下新井からのコースをあわせる。このコースは荒れているのか踏み跡も定かではない。まっすぐ進みツガやモミの原生林の急斜面に取付いた。ここは6月にもなればシャクナゲが素晴らしいところらしい。倒木が時折現れくぐったりまたいだりする。標高差170mを一気に稼ぐと林の中から山頂の一角に出て避難小屋が見えた。午前10時13分。かなり穴ぼこだらけのトタン小屋は素泊りはきつそうだが中にテントかツェルトでも張れば快適だろう。

小屋の横手かわずかに進むと突如薄暗い樹林帯を抜け山頂の露岩地帯となった。一瞬、目が眩んだ。両端、特に南側がすっぱりと切れ落ちて遥か下に下界の山肌が見える。標高2112m。アクション映画の舞台にでもなれそうな圧倒的な高度感。まさに絶壁。展望は申分ない。360度妨げるものが無い。東に両神山、南に金峰山の五丈岩が突出している。その奥に北岳と間ノ岳が連なる。西に八ケ岳。北には浅間山。山頂標識まで岩を伝い歩くが余り端を歩くと恐怖心で腰が引けてしまう。はるか眼下にマッチ箱のような集落が街道沿いに点在していた。これはすごい。山・集落・川・道・・。箱庭が目の下に広がっていた。スケールのでかい箱庭。すごいなー、かっこいいなぁ・・・。感動してしまうと発せられる形容詞はひどく簡単なものになってしまうのが自分でもおかしい。ここまでの北面からの尾根道では時折岩場があったもののおおむねなだらかな道だった。南面はかように絶壁をなしているとは。

既に到着していた栃木ナンバーの親子連れも一角で三脚を立て展望撮影に余念がなさそうだ。展望を存分に満喫した後にアマチュア無線・50メガの運用を始める。浅間隠山での痛い経験もあって親子連れに予め無線をする旨断りをいれるとなんと父親はJA1のコールを持っていたという。再び開局を目論んでいるという彼に144MHzから1200MHzの3バンドのハンディトランシーバを見せると、えーっ1200MHzですか!?といたくビックリしている。昔は144MHzですらパイオニアのバンドだった。430MHzなんて考えられもしなかった。1200MHzなんて・・!それもこんな小さなハンディ機に・・!

浦島太郎のように驚く彼の視線を感じながら50MHzの運用を始める。今回のトランシーバは自作機で出力約4W。釣竿にダイポールをつける。彼の息子さんも興味深そうに少し後ろから覗いている。あぁ、こうして少年は未知の科学的なものに興味を覚えていくんだよな・・、自分もそうだった。ゲーム世代の子供たちとはいってもやはりそんな純粋な部分はあるんだろうなぁ、などと考える。が、もしかしたら何だこのクラそうなオッサンは、と思われているのかもしれないが・・・。

しばらくは余り呼ばれなかったが20分過ぎあたりから快調に呼ばれはじめた。時折パイルも交じり満足この上ない。JG1OPH・奥積さんも強力に呼んでくる。JI1TLL・須崎さんも厳しい中呼んできた。素晴らしい山を教えてくれた礼を述べる。いつしか親子連れもいなくなった山頂。成果に満足して撤収。もう一度岩場の先端の山名標識まで行ってみる。気持にふんぎりをつけて山頂を後にした。

* * * *

帰路は往路を忠実に戻る。登り二時間半、下り一時間半。白岩集落に戻り清里方面に車を走らせる。国道が野辺山の高原台地に登りつくと男山が素晴らしい鋭角的な尖塔を示していた。その夏空を突き刺すような素晴らしい颯爽さに思わず車を停めて見入った。がそれよりも心を捉えたのはその男山の左手に骨ばった御座山の山頂を見出したことだった。

あぁー!御座山だ。なんてカッコイイんだろう!

わずかにみえるその頂。あの絶頂からの胸のすくような爽快な眺めが生々しく自分の五感に残っている。野辺山から清里へ向かう国道。ハンドルを握ったまま何度か振り、名残惜しい山の姿を確認する。

のどかな日本の農村風景の果ての静寂の尾根、高度感の山頂、遮るもののない展望・・・。南アルプスのジャイアンツのような絶対的な存在感も、奥秩父の山のような重厚な深山さもここにはないかもしれない。が、風景にマッチした地味ながらきらりと光るその存在に、須崎さんの明快な答えの理由がわかったように思えた。

(終り)

(コースと標高:林道駐車場広場7:55−1800m地点岩場8:55/9:05−下新井分岐9:45−御座山山頂・アマチュア無線運用10:15/12:35−下新井分岐12:52−1800m地点岩場13:25−林道駐車広場14:07、御座山標高2112m)


アマチュア無線運用の記録
御座山 
(おぐらやま)2112m
長野県南佐久郡北相木村
50MHzSSB運用: 37局交信
最長距離交信: 新潟県南蒲原郡
無線機:自作SSB/CWトランシーバ(出力4W)
アンテナ:釣竿+ダイポール
素晴らしい高度感をなす岩場の山頂。関東地方の局にとって50MHzでは南佐久郡は必ずしも珍しくないが結構呼ばれた。北相木村が珍しいのか?

展望に比例してか電波の飛びも良いようだ。満足感を味わえる山頂。


Copyright : 7M3LKF,Y.Zushi, 1999/8/31