両神山 - 紅葉で真っ赤に燃える山

(1997/10/11、埼玉県秩父郡)


アマチュア無線のフレンド局、河野さん(JK1RGA)との山行。夜の国道を飛ばして待ち合わせの白井差をめざす。正丸峠を越えて三峰口へ。飯能から先、走れど走れど正丸峠はなかなか近づかない。実際の距離以上に距離感を感じる。秩父は遠い。両神村に入り真っ暗な羊腸の山道を行けばどんずまりが白井差。車の明かりを落とせば真っ暗で沢の音しか耳に入らない。河野さんは白井差小屋にいた。

小屋はすぐ近くの一軒家が管理しているという。こんな所にまさか民家があるとは思わなかった。素泊まり2500円を払いに行く。古いが立派な農家の造りで天井が高い。出てきた奥さんはこの地に住んで7年目、という。周りは何もなく心細くないのかなぁ、と思う。

モモンガも出るという小屋は小さいが居心地はいい。水道・プロパンガスコンロまで常備されている。同宿は親子ずれの3人。河野さんとビールを乾杯し使い放題の布団をかぶって寝る。眠りは決して深くなく時々目が覚める。耳をすませばゴーッという沢音とカラカラカラという音。この音は・・、真夜中はモモンガ君の活躍タイムか・・。

翌朝は6時半に出発。やはり前夜泊は翌日の行動がとり易い。しばらく沢沿いに進むがやがて短いピッチのつづら折れの斜面となった。その雰囲気はなんとなく扇山への登りに雰囲気が似ている。急斜面だが路は良い。沢沿いの登山道は全般に沢音が耳に快く潤いがあり気が紛れる。途中に見事な滝が現れた。落差10数メートルはあるだろうか・・、滝壷は深く冷たそうだ。滝を高巻いて登っていく。朝食に菓子パンと河野さんにご馳走になったレトルトカレー、と食べ過ぎたのかどうも体が重い気がする。もっとも軽い食事だと途中で腹が減るが。一旦空腹を感じると急速に足に力が入らなくなる。そういう意味では山では行動食を常時摂るのがいいのかもしれない・・。

空が近づいてくると稜線。一位ガタワは狭い小鞍部。石仏の横を通って登る。ここからは鎖場が連続する。途中遭難碑がある。岩場から滑落したのだろうか・・、緊張する。短いが高度感のあるほぼ垂直の岩場だ。三点確保を心がけ足場、ホ−ルドをさがす。鎖に頼らずに登るように、と河野さん。鎖場を過ぎると緊張感が和らぐ。
(山頂はすぐそこ。JK1RGA河野氏と)

両神神社本宮へ着けば山頂は指呼の間だ。ここまでは紅葉は殆どなかったのだがこの場へ来て驚いた。目前の山頂の斜面は紅葉で赤く染まっている。全く期待していなかったのでこの見事な赤い山は思わぬ拾い物。ここまで見せ惜しんでいたものを一気に公開してくれたかのような風景にはびっくりする。全く心憎い自然の演出。両神山は紅葉で真っ赤に燃える山だ。

短い鎖場を過ぎて痩せた岩稜の路を歩けば1723.5mの頂点に着いた。山頂からの展望は累々とした山が周囲に広がる。甲武信岳から雲取山まで、自分の歩いた事のある山々も含まれているはずだ。西から南方面の稜線を目で追うが稜線は重なっておりどれがそうか良く分からない。紅葉で赤く染まった山々がうねるように連なっている。

山頂は狭くアマチュア無線運用で長居する我々は多少肩身が狭い。無線運用で、ふと我に帰れば狭い山頂は鈴なりの人。定員オーバーだ。 皆狭い山頂でかろうじて居場所を確保し昼食をとっている。そんななかでの長時間の無線運用、なんとなく周りからのプレッシャーを背中に感じる。

下山は大峠経由はやめて元来た道を辿る事にした。大峠の路では熊が出たという。それもちょっと心配だし、大峠経由は長いのだ。あの岩場を又通るのかと思えばが少し気が重いがゆっくり行こう。

鎖場では緊張する。ホットする。後はたんたんと下がるのみだ。急な下り坂を木の幹に手をつきながら下りていくと河野さんからバランスを崩しやすいので基本は足でおりるように、と注意が飛ぶ。河野さんは山岳部出身。いろいろ教わる事が多い。

急なつづらおれから沢筋へ戻ってきた。流れが緩やかになればゴールは近い。のんびり歩けば朝発った白井差小屋が見えてきた。

両神村営温泉に立ち寄りさっぱりする。紅葉狩りか、観光客が多く湯船も定員オーバー気味。今日は山頂でも湯船でも定員オーバーだ。帰りの渋滞を考えると、少し遅く発った方が賢明では、と、それではとばかりビールを飲み大広間で一眠り。

渋滞は秩父市街地を抜けるのに手間取った以外はさほど案ずるほどでもない。長い夜の国道を河野さんと430MHzでラグチューしながら横浜へ戻った。 赤く焼けた両神山の山頂部の眺めが深く心に焼き付いた一日だった。

(終り)

(白井差6:30、一位ガタワ7:40、両神山・アマ無線9:00/13:05、一位ガタワ14:15、白井差15:15、両神山、標高1723m)


アマチュア無線運用の記録

両神山

埼玉県秩父郡両神村、1723m
1997/10/11 移動者:JK1RGA、7M3LKF
FT690mkII+軽量リニア(10W)
ダイポール,4.5m高
7M3LKFの交信実績:31局(50MHzSSB)
最長距離交信:富山県射水郡、JA9NMQ
遠くから見ればノコギリの歯を立てたようにギザギザが続いている。登りついた稜線も山頂も岩場がちで、その山頂は狭く身動きが出来ないほどであった。

山頂からの眺めは奥秩父主脈が延々と連なる様に目を奪われる。素晴らしい眺望だ。

無線は北関東から関東平野までロケが良く楽しめる。狭さゆえに長時間運用出来ないのがこの山の辛いところかもしれない。

(山頂からは真っ赤な山が広がった)


Copyright,7M3LKF,1997/12/2