ローカル局と楽しむ丹沢前衛、辺室山

(1997/3/30、神奈川県愛甲郡清川村)


親しい仲間と日ごろ交す無駄話、というのもアマチュア無線の大きな楽しみの一つだろう。アマチュア無線の仲間というのも無線を開局して普通に運用していれば徐々に増えていくもので、会った事はないが声だけの知合い、という関係が広がっていく。やがて「それでは会いましょうか」という事になりようやく声と顔が一致する、っとなる事も多い。この会合をアマチュア無線の業界用語(?)ではアイボールと言うが、このアイボールも初めて会う人だとお互い緊張して、まぁ多分その感じは男女の「お見合」に似通っているのではないか、と想像する。

さてその手の「お見合」の後は今度はお互い顔も知っている訳だから親密度も高まろうものだ。これが「ローカル局」と業界用語で呼ばれる関係でまぁ簡単に言えば「無線のお友達」、と言ったところか。大の大人で「お友達」も気恥ずかしいが、やってる事といえば無線機を使っての世間話だからまるで女子高生の携帯電話と大差ない。電話と違いこちらは誰にでも傍受される、という点では更に恥かしいかもしれない。

さてそんなローカル局との世間話でもやはりアマチュア無線の話題が多い。(当然か) どうしたら遠くと交信できるか、どんなアンテナがいいか・・など。アマチュア無線技士は極めて学究的で真面目な人種が多い。(?) 自分達が主に運用するバンドはVHFと呼ばれる超短波帯なので高い所へ上がれば見通し距離が延びる分だけより遠くと交信できる、という性格がある。そんな訳で「山」だ。山に登れば無線がより楽しめるという単純な図式がある。自分自身には必ずしも山の楽しみは無線だけではないが、山にあまり興味がないローカル局とともに野外で無線を楽しもう、というときには手近な山は格好の舞台だ。

ローカル局の7K3EUT塩田さんとともに丹沢前衛の辺室山への移動はこういういきさつで決った。塩田さんは本格的な山歩きはした事が無く、無線は好きだが山は大変そうで興味は余りないという。それならば行程も短く高低差も少ない山に行こう。唐沢林道を使って物見峠まで車で上れば辺室山までは平行移動、という感がある。塩田さんにも悪くなさそうだ。

(辺室山の山頂は雑木林の
静かなピークだった)

すっかり春めいた3月の最後の週末、物見峠のトンネルの先に車を停め歩きはじめる。いきなりの階段道で息が上がる。これはきつい。塩田さんが嫌に思わないだろうか、と心配する。幸い階段道はすぐに終り土山峠と三峰山を結ぶ尾根に出た。辺室山はこの稜線上にある。ここから先は雑木林の道で適度なアップダウンも交え尾根歩きの気分が横溢する。辺室山までは幾らもないはずだがなかなか着かない。大きく登りそのままガクンと下りていく。前方に再び高まりを見せるのが目指すピークだろう。あそこよりも今いるこちらの方が幾分標高が高そうだ。このプロセス、塩田さんは不快に感じないだろうか・・。稜線道のアップダウンは当り前の事ではあるがこれも普通に見ればただ面倒くさいだけなのだから。なるだけ塩田さんが安心できるように、と「あれがピークですよ。あと少しですね」を連発しながら行くがなかなか近づかない。「もう少し、もう少し」 まるで蕎麦屋の出前だ。

昨日降った雨の余韻が山全体に残っているのかムンムンと湿気が漂い不快指数が高まる。鞍部から大きく登りかえすと静かな雑木林の平地でこれが辺室山のピーク、644mであった。さっそく無線運用開始。なにしろ今日はこれが目的なのだ。気合をいれて2エレメントのビームアンテナと出力10Wのトランシーバを持ってきた。暖かくなった季節を反映してかそこそこ呼ばれ、塩田さんも楽しそうにオペレートしておりああ良かった、と思う。少しぬるくなた缶ビールだが気分は上々で静かな山頂でのんびりする。お互いまんべんなく運用してすっかり満喫。帰りに又あの道を戻るのかと気分は重いが、帰路は2人してすばらしい無線の成果を話しながら歩くうちに物見峠まで戻ってきた。やはり行程が短くて正解だった。車に戻りワクワクした気分を残したまま横浜に戻った。

塩田さんも少しは山の気分を味わってくれただろうか・・。行程的に面白味のないコースだったのでこれで良からぬ印象を持ってくれなければ良いのだけど。でも野外で運用するアマチュア無線の楽しさは満喫出来た。宜しければまた何処かへ行きましょう。

PS : あれから2年、今では仕事で関西へ転勤になった同氏も今や週末の度に無線機一式を背負って六甲山あたり一帯に出没しているという。甲山・東お多福山・・・・。スゴイナァ。やる気まんまんだ。みんな頑張れ!東へ西へ。山岳移動家の明るい未来に幸あれだ。


アマチュア無線運用の記録
辺室山・644m
神奈川県愛甲郡清川村
50MHzSSB、23局交信
最長距離交信:岐阜県土岐郡、JK2MRB/2
丹沢前衛の山。西方面は丹沢の主脈がブロックしているので電波の飛びは期待出来ないがどういう訳か岐阜県とで来たのは何故だろう。関東平野と交信するぶんには特に問題無い。雑木林の静かな山頂。

Copyright : 1999/5/24,7M3LKF Y.Zushi